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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第221話 王女殿下、聖国アディグラト家令嬢やゴーテ辺境伯令嬢と共に砦の司令官と話し合う

(第一王女視点)

第一王女は、聖国アディグラト家令嬢やゴーテ辺境伯令嬢と共に砦の司令官と今後のことについて話し合います。


[ご評価、『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に深く感謝申し上げます]

 あの後、念のため、メリユ様にはご休息を取っていただくことにし、そちらにはハードリー様が付いていただくこととなり、ルーファ様、マルカ様とわたしは砦の司令官タウラー様の執務室へと向かっていた。

 タウラー様ご自身も側防塔から状況をご覧になられているはずだけれど、今後のことについてもう一度話し合っておく必要があるだろう。

 何せ、まだタウラー様は砦の兵士の方々に、オドウェイン帝国の侵攻について伝えられていないのだから。


 司教猊下様に神よりのご警告がくだされたことで、ゴーテ辺境伯様への最後通牒は完遂されず、場合によっては『撤退』という可能性もあるだろう。

 しかし、神のご介入によって発生した『星落とし』すら無視し、最後通牒という段階に及んだオドウェイン帝国先遣軍は、強引に攻め込んでくる可能性もまだかなり高い。


 それに、司教猊下様のお言葉を耳に入れてしまった兵士の方もいらっしゃるだろうから、このまま放置しても、兵士の方々の不安は大きくなるだけだ。


「っ」


 タウラー様には、執務室へ向かう旨伝えてあるはずなのだけれど、わたしたちが姿を現すと、兵士の方々の緊張感が高まるのが分かる。

 わたしが第一王女であるのはもちろん、聖国の聖職貴族令嬢かつ聖騎士団のオブザーヴァントでいらっしゃるルーファ様、そして、辺境伯令嬢でいらっしゃるマルカ様が正装で訪れているのだから、乗馬服で乗り込ませていただいた昨日とは訳が違うわよね?


「メグウィン・レガー・ミスラク第一王女殿下、ルーファ・スピリタージ・アディグラト様、マルカ・マルグラフォ・ゴーテ様ご入来」


 セラム聖国の聖職貴族や聖職者の方々が行き来することもあるとはいえ、(領城でなく)砦の司令官の執務室に立ち寄られるようなお方は皆無だろうから、兵士の方々には、余計なご負担をかけてしまっているのを実感する。

 とはいえ、わたしたちがこの砦に滞在するのは必要不可欠なことだから、今暫くは我慢していただきたいわ。


「殿下、皆様、お待ち申しておりました」


 中に入れば、跪かれたタウラー様。

 なぜだろう?

 先ほどよりもタウラー様の緊張感が高まっておられるよう。

 オドウェイン帝国の最後通牒が実際に行われかけたことで、意識を入れ替えられたということなのかしら?


「面を上げてくださいませ」


「はっ、それでは失礼して。

 殿下、皆様、最後通牒の使節へのご対応、深く感謝申し上げます」


「いえ、王族として当然のことをしたまでですわ」


 面を上げられたタウラー様の顔色は……かなり青褪められていらっしゃる。

 なるほど、司教猊下様に神よりくだされたご警告がよほど衝撃的だったのかもしれない。

 やはり、身近なわたしたちほど、メリユ様のお力の強大さに慣れてきてしまいつつあるのかもしれないわね?


「殿下」


「ありがとう、ハナン」


 ハナンが席を引いてくれ、わたし、ルーファ様、マルカ様の順に席につき、最後に、


「し、失礼いたします」


 タウラー様がご着席される。

 ハナンと、応援で呼ばれたミューラ様がお茶のご用意を始められるのを横目で見ていると、タウラー様がハンカチで額の汗をさっと拭かれるのが分かる。


「さ、先ほどのご対応、側防塔から拝見させていただました。

 お話の内容まで拝聴叶いませんでしたが、衛士長から伺っております」


 あの場でオドウェイン帝国の侵攻を事前に知らされていたのは衛士長様のみ。

 他の兵士の方々があの最後通牒の使節におっかなびっくりだったのも仕方のないことだろう。


「いやはや……まさか、司教猊下が逃げ帰られるような状況になるとは思いもよらず、いえ、それ以前に司教猊下にご神罰がくだされるとは………未だ鳥肌が収まりません有様で」


