第227話 王女殿下、お伽話のような展開に感情を高ぶらせる
(第一王女視点)
第一王女は、お伽話のような展開に感情を高ぶらせてしまいます。
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皆で揃ってお茶を飲みながら、遅めの昼食を待つ。
タウラー様とは、足手まといになりそうな者を領都に戻らせるというお話をしたばかりだけれど、ここにいる皆は意気揚々として、わたしまで笑みを浮かべずにはいられない。
司教猊下様に神よりのご警告がくだり、失神、失禁されたままお帰りになられた光景は、本当に衝撃的で、ご神命の執行者であらせられるメリユ様が味方にいるということの安心感はこれまで以上に大きくなったように思うの。
何より、メルー様からの聖なるお力の譲渡が可能となり、メリユ様のお力にも余裕ができたことも大きい。
神は間違いなく、メリユ様に起きていることをつぶさに見守られているということで間違いないのだろう。
昨夜『星落とし』ですぐさまご介入されたことだって、そうでなければ不可能なこと。
メリユ様とのご意見の食い違いはあるようだから、絶対的に信頼できる訳ではないけれど、神がメリユ様の身に危険が及ぶことを良しとされないことだけはほぼ確か。
それこそ、神ですらメリユ様が害されるのを防げなかった場合、ご神罰がくだり、国単位、最悪この世界ごとが滅ぶことだってあり得るのではないだろうか?
まあ、それだけはないわね。
近傍警護の皆が防ぎ切れなかったとしても、最後はわたし自身を盾としてでも、メリユ様を護り抜く覚悟はあるもの。
わたしは本来ここにはもういないはずの『人間』なのよ。
メリユ様のために命を捧げることくらい怖くはないわ。
「皆様、料理長より白パンが間に合わないとのこと、謝罪が届いておりますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、昨日もお伝えしました通り、タウラー様たちと同じお食事で構いません」
「はい」
「構いませんわ」
この砦では、四日分の黒パンを大きなパン窯で一気に焼き上げているらしい。
元々賓客が訪れる予定もなかったのだから、衛士の方々のための黒パンしかご用意されていなかったのは仕方のないことだろう。
硬い黒パンを食べるのも、皆と一緒ならまるで気にならないわ。
「承知いたしました。
それでは、後一刻ほどでお食事のため、広間までご移動をお願い申し上げます」
「ええ、後はお願いね、ハナン」
「はっ」
ハナンがお部屋から出ようとしたところ、扉の外で待ち受けていたらしい影の女性がハナンと接触するのが見える。
まさか、火急の用件だったりしないわよね?
さすがに、もうオドウェイン帝国軍が動いたとかではないと信じたいけれど。
「ハナン?」
(扉の隙間から)珍しくもハナンの表情がはっきりと変わるのも見て、何があったのかと思ってしまう。
「皆様の至急のご報告がタウラー様からございました。
王都騎士団のイバンツに到着し、これよりゴーテ辺境伯領軍とこちらに向かうとのことでございます。
また、タウラー様の方で、聖騎士団先遣一個中隊の接近を『神の目』で確認したとのことでございます」
「王都騎士団に、聖騎士団もですって!?」
すごいわ!
本当に王都騎士団の派遣、間に合ったのね!
そして、聖騎士団の先遣隊までも!
これは、ハナンだって表情を変えずにはいられないはずよ。
「まあ!」
「うわあ」
「すごい、本当に間に合ったんだ!」
「ハナン様、では、サラマ様たちも?」
「はい、先触れの情報では、カーレ第一王子殿下やソルタ様、サラマ聖女猊下もご同道されるとのことでございます」
わたしまでも感情が高ぶってしまって、少し涙が目に滲んでくるのを感じてしまう。
皆が勢揃いして、オドウェイン帝国の先遣軍に立ち向かえる。
本当にこれ以上ない『陣容』と言えるだろう。
そう、本当に、本当に、メリユ様が王城をご訪問されてから、全てが動き出して、こうして帝国に立ち向かうのに必要な『人』たちが揃ったのは、奇跡としか思えない。
だって、こんなの、まるでお伽話みたいじゃない?
