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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第240話 ハラウェイン伯爵令嬢、聖国聖女猊下と悪役令嬢を見守る

(ハラウェイン伯爵令嬢視点)

ハラウェイン伯爵令嬢は、口上を詰まらせる聖国聖女猊下と、それを手助けしようと歌う悪役令嬢を見守ります。


[『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に心よりの感謝を申し上げます]

 デビュタントを済ませていないわたしにとって、年の近い貴族令息、貴族令嬢の方々との社交と言えば、お隣のゴーテ辺境伯家のソルタ様とマルカ様、あとはキャンベーク街道沿いの貴族家のご令息、ご令嬢方、そしてたまたま繋がりができたメグウィン様=第一王女殿下とだけでした。

 振り返ってみれば、本当に狭い世界しか知らなかったのだなと思います。


 それが今や、こうしてメリユ様=聖女猊下、サラマ様=聖女猊下、メルー様=聖女猊下、ルーファ様=聖国アディグラト家令嬢様、ディキル様=聖国アディグラト家令息様たちとも『大切な仲間』と言える間柄になっているのですから、不思議です。

 いえ、全てはメリユ様のお導きあってこそなのでしょう。


 わたしにとっては、ソルタ様や、カーレ第一王子殿下と同じく、少し年上のお兄様、お姉様のような存在に、サラマ様もなっていて(妹分として)サラマ様のご口上を応援していたんです。

 わたしには、荷が重過ぎて、戦の場で口上を述べるなんて、この先もできる気がしません。

 でも、サラマ様だって、もとはわたしと同じ伯爵令嬢だった訳で、いくら聖女猊下というお立場になられたからといっても、そのような(まず女性がすることのない)大役を引き受けられるだなんて、本当に尊敬してしまいます。


『聞けぇ! あの女は聖女を騙る悪魔である!

 あの女悪魔の甘言に耳を貸してはならないっ!』


 そんなサラマ様が敵の将ブラオ・デューコ・コーリッドヒア公爵様から『聖女を騙る悪魔だ』と謂れのない糾弾を受けられたときは、わたしは胸が引き裂かれそうなほどの痛みと苦しみを覚えました。


 (わたしと同じく)メリユ様に救われたあと、サラマ様がセラム聖国でミスラク王国でどれほど世界のためにご尽力されてきたのか、わたしはよーく知っているのですもの!


 神より祝福を賜ってもおかしくないほど、頑張ってこられたサラマ様が傷付けられるなんておかしい!

 そうでしょう?

 なぜ(嘘吐きの)ブラオ・デューコ・コーリッドヒア公爵様に、大勢の方々の前で、その名誉を穢されなくてはならないのでしょう?


 わたしだけではありません。

 傍にいらっしゃるメリユ様、メグウィン様、マルカ様、ルーファ様たちだって、皆、怒りを抱かれているのに違いありませんもの!


「サラマ様」


 そんな中、真っ先に動かれたのは(やはりと言いましょうか)メリユ様でした!


 メルー様のお姿で、わたしの結った三つ編みを風に揺らされながら、檀上にいらっしゃるサラマ様のお手を引き寄せられ、握られるメリユ様。


 事前の軍議でも、サラマ様のご口上がうまくいかなかった際は、メリユ様に交代するということにはなっていました。

 ここは……やはり、メリユ様に代わられるということなのでしょうか?

 わたし、『大切な仲間』の一人としては、サラマ様にもう少し続けていただきたかったという思いはありました。

 いえ、それはここにいる仲間の皆もそうだと思います。


 メリユ様とご一緒にこの世界を駆け、色々なことを覆して、共に成長してきたわたしたちですもの。

 一人一人、何かに悩んでなかなかその殻を破れなくなっていたわたしたち。

 その殻を破ってくださったメリユ様の前で、またメリユ様に頼りきりになるというのは、何か違うって思うじゃないですか?


「……」


 あれ、でも、メリユ様はサラマ様の手を握り締められたまま、優しくサラマ様に微笑まれるまま、なんです。


 交代、されるおつもりだったんじゃ、なかったんでしょうか?


 何も言葉を発せられることなく、目を細められて、『何も悲しむことはないのですよ』って、『何も怖がることはないのですよ』って、『どうぞいつものサラマ様に戻ってください』って、微笑みを深くされるメリユ様。

 すごいです。

 そのご表情だけでも、メリユ様は(ブラオ・デューコ・コーリッドヒア公爵様のお言葉に揺さぶられることもなく)タダサラマ様を信じ、応援されているんだって分かりましたもの。


 そして、(サラマ様のお手を握られていない)左手を宙に翳されて、何かを叩かれるような仕草をされました。


 鳥肌が立つような感覚がありました。

 コンソールも出ていないのに、メリユ様が何かなさったのだと分かってしまいましたもの。

 『人間』離れなことをなさってこられたメリユ様ですけれど、今、また『人』の身から更に外れるようなことをなさったのではないでしょうか?


 続いて、メリユ様の口から『一、二、三』と数を数えられるのが分かるんです。


 わたしはメグウィン様をちらっと見て、メグウィン様も同じ思い、ご懸念を共有されているのに気付くんです。


「「『メリユ様?』」」


 サラマ様含め、三人同時に、お声がけした次の瞬間、メルー様のお姿のメリユ様のお身体がサラマ様と同じよう淡い燐光を発せられ始めたんです。

 いえ、少し……違うのかもしれません。


 だって、メリユ様のお身体からご変身のときと同じように、その燐光が光の粒となって周囲に舞い散り始めていたのですから!!

 これは、一体どういうお力のご行使、ご執行なのでしょう?

