表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
242/322

第241話 悪役令嬢、側防塔上での仮の軍議のあと、執務室に向かう途中で王女殿下の本当の気持ちを受け取る

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、側防塔上での仮の軍議のあと、執務室に向かう途中で王女殿下の本当の気持ちを受け取ります。


[『いいね』いただきました皆様方に深く感謝申し上げます]

「メリユ嬢の、聖女の歌で、多少は動揺したようだが、指揮官以上は依然戦にいつでも移れる配置になったままか」


「やはり、向こうは向こうで引くに引けない状況のようですな」


 何事も自分の思った通りにならないのは世の常で……昨日はあんなに盛り上がっていたのに、ゴーテ辺境伯領軍は全然間に合っていないし、『アヴェ・マリア』を歌ったからと言ってアニメ的な停戦展開が起きる訳ではないらしい。


 まあ、分かっているわよ。

 拡声器バッチのおかげで山々にわたしの声が反響して、カラオケでエコー強めて、なんかうまく感じるような効果がちょっとかかったくらいよね。

 わたしの歌声程度で、戦争を止められるんだったら、軍隊要らんわって感じ?


 でも、なんか皆が『凄く良かった』って、涙を零しながら言ってくれたんだけど……うん、やっぱりサラマちゃんの口上効果あってのもの、だよね?


「ですが、これでセラム聖国もミスラク王国も、オドウェイン帝国以外の他国から付け入られるような隙を作らずに済んだのですから、上々でございましょう」


「まあ、確かに、な」


 メグウィン殿下のお言葉に、カーレ殿下が頷かれる。

 『神の目』によると、口上を終えたブラオ卿は引っ込んで、皇族の馬車の方に戻っているらしい。

 今後の方針について再協議しているんだろうけど、ま、突撃してくるんだろうなあ。


「もはや、オドウェイン帝国軍を刺激するかどうかなど検討している場合ではないな。

 メリユ嬢、至急狼煙を上げても良いだろうか?」


「もちろん、構いません。

 すぐにでも領都の皆様に衝撃波への備えをしていただくのがよろしいかと存じますわ」


「良し。

 すぐに狼煙を上げよ!」


 わたしの返答にカーレ殿下が頷かれ、タウラーさんが指示を出す。

 まあ、実際狼煙のタイミングは、重要検討課題だったんだよね。

 下手なタイミングで上げれば、王国側が全てを把握していて、敵の侵攻を領都に知らせているように見えるから、敵さん=帝国に余計な刺激を与えることになるだろうって意見があったから。

 うーん、そりゃあ、ごもっともなんだけどね。


 あと、領都側への説明が不十分になってしまったかもしれないのが、ちと心配だ。

 ガラスが割れるかも……とかは一応伝えてあるけど、もう少し危ないことになっちゃうかもなー、これ。


「それで、メリユ嬢、ゴーテ辺境伯領軍が追い付いていないのだが、本当にバリア内に入れなくて大丈夫なのか?」


 ああ、それも懸念されてたのか。

 ピンの取得は『神の目』上でもできるから、まあ、ワイン入り銀製ワイングラスを置かんでも、大丈夫ではあるんだよね?

 でも、変なアップデート入ってないかは、これもちと心配だわ。


 いや、暫く介入しないって言ってくれているんだから、多分大丈夫、だよね?


「わたしが『神の目』上でバリアを事前に張るようにいたしますのでご安心くださいませ」


「そ、そんなことまで可能なのか?」


 いや、そんなに驚くようなことなのかな?


「お姉ちゃん、メルーは、手伝わなくも大丈夫、なのですか?」


「大丈夫よ。

 早めに余裕をもって皆を護るのと同じほぼ透明なバリアで、辺境伯領軍を護るようにいたします」


「そうか、何卒よろしく頼む」


「はい、承りました」


 メルーちゃんの功績はしっかり残してあげたいけれど、ピン管理はまだ無理よね?

