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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第211話 王女殿下、神の本質に気付く

(第一王女視点)

第一王女は、晩餐会の準備をしながら、神の本質に気付いてしまいます。


[『いいね』ブックマークいただきました皆様方に、厚くお礼申し上げます]

「それを行った場合、この周辺のものは全て吹き飛ばされ、領都すらも惨事に見舞われるでしょう。

 砦は跡形もなくなり、この辺り一帯には、大きな窪地しか残りません」


 メリユ様のお言葉に、ルジアたちが怯え、震えるのが分かったわ。

 少なくともルジアたちは鏡の御柱を体験しているはずなのに……それでも、災厄の先触れであるという『星落とし』には、驚きを隠せなかったようね。

 ハードリー様やわたしは、聖都ケレンでの神よりのご警告がどれほどのものか知っているし、何より……メリユ様のその身と引き換えに、大陸そのものを消滅させられると知っているから、そこまでの驚きはない。


 いいえ、敢えて言えば……聖なるお力をさほどお使いになられることなく、星落としができると分かったことには驚かされたかしら?


 メリユ様がご自身のお力をできる限り、隠しておこうとされることの理由は……あまりにも明白ね。

 神命の代行者として、『世界を滅ぼす』ことすら可能なほどの超越者としてのお力。

 そんなもの、ひけらかすことなんてできないだろう。

 万が一にでも、明らかになれば、全ての国の王族、皇族ですら、メリユ様の前に跪き、そのご機嫌伺いをするような世界になるのは間違いない。

 そして、メリユ様は……神と変わらない超越者として、孤独になられるのよ。


「そんなもの、メリユ様が望まれるものではないわね」


 辺境伯令嬢として……いえ、普通なら辺境伯令嬢であってもすることではないのだけれど……帝国との小競り合いをこっそりと鎮め、世界の均衡を守られるだけで満足されてこられたのだろうメリユ様にとって、今の、この現状ですら、望まれぬものであったに違いない。


 もちろん、そのおかげで、ハードリー様やわたしたちは救われ、メリユ様をお支えできる、役得とも言って良いものを手に入れられているのだけれど。


 こほん、何にせよ、メリユ様にとって良くない方向に物事が進んでいることだけは確かね。

 帝国があれこそ小細工をしてこなければ、この砦のまで鏡の御柱を出現させるだけでメリユ様のお役目は終わったはずなのに、キャンベーク伯爵領、ゴーテ辺境伯領、聖国の聖都ケレンにおいてですら、メリユ様は動く羽目になってしまっている。

 そして、本来、メリユ様ご自身使われるおつもりもなかったであろうお力も振るわれることになってしまったのだ。


「気になるのは……ご神罰のお試し、ね」


 星落としの前に、メリユ様がおっしゃられていた『ご神罰のお試し』

 それが今の星落としだったのだけれど、メリユ様は地上に到達する前に消されるよう、ご調整されたということだった。


 しかし、神がメリユ様のご申請に対して、ご介入され、星落としは地上にまで達し、間違いなく大地に衝突してしまったのだろう。

 つまり……わたしたちが神からのご警告と考えていたものは、もしかすると、ご神罰の一貫だったのではないだろうか?


 メリユ様が神からの『ご神罰をくだすように』とのご神託を受け、そのご聖務のご執行に際して、ご警告と言える程度にご調整され、神と我々『人間』との間に立って、動いてくださっていたのではないだろうか?


「ご警告と思っていたものは……そもそも、ご神罰であった、と?」


 そう、考えれば、星落としが地上に達したことにメリユ様がご動揺なさったことの理由が分かる。

 ご神罰をメリユ様の裁量に任されていた神がついに、メリユ様のご執行にご介入なさったのだから。

 おそらく、今までのメリユ様によるご執行が甘過ぎると、神はご判断されたのかもしれない。


 そう……よね。


 キャンベーク川が真昼のように明るくなったときも、聖都ケレンの夜が昼に変わったときも、神はそれなりのご神罰をくださられるおつもりだったのではないだろうか?

 経典を読んでいれば分かる。

 一度神の怒りを買えば、『人』の大軍が一瞬にして神隠しに遭い、その全員が天に召されるなんてことすらも、普通にあり得るのだ。


 神は……おそらく、そこまで慈悲深い訳ではない。


 メリユ様個人については、神もお気に掛けておられるご様子だけれど、ハードリー様やわたしのようなタダの『人』については、そこまでの慈悲をかけられるようなことはないと思う。

 あくまで今まではメリユ様のご心情にご配慮されて、メリユ様のご意向にそう形で、ご神託もくだされてきたようだけれど……帝国の処遇については、メリユ様と完全にご意向が分かれる形になってしまったのだろう。


「いよいよ、メリユ様のお立場が苦しくなってこられるわね」


 神とご意向が分かれてしまった以上、今後、メリユ様がお力を振るわれる際に、神のご介入が度々入ることになるのかもしれない。


 先ほどの星落としは……間違いなく、帝国の先遣軍側に被害を齎したことだろう。


 メリユ様はまだご警告に留めておきたく思われていたのに対し、神はご神罰の一貫として、先遣軍がどうなっても構わないというおつもりで星落としをされたはずだわ。

 そうでもなければ、メリユ様があれほど動揺されるはずないもの。


「殿下?」


 乗馬服からの着替えを手伝ってくれていたハナンが、わたしの独り言に気付いてか、そう訊いてくる。


 はあ、ついでだからハナンには言っておかなくはいけないわね。


「ハナン、まあ、ルジアたちについてもそうなのだけれど、メリユ様の前で、あのような感情を顔出すものではないわ」


「も、申し訳ございません。

 いささか、わたしの常識を超える事態にございましたもので」


 常識だなんて言葉を持ち出して言い訳するとは、今更よね?

