第243話 王女殿下、ハラウェイン伯爵令嬢と共に『楔』としての役目を果たす
(第一王女視点)
第一王女は、ハラウェイン伯爵令嬢と共に『楔』としての役目を果たします。
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「で、殿下」
「姫様……」
アリッサ、セメラたちが口元を手で押さえて、動揺して絶句しているのが分かる。
まあ、それはそうだろうと思うわ。
いくらこれまで何度も抱き付いたりしていたとは言え、今のは本物の口付けだったもの。
ハナンがここにいたら、口付け前に止められていたかもしれないわね。
普通に考えれば、国内の高位貴族か、他国の王族との婚姻をすることになるであろうわたしが、こんなことをするなんて許されないものね。
けれど、わたしは後悔していないわ。
メリユ様をこの地上に引き留めておくには、これくらいこと、躊躇っている場合ではないと思ったし、何よりこれはわたしの本心でもあるのだから。
タダ、メリユ様にご迷惑にならないか、それだけが心配だった。
本来なら、せいぜいなれて、義理の姉妹くらいだもの。
そんな義妹のわたしが親愛の情以上のものを見せてしまったら、メリユ様に嫌われてしまうかもしれない。
ええ、慈愛溢れるメリユ様が、そうそうわたしを拒むことはないだろうということは分かっていたけれど、さすがに距離を取られてしまったりするかもしれないと、そんな不安だけは拭えなかった。
それでも、メリユ様は受け入れてくださった。
嬉しい。
恥ずかしい。
それと同時に、まだこれでも足りていないとも思ってしまう。
何せ……
『お二人には、いずれ打ち明けたいこともございまして、いずれその権限問題は何とかいたします』
あのお言葉。
ハードリー様とわたしにだけ打ち明けたいこととは?
どうにも嫌な予感がしてならないわ。
ええ、きっと、まだメリユ様を繋ぎ止めておくには、不十分なのだろう。
わたしは、本当に、メリユ様と添い遂げる覚悟を決めている。
とはいえ、メリユ様がどんなにそれに応えてくださろうとしておられても、メリユ様が打ち明けたいこと……というものが、それを邪魔してくるように思えるの。
もしかしたら、それがメリユ様とわたしたちを引き裂く原因になってしまうかもしれないと考えると、何とも怖ろしく思えてしまう。
それが神によるものなのか、メリユ様のご意思によるものなのか、それとも、聖女としての定めによるものなのか、まるで分からないけれど、この戦とは全く別のところに大きな問題がきっとあるのだわ。
わたしはまだメリユ様の唇の感触が残る、自分の唇を人差し指でなぞりながら、そう考えていたの。
「メリユ様」
「は、はい」
そんなとき、ハードリー様のお声が砦の通路に響く。
ご自身の手をご自身の心の臓の上に重ねられながら、思い詰められたようなご表情をなさったハードリー様。
そんなハードリー様を、我に返られたメリユ様が真正面から向き合われる。
「わ、わたしも、メリユ様と添い遂げさせていただくたく存じますっ!」
そして、涙で潤ませられた瞳で上目遣いにメリユ様を熱く見詰められながら、そう言い切られたハードリー様。
ハードリー様もきっとわたしと同じ気持ちなのだと気付いてはいたけれど、ハードリー様も今打ち明けられる気になられたのね。
まあ、ほとんどわたしのせいなのだろうとは思うのだけれど。
それでも、今しかないと思ったのは、きっとハードリー様も同じ。
だって、ハードリー様がメリユ様の目に浮かべられていたものを読み取られたのだもの。
『……メリユ様、たまにそういう目をされますよね?』
あのお言葉があったからこそ、わたしは自分が抱えていた気持ちを打ち明けるきっかけを得たのだもの。
そうね、そういう意味では、本当はハードリー様が先に告白なさるのが正しい状況がだったのかもしれないわ。
実際ハードリー様もわたしに『先を越された』と思っていることだろうし。
「メリユ様、大好きですっ!」
そんなことを考えている間にも、ハードリー様はメリユ様の両肩にご自身のお手を置かれ、今にも泣き出しそうな真っ赤な顔でそう告げられると、唇を突き出されて、メリユ様の唇にそっと口付けをされていた。
何ともハードリー様らしい、お気持ちのご表明ね。
