第242話 帝国皇女殿下、先遣軍司令官と協議を行う
(帝国第二皇女視点)
帝国皇女殿下、先遣軍司令官と協議を行います。
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口上を述べ上げることになっていた公爵=ブラオ卿の馬車がわたくしたちの馬車のところまで急ぎ戻ってきていた。
状況は分かっているわ。
よりにもよって、王国側の口上を述べ上げられたのが、セラム聖国のサラマ・サンクタ・プレフェレ・セレンジェイ聖女猊下だなんて!
そして、もう一人の聖女猊下、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下=ビアド辺境伯令嬢があのような神への讃歌をお歌いになられるだなんて!
しかも、どのような術を用いたのかは分からないけれど、後方にいたわたくしたちの馬車にまでそのお声が響いてきたのだもの。
バラガルからの報告は聞いていたけれど、本当に聖女猊下にはそのような特別なお力があると言うの?
分からない、本当に分からないわ。
タダ、『星落とし』、『落雷』、『トゲアー司教が天界に連れ去られた』というお話、それらが全て繋がっているとすれば、本当にわたくしたちは神のお怒りを買ってしまっているとでも言うの!?
「アレムお兄様?」
「まずい、これはまずいぞ。
さすがにこの段階で聖国と衝突するのは非常にまずい」
そうよね、讃歌を歌われた新しい聖女猊下はともかく、聖国聖女猊下が直接聖国を挟まない他国間のいざこざに直接介入されるどころか、口上を述べられるだなんて前代未聞。
もし帝国軍を動かせば、聖国との衝突は必至ね。
いえ、聖国の動きが早過ぎることを考えれば、既に聖国上層部は聖国内の我が国の工作に気付いていると考えるべきなのかしら?
顔色の悪いお兄様を見詰めていると、馬車の扉がノックされ、外からラスの声がかかる。
「殿下、ブラオ卿が……」
「ぁ、ああ、開けて構わん」
カーテンがかけられた窓の向こうに、こちらへと駆け寄ってこられるブラオ卿の姿が見え、ブラオ卿もまた普段のような落ち着きをなくしているのが分かる。
ブラオ卿が馬車の傍まで来られたところで、ラスが扉をさっと開け、息を切らし、髪を少し乱したブラオ卿が乗り込んで来られる。
「至急の報告のため、失礼いたします、殿下方」
「いや、すぐに報告を頼む」
「はっ、こちらは予定通り口上を述べ上げましたが、お聞きの通り、対する王国側は、セラム聖国のサラマ・サンクタ・プレフェレ・セレンジェイ聖女猊下が口上を述べられ、砦には聖国旗も掲げられており、聖騎士団も滞在中のようでございます」
聖国旗まで掲げられているというのはまずいわね。
聖国の使節、聖騎士団が砦滞在中であるのを示している訳だし、そこを攻めるとなると、帝国が聖国を攻撃したということになってしまうわ!
「何てことだ、今砦を攻めれば、聖国に直接喧嘩を売ることになってしまうのか?
皇帝陛下にどのように言い訳をすれば……」
「加えて、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下のご容姿を確認いたしましたが、事前情報とはまるで異なるお姿でございました」
「……どういうことだ?」
「赤毛で有名なビアド卿の血筋のはずでございますが、赤毛ではございませんでした。
タダ、神への讃歌を歌われた際、光を放っておられ、兵たちにも動揺が広がっております」
赤毛ではなかった……王都にビアド辺境伯令嬢=聖女猊下がいたというのが欺瞞情報である可能性は考えていたけれど、容姿についての情報すら間違っていたと?
いえ、母方の血筋が強く出て、赤毛でないということもあるでしょうけれど……光を、放っていた?
何なの、それは!?
意味が分からないわ!?
「ひ、光を放っていただと!?
どういうことだ!?」
「そ、それが、その、文字通り後光が差していたと申しましょうか、明らかに神のご加護を受けていらっしゃるのではないかと、愚考する次第で」
どういうこと!?
いえ、声がわたくしたちの馬車まで届いていたことと言い、聖女猊下らは本当に特別なお力を神より下賜されていると言うの!?
それもブラオ卿に『後光が差していた』と言わせるだなんて!?
「はあ、まずいな。
……ブラオ卿、今ここで聖女猊下二人を亡き者にした場合、どうなると思う?」
「そ、そうですな。
迅速に滞在中の聖騎士団を殲滅し、他に情報が流れないよう措置をしなければならないでしょうな。
そして、聖国上層部の掌握も同時に進めなければ、他国から我らが聖女猊下らを襲ったと帝国に非難が集中することとなってもおかしくはないかと」
それは本当にまずいわね。
王位継承権どころか、わたくしたちがその責任を取らされることになるかもしれないと言うの?
「アレムお兄様?」
「ええい、クソォ、ここまで来て!
聖国の連中がどこまで我らの動きを掴んでいるのか分からないのが気がかりだが、今更引き下がれないだろう。
はあ、ブラオ卿、連中を、聖女猊下二人と聖騎士団を消し去ることを最優先とする。
これは決定事項だ」
馬車内で腰を上げられたお兄様が、厳しい目付きでブラオ卿を見据えられ、そうおっしゃる。
……お兄様、本当に聖国の聖騎士団も含めて戦を仕掛けることにされたのね。
はあ、わたくしとアレムお兄様が一蓮托生なのは事実なのだし、もはや逃げられやしないだろう。
これは、帝国皇族に生まれた者の定めと言えるもの。
軍の指揮を委ねられた以上、どんな困難が待ち受けようとも退却なんてあり得ないのだわ。
ええ、もうこうなってしまった以上は、血塗られた道を進むしかないのだろう。
まさか、第二皇女としての最初の戦果が、聖女猊下を亡き者にするというものになってしまうだなんて。
良いわ。
思っていたのとは違うけれど、お兄様とわたくしをこれほどまでに悩ませてくれたのだもの。
わたくしたちの前に引き摺り出して、聖女を騙った罪で断頭台に送って差し上げることにするわ。
わたくしは不安を抱えながらも、溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたいという思いにかられ、残虐なことを考えることでそれ(不安)を胸中から消し去ることにしたのだった。
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本当の悪役サイドの状況でございますが、やはり混乱はしているようでございますね。
そして、やはり戦は避けられないご様子でございますが、どうなりますでしょうか?




