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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
229/322

第228話 悪役令嬢、皆との時間を惜しみながら、ダーナン子爵令嬢に音声コマンドを指導する

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、皆との時間を惜しみながら、ダーナン子爵令嬢に音声コマンドを指導します。

 お昼ご飯を終えたところで、ワールドタイムインスタンスを止めて、小休憩取ったんだけれども、アレ、来ちゃいましたわ。

 何が来たかって? 乙女に一々言わせんな!

 いや、まあね、こう眠いし、情緒不安定気味だし、来るかなーって思っていたら、来たわ。

 予定日より一日早いんだけれどねー……はあ。


 それより、多嶋さんのことが衝撃的過ぎて、色々大事なこと、訊くの忘れちった。

 うーん、どうしよう?

 そりゃさ、多嶋さんがメリユからメルーちゃんへのパタンタッチ考えているんなら、今更『メリユの姿に戻っても聖力の譲渡に問題ないか』とか気にする必要もないんだろうけどさあ。

 多嶋さんがああ言ったんだもん。

 ふふ、メルーたんの姿で荒ぶっちゃっても構わないんだよね、多嶋さん?


「しかし……何だよ、この展開は、よぉ」


 本当だよ、何だってんだよ、この展開は!

 わたしも、皆集まって、敵さんやっつけんでしょーみたいに(半分投げやりに)思ったりしたけれども、本当に集まってきやがって、何なんだ!?


 そりゃ、王道展開は好きだけれどもさあ、王都騎士団に聖騎士団までもやってきて、大集合とか、本当にやんのかあ。


 ごめん、やっぱり情緒不安定になってるわ、わたし。

 ブチ切れて敵さん消滅させたりしないように気を付けないとなー、マジで。

 いや、本気で、どこまでが許容範囲って思うよ。

 多嶋さんの許容範囲は、結構緩そう……多分先遣軍全滅させても何とも思っていなさそう。

 でもね、わたしが演じてるメリユ的に、それ絶対に無理だから!

 王城でも、わたし、誰も殺せないしーみたいなこと言っちゃってるから!

 うん……わたし自身、血みどろの戦いとかマジ無理だから。


 取り合えず、バリアで閉じ込めるところまでで勘弁してくれや。


「……って、どこで荒ぶる気やねん!?」


 荒ぶる要素なくない? って思ったそこのあなた!

 甘い、甘いよ。

 実は考えてあるんだなあ、帝国首都……何つったっけ? そこに乗り込んで、ちょーっと『おしおき』みたいなことはしたいなあってね。


 多分、連中、調子に乗ってるから、色々天変地異を起こしてビビらせてやるねん!


 ってくらいには思ってる、あははは。


「しっかし、多嶋さんの行動が読めんわ……」


 それはそれとして、多嶋さんが現地入りした理由が知りたい。

 まあ、多嶋さんが向こうの世界の神様ってんなら、本職の業務に戻っただけかもしれんけれど。


 でも、王都、ミスラク王国の王都……なあ。


 ……いや、ズル過ぎるだろ!?

 そこまで行けているんなら、ちょーっとゴーテ辺境伯領まで行けば、メグウィン殿下たちに出会えるじゃんかよぉ。

 言っておくけれど、本気で『最後に一度くらい、こそっとでも良いから、メグウィン殿下たちと同じ空気を吸いたい』って思っているオタクなんでねぇ、それくらいのご褒美は用意しておいて頂戴よ!


「はあ……」


 ま、こちらの世界の『人間』であるわたしが向こうに転移したら、身体を維持できないとか、崩壊するとか言われて拒否られそうな気もするけれどもー。

 ああ、あと、向こうの病原菌に耐性なくて死ぬとかも言われそう? 

 うぅ、マジであり得そうだな。


 何にせよ、あっちは神様チートだから、マジ行動原理とかも不明だかんね!