「ご神罰ではなく、あくまでご警告の範囲で収められたとのことですわ。

 ただし、ご神託を賜った際のご様子を拝見いたしました限り、神のお怒りはかなりものとお見受けいたしますが」


「そ、それほどで、ございますか!?」


 ええ、コンソールにあれほど大量の文字が流れるほどだったのだもの。

 本来であれば、司教猊下様も地上にお戻りになることもなかったのではないかと思うくらい。


「何しろ、高位聖職者様がご神意に反し、オドウェイン帝国の言いなりになっているのですから、当然のことでしょう。

 メリユ様が取り成してくださらなければ、司教猊下様が地上に戻られることはなかったかと」


「何と……」


 タウラー様はまたハンカチで額の汗をお拭きになられている。


「タウラー様?」


「も、もしかしますと、わたくしめもご神罰の対象になっていたのではないかと考えてしまいまして」


 まあ、あれだけの不敬を働かれたのだもの。

 昨夜の『星落とし』でもそうだったけれど、『星落とし』はオドウェイン帝国の先遣軍全体に対してのご警告だったのに対し、先ほどのように、神の個人への制裁があり得ると分かれば、なおのこと怖ろしく思われてもおかしくない。


「昨夜の『星落とし』で、神のお怒りは十分に思い知ったつもりでございましたが……あのように、司教猊下を摘まみ上げられるようにしてまで、お怒りを示されるほど、状況は悪化していたのでございますな」


「ええ」


「既に、神は聖都ケレンにおいても、そのお怒りを示されておいででございます。

 このままいけば、帝国軍や皇都に本物のご神罰がくだることすらあり得るかと存じますわ」


 ルーファ様のお言葉に、タウラー様は深く頷かれる。

 まあ、『神の目』で事前にご覧になられていた最後通牒の使節がその通りに砦に到着し、その司教猊下様が天に召されかけるようなご警告を受ける様を目の当たりにすれば、もはやメリユ様のお立場をお疑いになるような気なんて起きようもないだろう。


「それで、タウラー様と協議させていただきたいのは、今後の対応についてですわ。

 こうして最後通牒の使節は追い返され、それを担われていた司教猊下様もご神意に触れる機会を得た訳ですが、オドウェイン帝国の先遣軍がどう動くかまだ分からないのです」


「そうでございますな。

 『星落とし』というご神罰、いえ、ご警告すら無視して開戦に向けた動きを続けておるのです。

 お戻りになられた司教猊下が反対なさったとしても、先遣軍の司令官は侵攻を強硬なさる可能性もあるということで、ございますな」


「ええ、ですから、タウラー様にはこの砦の兵士、衛士の皆様に、オドウェイン帝国の侵攻に備えるよう、お伝えいただきたく存じますわ」


「しょ、承知いたしました」


 あのタウラー様があっさりとご了承くださったのには、わたしも驚きを隠せなかった。


「よろしいのでしょうか?」


「ええ、使節の対応に当たった者たちもおりますし、もう隠し通せまいと考えまして。

 何より、聖騎士団と王都騎士団のご到着が間に合わない可能性もございますから、その心づもりも必要かと」


「いずれにしましても、メリユ様が万全の体制で臨まれれば、どれほどの大軍であろうと、砦の皆様に彼らの攻撃が及ぶことはないかと存じますわ」


「……そうなのでございましょうな。

 しかし、聖女猊下のお力を知らぬ者たちが、帝国の大軍を見て、落ち着いてことに当たれるか、不安なものでございまして」


 まあ、メリユ様がいらっしゃれば、こちらに被害が出ることは決してないとどんな伝えても、メリユ様のお力を目にしたことがなければ、半信半疑になってしまう……というのは、タウラー様ご自身がご証明なさっているのも同然だものね。