「メリユ様っ」
わたしは椅子から立ち上がると、お隣のメリユ様のもとへと向かう。
ほんのつい先ほどだって抱き付いたばかりだけれど、こんな気持ちになったら、やはり抱き付かずにいられる訳ないのよ!
ほら、ハードリー様だって、メルー様だって、メリユ様に抱き付きに行こうとされているもの。
でも、わたしは誰よりも先にメリユ様に抱き付くの!
王城でこんなことをしていたら、叱られてしまうのは分かっているけれど、ここではわたしだってそれなりに偉い立場にいるのだから、誰にも文句なんて言わせない。
ハナンには後で(また)お小言を言われてしまうかもしれないけれど、この気持ちにはいつだって素直でいたいって思ってしまう。
ああ、でも、メルー様のお姿なのが、やはり残念ね。
メリユ様のお花の香りをまたすぐお傍で嗅ぎたいと思ってしまうの。
それでも、優しく受け止めくださるのは変わらない。
どんなお姿であっても、メリユ様は、メリユ様。
メリユ様で、メリユお姉様で、メリユ姉様で、大好きな、大事なお方なのだもの!
「メリユ様、大好きですわ!」
わたしは皆の目も憚らず、メリユ様の頬にキスをしたのだった。
昼食では、黒パンを(衛士の方々よりは豪華であるらしい)シチューに付けて食べ、賑やかなお時間を過ごし、わたしたちは砦の外に出ていた。
ついに聖騎士団の来訪を知らせる先触れも到着し、正式に砦の滞在願いが届いたことになる。
女騎士たちの皆も、感極まっていたようだけれど、本当に揃えられるだけの味方が今日中に到着することになりそう。
既にイバンツ側、聖国側でも、キャンベーク街道の封鎖措置が取られ、商隊や旅人の行き来もなくなり、いよいよ砦は臨戦態勢に移りつつある。
周辺への影の配置も完了し、密偵にわたしたちの動きを見られることもないだろうと、外で聖なるお力を振るわれる準備をすることになったの。
そして、メリユ様はメルー様、マルカ様に聖なるお力の使い方を伝授されるのらしい。
もちろん、明日以降始まる戦のために必要なお力まで減じてしまうことのないよう、最小限のものにはなるとのことだけれど、わたしは少しばかり複雑な気持ちになった。
「メルーには、バリアの張り方を覚えてもらいたいの。
発音については、マルカ様にご指導いただいて覚えて頂戴ね」
「ぅ、うん、はい、お姉ちゃん」
王国に二人目の聖なるお力を振るうことのできる聖女様が誕生する。
それは本当に喜ばしいことだと思う。
それでも、世界で唯一の使い手であらせられたメリユ様に続いて、メルー様も同じお力を振るわれるようになるのかと思うと、心がざわつくのを感じてしまうの。
メリユ様がとても献身的なお方でいらっしゃるのを知っているから、何かこう、メリユ様が自分の代わりにメルー様を置いて、遠くに行ってしまわれるのではないかって、そんな不安が芽生えてしまったかのよう。
もちろん、メリユ様がそんなことをされようものなら、メリユ様に抱き付いて、ううん、わたしのこの身をメリユ様のお身体に縛り付けてでも、付いていく気ではいるけれど……やはり、気になるのはあのご神託よね。
あまりにも長かったあのご神託、ご神命(?)
メリユ様のご様子が少しおかしくなられたのは、メリユ様があのご神託を受けられてからだと思うもの。
神が何をメリユ様に告げられたのかは分からない。
きっと、今回もわたしたちにはお伝えいただけないような内容も含まれていたのだろうと思う。
けれど、万が一にでも、神がメリユ様とわたしたちを引き離そうと画策されていらっしゃるのだとしたら、わたしは是が非でも抗うつもりよ。
だって、わたしには、もうメリユ様のいらっしゃらない『人生』なんて考えられないのだもの!
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ファウレーナさんが推測していた通りの展開になりつつあるようでございますね。。。
本当にこれからどのようになっていくのでしょうか?