 一介のJDとは訳が違うんだろうねぇ。


「……で、メルーちゃんに、音声コマンド、教えなきゃいけないのか」


 まさか、わたしが自作した音声コマンドを他人に、いや、今は他人じゃないけれど、妹分になったメルーちゃんに教える羽目になるとは。


 まあ、でも、引き継いでくれる子がメルーちゃんで良かったのかしらん?


 せっかく作った、各種音声コマンド群。

 このままわたしのロールプレイが終わってそのままデリートされたりしたら、凹むわあ。

 特に皆を護るために作った疑似バリアコマンドはねー。


 この砦に来るときだって、いつでも皆を護れるようにして、音声コマンド加え、ショートカットキーまで用意したっつーの。

 タダ、緊急時用の物理無効コマンドは、メリユ以外の皆にどんな影響出るのか分かんなくて怖いんだよなあ。


 たとえ頭の上から大岩降ってきても、大岩の方が砕けるか、弾かれて横に転がるかって感じになるはずなんだけれど、本人にはどう感じられるかの検証ができてない。

 メリユとしては何度使っているんだけれど、わたし、オケラス越しにしかやっていないからねー、感覚が分かんないのよ。


 物理的には大丈夫だけれど、痛覚的には何か感じるとかあったら、マジヤバイって思うし。

 あと、重力関係とかどうなってんだろって思うしね。

 物理無効コマンド実行中は、物理的に外部から何されようが、ダメージ受けないどころか、ワールド座標すら変化しないし、それこそ小指一本でその大岩を受け止めることだってできるんだよね?

 リアルなら、非破壊オブジェクト化していても、地面にめり込んだりしそうだけれども……。


「あー、やめやめ、そんなこと考えてる場合じゃないわ」


 わたしが言い出したんじゃん。

 皆を護ってって、メルーちゃんに。


 そう、砦を出て、今ドレス姿でくるくる回っている、目の前にいるメルーちゃんにね。


 うぅ、マジかわゆす!

 自分もメルーちゃんと同じ姿になっているとはいえ、本編じゃ、プレイヤーキャラだったメルーちゃんの十歳の姿をこんな風に見ることができちゃってるなんてね。


 そして……ティアラをキラキラさせているメグウィン殿下、じゃじゃ馬っ子なのにフリルいっぱいのドレスを着ているハードリーちゃん。

 マジてぇてぇ過ぎて、涙が零れてきちゃう。


 向こうの世界にいる、彼女たちと一緒にいられる時間を大切にしろって?


 そんなの多嶋さんに言われるまでもなく大事にするに決まってるでしょ?

 これはゲームでも、アニメでも、映画でもないんだもの。

 彼女たちは向こうで生きている。

 わたしのロールプレイが終わっても、彼女たちの人生はずっと続いていって、色々な経験をして、笑って泣いて怒って、大人になっていくんだろう。


 わたしには、それを見届けることができない。


 いや、時間刻み幅を変えれば、ずっと先の未来を先取りできるのかもしれないけれど、多分それは多嶋さんに介入されそうだし、システム的に許されないかな。

 何にせよ、わたしが彼女たちのために好き勝手できるのは、彼女たちのピンチに駆け付けている、今のこのひとときだけ。


 ああ、もう……また涙滲んできちゃったし。

 こんなの、また顔が浮腫んじゃうよ!

 本当に、『多嶋さんのバカー』って言いたい気分だった。






「じゃあ、メルー、コンソールを出しましょうか?