 この砦の皆を護るだけでも、皆の印象にはしっかり残るだろうし、褒賞もちゃんと出るはず。

 だから、こっちも大丈夫だって信じたい。


「追加のバリア分の聖なるお力のご使用量も計算に含めるようにいたします」


「メリユ様には、すぐ『神の目』上でのご準備に入っていただきましょう」


 わたしの両サイドで、ハードリーちゃんとメグウィン殿下が(凛々しくも)わたしのことを考えて動いてくれている。


 ふふ、マジ神展開だわ。


 十代のうら若き乙女たちがこんなに活躍してくれている光景をこの中世ヨーロッパ風世界で見られているだけでも、テスターをやった価値があったってものよね。


「「では、メリユ様向かいましょう!」」


「はい」


「メルー嬢もすぐに防御のためのバリアを張る準備に入ってくれ」


「は、はいっ!」


「メルー様、わたしたちも向かいましょう」


 向こうはマルカちゃんが付いてくれているし、うん、多分大丈夫よね?

 中枢は、サラマちゃんとルーファちゃんたちも残るし、聖騎士団との連携も取れるはず。

 いよいよ……って言うか、結局戦争になっちゃうのか?


 すぐにバリアで止めるつもりだし、この状況で侵攻を選んだ敵さんにはそれ相応の罰をバリア内で受けてもらうつもりではあるけれどさ、爆風が想定超えたらって考えると、少し怖い。


 ああ、リアル過ぎんのよ!


 まあ、向こうは向こうのリアルではあるんだけれどね!


「メリユ嬢、辺境伯領軍の護りが固まったら、至急こちらに戻ってくれ」


「承知いたしました」


 階段を下りるわたしたちに、カーレ殿下が声をかけられる。


 いざというときは執務室の『神の目』越しにバリア展開しちゃうつもりだけれどさ。

 そもそも、余力はあるから『神の目』をどこに増やしたって構わない。

 最優先なのは皆の命よ。


 だからまあそんなに心配しなさんなって。

 声には出せないけれど、険しい表情のカーレ殿下に目力(?)でそう伝えておいたんだ。






「結局、彼らは侵攻を選ぶのですね」


「はあ、本当に呆れたものですわ。

 メリユ様のあの神へのご讃歌を拝聴してなお攻め込むだなんて」


 二人ともまだ目が赤い。

 わたしのためにそんなことを言ってくれるだなんてうれしいな。

 多分、多嶋さんのベースシナリオ通りなら、今二人の間にいるのはメルーちゃんに変わっていたんじゃないかって思うもの。


 わたしはあくまで多嶋さんに管理者権限を与えられて向こうの世界にお邪魔している余所者だもん。


 あともう少ししたら、わたしは退散することになっちゃう。

 だから、今は思う存分、(心の栄養的な意味で)メグウィン殿下分とハードリー様分を吸収させていただくわ!


「……メリユ様、たまにそういう目をされますよね?」


「ハードリーちゃん?」


 え、何?

 なんでそんな心配そうにわたしを見るの?


「そうですわね。

 メリユ様、急に色々打ち明けてくださるようになられましたけれど、ご説明されることのできるご権限から逸脱されていらっしゃるのではと心配しておりました。

 色々無理をなさっておられるのではないでしょうか?」


 あー、そういう風に受け取ってくれたのか?

 まあ、言えないってことはあるけれど、『権限がない』とかはまあ強制力が働いている訳ではないしね。

 今の気分的には色々全部ブチ撒けちゃいたい気分なくらいだし。


「ふふふ、大丈夫ですわ。

 お二人には、いずれ打ち明けたいこともございまして、いずれその権限問題は何とかいたします」


 そう、せめて二人には明かしておきたいことも、謝っておきたいこともたくさんあるんだもの。

 できれば……そうね、親しい仲間の皆にも伝えられたら良いなって思ってる。

 もしかすると、多嶋さんが強制介入してミュートさせちゃうかもしれないけれど、わたし自身はやっちゃうつもり。


 だって、わたしたちの思い出がなかったことにされるなんてごめんだわ!