わたしも、もっとそれらしい告白の言葉を告げられれば良かったかもしれないと思う。
わたしの命はもう全てメリユ様のもの。
その考えは今後もずっと変わらないと思うけれど、それ以上にメリユ様に惹かれているのも確か。
親愛の情以上のものを抱いてしまっているのだから、それをそうと言葉でも伝えられたら良かったかもしれないと思ってしまう。
「ハードリー様!」
「……ハ、ハードリー様!?」
アリッサやセメラたちは(わたしに続く)ハードリー様の大胆な行動に更に動揺してしまっているみたい。
まあ、当然のことよね。
メリユ様に救われて、自分の全てを捧げる気になっていても、世間はそう簡単に受け入れてくれないだろう。
ハードリー様の場合、ハラウェイン伯爵様、伯爵夫人様、わたしの場合、お父様=国王以下、お母様=王妃陛下からご叱責されることになるだろう。
いえ、ビアド辺境伯様にもお叱りされることになるに決まっている。
女性同士でこんなこと……聖教会にも許されないに違いないと思う。
何より、神は気にかけておられるメリユ様に迫るわたしたちを、どのように思われることだろう。
まず祝福されることはないと分かっているけれど……そうであっても、どんな形であれ、メリユ様のお傍にいることを許していただきたいし、添い遂げさせて欲しいと思ってしまう。
今はそんな余裕もないけれど、この戦を無事終えられたなら、メリユ様のご聖務のないとき、わたしたちがわたしたちだけの時間を過ごすことを許して欲しいというのが、わたしの願い。
「……」
……それにしても、長過ぎではないだろうか?
わたしが先んじてあんなことをしてしまったとはいえ、まるでわたしの口付けを上書きするように、今も口付けをなさっているハードリー様。
心なしか、メリユ様も少し苦しそうになさっているようにも見える。
「ハ」
「「ぷはっ」」
わたしが思わず声をかけかけたところ、お二人はようやく唇を離されたの。
ああ、もう本当に、ハードリー様も負けず嫌いなのだから。
すっかり乙女なお顔になられたハードリー様を眺めながら、わたしは笑いそうになってしまう。
今更嫉妬する気にもならないわ。
今は、そう、わたしたちの関係性がそのようになるのだと確信が得られたことに、わたしはタダホッとしているようだった。
「あの、殿下、ハードリー様」
「こ、これはどういう」
ハードリー様が我に返られ、(先ほどのわたしのように)お顔を真っ赤にされて壁と睨めっこされていると、セメラ、アリッサの順に声をかけてきた。
分かっているわ。
ここでこのようなことをしている場合ではないって。
それでも、わたしは……
「待たせて悪かったわね。
ハードリー様とわたしは、『楔』としてするべきことをしたのみよ。
さあ、向かいましょうか?」
「「楔?」」
堂々とそう言うの。
繋ぎ止めておかなければ、天界に、神の御許に連れ戻されるかもしれないメリユ様を、また少し長く繋ぎ止められるように、わたしは、わたしたちは気持ちを伝えたのだから。
叶うことならば、わたしの生涯、わたしの命尽きるまで、メリユ様のお傍にいて、添い遂げたい。
その願いは、はたして、叶えられるのかしら?
その答えは、おそらく、メリユ様が今はまだ打ち明けられないことと深く関係しているのだろう。
わたしは、少しお気持ちが揺れていらっしゃるようなご表情をされているメリユ様を見詰め、どんなお答えをいただけるのか、やはり心配になってきてしまう。
「ハ、ハードリー様もありがとう」
それでも、メリユ様は一度目を閉じられ、ひと呼吸されると、メルー様のお顔ではにかまれながらもそう告げられるのだ。
壁の方を向かれながらも、ビクッとされるハードリー様。
こちらからは見えないけれど、ハードリー様が(受け入れられた)嬉しさにお顔を綻ばされていらっしゃるのが手に取るように分かったのだった。
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相変わらず、ハードリーちゃんは負けず嫌いのようでございますね。
随分と長くキスしていましたようで、、、
誤字脱字のご報告に気が付くのが遅れ、申し訳ございませんでした。
一部表現の統一の観点から、適用できていないところもございますが、ご容赦いただけますと幸いでございます。




