第213話 悪役令嬢、『星を終わらせられる』ことを改めて自覚する
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢は、自身の力によって『星を終わらせられる』ことを改めて自覚します。
[『いいね』、誤字脱字のご指摘いただきました皆様方に心よりのお礼を申し上げます]
結論から言えば、上昇用のバッチ処理スクリプトですら、かなり弄られてた。
いや、上昇中ですら、何かおかしいなと思ったから、“Pick”した石の状態を思わず確認したんだけれど、上昇速度すらもおかし過ぎるわ。
リアルの世界でやったら、衝撃波が発生するマッハ超えまで、十数秒しかかかってないし……加速度えぐ。
シリンダーオブジェクトで(実質)バリア張ってあったから、外部に衝撃波とか漏れてないけどさ、そこまで手を加えるとか、多嶋さん、本気出し過ぎでしょ?
いや、むしろ、そこまで配慮が必要になってるって時点で、向こうがリアルってことの証よね?
下降時も、燃え尽きないように、微妙にシリンダーバリア中で加速させてんじゃん?
マジで、オドウェイン帝国軍に命中させる気、だったの?
外部コンソールで、アクター数確認した感じじゃ、多分命落とした人はいないと思うけれど、怪我人出ているのは確実だし……普通に恐怖を与えてるでしょ?
「多嶋さん……さあ」
多嶋さんが、もし仮に神として……いや、なんか、名前からして、神っぽい気がするのよね?
多元宇宙論ってあるじゃん?
多嶋さん、マルチバースって言うか、複数の島宇宙を管轄している神様って言うか、そんな気が……って、そんな訳あるかい!
なんて、突っ込めれば良いんだけれど、そうも言っていられない。
「リアルだからこそ、怖いのよね?」
ネットで調べてみると、一センチ大の金属球を高度四百キロから大気圏に放出してやれば、人工流れ星を作れるらしいの。
速度と大気への突入角度によっては、数ミリの粒でも、十分流れ星になるらしい。
さっきも考えた通り、一トンクラスの岩を打ち上げなくて良かったよ。
いや、それこそ、氷内包のちょっとした小惑星的なブツだと、上空大爆発でも、広範囲に大被害が発生しかねない。
大地激突に至っては、大惨事よね。
ゲームならさ、魔法で軽ーく敵さんに流星降らせたりするんだろうけれどさ、リアルが絡んでくると本気でヤバイのよ。
「そのヤバさを理解した上で、一瞬で微調整して、高高度まで上昇させて、敵さんとこに射出とか、どんだけ……」
これ、本当は『おしおき』として、上空にまで『人』を飛ばすためのスクリプトだったんだけどなあ。
だから、(一時解除してたいたけれど)リミッター付けて、Gもかかり過ぎないようにコーディングしていたのに、コメントアウトされているし!
速度上限もなくなってるから、シリンダーバリアなしだと、大気との摩擦熱でも大変なことになっていそうね……。
世界初の超音速旅客機コンコルドの窓がハガキサイズになったのは、大気との摩擦熱で大きく出来なかったという有名な話もあるし、いや、その前に呼吸困難になっているかもしれないわね。
「多嶋さん、神の敵には『慈悲をかける気はない』とか……そういうタイプ、だったりするのかしらん?」
はあ、メグウィン殿下やハードリーちゃんたちとゆっくり星空を眺めて、その内、流れ星が……くらいの改変のつもりだったのだけれどねー。
ぃ、いきなり、本気で隕石を大地に衝突させんな!
こっちの世界の『人』たちは、ゲームのNPCじゃないんだぞ?
それでなくとも、こっちは血を見るのが苦手なJDだっつーのに!
なんで乙女ゲー専任のテスターとか、スクリプターとか志望してると思ってんのよ!
「はあ…………まあ、でも、多少覚悟はしておけってことかしらねー」
分かっているわよ。
向こうのリアルで、管理者権限を振るうってことがどれほどのことかって。
まあ、リアリティ上げるためかのような付随エフェクトまでご丁寧にかけてくれちゃって、気を付けて扱えよってことなんだろうとは思うわよ。
そして、
「この先、怪我人くらい普通に出るからなーってことでしょ?」
分かっているんだってば。
メグウィン殿下やハードリーちゃんたちを、ミスラク王国の『人』たちを本気で救うつもりなら、そういうことが起きても動揺すんなよってこと、なんだよね?
そうは言っても、胃が痛いっすわ!
