第223話 ダーナン子爵令嬢、悪役令嬢がご神託に対処する姿を見て、本物の聖女に憧れる
(ダーナン子爵令嬢視点)
ダーナン子爵令嬢は、悪役令嬢がご神託に対処する姿を見て、本物の聖女というものを知り、憧れを抱いてしまいます。
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あたしは砦で一番お偉いタウラー様と側防塔(?)という高い物見からお姉ちゃんたちの様子を見ていた。
とても聖職者様には見えない太り過ぎな司教様(?)が威張っていて、お姫様=メグウィン様たちを困らせているのは(声が聞こえなくても)よく分かったわ。
あたしだって、商家の人間。
あの司教様が一番質の悪いタイプのお方だっていうのは一目で判断つくのよ。
まさか、一国のお姫様を罵倒するようなことをされるだなんて。
本当に信じられないと思う!
「お姉ちゃん!」
そんなとき、割って入られたのはお姉ちゃんだった。
お姉ちゃんは、あたしそっくりなその顔に微笑みを浮かべたまま、司教様に話しかけられるの。
凄い!
お姫様でいらっしゃるでメグウィン様ですら顔色を変えられてしまっているのに、あの司教様から(多分)酷いことを怒鳴り付けられても、平然としていらっしゃるんだ!
商会でお爺様が質の悪いお貴族様に無茶を言われたときに、顔色を変えずに必死に耐えているのを見て、大人は凄いなあと思ったことはあるのだけれど、お姉ちゃんはもっと凄いって思っちゃう。
そして、
『ショウ、コンソール』
「……ショウ、コンソール?」
確かにお姉ちゃんの口がそう動いていたと思う。
神からのご神託を受けたり、色々な命令の執行の許可を取ったりできるというこの世に一つしかない特別なもの。
そして、思った通り、お姉ちゃんの手元に……キャッ!?
あたしは、自分の手元にもそのコンソール出現してしまったことに驚きを隠せなかった。
宙に浮いている、厚みのないガラス板のような、コンソールがあたしにも出せちゃったんだよ!
そりゃ、一昨日、お姉ちゃんに教えてもらったときに一度出しちゃったことはあったけれど、まさかこんなときに出しちゃうなんて!?
「「メ、メルー様!?」」
「あはは、ご、ごめんなさい……。
その、お姉ちゃんが『ショウ、コンソール』って言ったように見えたもので、つい、言っちゃったら、出ちゃいました」
タウラー様と護衛についてくださっている女騎士様がギョッとされている。
ぅ、うん、そりゃ、そうだよね?
用もないのに、こんなもの出しちゃって、ど、どうしよう!?
このコンソールを通じて、天界と繋がっているみたいだし……あたし、怒られちゃうのかな!?
って、思っていたら、シュンって、二つ目のコンソールまで出ちゃった!?
「ごめんなさいごめんなさいっ!
そんなつもりはなかったんです」
慌てて隠そうとするも、あたしの手はそのコンソールをすり抜けてしまって、触れることすらできない。
でも、これ、あたしにくっ付いて、動いているみたい、よね?
「はあ、困りましたな……まあ、あとで、聖女猊下に相談させていただきましょう。
今は、あちらが大事ですので」
タウラー様が(弓をご準備されている)側近の方をちらりと見られてから、お姉ちゃんの方に向き直られる。
そう、だよね?
万が一の場合には、この側防塔(?)ってところから、お姉ちゃんたちを支援するっていうお話だったし。
あの悪い司教様たちが本気でお姉ちゃんたちを害そうとしてきたら、女騎士様たちだけでなく、ここからも弓矢を打って、助けなきゃいけないんだもんね?
「ごめんなさい」
あたしは手元に二つも出ちゃったコンソールを気にしながらも、タウラー様たちと一緒に、お姉ちゃんたちの方を見る。
あれ?
コンソールにいっぱい何かが流れていて、お姉ちゃんの顔色が少し悪いような?