「何でしたら、聖女専属護衛隊を表に出すようにいたしましょうか?」


「いえ、国境の監視任務に当たらせている、特に信頼できる者を優先して任につかせましょう。

 残りの兵士たちも、先遣軍について伝えた際に怯え、今後足手まといになるようなら、任を解き、領都に戻らせる旨も告げるようにいたします」


「まあ、それがよろしいでしょうね」


 逃げ隠れする必要もないのに、(そのときが来た際に)大騒ぎするような者が残っていても、本当に足手まといにしかならないだろう。


 それなら、事前に砦を去ってもらう方が良い。


 それについてはタウラー様と同意見だわ。


「マルカ様もそれでよろしいでしょうか?」


「ええ、構いませんの。

 タダ、この戦が終わりましたら、この砦を本格的に改築する必要はあるかと愚考いたしますわ」


「全くマルカ様のおっしゃられる通りでございますな。

 よくもまあ跳ね橋すらない砦で国境線を護っていたものだと、今まで疑問に思わなかったことすら猛省しております」


 どうやら意見は一致したようね。

 ルーファ様の警護に当たられているアファベト様も特に反対意見はないようだし、あとはいつでもメリユ様にバリアを張っていただけるように、『神の目』による監視をしっかり行うことくらいだろうか?


 わたしは領都に残っているサラマ様やゴーテ辺境伯様、お兄様たちがどうされているかも気にしながら、タウラー様との軍議を終わらせたのだった。






 執務室を出て、砦の兵士の方々から十分に離れたところで、わたしはお二人にお礼を述べる。


「ルーファ様、マルカ様もどうもありがとうございました」


「いいえ、聖騎士団が未だ到着しない中、少しでもお役に立てましたら幸いでございますわ」


 ルーファ様が少し可笑しそうに笑っていらっしゃる?

 どうされたのかしら?


「ルーファ様?」


「し、失礼いたしました。

 オブザーヴァントに着任させていただいたのもそうでしたけれど、まさか学院の種蒔きの月の休暇中に、こんなことになっている自分が少し信じられなかったもので」


「そうですわよね。

 ルーファ様は聖都の学院にご在学中の身でいらっしゃったのですものね」


 マルカ様とわたしはまだ王都の学院に入学すら果たせていない。

 もちろん、王女であるわたしはもちろん、マルカ様やハードリー様だって家庭教師はつけられているけれど。


「ええ、本当に、学院が卒業しましたら、聖職貴族の一員として働きたく勉学に励んでいたつもりだったのですが、まさか、ご神意を受けて動かれているメリユ様のお傍で、皆様とこうしてご聖務に関わられるような立場にいることが、どうにも不思議で」


「それはそうですわね。

 ルーファ様でしたら、このままセラム聖国中央教会の要職に就かれることになるのでは?」


 わたしも少し笑ってしまいそうになりながらそう告げるも、ルーファ様がいずれ要職に就かれるだろうということについては本気だ。

 これだけ神に近いところで、ご聖務の詳細にも詳しくなられたルーファ様を手放されるはずがない。


「まあ、祖父と我が実家にくだされる刑罰次第ではあるのでしょうが。

 できることなら、そうなれますと嬉しく存じますわ」


「ルーファ様なら絶対に大丈夫ですの!」


 ええ、本当に。


 まあ、それでも、ルーファ様ではないけれど、わたしもメリユ様と出会えたおかげで、望んでいた立場と仕事を得られたというのを実感しているのは確か。

 軍議に参加したときにも感じていたけれど、今こうして最前線に立てていることに充実感を覚えている。


 ええ、まだまだ未熟なのは重々承知しているわ。

 あの司教猊下様に威圧され、言い負けそうになったことだって、今も悔しく思っているもの。

 まだまだわたしは、これまでも最前線で戦われてこられたメリユ様には遠く及ばない。

 それでも、次に、帝国の要人と向き合う必要が出てきたとき、わたしは決して威圧程度で屈することのないよう、強い王女になるってここに誓うわ!


 わたしは(まだ小さい)自分の掌を見詰めながら、覚悟をより強固なものにするのだった。

ご評価、『いいね』、新規でブックマーク、ご投票などで応援いただいております皆様方に深く感謝申し上げます!

あの砦の司令官も、すっかりメグウィン殿下、ルーファちゃん、マルカちゃんたちと顔を合わせて協議する今の状況を受け入れたようで、本当に良うございましたね!

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