社会人にすらなっていないJDに無茶ぶりも良いところよ!
下手なバグ出したら、王都でのアレな事件どころじゃ済まないとか、どこぞの重工系の会社の制御プログラムでも書かされてんのかよって感じ!
ロケットの打ち上げじゃあるまいし……多嶋さん、何をやらしてくれてんのかな?
「はあ……」
わたしはエディタを起動したノートパソコンの画面に出している外部コンソールを眺めながら、溜息を吐いてしまう。
いや、聖女様とか持ち上げられといて、実体はちょっとコーディングができるだけのJDでごめんよって感じよね。
そりゃ、わたしだって、スクリプターくらいの仕事はできるようにって、頑張ってはきたんだよ?
高校時代、同学年のJKの中で一番コーディングできる自信はあったし。
「それでも、ここまで世界に影響を与えられるとか、重過ぎるんよ!」
でも、今更投げ出せない。
メグウィン殿下に、ハードリーちゃんに、あんなに好意を向けてもらって、ヒロインちゃん=メルーちゃんにまで、お姉ちゃんって慕ってもらってる、奇跡みたいなシチュエーションにまで辿り着いたんだもん。
「はあ……この世界を終わらせるなんて訳にはいかないよねぇ」
世界を終わらせるか。
たとえ、“HP”の制限がかかっていても、メリユ本人の体を代償にすれば、大陸丸ごとクリッピングして、クリッピングオブジェクトを“Delete”してやれば、この大陸は消失し、向こうの星は外殻の一部を失うことで、地軸へも影響が発生……いや、全球レベルで大津波とか、衝撃波とかも含めて色々とんでもないことになりそうね。
地球じゃ、南半球の火山大噴火ですら、北半球で津波を生じさせるような衝撃が生じたんだから、大陸なんてものを消失させたら、その時点で『星の終わり』になるのだろうと思う。
ははは……わたしがぷっつんした時点で世界を終わらせられるとか、マジ試されてるよね?
乾いた笑いしか出てこないわ。
「手が、震えてる……」
聖都ケレンでメグウィン殿下とお話したときだって、ここまで大事になるのは、本気で考えてなかったなあ。
全く考えていなかったという訳ではないけれど、まさに核ミサイルの発射ボタンを手にしているようなものな訳で。
人生経験がさほどある訳でもないJDなわたしに、それを委ねた多嶋さんは、本当に何なのって感じ!
「よく、メグウィン殿下や、ハードリーちゃんや皆は、怖がらないわよね?」
いや、ハナンさんやルジアさんたちには怖がられたばっかか。
流れ星一個落としただけで、あれだけ怖れられる世界で、星を終わらせられるって皆が知れば、どんなことになってしまうのやら。
わたしは、キーボードを叩こうとしている自分の手を凝視して、その手に委ねられたものの大きさにゾッとしてしまうのだった。
「メリユ様の悲しみ、苦しみも、ハードリー様やわたしたちに分け与えてくださいませ。
そのために、わたしたちはお傍にいるのですから」
わたしは、メグウィン殿下に抱き付かれ、また頬にキスをされてしまったみたいだった。
ヒロインちゃんでもないというのに、こんなにも信用してくれて、こんなにも好意を向けてくれて、メリユとしてだけでなく、麗奈としても、泣けてきちゃう。
「メグウィン様」
どんだけええ子やねんっちゅーねん。
似非関西弁ですまんけれど、それくらいの気持ち。
てぇてぇ過ぎるわ!
こんな子を悲しませるとか、普通にあり得ないだろうと思う。
「わたしたちは、どんなことがあっても、メリユ様をお一人になんてさせませんから」
はわわわ、お耳がくすぐったいよぉ!
「当然ですっ」
って、ハードリーちゃんまで!?
一体、これって、どういう状況なの!?
わたしはメグウィン殿下に続き、ハードリーちゃんにまでまた抱き付かれてしまって、心臓がどうにかなってしまいそうなほどのドキドキを覚えてしまうのだった。
『いいね』、誤字脱字のご指摘、ご投票等で応援いただいております皆様方に心よりのお礼を申し上げます!
はい、リアルでこれほどの管理者権限を持っていることの危険性を改めて自覚したようでございますね。
本当に、メグウィン殿下やハードリーちゃんたちが味方になってくれていて(メンタル的にも)良かったと存じます。
※連休中ではございますが、お仕事の都合のため、次回更新が少し先になりそうでございます。