「メリユ様?」
護衛の女騎士様も気付かれたみたいで、心配そうな声を漏らされている。
うん、やっぱりそうだよね?
あれって、多分、神からのご神託というもの、なんだと思う。
そうだとしたら、神からとんでもないことを言われていたり、するんじゃないかな?
あたしは凄く心配になってきて、コンソールのことも無視して、石と石の隙間からお姉ちゃんの様子を窺っていたんだ。
「お姉ちゃん!」
ご様子のおかしいお姫様=メグウィン様に、また騒いでいる司教様。
そんな中、お姉ちゃんは右手の人差し指を司教様に突き付けられて、何かを呟かれて……司教様のお身体が輝き出したんだ!
本当にびっくりしちゃった。
それは司教様も同じだったみたいで、護衛の人たちと一緒に騒いでいるみたい。
そして、お姉ちゃんが何かを呟かれて、コンソールにまた何かが流れたかと思った次の瞬間、
「「「ぇ……」」」
司教様は護衛の人一人を(一瞬)巻き込んで浮かび上がって、空へと、天へと飛び上がっていったんだ。
タウラー様も、女騎士様も、あたしも、もう言葉が出なかった。
この側防塔っていうの、結構な高さがあるんだけれど、その真横を通り過ぎて、天地が逆さまになったみたいに、司教様が天に向かって飛んでいっちゃうの。
一瞬、その司教様と視線が合ったような気がして、あたし、ゾッとなっちゃった。
「あああああぁぁぁぁぁ……」
そして、天高く昇られ、点になっていく司教様。
その悲鳴すらどんどん小さなものになっていって、ついに司教様がどこにいらっしゃるのかも分かんなくなっちゃった。
「……何という」
「こ、これが、ご神罰、というものなのでしょうか……?」
タウラー様と女騎士様は手で口を押さえられながら、呆然とされている。
ご神罰。
本当にそんなものがくだされることがあるんだ。
ううん……だって、お姉ちゃんは、使徒ファウレーナ様の生まれ変わりなんだから、神に代わって、ご神罰をくだされることがあっても、おかしくはないのよね?
凄い!
商会にいると、お爺様たちに迷惑をかける質の悪いお貴族様たちだけでなく、色んな、本当に悪い『人』たちの噂を聞くこともあるんだけれど、どうして神はそういう『人』たちを罰したりされないんだろうって(今もまだ子供だけれど)子供心に思っていたのだもの。
本当に悪い『人』をこんな形で罰せられるだなんて、お姉ちゃんは、本物の聖女様は、こんなにも凄いのだわって思っちゃう。
お姉ちゃんこそが、聖教会の方々がよくおっしゃられる、『聖なる秩序』というものを護られる、本物の守護者様なんだと思うの!
「お姉ちゃん」
これが『本物の聖女様』
お姉ちゃんの妹として、あたしがお手本とすべき聖女様なんだって、そう思ったの。
その後ね、司教様が地上に戻られて、タウラー様と一緒に執務室に戻って、お姉ちゃんたちの傍にいた衛士長様からのご報告も聞いたんだけれど、お姉ちゃんは本当に凄かった。
あんな質の悪い司教様ですら、神からのご警告としての範疇(?)に収めるために、お怪我をされないよう、ずっと神からの介入がないか監視されていたんだって!
質の悪い、ううん、本当の悪人であっても、あんな風に微笑んで、お怪我をされないようにまで配慮するだなんて、聖女様って凄過ぎるよね。
それも、神との駆け引きまでされてでしょ……本当に、お姉ちゃんが使徒ファウレーナ様の生まれ変わりなんだって改めて思ったの!
