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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第225話 帝国皇女殿下、帝国第二皇子と共にオドウェイン帝国中央教会司教猊下らを詰問する

(帝国第二皇女視点)

帝国第二皇女は、帝国第二皇子と共にオドウェイン帝国中央教会司教猊下らを詰問します。


[『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に心より感謝いたします]

「一体どういうことだ!?

 最後通牒に向かったトゲアー司教がもう戻ってきただと!?」


「そ、それが……」


 近衛のラスが珍しくも言葉を濁している。

 一体何があったというのだろう?

 確かにトゲアー司教はあの『星落とし』から様子が少しおかしかったけれど、今朝は持ち直して、意気揚々と小王国へ向かったはずなのに。


「実は、猊下の護衛の修道騎士から聞いた話では、神より直接ご警告を受けたと……」


「何馬鹿なことを言ってるんだ!?

 そんな法螺話、誰が信じられると言うんだ!?」


 本当よ!

 神から直接ご警告を受けた?

 こちらでも天気は変わりないし、雷が落ちた訳でも、嵐が起こった訳でもないだろうに。


「……いえ、それが修道騎士全員が……猊下が天界に連れ去られるのを目撃したと報告しておりまして」


「「は??」」


 思わずわたくしまで声を漏らしてしまったわ。

 天界に連れ去られた?

 まさか、トゲアー司教が天にまで飛んで行ったとでも言うつもりなのかしら?


「ラス、修道騎士全員に問い質したのだろう?

 全員同じことを言っているというのか?」


「はっ、その通りでございます。

 口裏合わせをしている様子もなく、全員本当に怯えている様子でございました」


 どういうことなの!?

 神が本当にトゲアー司教にお怒りだと?

 まさか、帝国が帝国中央教会を買収し、我らの言いなりになっているのにお怒りを示されたとか、そんな訳ないわよね?


「はあ、何とも頭の痛いことだな。

 それで、当の本人はどうなっている?」


「それが、先ほどお着替えになられ、お部屋にお戻りになられたところですが、修道騎士たち以上に怯え切っておられまして……」


 ラスが困惑した様子でそう報告する。

 お兄様はかなり苛立っていらっしゃるようで、右手の中指で椅子の肘置きを小刻みに叩かれている。

 あの様子からすると、相当にお怒りのようね。


「埒が明かない!

 直接トゲアー司教を問い質そう」


「し、しかし……」


「聖教会には、それだけの大金を握らせてやっているんだ。

 トゲアー司教の体調が悪かろうが、寝込んでいようが叩き起こせ」


「はっ、直ちに聖教会の使節の方にそのようにお伝えいたします」


 跪いていたラスは額から汗を一筋流しながら立ち上がると、慌てた様子でお部屋を出て行ったのだった。






 お兄様は、聖教会の使節側に時間的猶予を与えるおつもりもなかったようで、ニ刻を待たずして、トゲアー司教のお部屋へと向かうことになったの。

 当然、わたくしも同行する。

 何せ、わたくしの箔付けにも影響することなのだもの。


「アレムお兄様は神よりのご警告についてどのようにお考えなのでしょうか?」


「あり得ん。

 何かの錯覚か、偶然の自然現象を勘違いしたかのどちらかだろう?」


「そうですわよね。

 昨夜の『星落とし』も偶然の事故。

 そのような些細なことで帝国軍が撤退することなどあり得ませんわ」


「全くだ」


 近衛に囲まれながら、聖教会の使節側に使わせている陣地に入る。

 警護に就いている修道騎士たちも跪いているけれど、皆顔色が良くない。

 本当に帝国軍に比べて何て練度の低いこと。

 この程度のことで取り乱すだなんて呆れ果ててしまうわ。


「……何だ?」


 奧にあるトゲアー司教のお部屋の方から大の男の悲鳴のような、情けない声が聞こえる。

 本当に何事よ?

 せいぜいつむじ風に軽く飛ばされたとか、そんな程度のことだろうに。


『ああああ、御仕舞だ、御仕舞なのだ!

 帝国中央教会は、神のお怒りを買ってしまった!

 もう儂らは終わりだ! あっはっは!』


 お兄様と一緒にお部屋に近付いていくと、泣き喚かれ、錯乱されているトゲアー司教の声が聞こえてくる。

 ……気でも触れたのかしら?


