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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
223/322

第222話 悪役令嬢、多嶋さんのぶっちゃけ話を聞いてしまう

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢・ファウレーナは、時間を停止させて、Webミーティングで多嶋さんのぶっちゃけ話を聞いてしまうことになります。


[『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]

 大悪党さんが気絶したまま馬車に乗せられて、Uターンしていくのを見送ったわたしは、ワールドタイムインスタンスを弄ってあっちの時間を停止させると、小休憩を取ることにした。


 はあ、向こうのイベントスキップがなくなったせいで、時間感覚が変になっちゃってるよね?


 向こうの一日がこっちの一日。

 いや、まあ起きている間だけだから、半日ちょいくらいかな。

 時間刻み幅を弄ったり、止めたりできるから、何とかなっているけれど、多嶋さん、もうあっちの世界のこと、隠す気なくなってきてるでしょ?


「はあ」


 わたしはゲーミングチェアをギシギシさせながら、その背もたれに寄りかかって、天井のシーリングライトを見詰める。

 向こうは、中世ヨーロッパ風の異世界で、現代的なものが一切ないものだから、なんか変な感じよね?


 そう、規格化された大量生産品ないところだから、部屋にあるもの一つ取っても、工芸品って感じがするし。

 どうせなら、お土産にこっちに何か持ち帰りたいくらいよ。

 こんなに苦労させられているんだからさあ。


 ……ま、好きでやっているというのも事実だけれどね!


「えっと……多嶋さん、今繋がるかな?」


 わたしはデスクに置きっぱにしていたウーロン茶をストローで飲みながら、PC版Linesを確認する。

 ん、トークルームに何か着てる?


 この間と同じZooomミーティング情報で繋げみたいなことが書いてあるわね。


 でも、よく見ると、このZooomのミーティングIDって、いつものヤツじゃない。

 多嶋さん、わたし以外のメンバーも一緒に入ってミーティングしてるときのものじゃないわよね?

 わたしとのミーティング用に新たにミーティングIDを設定したっていうこと?


 つまり、会社の他のメンバーがうっかり入ってこられちゃまずいことを話しているっていう自覚は多嶋さんの方もあった訳だ。


「はいはい、大人しくそのIDで繋がせていただきますよ!」


 わたしは、Zooomアプリを起動して、コピペでそのミーティングIDを入力して、接続を開始する。

 あああ、もう、何から問い詰めてやろうかしらん?

 訊きたいことがいっぱいあり過ぎて、頭痛過ぎるくらいよ。


 待機画面を眺めながら、わたしは、多嶋さんへのイライラが募ってきているのを意識してしまっていた。


 そして、わたしはミーティング画面が出現した瞬間、大声を出そうとして……失敗してしまっていたんだ。


「………何なの、これ?」


 Zooomアプリでは、背景をぼかしたり、別背景画像を合成したりできる。

 でも、多嶋さん側のカメラが捉えているらしい映像は、明らかにおかしかった。

 バーチャルツーバーみたいなアレでもなくて、動いている向こうの世界の景色の前に、日本人じゃないバージョンの多嶋さんらしき『人』が映っている。


 いや、むしろ、こっちが多嶋さんの正体、なのか?


「やあ、ファウレーナさん」


「……どうもお疲れ様です。

 た、多嶋さん、ですよね?」


「ああ、そうだよ?」


 声までちっとばかし違うじゃん。

 あー、もう隠す気全然なしってことかあ?


「で、そっちの背景はどこですか?」


「ファウレーナさんもよく知っている王都にいるんだけれど?」


「ああ、ミスラク王国の……って、ちゃうわ!

 それ、合成、じゃないですよね?

 もしかして、リアルで繋いじゃってます?」


「まあ、うん、そうだね」


 頭痛ぇ。

 向こうの世界でもインターネットに接続できんのかいっ!

 いや、どうせ、多嶋さん専用のチート技に決まってるよね?

 わたしが同じようなことをしようとしても………んんっ、いや、システムに介入するときにインターネット画像送り込んだりしてたわ、わたしも。


「はあ、多嶋さん、あなたは一体何なんですか?