衛士長様からのご報告を聞いた後、タウラー様はお姫様=メグウィン様たちとお話があるからっていうことで、あたしは、昨夜泊めていただいたお部屋に戻ることになったの。
お姉ちゃんたちがそこで休息を取られているって聞いて、あたしは一刻も早くお姉ちゃんに会いたいって思ってしまっていたわ。
誰よりも格好良くて、素敵で、ご立派で、尊敬できるお姉ちゃん。
本物のお姉ちゃんは、あたしとあまり似てないって聞いてしまったけれど、それでも今は(ほぼ)双子のお姉ちゃんなんだもん。
お姉ちゃんに抱き着いて、『凄かったよ』って伝えたいって思ってしまうのは、姉妹として当然のことよね?
「皆様、メルー様がご到着です。
メルー様、どうぞお入りになってください」
護衛の女騎士様の声に従って、開けていただいた扉の中に入る。
ベッドに腰を掛けられたお姉ちゃん、そしてその横にいらっしゃるハードリー様がお姉ちゃんの額に手を当てられて、お熱を測っていらっしゃるのかな?
「あら、お帰りなさい、メルー」
「お姉ちゃん!」
「え、コンソール?」
ハードリー様はコンソールを二つ引き連れたあたしに少しびっくりされているみたい。
でも、今はとにかくお姉ちゃんに抱き付きたかった。
真正面からお姉ちゃんのもとに向かって、むむ、少し抱き付きにくいことに気付いて、ハードリー様の反対側にボスンッて座ってからお姉ちゃんの右側から抱き付くことにしたの!
「もう甘えん坊ね、メルーは」
「お姉ちゃん、聖女様としてお仕事、お疲れ様でした!
タウラー様と一緒に見させてもらっていたけど、本当に凄かったよ」
「そう?」
お姉ちゃんの体温がとても心地良くて、ホッとしちゃう。
どうせならずっとあたしの姿でいてくれたら良いのに、思っちゃうよ。
メグウィン様やハードリー様との関係を邪魔する気はないけれど、血が繋がっているのはあたしだけ、なんだからね!
ああ、お姉ちゃんがあたしの頭を撫でてくれて、とっても気持ち良いの。
良いなあ、あたしもいつかこんなお姉ちゃんみたいな聖女様になれるのかな?
まだまだ子供だって言われるし、お爺様にもまだ他の商会との付き合いの場に出すのは早いかって言われちゃうけれど、こんな大人びたお姉ちゃんみたいな聖女様になれたら、あたしもお偉い『人』たちと向き合えるようになるのかな?
「あのね、お姉ちゃん。
あたしもお姉ちゃんみたいな聖女様になりたい」
「ふふふ、もう既に聖女様でしょう、貴女は。
わたしを助けられるだけの力を持っているのよ?」
「ううん、そうじゃなくて、誰に対しても堂々としていられて、正しいことを正しいって言える聖女様になりたいの。
そして、いつか、あたし自身も聖女様の力で、皆を救ってみたいの」
それはあたしの本心だった。
それが、いつになるかは分からない。
多分、お貴族様のご令嬢様たちに比べたら、ろくに勉強もできないし、足りないことだらけなのは分かっているもの。
でも、何年かかったって、お姉ちゃんみたいな聖女様になりたい。
そう思ったの。
「いつか、ではないわ。
ね、メルー、マルカ様と一緒に聖力の使い方を学んで、皆を護ってもらえるかしら?」
「それはもちろん……だけど、『いつか』ではないって?」
「一両日中にもオドウェイン帝国の先遣軍がこの砦に到来するでしょう。
わたしはその先遣軍をバリアの中に閉じ込められなければならないの。
そのときに皆を別のバリアで護る必要があって、それをメルーを託したいの」
一両日中って、確か、一日二日以内にってことだよね?
えっと、あたしが皆様をバリアで護るお役目を担うってことで合ってる?
えっ、えっ、本当にあたしなんかで良いの?
「そう、これはメルーにしかできないこと。
だから、お願いできるかしら?」
「も、もちろんだよ、お姉ちゃん!」
あたしは、自分の心が物凄く熱く滾ってくるのを感じながら、そう答えていたんだ。
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何と申しましょうか、多嶋さんの狙っていた通り、メルーちゃんは聖女への道を歩み始めたようでございますね!