 メルーちゃんがわたしの代わりにこの世界の聖女になるのは良い。

 でも、今この瞬間の、この会話だって、わたしは覚えていたいし、二人にも忘れて欲しくない。


「メリユ様!」


 メグウィン殿下の目が潤むのが分かる。

 そして、またギュッてわたしの腕がホールドされて、わたしたちは砦内の細長い廊下で立ち止まる。


「どうして、全てを終えられたなら、いなくなってしまわれるような目をされるのですか?

 ええ、前から気になっていたのです。

 メリユ様はご自身を大切にされていないって、まるで仮初のお命でこの場におられるような感じがして、正直に申しまして、怖かったのです」


 う、もしかして、メグウィン殿下たちに見透かされちゃってる?


 いやー、十一歳のメグウィン殿下もハードリーちゃん、なかなかに鋭いなあ。

 わたしのメルーちゃん版アバターだって、表情補正はかかっているはずなのに……う、多嶋さん、もしかして余計なアップデートしやがってくれたのかなあ?


「安心しては、怖くなって、安心しては、怖くなって。

 メリユ姉様は、本当にずるいお方です!

 わたしはもうメリユ姉様と添い遂げると決めていますのに!」


 ……え?

 今メグウィン殿下、本気で『添い遂げる』って言った?


 いやいやいや、え、そりゃ、わたしもメグウィン殿下たち大好きだけれど。


 そ、そういうつもりで、メグウィン殿下はおっしゃってくれた、の?


「……メグウィン様」


 わたしが絶句していると、わたしの腕をがっちりホールドしていたメグウィン殿下が一度そのホールドしていた両腕を解いて、わたしの肩に両手を置いてくる。

 その頬の白い肌を真っ赤に染めて、綺麗な隻眼を涙で更に潤ませて、わたしの目を覗き込んでくるメグウィン様。


 えっと、アリッサさん、セメラさんたちも見守るってくれている中、え、どうなっちゃうの、わたし!?


「勝手にどこかに行かれるだなんて絶対に許しませんからね、メリユ姉様」


 うぐぅ、胸が苦しい。

 あまりにも唐突で、感情が爆発しそうになりそうな展開に、わたしは身動ぎ一つできなくなっていた。

 だって、こんな台詞、本編にだってなかったよ!

 こんな言葉、言われて逃げ出せる訳ないじゃんよ!


「メグウィン」


 わたしがそう呟いた途端、真正面からメグウィンがお顔を近付けてきて、目を閉じて……直後チュッて音がするのが聞こえた。


 ほ、頬にないじゃないよね?

 く、くく、唇にキスされちゃったの、わたし!?


 全身から汗がじわっと滲むのが分かった。

 いや、うれしい高揚、ではあると思うけれど、本当に想定外だったもの。


「今度は、ちゃんと……元のメリユ様のお身体のときにさせてくださいませ」


 うわあああ、メグウィン殿下まですごく照れちゃってるじゃん!

 いや、まあ、そりゃあ、そうよね。

 わたしも、女子更衣室でふざけてる内に女子同士でうっかりキスしちゃった友達いるけれど、今のって、多分ガチだと思う。


 うん、ガチよね?


 誠心誠意、心の籠ったキスだったと思う。


「メグウィン」


 ああ、これ、絶対に拒絶したらあかんヤツよ。

 多分、ここでわたしが余計なムーブしたら、その時点で『詰み』っていうか、メグウィン殿下を傷付けちゃうことになっちゃうんだ。


 だから、わたしは、


「……ありがとう」


 うん、わたし、微笑んで、そう言えたよね?

 自信はなかったけれど、ちらっとこちらを見たメグウィン殿下が更にお顔を真っ赤にされたのを見て、わたしはぎり正解くじを引けたのだと思ったのだった。

『いいね』ご投票等で応援いただきました皆様方に深く感謝申し上げます!

やはり、二人は勘付いてしまったようでございますね。

そして……メグウィン殿下は、思い切ってご自身のお気持ちをぶつけることにしたようでございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