 絶対ゲームプロデューサーなんて仕事に就いている、タダの『人間』なんかじゃないんでしょう?」


「ははっ、ファウレーナさんのことだ、もう目星は付いているんじゃないのかい?」


 はあ、性格悪いよね、多嶋さん。

 多嶋さん自身が向こうの世界の神様なのか、向こうの世界の神様の同僚的存在なのかは分からないけれど、まあ、そういう感じなんだろうと思う。


「それで、神様は何をご所望でいらっしゃるのでしょうか?」


「ふむ、それもファウレーナさんも分かっているのではないかい?」


 いや、そういう回りくどいのはもういいから!


「多嶋さん、そちらでの昨夜、わたしの作成したバッチの書き換えとエンジンへの強制介入をされましたよね?

 そんなにオドウェイン帝国に神罰をくだしたいんでしょうか?」


 わたしは取り合えず直球でぶつけてみる。

 すると、多嶋さんの表情が少しばかり硬いものになるのが分かった。


「……まあね、ファウレーナさんはちょっと甘過ぎるんだよ。

 本気で『人』一人の血も流させずにことを収めるつもりなのかい?」


 やっぱり、わたしのやり方に不満があったと。

 うん、そうよね。

 あの流星騒ぎだけでも、そんな気はしていたもの。


「……それでも、わたしの意向に合わせてくださったのは、多嶋さんの甘さなのではないのですか?」


 そう、マルカちゃんを救ったり、ルーファちゃんを救ったりできたのは……わたしからのリンクが伸びる先にいる『人』たちの危機を知らせてくれたのは多嶋さんなのだから。


「まあ、大天使ファウレーナ様のご意向はそれなりに尊重しないとね、さすがにそれだけ骨を砕いて働いてくれているんだしね」


 はあ!?

 大天使ファウレーナ様って何だよ、誰だよ!?

 わたしのHN、ファウレーナを勝手にそんなものの名前に使うなっての!


「はあ、勝手に天使の名前にわたしのHN、使わないで欲しいんですけど」


「まあまあ、これも運命ってことで勘弁してくれないかい?」


「……まあ、今更ですしね、それはもう良いですよ。

 それより、メルーちゃんの件、どうなっているんです?」


 そう、NPCは管理者権限持てないとか言っておいてあれはないわよ!


「メルー・ヴァイクグラフォ・ダーナン子爵令嬢のことかい?」


「はい」


 エターナルカームのヒロイン、主人公メルー・ヴァイクグラフォ・ダーナン。

 わたしだって彼女視点でテスターをやっていたんだもの、こんな形でリアル異世界活動に参加してくるのは想定外も良いところだったわよ!


「彼女、管理者権限行使可能ですよね?」


「ああ、その伏線は君にやってもらったゲームにも張っていたはず、だけれど?」


「ええ……あっちのゲームが伏線になってて、リアルに彼女が管理者権限持ちって言うんですかっ!?」


「うーん、そのつもりだった、はず」


 おいおいおい、エターナルカーム本編の方がタダのゲームで、妙な伏線を張ってあったとか、勘弁してよ!

 そりゃ、聖女匂わせはあったけれど、聖女認定まではされていなかったわよね?


「そもそも、わたし以外、管理者権限持っていなかったはずでは?

 説明とは違くないですか?」


「まあ、彼女がイバンツにまで来たときに権限を付与したからね」


「おいっ!

 (コホン)失礼……ですが、それ、反則なんじゃないんですか?」


 思わず、神様に『おいっ』突っ込み入れちゃったよ!

 てか、本当に神様、メルーちゃんをどうする気だよって感じよね!


「いや、これもシナリオ通りさ。

 そりゃ、ベースシナリオは、ファウレーナさんのせいで大幅に軌道修正させられてしまったけれどね。

 彼女にはそれだけの力を持ってもらわなくてはならない」


「……そうですか」


 まあ、ベースシナリオから外れた状態になってて、それがわたしのせいっていうのが分かっただけ良しとするしかないか。


「それでもね、ファウレーナさんがあの世界を滅ぼす気になったなら、彼女たちごと、滅ぼしてしまっても構わないよ。

 わたしがやるとだね……オドウェイン帝国を消滅させるついでに周辺国を二、三巻き込んで、世界をほぼ壊滅させかねないからねぇ」


 おいぃぃぃ!!

