表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
250/323

第249話 王子殿下、悪役令嬢の見方を変え、謝意を伝える

(第一王子視点)

第一王子は、バリアを張った悪役令嬢の見方を変えて、謝意を伝えます。


[『いいね』いただきました皆様に心からの感謝を申し上げます]

『お兄様はこの現実が見えていらっしゃらないのでは?

 メリユ様は、それこそ我が国の王族、お父様どころか、大国の国王陛下や皇帝陛下すらも首を垂れなければならないほど、神に認められし特別なお方なのです。

 もちろん、メリユ様がご自身のお立場をひけらかされることはないでしょうけれど』


 砦に到着した直後、メグウィンに言われた言葉の意味を、わたしは今更ながらに理解させられることになっていた。


 たったの齢十一で戦の最前線に立つことを決め、聖なる力を振るって、オドウェイン帝国先遣軍をバリアに閉じ込めると王城で宣言した彼女。


 近衛騎士団第一中隊に対して(あれでも小規模だったのだろうが)同様のバリアというものを張り、攻城兵器ですら破壊できないとんでもない代物であることを証明してみせたのだが、まさかこれほどの威力、いや、余波が生じるものであったとは!

 事前に供物を捧げた起点なるものに囲まれた範囲にバリア=鏡の御柱を出現させ、その内部に先遣軍を閉じ込めただけでなく、バリア外にあった皇族の馬車まで吹き飛ばし、更には山の一部を崩すほどの力には肝が冷えた。


 いや、それでも……それ以前から、分かっていた気にはなっていたのだ。


 キャンベーク川の奇跡、メグウィンに成りすましての神兵騒動、セラム聖国での奇跡、『星落とし』

 そして、わたしもこの目で見ることとなった『雷』

 神命に従ってのものであったとはいえ、一人の令嬢があのような不可思議な力を振るえるとは……と。


「使徒ファウレーナの生まれ変わり、か」


 そう、わたしはメリユ嬢を認めた気にはなっていたのだ。

 そして、『人』の身であることを望むメリユ嬢に、悪いことをしたとも思っていた。


 王太子候補の第一王子として、上から目線で。


 しかし、これほどまでの破壊的な力を見せられて、鳥肌がおさまらなくなってしまった。

 何か、わたしはとんでもない勘違いをしていたのではないだろうか?

 と、そう思わずにはいられない。


「元は、神の眷属であったと、あらせられたというのか?」


 わたしは嫌な汗が滲んでくるを拭いながらに考える。


 わたしにとって、メリユ嬢=ビアド辺境伯令嬢とは、父上=国王陛下とビアド辺境伯の仲が良いのを理由に、王太子妃になりたいとばかりアピールしてくる愚かな貴族令嬢の一人に過ぎなかった。

 そもそも、王太子、未来の国王になるわたしに言い寄ってくる貴族令嬢は多く、皆、わたしの権力と財力、将来の国母の座を目当てに下手な誘惑をしてくる者ばかりだったのだ。


 貴族令嬢=うら若き女性なんてその程度、メグウィンやハードリー嬢がごく僅かの例外。


 わたしは貴族令嬢に国を護るような力など持ち合わせているはずがないと信じ、無意識に蔑視してしまっていたのかもしれない。

 いや、まさか、人知れず、辺境伯領の平和を護るために暗躍し、更には王国のために動こうとしている貴族令嬢がいるだなんて思える訳もないだろう。


 しかし、メリユ嬢、いや、メリユ嬢たちのような力ある者たちは実際にいたのだ。


「はあ」


 おそらく、メリユ嬢がその気になれば、一国を滅ぼすことくらい容易にできるのではないだろうか?

 接近戦すら聖騎士を瞬時に無力化してしまう強さがあるというのに、聖なる力を振るえば、暴風……爆風と言ったか? それで大軍すら吹き飛ばすことができてしまうのだ。


 何より、彼女がその気になれば、神の尖兵として、『神隠し』を起こし、今バリアに閉じ込められている者たちを天に召すことだって不可能ではないだろう。


 そうであるはずなのに、神罰が加減されているのはひとえにメリユ嬢の人格によるところが大きいのに違いない。

 神と意見を違えてですら、敵味方関係なく『人々』の命を救おうとする彼女の気概あってこそ、この程度で済んでいると言えるのだ。


 そのような、聖女……いや、使徒に相応しい彼女をメリユ嬢呼ばわりし、敬意を払わなかった己は何なのか?