 もしかして、メリユ様がまたお約束をお破りになって……そんな懸念が頭を過ります。


 ですが、違いました、違ったんです!


 すぅっと息を吸われて、お口を普段より大きく開かれるメリユ様。

 次の瞬間、そのお口から聞いたことのない綺麗な歌声が紡ぎ出されていたんですもの。

 普段からメリユ様のお声には、わたしたちとは異なるものを感じていましたけれど、メルー様のお声になっていても、凛として響きと柔らかな抑揚があって、どうしてこんなにも違うのだろうってずっと思っていたんです。


 けれど、今は納得できました。


 メリユ様のお声には、聖なる何かが宿っているのでしょう。

 お歌になられているだけで、周囲に聖なる光の粒が舞ってしまうほどなのですから!

 知らないお言葉、知らない歌詞、聞いたこともないような神秘的なお歌ですのに、これ以外にないと思えるほどの感動を覚えてしまって、涙が滲んできてしまうんです。


 ええ、分かりましたとも。

 これは神への讃歌なので違いありません。

 だからこそ、メリユ様の聖なるご命令と同じで意味が分からなくても、胸を打つものがあるのでしょう。


 そして、この讃歌は(同じく神に仕える聖女猊下であらせられる)サラマ様を元気付けるためのもの!


 現に今サラマ様はメリユ様だけをご覧になっていて、ほんの今まで青褪めかけていた頬に赤みが差していらっしゃるんですから、間違いなくそうなのだと思います。

 本当にメリユ様は仲間想いでいらっしゃるんですから。

 いえ、仲間でなくとも、誰であっても……そうですよね?


「メリユ様……」


 感情が高ぶってしまって、思わずメリユ様を呼んでしまったのは、わたしだったのか、それとも、サラマ様、メグウィン様だったのか、いえ、三人ともそうだったのかもしれません。


 メリユ様の歌声は、聖国側の広場どころか、バーレ連峰にまで響き渡り、それまでここにあった緊張した空気すら霧散していくようです。


 まるで神の祝福すら齎されそうな、温かな響きが世界すらも変えてしまいそうに思えました。

 ええ、まさか、こんな形でサラマ様を手助けされる方法があったなんてと思ってしまいます。

 メリユ様のお歌によってこの場が整えられた後、サラマ様はご口上を続きを述べることでしょう。


 もはや、そんな未来しか見えてきません。

 ああ、もうさすがです、メリユ様、大好きです!

 わたしは感極まってしまい、メリユ様の腕に自分の腕を絡めに行ってしまっていました。






『……必要でございましたら、聖国聖女であるわたくしと、聖騎士団の方で書状を発行し、戦を止めることも可能でございます。

 お待ちできるのは、三刻ほどでございます。

 どうぞ、ご賢明なご判断をいただけますよう、お願い申し上げます』


 はい、メリユ様が神への讃歌をお歌いになられた後、サラマ様は元気を取り戻され、ご口上を無事述べ上げられました。

 ええ、思っていた通りの未来になったんです。

 本当に良かったです。

 サラマ様もご大役を果たされて、ホッとされていらっしゃるご様子。


 それだけでも、わたしまで涙をまた零しそうになってしまいそうなほどです。


 これで、はたして帝国、オドウェイン帝国は侵攻を続けられるのでしょうか?

 神に認められし聖女猊下が『止めよ』とおっしゃられ、退却するのに必要なお膳立てまで手伝うとおっしゃられているんです。

 そもそも、兵士の方々だって、聖女猊下がおわせられる砦に侵攻するのは嫌なことでしょう?


「“Exit LoudSpeaker batch”

 一、二、三」


 メリユ様が何かを呟かれると、メリユ様とサラマ様の、淡く輝きを放たれていたお身体から光が消えていきます。

 これはこれで幻想的で神秘的な光景のように思えます。


「サラマ様、どうもお疲れ様でございました」


「メリユ様!」


 檀上から降りられるサラマ様のために一歩引き、メリユ様の右腕を離しますと、サラマ様がその右手を再び握り締められます。


 ええ、お気持ちはよーく分かりますわ!


 いくらいざというときのために、代役のお願いをしてあったとはいえ、サラマ様がご口上を続けられるように、あのような素敵なご助力を得て、何も感じないはずないですもの!


「サラマ様、これ以上ない聖女猊下らしいご口上だったかと存じますわ。

 ミスラク王家を代表として厚くお礼申し上げます」


 メグウィン様も、メリユ様をサラマ様に譲って、お礼をおっしゃっておられます。


「これで、派遣される領軍の皆が間に合えば良いのですが」


 そう、でした。

 オドウェイン帝国軍の動きがあまりにも早過ぎたため、領都を今朝出立した領軍がまだ砦に到着できていないんです。

 いざというときのご準備はある、とメリユ様はおっしゃっておられましたけれど、予備の起点(?)を使ってでも、今の状態ではカバーできないことでしょう。


 だからこその三刻。


 少しでも時間を稼ごうとしてくださったいたのですね。

 もちろん、敵がそれを守るとは限りませんけれど、できるだけのことはしておきたいですものね!


「サラマ聖女殿、メリユ嬢、感謝する」


「聖女猊下、誠にありがとうございました!」


 メグウィン様に続いて、カーレ第一王子殿下や皆様方がサラマ様とメリユ様にお礼を述べられていきます。

 これで、戦を止められれば、最高なのだと思いますが。


 はたして、敵はどのように動くのでしょうか?

『いいね』、ブックマーク、ご投票等で応援いただきました皆様方に心よりの感謝を申し上げます!

やはり、歌う聖女様、よろしゅうございますね

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