「通せ」


「し、しかし、殿下」


「構わん。

 何かあっても我らの身は近衛が護る」 


 扉を護っている修道騎士は諦めたように扉を開ける。

 もはや、トゲアー司教の意思を確認できるような状況ではないのだろう。


「ひぃーひっひ、全て御仕舞だ、何もかもが御仕舞だ。

 神は儂らの全てをお見通されておられたのだ。

 儂らの悪事など、全てご承知の上で、ついにご神罰のご準備をなされたのだ!」


 扉の中を覗いて、わたくしはお兄様に付いてきたことを後悔していた。

 巨漢のトゲアー司教が両手を天井に向け、何を見ているかも分からないような眼差しで叫んでいる。


 まさか、本当に気の触れたトゲアー司教を見る羽目になるだなんて、最低だわ。


 今にも大暴れしそうな、そんなトゲアー司教をバラガルとかいう修道騎士が必死に押さえ込んでいるよう。


「トゲアー司教、トゲアー司教、聞こえているか?」


「あーはっはっ、儂らには確実にご神罰がくだされることだろう。

 聖なる秩序を破壊した儂らを神は決して許されることはないっ!

 これは、神よりのご警告なのだ!」


「トゲアー司教っ!!」


 話の通じている様子のないトゲアー司教に、お兄様が怒鳴り付けられる。

 すると、何と、トゲアー司教は突然天に掲げていた両手を下ろして、わたくしたちの方をギョロっと光のない瞳で見詰めてくる。


 何て怖ろしい。


「殿下、昨夜の『星落とし』は本物でございましたぞ。

 神は本気でお怒りなのでございます。

 儂は、バーレ連峰より高く、天界の傍まで召され、そして、地上へと突き落とされ、お前はこうして死ぬのだと、くっくっく、ご警告を受けたのでございます」


「何を言っている?

 つむじ風にでも飛ばされて、気でも触れたのか?」


「殿下、猊下のおっしゃられていることは本当でございます。

 猊下はお一人、神のみもとまで召され、ご警告を受けられたのでございますっ!」


 お兄様の質問に、トゲアー司教を押さえ込んでいるバラガルが司教に代わって返答する。

 ……本気でこの修道騎士は、第二皇子であるお兄様にそんな法螺話するつもりなの?


「ダノット、帝国軍から送り込まれたお前がそんなことを言うとは……」


 ……バラガル、帝国軍から帝国中央教会に送り込まれた密偵だったのね。


「本当でございます。

 神は……おそらく、使徒様か、神兵様を既に送り込まれていらっしゃるかと。

 既に神の意によって新たな聖女が誕生し、神より……神のごときお力のご行使を許されているようでございます」


「おい、新たな聖女とは何だ!?」


「はは、さすがに彼らはご報告申し上げられなかったようでございますね。

 わたくしは、ご神託を直接受けることのできる新たな聖女をこの目で確認いたしました。

 あれこそがご神命の代行者様でございましょう」


 ご神命の代行者様……。

 経典にそういう記録があるとは教えられていたけれど、まさか実在するというの?


 密偵の彼が報告しているのだから、全てが法螺話……として処理する訳にもいかないわね。


 聖教会の使節側もよほどの混乱状態にあるようだし、警戒しておいた方が良い?


「はあ、ご神命の代行者様と来たか」


「お兄様」


「テーナ、テーナはどう思う?」


「そうですわね。

 さすがに以前のようにタダの欺瞞情報と扱う訳にもいかないかと」


「ふむ」


 わたくしはバラガルの話をもっと訊きたく思い、


「それで、バラガル、トゲアー司教が神のみもとまで招かれたときの状況を詳しく教えて頂戴」


 と尋ねる。


「それが……」


「あーはっはっ、神のお怒りすらお疑いになられるとは、帝室ももう御仕舞でございますなっ!

 ひぃーひっひ」


 少しばかり黙っていたトゲアー司教が口を挟み、また大笑いされ始める。

 ああ、もう……摘まみ出せないものかしら?


「げ、猊下、落ち着いてください!

