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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第215話 王女殿下、悪役令嬢を誇りに思っていることを再認識する

(第一王女視点)

第一王女は、自身が悪役令嬢を誇りに思っていることを再認識します。


[『いいね』、誤字脱字のご指摘いただきました皆様方、厚くお礼申し上げます]

「ハードリー様、とても幸せそうな寝顔でお休みになっておられますわね」


「そうね」


 メリユ様のすぐお隣で幸せそうな寝顔で眠られているハードリー様。

 昨夜ゴーテ辺境伯領に戻ってきたかと思えば、今日は今日でセラム聖国との国境にある砦にまで赴くことになり、メリユ様を同乗させられて馬を操られていらっしゃったのだから、それはもうお疲れだったのだろうと思う。

 何より、大人の士官様相手に、わたしたちのことを認めさせなければならなかったのだから、精神的な面での疲労もかなりのものだっただろう。


 もちろん、わたしだって、そう。


 マルカ様と同じベッドでお休みする前に、メリユ様、メルー様、ハードリー様のご就寝を確かめたかったからこそ、何とか目覚めていられるのよね。


「それにしましても、昨日の今日で、最前線となる砦まで赴くことになるとは思いもいたしませんでしたの」


「ふふ、わたしは……そうなるかと考えておりましたけれど」


 最前線に赴かれることすら躊躇われないメリユ様のご姿勢は、王城でメリユ様のお言葉を伺ったときから分かっていたことだったもの。

 そう、メリユ様のご覚悟は、あのときに十二分過ぎるくらいに分かっていたのよ。


 ゴーテ辺境伯領城で、メリユ様が『砦にすぐ赴かれる』と宣言されたとき、わたしは『思っていた通りになった』と思ったくらい。


 それくらい、わたしの中のメリユ様への信頼は確固としたものになっていたのね。


「常識で考えれば、王女殿下や貴族令嬢が戦の最前線となる砦に集まっているだなんて、普通では考えられないことですのに」


「まあ、それはそうですわね。

 ……ですが、今や、お父様、いえ、国王陛下や王妃陛下、宰相様、辺境伯様方も、メリユ様がその最前線に立たれてこそ、王国は護られるとお考えになられているくらいなのですから、おかしなものですわ」


 本当に、よくお父様もお母様も、わたしがメリユ様に付き添い、最前線に赴くことをお許しくださったものだと思う。

 近傍警護だって、正直、この人数では心許ないものよ。

 近衛騎士団どころか、王都騎士団すらゴーテ辺境伯領に到着できていない中、この戦力で、オドウェイン帝国の先遣軍と睨み合いするなんて、無謀もいいところ。


 まあ、この現状をお父様やお母様がお知りになられれば、卒倒される可能性の方が高そうだけれど。


「しかし……昨夜は夜が昼になり、今夜は星落とし、メリユ様のお力は底が知れませんわね」


 マルカ様(メルー様も、ルーファ様も)はあの星落としを直接はご覧になられていない。

 それでも、星落としの大きい衝撃音は、砦の中にいてでさえ、はっきりと分かるものだったらしい。

 箝口令が敷かれているから、星落としがあったことすら知らない者も多いようだけれど、皆、異変には気付いていると思う。


 はたして、砦の司令官であるタウラー様は、いつまで隠し通されるおつもりなのかしら?


「何にしましても、それだけのお力をお持ちだからこそ、メリユ様はここにいらっしゃっておられる訳ですわ」


「ふふっ」


 わたしの言葉に、マルカ様がクスリとお笑いになられる。


「マルカ様?」


 わたしが思わず、目を細めてマルカ様に尋ねると、


「いえ、メグウィン様は、本当にメリユ様を誇りに思っていらっしゃるのだなと思いましたの」


 なんておっしゃるの。


 ……誇りに思っている。

 ええ、そうね、わたしにとって、メリユ様は誇りに思えるご存在。

 添い遂げる気持ちが固まったからこそ、余計にそんなメリユ様の理想的なお振る舞いを好ましく思えるようになっているのかもしれないわね。


「羨ましいですの」


「羨ましい、とは?」


「わたしも、メリユ様を姉のように慕っているつもりではおりましたけれど、メグウィン様やハードリー様のように、ご変身されているメリユ様をすぐ見捉えることができませんでしたもの。

