第246話 悪役令嬢、警告の後、オドウェイン帝国先遣軍をバリアに閉じ込める
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢、警告の後、オドウェイン帝国先遣軍をバリアに閉じ込めます。
[『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に深く感謝いたします]
わたしが子供の頃の国民的アニメ映画がある。
今の時代を生きる男の子と、過去を生きる女の子が入れ替わって、彗星災害から町の『人たち』を、そして、その女の子を救うボーイミーツガールアニメだ。
わたしの年齢的なこともあって、リアタイでは見てないんだけど、サブスクの配信で中学生になってから見たのよね。
防災行政無線を乗っ取って、サイレン鳴らしまくっていたシーンは、なぜかものすごくワクワクしてしまった。
アレね、小中学生の頃って、台風が来るだけでワクワクしていたでしょ?
サイレンを鳴らすのって、子供心に非日常感があって、ワクワクしちゃうんだわ。
……まあ、あくまでフィクション限定だけれど。
リアルの災害だと、不謹慎過ぎるしね。
あれは町の『人たち』を助けるのサイレンだったから、良かったのよ。
「とか言いつつ、何やってんだろうね、わたし」
砦の前を埋め尽くす、中世ヨーロッパ(風)時代の軍隊相手にサイレンを鳴らしまくって動揺させているわたし。
まあ、そうは言うけれど、警告くらいは必要よ。
相手がどんなに極悪非道な連中であっても、警告なしでぶっ放せば、アメリカの警察ですら免職ものだもの。
って……はあ、なんか変なテンションになっちゃってるなあ。
まあ、メグウィン殿下とハードリーちゃんとガチ告白されて、ガチキスされて、普通のテンションでいられる訳ないっしょ。
しかも、戦争始まる直前でそんな展開になるとか、激アツじゃん!
これで燃えてこない方がおかしいってもんよ。
さーて、最後に(なるか分からんけれど)一発やらかしてあげようじゃない?
はい、マイクオン!
「“Execute batch for Monitoring-New-Batch-PID ”」
コンソール画面を複数並べて、念のため、多嶋さん=神様の介入がないか、確認しながら、バッチファイルの実行最終段階に入る。
万が一、エンジンへの介入実行バッチがあれば、そのPID(プロセスID)を表示されられるようにしておく訳。
まあ、口約束はもらっているけれど、念のためよ。
「“Stop playing warning sound and warning sound2”
“Show Editor-1 with cube-barrier.conf”
“Show Editor-2 with mirror-barrier.conf”
“Show Editor-3 with transparent-cube-barrier.conf”」
そして、サイレンを止めてから、pinのIDリストを事前に入れてある設定ファイルをエディターで開いておく。
こっちもね、万が一リモートで書き換えられても、すぐにエディター上でも反映されるから、気付けるって訳。
パッ、パッ、パッ
わたしの周りを囲むように、三つのエディターウィンドウ(見た目コンソールと同じもの)が並ぶ。
いや、なんか注目度高いな。
まあ、皆、わたしのやっていることが気になってしょうがないんだろうけれどさ。
何より、サイレンが止まったことで、何かが起こるっていうのも分かるだろうしね。
「すぅ、はあ……皆様、いよいよバリア展開いたします。
どうがご無理はなさらず、目と耳をお塞ぎになって、お座りくださいませ」
最後にもう一度、注意しておく。
まあ、あの土砂ダムの消去をご覧になってる皆には、今更かもしれないけれど、初めての『人』もいるからね。
メルーちゃんのバリアで、安全は確保されているとは言っても、多分、こっちの第二次大戦以降の戦争ものの映画すら見たことがない『人』たちにとっては、あまりに衝撃的なことだろうよさ。
何せ、映画ですら、最初の頃は大騒ぎになったというのに、こっちはバリア挟んでのリアルだからね。
爆発とかそういうのに免疫がない『人』たちには正直色々良くないと思うのよ。
メグウィン殿下とハードリーちゃんたちにアレを見せたわたしが言うなって感じだけれど。
「「メリユ様」」
メグウィン殿下とハードリーちゃんが、最後の音声コマンド実行で、わたしの邪魔にはならないと思ってか、わたしの両腕を左右から抱き寄せてくる。
ぅ、うん、幸せな感触が……って何も感じんわ!!
VR体験残念過ぎる。
って、言ってる場合じゃないわよね?
覚悟が決まった皆は、わたしに向かって頷いてくる。
いや、本当に立ったまま、映画みたいに見るものじゃないのよ?
腰抜かしても知らないからね?
……まあ、剣や弓矢で戦う『人』たちに、そういうことを言うのも野暮ってものなのかしらん?
「では、始めます」
「「はい」」
本当にメグウィン殿下とハードリーちゃんも、運命を共にしてくれるって感じで、気持ちよく答えてくれる。
ああ、これこそリアルにゲームの主人公になっている感じよね?
わたしも覚悟を決めて、
「“Execute batch for mirror cube barrier with mirror-barrier.conf”」
バッチ実行命令を口にしたんだ。
「「「一、二、三……」」」
なぜか付随エフェクトが発生する不透明バリアの実行が、始まる。
数世代前のパソコン用OSでウィンドウがモワッと湧き上がるというか、膨らむように出現する効果が付いていたことがあったけれど、それと同じように……鏡面効果の付いた巨大な、天空にまで届くキューブバリアが出現し、敵さんの軍を覆い尽くすように広がったかと思った瞬間。
ボボボボンッ!!