 ご神命の代行者様なのよ。

 メリユ様がその気になられれば、火山は噴火し、冬は夏になり、陸地が海に沈むなんてことすら可能なのだろう。

 あらゆる、ご神罰のご執行すら可能なのに決まっているのだから、星落とし程度で驚いていてはダメよ。


「あなたの態度は、メリユ様を傷付けるものだったわ。

 それだけは自覚しておいて頂戴ね」


「は、以後、気を付けるようにいたします」


 ハナンの内面にまでは干渉できないけれど、少なくともメリユ様の御心を傷付けるようなま真似だけは容認することはできない。

 そもそも、余計な感情を表に出してしまっている時点で、ハナンはまだアメラに及ばないのかもしれないわね。


「あの、殿下、メリユ様のお力は本当に……メリユ様ご自身で御することの可能なものなのでしょうか?」


「はあ、今回は間違いなく神がご介入されたことで、メリユ様のご意向とは異なる形で生じたものよ。

 メリユ様はあくまで『人』の側に立って、あまりにも強過ぎる神のお力をお加減くださっているお方、そのメリユ様を動揺させ、神に付け入られることになれば、誰が『人々』を守るというのかしら?」


「付け入られるとは、そんな……つまり殿下は、神は必ずしも味方ではないと?」


「ええ、あなたも『神の目』で、神からわたしたちがどのように見えているかは分かったでしょう?

 わたし一人ですら、神からすれば、豆粒のようなもの。

 地上において、唯一の庇護対象は、メリユ様、あっても、メルー様まででしょうね。

 そのメリユ様たちに何かあれば、神はご容赦なくご神罰をくだされることでしょう」


「(ゴクリ)」


 本当に、メリユ様を中心として神の関心領域にわたしたちがたまたま入っていたからこそ、メリユ様のご意向に配慮されたご神託がくだり、わたしたちは助かったのに過ぎないのだわ。


 それも、いよいよ、終わりなのかもしれないわね。


 メリユ様のご負担があまりにも大き過ぎる。

 大雑把であっても、確実にご神罰をくだされた方が事態を容易に変えられると、神はご判断され始めているのかもしれない。


 当然そうなければ、本来救われる側の『人々』にも巻き添えの犠牲は出てくるだろう。


 お優しいメリユ様は……それに耐えられるのかしら?

 苦しまれるメリユ様のお姿が容易に想像できてしまって、目に涙が滲んできてしまう。

 今夜はずっとメリユ様のお傍で……わたしの温もりで、メリユ様を包んで差し上げたいと思う。

 帝国の先遣軍の被害は分からないけれど、メリユ様が傷付かれたことだけは確かなのだもの。






 そのあと、歓迎の晩餐会は、さほど広くない砦の広間で執り行われた。

 砦の料理人は『突然の事態』で、本当に災難だったとしか言いようがないわね。

 それでも、聖都ケレンで『時』の止まった世界で生活をしてきたわたしたちだから、全く気にならなかったわ。

 メリユ様と出会う前のわたしなら……王族に出す料理ではないと文句を言っていたかもしれないわね、と思ってしまったのも事実だけれど。


 楽師による演奏もなければ、着飾った者も砦側はタウラー様のみ。

 ちゃんとした挨拶もなかったけれど、事態が事態だけに仕方のないことだろうと思う。


 荷馬車で付いてこられていたミューラ様たちにもご負担をかけてしまったわよね。

 ハナンは今度こそ顔色一つ変えず、働いてくれていたけれどね。


「このような薄暗い広間での晩餐になりまして申し訳ございませんの」


「マルカ様、聖都ケレンで皆で一緒に配膳までした仲ではありませんか?

 本当に、良い経験ばかりで……わたしも少しは成長できたのかしら?」


「そう、ですわね」


 本当にそう。

 お食事の準備も、お着替えも全部自分たちで助け合いながら行ってきたことは決して無駄にはなっていないはず。

 文句一つおっしゃられず、いつも微笑んでいらっしゃるメリユ様を見ていて、わたしもそうならなければと思うのだもの。


「メリユ様」


「はい、メグウィン様」


 マルカ様から借りられたドレスに身を包まれた、メルー様のお姿のメリユ様。


「戦が一段落しましたら、わたしだけのお姉様に戻っていただいてもよろしいでしょうか?」


 我儘はできるだけ言うまいと思っていたわたしだけれど、メルー様と姉妹のように過ごされているメリユ様を真横で見せ付けられると、どうにも我慢できなくなって、そんなことをおねだりしてしまう。


 少し驚かれたご様子のメリユ様だったけれど、クスッと笑われると、


「ええ、もちろん構わないわ。

 しょうがない子ね、メグウィンは」


 小声で姉様らしくご承諾くださるのだ。


 戦が一段落したなら、甘えられるという確約が取れたのだから、今夜はわたしがメリユ様を包み込んでお護りしたいと思いつつ、


「ありがとう存じます、メリユ姉様」


 とわたしは笑顔で返したのだった。

『いいね』ブックマーク、ご投票等で応援いただきました皆様方に、厚くお礼申し上げます!

メグウィン殿下、神=多嶋さんの本質を見抜き始めているようでございますね、、、

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