 ちょっ、お願いいたしますっ!」


「ふんっ、ひひひ」


 バラガルが必死にトゲアー司教を押さえ込まれ、流れる汗も拭うこともできない体勢で、


「はあ、第二皇女殿下、詳細ご報告申し上げます。

 新たな聖女、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下にご神託がくだされ、猊下に神のもみとまでお呼びがかかっていると告げられまして……その」


 息を切らしながらに必死に報告してくれる。


 メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下?


 マルグラフォ・ビアド……それって、まさかビアド辺境伯令嬢!?


「続けなさい」


「はっ、聖女猊下が猊下に指を突き付けられると、猊下のお身体が輝き出し、まるで天より神が猊下を巨大な指で摘まみ上げられるように、天の遥か彼方まで上がっていかれました」


 ………詳しく聞いて良かったわ。

 神が指で摘まみ上げられるように、天遥か彼方まで召されたというのね。


 はあ、全く想像もできていなかった状況じゃないの!


「本当につむじ風ではないのね?」


「はい、特に風のようなものは感じられず、猊下だけが地上から天に向かって落ちていくように、舞い上がっていかれました」


 それが本当だとすれば一大事だわ。

 そして、何より新たな聖女がビアド辺境伯令嬢というのも引っかかる。


「お兄様」


「ビアド辺境伯令嬢、ビアド卿の第一子か。

 もしかすると……既に我々は小王国の欺瞞情報を掴まされていたのかもしれない」


 ……そうね。

 お兄様のお話では、ビアド辺境伯令嬢は、ビアド卿と共に(能天気にも)王都を訪れていたという話だったはず。

 それがまさか聖女として最前線に出てきている?

 以前の報告とまるで違うじゃない?


「お兄様?」


「いや、以前から帝国国境に接する小王国のビアド辺境伯領についての報告には疑問を抱いていたんだ。

 何度工作兵を送り込んでも、工作活動が必ず失敗してしまうという報告。

 ビアド卿が『王国の盾』として勇猛果敢な辺境伯として有名だとしても、細々として工作活動まで見破られるのはおかしいだろう?」


 それは……確かにおかしなことね?

 優秀な帝国の工作兵が連続して失敗している?

 そんなことがあり得るというの?


 もし……あり得るとすれば、


「ま、まさか、ビアド辺境伯令嬢が神命の代行者様として以前から動かれていたと!?

 そ、そんなことってあり得るのでしょうか?」


「いや、そうとでも考えなければ辻褄が合わない。

 もし……神が地上で起きようとしていることをご神託としてビアド辺境伯令嬢に伝えているとすれば」


「お兄様」


 もしそうなのだとしたら、彼女が神に代わり、わたくしたちにご神罰をくだすようなことすらもあり得るとでも……?


「不敬、不敬でございますぞ!

 聖女猊下こそ、『人』の皮を被った使徒様なのでございます!

 たとえ、殿下方であっても、皇帝陛下に対する以上敬意を払わなければ、神のお怒りを買うことになりますでしょうな、ひぃーひっひ!」


 ゾッとしたわ。

 『人』の皮を被った使徒様?

 ビアド辺境伯令嬢は、神が遣わされた使徒様だと言うの?


「バラガルはどう思う?」


「……その可能性は高いかと」


 ……否定どころか、肯定してしまうのね。


「お兄様」


「はあ、もはや最後通牒がどうのと言っている場合ではない。

 明日の早朝より先遣軍全軍をもって進軍を開始し、砦を落とし、明日中にイバンツの領城を包囲し、降伏勧告まで持ち込む」


 そうね。

 ビアド辺境伯令嬢が使徒様だなんて眉唾ものの情報だけれど、修道騎士たちから先遣軍の兵士たちに話が広まれば指揮にも関わるわ。

 とにかく、スピード感を持って、ゴーテ辺境伯領城を落としてしまわないと、兵站の問題だってあるのだもの。


 今はタダお兄様を信じて、小王国の兵士たちを蹴散らすことだけを考えるしかないのだわ。


 わたくしはそう自分に言い聞かせたのだった。

『いいね』、ブックマーク、ご投票等で応援いただいております皆様方に心より感謝いたします!


多嶋さんが色々警告を発し続けたものの、結局戦いの火蓋は切られてしまうことになりそうでございますね、、、

悪役令嬢メリユの力を信じ切れない二人はどんな事態に遭遇することになるのでしょうか?

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