半透明から不透明の鏡面へと変化を起こしつつあるバリアの表面に、白い霧、ううん、雲が発生し、瞬間的なバリアの広がりに合わせて、衝撃波が発生していくのが分かったの。
砦と(少し後退していた)敵さんの間に距離は少しあったとはいえ、衝撃波に伴う雲がメルーちゃんの張った防護用バリアに当たるまでは一瞬だった。
コォォォォォンン!!
雲を切り裂く、飛行機の主翼のように、バリアに当たった衝撃波が横に流れていくのが分かる。
「「「ひぃぃぃ」」」
「「「キャァァァァ」」」
いくら何でも近過ぎる。
HMD越しで見ていても、ゲーミングチェアにちゃんと座っていなかったら、わたし、引っくり返っていたかも?
近衛騎士さんとかやっている皆でも悲鳴があがるのは当然ね。
こんなの、神のお力って思われておかしくないわ。
ズボボボボッ!
そして、奧(聖国側)方向については、(砦側と違って)バリアなしに一気に広がる衝撃波と爆風が後ろに食み出した敵さんを吹き飛ばしていくのが見える。
えぐい、えぐ過ぎる!!
多分、さっきのブラオ卿とかいう輩の馬車が転覆し、車輪などをばらまきながら、ばらばらになっていき……皇族の馬車とかさっき聞いていたそれも、一瞬にして持ち上げられ、おもちゃのように転がっていくの。
「……ちょっ!?」
それだけじゃない。
あっという間に衝撃波が山の斜面(バーレ連峰だっけ?)を駆け上がっていくと、次の瞬間には、山頂辺りから雪と石ころが混じった雪崩みたいのが下り始めていたの!!
ヤバイ、ヤバ過ぎる!
これ、ゲームとか、アニメじゃないのよ?
あんなの直撃したら、敵さんの後列の方は全滅よ、全滅!
「“Execute batch for transparent cube barrier with transparent-cube-barrier.conf”!」
わたしは、早口で念のため用意していた、緊急時用バッチを実行する。
間に合う、間に合うわよね?
嫌な汗が止まらない。
『人』の命がかかっているんだもの。
ええ、これがゲームだって思ってるなら、何も気にしないでしょう?
敵さんが雪崩、土砂崩れに巻き込まれて、その大将首まで命を落としたって言うんなら、喜ぶ『人』だっているかもしれない。
でも、乙女ゲーしかやんないわたしには、そんなの無理よ。
耐えられない。
平和な日本で生まれ育って、『人』が命を落とすなんてこと、そうめったに体験しない現代っ子=Z世代のわたしが何も感じない訳ないじゃない?
リアルだって、向こうの世界のリアルだって、言われているのに、見殺しにできると思う?
できる訳がない!
「間に合え、間に合え!」
わたしは、多嶋さんの介入監視用に開いていたコンソールに、今実行したバッチのPIDが表示されるのを待つ。
PID 0008 00:00:00
よっしゃ!
新しいPIDの出現と、実行時間のカウントが始まり、食み出した敵さんの上にバリアが展開されたのが分かる。
「あっ、あっ、あっ」
「メリユ様っ」
二人も、崩れていく山の斜面と、その下にいる敵さんの様子に、恐怖を覚えたんだろう。
わたしに抱き付いてくる。
間もなく、吹き飛ばされた敵さんたちの上に到達した雪崩+土砂は、
コォォォン
という謎効果音と共にバリアに弾かれ、その上を乗り越えて谷間へと落ちていくんだ。
危ない、本当に危なかった。
いやさ、わたしも『山体崩壊』とかそういう現象くらいは知っているんだけど、そうならなくて本当に良かった。
そのレベルの破壊現象起きていたら、さすがに守り切れなかったもんね。
「「はああああ」」
わたしのバリアが間に合ったのが分かったらしい二人が安堵の吐息を漏らしているのを見て、本当に良い子たちだと思うの。
本編なら、ヒロイン勢の二人だもん。
ヒロインちゃん=メルーちゃんの傍にいるはずだった二人が悪い子な訳がないでしょ?
そして……
ホッとしたわたしたちの前には、軌道エレベーターのような鏡面キューブバリアが天空にまで聳え立っていたのだ!
爆風(+土煙)が落ち着いていく中で、その異様さを見せ付け始めるバリア。
実行したわたしが言うのも何だけれど、『世界観』の破壊具合が半端ない。
中世ヨーロッパに某ロボットアニメの軌道エレベーターがタイムリープしてきたような、とんでも光景だわ。
「鏡の御柱が……」
「バリアが……」
わたしに抱き付いている二人が、天空彼方先へと伸びる鏡面キューブバリアをゆっくりと見上げていくのが分かる。
これがゲーム、映画だったなら、どんな荘厳な曲が流れていることだろう。
わたしのやらかした、リアルな奇跡。
王都のとき以上に巨大なバリアの出現。それに皆が絶句しているのが分かったのだった。
『いいね』、ブックマーク、ご投票等で応援いただきました皆様方に深く感謝申し上げます!