 先ほど、コンソールの出し方、消し方は教えてあげたのだし、大丈夫よね?」


 砦前の広場で、わたしはメルーちゃんに音声コマンドを教えることにする。


「はい、お姉ちゃん。

 ショウ コンソール!」


 一、二、三。


 ちゃんとメルーちゃんの幼い声にも反応し、音声コマンド実行は成功して、コンソールがメルーちゃんの手元に出現する。


「じゃあ、対象を選択するわね。

 右手の人差し指で、護りたい相手に向けて、“Pick one”と言うの」


 メルーちゃんはこくんと頷くと、強力してくれるマルカちゃんに右手の人差し指を向けて


「ピック ワン」


 と言う。


「“Pick one”」


 そして、マルカちゃんも一緒にわたしの真似をしてくれる。


 うん、やっぱり、マルカちゃんの方が発音良いみたいね。

 でも、マルカちゃんの身体が輝き出したから、一応実行はできているみたい。


「成功したみたいね」


「すごい、マルカ様、輝いてる!」


「はい」


 ここからは新たに用意したバッチの実行になる。


「じゃあ、バリアをマルカ様に張りましょう。

 “Execute batch for Personal-Barrier for object-one”」


「エクスィキュート バッチ フォー パーソナルバリア フォー オブジェクトワン」


「“Execute batch for Personal-Barrier for object-one”」


 ううん、これ実行できるかな?


 一、二、三……。


 ダメか。

 マルカちゃんの方が発音が正確っぽい。


「メルー様、”Execute”ですわ」


「エ、エクセキュート バッチ フォー パーソナルバリア フォー オブジェクトワン」


 一、二、三。


 お、マルカちゃんの輝きが消えた。

 ってことは成功か。


 透明度ゼロにしているから、付随エフェクトも発生してないし、マジオッケーっぽい。


「成功したみたいね、メルー、良くできました!

 マルカ様もご協力感謝いたしますわ」


「いえ、とんでもないですの。

 それで……これでバリアが張られているのでしょうか?」


「では、わたしが確かめてみましょう!」


 こういうときは率先して動くアリッサさんがやってきて、おそるおそる掌を前に突き出しながら、マルカちゃんに近付いていく。

 そして、アリッサさんがある程度近付いたところで止まってしまう。


「はい、バリアがここにありますね!

 びくともしません」


「わあ、これ、メルーが張れたの?」


「そうよ。

 これでマルカ様は完全無敵になられたの」


「無敵って!?」


「たとえ投石器の大岩が当たっても、マルカ様には何も起きず、むしろ大岩の方が砕けるわね」


 その言葉に、ルーファちゃんの護衛で来ているアファベトさんが反応する。


「そ、そいつはぜひあっしに試させてもらいてぇんですけど、よろしいですかい、聖女猊下」


「ええ、タダ、剣はお使いにならない方がよろしいかと」


「承知。

 では、その辺の石で試させてもらいやす」


 アファベトさんがハンドボールサイズの岩を持ち上げると、マルカちゃんの方に近付いていく。

 うん……絵的にもこれはダメだわ。

 皆も冷ややかな視線をアファベトさんに向けている。


「あのー、アファベト様、その……」


「ご心配なく、寸止めって言いやすか、バリアの辺りで止めるようにしやすんで」


 いくら安全であっても、マルカちゃんには少し恐怖を感じる光景が見えてしまっているようだ。

 はい、アウトー。


「なるほど、これが……バリアですかい。

 ふんぬ!」


「ひぃ」


 コーン!

 良い音が響くと同時に岩が割れ砕ける。

 そして、割れ散った岩の破片がアファベトさんの方にも届いて、


「ぶふぇっ、痛てて」


 多分顔にも当たったんだろう。

 ついでに砂煙みたいのも吸い込んだみたいで咳き込んでいる。


「ちょっと、アファベト、話が違うじゃない。

 後でおしおきね」


「ええ!?

 それはねぇですよ、お嬢」


「いくらご安全でも、マルカ様に恐怖を感じさせている時点でダメよ!」


 そんなルーファちゃんの叱責を聞きながら、絶対的な安全を信じてくれていたらしいメグウィン殿下たちが笑い出すのを眺める。

 こんな光景をいつまでわたしは眺めていられるんだろうか?


 わたしはメグウィン殿下たちの笑顔と笑い声を自分の脳裏に焼き付けながら、こちらの世界で鼻をかむのだった。

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