 そのときに、きっとお二人の気持ちには届かないのだろうなと思いましたの」


 そんな風におっしゃられてしまうと、わたしもどのようにお答えすれば良いのか、分からなくなりそう。


 確かに、メリユ様の看病をしていたときのお時間の分、わたしたちがマルカ様よりご一緒しているお時間では勝っているとは思う。

 けれど、それ以上に、気持ちの面で……そう、メリユ様を好きでいる気持ちでは、誰にも負けないという自信があるのも確か。

 まあ、ハードリー様も、きっとそうなのだと思うのだけれど。


「コホン、マルカ様も、お命の恩人という意味で、メリユ様のことを特別にお思いなのですわよね?」


「ええ、メリユ様のためになると言うことでしたら、何だってお手伝いしたいとは思っておりましたけれど、まさか、こんな大冒険な日々が始まるとは思ってもみませんでしたの」


 苦笑いされるマルカ様。


 確かに『大冒険な日々』とは、うまくおっしゃるものだと思う。


 もし戦が終わって、世界が落ち着きを取り戻し、メリユ様のご活躍が必要でなくなったとしても……そうね、この日々は、わたしがお婆様くらいの歳になっても、『輝ける日々』として何度だって思い返すことになるのだろうなと思うものね。

 それこそ、わたしに文才があるのなら、お伽話のように、書き上げたいくらいだわ。


 もちろん、第一王女という立場にいる限り、そのようなことをするのは許されないだろうけれど。


「そうですわね。

 まあ、さすがに戦まで、大冒険なんて言葉でまとめられても困るのだけれど」


「はい、ふふふ」


 こうして今最前線となる砦で笑っていられるのも、メリユ様への信頼があってこそ。


 それでも……明日には、わたしたちも……さすがに笑っていられなくなるのだと思う。


「それで、そのオドウェイン帝国軍ですが、『星落とし』という神よりのご警告で撤退を余儀なくされたりは……」


「しないでしょう。

 それほど信心深いのでしたら、そもそも自国の中央教会を意図的に堕落させたりしないでしょうし」


「では……?」


「ええ、今後予定通りに侵攻は行われ……メリユ様のご意向に反して、神がよりご介入の度を深める可能性は高いかと思いますわ」


「はあ」


 マルカ様の震えるような溜息が聞こえる。


 何せ、ここはマルカ様に愛すべき自領なのだから。

 神がよりご介入を過激になされば、当然自領にも被害が及びかねない。

 不安に思われるのも仕方のないことだろうと思う。


「唯一幸いなのは、神もメリユ様の御心を壊すようなことを望まれてはいないということでしょうね。

 これまでのご神託も、かなりメリユ様に寄り添ったものとなっておりましたから」


 そう、先ほども考察した通り、神はそこまで慈悲深くはない。

 タダ、これまではメリユ様への配慮したものとなっていて、かつ、メリユ様自身にその加減を任されていたからこそ、あの程度で済んでいたのだ。


 神とメリユ様が反目し合うようなことはないと思うけれど、神がメリユ様の甘さを容認し切れなくなっているのもまた事実。


 メリユ様ご自身もそれについては動かれるだろうし、万が一の場合には、わたしたちがメリユ様を支えていかなければと考えているの。


「……メグウィン様は、その神よりも、メリユ様に寄り添われるおつもりなのでしょう?」


 まるで、わたしの心を見透かされたようなマルカ様のお言葉に、わたしは自分の頬が一気に火照りを帯び始めるのを感じてしまう。

 ああ、もう……これは言葉で返さなくても、マルカ様には全て伝わってしまったことだろうと思う。


「応援しておりますの、メグウィン様」


「あ、ありがとう存じます、マルカ様」


 純粋に応援してくださると、そうおっしゃるマルカ様。

 わたしは、少しばかり、取り乱してしまったけれど、そのお気持ちはとてもありがたいものだった。


「……メリユ様」


 ぐっすりとお眠りになられているハードリー様の傍に少し腰掛けさせてもらって、わたしは、そのお隣で眠られるメリユ様のお手に、自分の手をそっと重ねる。

 今はメルー様の御手だから、少し違和感はあるけれど、その温かみにわたしはホッとするものを感じるのだった。

『いいね』、誤字脱字のご指摘、ご投票等で応援いただきました皆様方に、厚くお礼申し上げます!


ちなみにルーファちゃんは身体を拭いてもらっている最中で、まだ戻ってきておりません。

寝る前のヒロイン陣のこういう会話、よきよきのよき、でございますね!


次話では、翌日、いよいよ大きな動きが……となりそうでございます!

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