 とんでもないことをぶっちゃけ過ぎ!

 神様、マジで大雑把過ぎでしょ!!


 ……まあ、わたしもその想像はしちゃっていたけれどもさあ。


「それなら、今後は強制介入をしないでもらえませんか?

 バッチ書き換えとか、本当に想定外で、さっきも滅茶苦茶ひやひやしていたんですけれど!」


「ああ、あのトゲアー・エピスコーポ・サンカード司教のことかい。

 彼はいっそ高高度から大気圏突入させて燃え尽きさせてくれても良かったのに」


 ちょっ、怖いこと言わないで!!

 本当に神様は『人』一人を何だと思っているのかしらん!?


「勘弁してくださいよ……」


「ふふ、まあ、わたしの考え方はこれで分かっただろう?

 ファウレーナさんが特別なんだよ。

 まさか、あの大罪人を生かすために監視をあそこまでするだなんてね」


 いや、神様=多嶋さんがさっくりやっちゃい過ぎなんだよ!!

 普通の『人間』は相手が悪人だろうと躊躇するものだからね!!


「……それで、多嶋さんの本来のご意向としては、メルーちゃんを聖女にして、向こうの世界を存続させるということで良いんでしょうか?」


「ふむ、まあそうだね。

 彼女はこちらの世界では『期待の星』と言って良いと思う。

 まあ、ダメならダメで構わないのだけれどね」


「怖いことばかり言わないでくださいよ。

 わたしの精神的負担についてもちょっとは配慮をお願いしたいんですが」


 本当だよ!

 メルーちゃんが役に立たないなら、世界ごと終わらせても問題ないよって言っているようにしか聞こえないよ!?


「ははは、まあ、暫く強制介入は控えるし、できる限り大天使ファウレーナ様のご意向に従うとするさ。

 それで、君は(また)そんなにこちらの世界の『人』が好きになったのかい?」


 うん、今『また』って言わなかった?

 どういう意味?

 そりゃあ、メグウィン殿下たちのことは大好きだけれども?


「多嶋さん、わたしは」


「良いよ、それで君は構わない。

 前回は本当に残念なことになったからね。

 この間にも言った通り、このゲームが終わった後のことも考えてあるから、君は君の思うがままにその力を振るうが良いさ」


 ちょっ、また変な、意味深なことを言わないで欲しいんですけれど!

 ゲームが終わった後のことって何?


 まさか、わたしを異世界廃人にでもする気だったりしないわよね?


 さすがに実時間進行の異世界と現実世界を同時にやっていくとかできないし、そもそも多嶋さんの会社だって、わたしにだけ変な業務させっぱなしにするとかもできないだろうし。


 いや、その前に家族が部屋に乗り込んでくるわ!

 大学に行けってね!


「ふふふ、君は良いね。

 これからも期待しているよ」


 それだけ言うと、多嶋さんはミーティングを終了させてしまった。

 全く何なのよ、もう……。


 でも、多嶋さん、向こうの世界に行けるんだ。


 ……超羨ましい!!

 羨まし過ぎるわ!

 どうせなら、わたしも連れていってくれって言いたいところだけれど、まあ、この姿じゃ、誰もわたしがメリユだとは分かってくれないんだろうなあ。


 わたしはそんなことを考えながら、お花を摘みにお部屋の外に出ることにしたのだった。

はい、ゾロ目222話まで到達いたしました!

『いいね』、ブックマーク、ご投票等でいつも応援いただている皆様方、厚くお礼申し上げます!

(新年度に入り、お仕事に余裕がなく、更新間隔が開いてしまい申し訳ございません)


さて、多嶋さんのぶっちゃけ話、なかなかに怖い内容でございますね……。

しかも、何やら意味深な言葉も……?


一体全体何がどうなっているのでしょうか?

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