第214話 ハラウェイン伯爵令嬢、悪役令嬢の苦悩について考え、悪役令嬢を癒したいと願う
(ハラウェイン伯爵令嬢視点)
ハラウェイン伯爵令嬢は、悪役令嬢の抱える苦悩について考え、悪役令嬢を癒したいと願います。
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家や社会での立場、体力、もしくは心の面で、自分がか弱い少女であるために、苦しむ物語というものは幾多にも存在しています。
多くは女性の作家様たちが、ご自身の少女時代にご経験されたことを元に書かれたのだと思います。
わたしだって、理不尽な思いを抱いたことは何度だってあるのですもの。
これは、今ミスラク王国、いいえ、この世界で、多くの女性にとっての共通のものと言えるのでしょう。
ですが、あまりにも強大過ぎるお力を手にされてしまったがために苦しまれる女性もいるんです。
本当に世の中、うまくいかないものですよね。
「はあ」
この世で、神に次いで、二番目にお力をお持ちになっておられるメリユ様。
誰かが命を落とすのを、傷付くのを良しとされない、世界で一番お優しい聖女様と言って良いでしょう。
全く、神はよく見ておいでですよね。
ご自身の振るわれたお力で、誰が傷付くことを怖れられ……神のご介入によって捻じ曲げられたご警告で発生した怪我人にすら心を痛められていらっしゃるんです。
そのことからしても、強大過ぎるお力をお持ちになるに相応しいお方は、メリユ様以外にはおられないと思います。
けれど、この状況は、良くないものであると言えるでしょう。
「世界で一番お強い『人』になられてしまったメリユ様のご苦悩を……神はご理解されておられるのかしら?」
メリユ様のご活躍が経典に記載されることになっても、メリユ様のご苦悩が詳細に記述されることはないでしょう。
メリユ様が、こうして涙を零されておられるのを知っているのは、わたしたちだけなのですから!
メルー様のお姿になられて、メリユ様のお心が不安定になられているように感じられるのは、決してわたしの気のせいではないと思います。
お顔の色、お目の動き、お首の傾げ方、それら全てが以前のような安定を失われていらっしゃるようにしか見えないんですもの。
もちろん、それは、メリユ様が『人』の側に戻られた証のようにも思えますし、必ずしも悪いことではないのかもしれません。
しかし、此度のことで、メリユ様のお心に大きなご負担がかかり、安定を失いつつあったところに、メルー様へのご変身で一気にバランスが崩れてしまったようにも思えるのです。
もしかすると……いえ、やはり、メリユ様のご変身には、御心への悪い影響も付き纏っているのではないかと思うのです。
「そして、神のご介入が、追い打ちをかける形になった、と」
もし……もし神が、かなり厳格なご神罰をくだされるおつもりであるのだとしたら?
きっと、この戦では、神のもとに召される方々も多く出てしまうことになるでしょう。
それが経典にある『神隠し』であったとしても、メリユ様がご責任を感じられることになるのは間違いありません。
神のなさったことであって、メリユ様に何の非のないことであっても、メリユ様は深く傷付かれることでしょう。
怖いです。
わたし、わたしだって、メリユ様を(メリユ様にとって謂れのないことで)傷付けるようなことをしてしまった加害者の一人なのですもの。
それが全くの間違いであったことを知った後、メリユ様が倒れられたのをこの目で見てしまっていますから、それと同じようなことがまた起こるのではないかと不安になってしまいます。
世界で最強の女性、いえ、『人』になれても、その御心が壊れるようなことがあっては、何の意味もないことでしょう。
「せめて、メグウィン様やわたしたちで、メリユ様の御心を癒すことができるのなら……」
そう、大好きなメリユ様を支えるためには、何だってすると決めたわたしです。
難しそうな戦術関連のことを学ぶことだって、場合によっては聖職貴族になることだって、厭うつもりはありません。
メリユ様のためになるというのなら、はだけることも、キスをすることも、できるでしょう。
貴族令嬢としていかがなものかと言われてしまうかもしれませんが、『人』の御心の安定には、『他人』と肌を合わせることが良いというようなことも、市井で聞いたこともあるんです。
わたしとしては………その、むしろ、メリユ様を癒すためにそのようなことができるというのならば、願ったり叶ったりと言ったところでしょう。
「メリユ様」
今夜は、昨夜と入れ替わって、わたしがメリユ様のお隣で寝ることになりました。
メグウィン様もかなり葛藤なさっておられましたし、何より、今日は乗馬中、メリユ様とずっとご一緒させていただいたこともありますので、メグウィン様にお譲りしようかと思ったのですが、先ほど抱き付かれたいたこともあり、今夜は大丈夫とのことでした。
既に、メリユ様のお隣では、メルー様がご姉妹のように寄り添われて、お眠りになられていて、わたしは何となくお邪魔になっているような気にもなってしまいます。
「ハードリー様、今日は馬に乗せていただいて、本当にありがとうございました」
「ぃ、いえ、わたしは当然のことをしたまでで」
はい、当然のことなのですけれど……わたしとしても、至福の……いえ、むしろ、いつだってメリユ様をわたしの馬に乗せたいくらいなのですよね。
「当然、だなんて、そんなことありませんわ。
色々お気遣いいただいて、本当に嬉しく思いましたもの」
寝台に腰掛けたまま、身動き取れなくなってしまったわたしの手を、メリユ様が両手でそっと握ってくださいます。
就寝時ですから、手袋なんてされていらっしゃいませんし、若干汗ばんだメリユ様の御手の感触をしっかりと感じてしまうのです。
メリユ様ご自身の御手ではないとはいえ、何て幸せなことなのでしょう。
御手同士だけであっても、肌と肌を合わせることで、これほどの多幸感を覚えることができるだなんて。
ああ、メリユ様を癒したいと思いつつ、わたしが幸せな気分になってしまって、一体どうするつもりなんでしょうか、わたし。
あああ、もうっ!
「メリユ様、キスしても、よろしいですよね?」
あれ……わたし、何を口走ってしまったのでしょうか?
キス、キスしても良いかって、それって、わたしがキスしたいってことな訳で。
『メリユ様、メグウィン様の気持ち、受け取られたのでしたら、わたしの気持ちだって、ちゃんと受け取ってくださいますよね?』
そう、昨夜、わたしの気持ちをメリユ様に受け取っていただいてから、わたしは少し(?)おかしくなってしまったみたいなんです。
今だって、メリユ様にキスをすれば、もっと幸せになれると思ってしまっているんですから!
「ハードリー様?」
特に拒むご様子もなく、小首を傾げられるメリユ様に、本来の赤毛で凛々しいメリユ様のお顔を重ねて、わたしはそんなメリユ様にキスしたいという思いにかられてしまっていました。
そして、先ほどメグウィン様がキスされた反対側の頬に、突き出した唇を近付けていって、チュッてしてしまっていたんです。
嫌がられることもなく、タダ、されるがまま、受け入れてくださるメリユ様。
それだけでわたしは有頂天になってしまっていました。
「ぉ、おやすみなさいませ、メリユ様」
ああ、もう、好き過ぎます!
明日更に良くないことが訪れるようとしているのは分かっていますけれど……わたしはやり遂げたという気持ちになりながら、心地良い疲労感がいよいよ身体を支配し始め、眠気が襲ってくるのを感じていたのでした。
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百合好き丸様よりご感想をいただきました!
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