 そもそもメリユ嬢自身に、使徒ファウレーナだった頃の自覚があるのであれば、肉体的な齢はともかく、実質的な齢はわたしよりずっと年上と言えよう。

 そのような相手に、上から目線に接していたことが恥ずかしくなる。


 いや、使徒、使徒様相手にあのように振る舞っていたことに、(これまでも)サラマ聖女殿は呆れられていたのかもしれない。

 周囲の者にしたってそうであろう。

 あのような口上をしておきながら、この体たらく……信心の足りなさでは、オドウェイン帝国の連中と大差ないのかもしれない。


 何せ、メリユ嬢、いや、メリユ聖女猊下がお約束通りに、このような奇跡を起こしてくださったのだ。


 本来であれば、メグウィンの言っていたように、わたしも平伏し、謝意を示すべきなのだろうか?


「殿下! 殿下!」


 わたしが茫然となっていると、すぐ傍でカブディ近衛騎士団長の声がしているのに気付く。


「ど、どうした、カブディ近衛騎士団長」


「まずは、聖女様のご奇跡に謝意をお示しいただかねば。

 そして、追撃のご許可を聖女様より賜っていただきたく」


 見れば、近衛の者たちは皆、メリユ嬢=メリユ聖女猊下に跪いている。

 いや、確かにそうか。

 これほどの奇跡を起こされた彼女に王家を代表してわたしが謝意を示さねば、格好もつかないだろう。


 ……それは、カブディの言う通りなのだが、よくもそう平然としていられるものだ。


「ははは、某らは天に一度召され、光と水の聖女様のお力がどれほどのものかを存じ上げておりますからな。

 聖女様にかかれば、どの大国の大軍とて、戦いにすらなりますまいて」


「……随分と達観できるようになったものだ」


「殿下、もはやこの地上にある全ての国は、光と水の聖女様の前に跪く他ございませんでしょう。

 その意に反することは、神に背くも同然。

 聖女様が表舞台に立たれたということはそういうことなのでございましょう」


 わたしは、メグウィンとハードリー嬢の二人に支えられているように見えるメリユ聖女猊下の方を見る。

 腰を抜かしてどうしようもなくなっている者たちもいるにはいるが、それ以外の者たちは、メリユ聖女猊下に敬意を示しているようだ。


 ウヌ・クン・エンジェロ、だったか。


 メグウィンたちは、本当に使徒様(の生まれ変わり)と共に生きることを決めたということなのか?

 これは、王太子妃(候補)をメリユ聖女猊下に押し付けることも難しくなりそうだと思いながら、カブディに続き、彼女の前に跪いたのだった。






「……王国を代表し、深くお礼申し上げる。

 つきましては、オドウェイン帝国先遣軍の残党の追撃許可を賜りたく、お願い申し上げる」


 そう言えば、メリユ聖女猊下には不殺の制約があったのではないか?

 カブディもそれを踏まえての確認を取れという意図で言ったのであろうが、はたして?


「条件付きで許可いたします。

 その条件としましては、わたしを救命作業に加えていただきたく存じます」


「「メリユ様!?」」


 わたしの謝辞にも動揺することなく、堂々とそうおっしゃるメリユ聖女猊下。

 自ら、そのような待遇を望まれる様子はなかったが、やはりそのように接せられて戸惑うこともないとは、やはり元使徒様は違う。


 王族どころではない、全て『人』の上に立っていておかしくないご存在なのだ。


 表舞台に立たれることを決めたときから、そうなるのも想定の内だったのだろう。


「救命作業、とは……」


 それにしても、本当に敵軍の救命作業を望まれるとは……。

 分かっていたとはいえ、本当にタダの聖女とは違うのだな。


「オドウェイン帝国先遣軍の後列の方々が衝撃波に巻き込まれ、大怪我を負われた方もかなりの人数いらっしゃるかと存じます。

 その方々の救命をお許しくださいませ」


 今すぐにでも救命のため、羽を生やして飛んでいきそうなメリユ聖女猊下の真剣の表情に、


「はっ、ぜひお願い申し上げる」


 わたしはそう返答することしかできなかった。

『いいね』、ご投票等で応援いただきました皆様に心からの感謝を申し上げます!

ファウレーナさん、やはり敵も見捨てることができず、救助に入るようでございますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