第208話 悪役令嬢、星落としを検証する
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢は、明らかにおかしかった星落としを検証します。
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アホかーっ!
わたし、ちゃんとデバッグしたよね?
別言語だけれど、AI生成のコードとも比較したし、G計算もしたし、リミッターになる数値も設定したし、絶対にこんなこと起こり得ないんだけど!
わたしは冷や汗が額から伝い落ちていくのを感じながら、バッチ実行したスクリプトを確認していく。
上昇用のバッチ処理スクリプトもおかしかったけれど、下降用の方が異常だった。
明らかにどこかがコメントアウトされているか、書き換えられている?
……うん?
何これ、わたしが書いたものじゃない、変数が存在している?
しかも、減速フェーズ部分が……(わたしの予想通りに)コメントアウトされて、実行されていない?
あり得ないよ!
わたしじゃないっ!
これがわたしのしたことだって言うのなら、わたしの別人格が目覚めて勝手に作業していたくらいしか考えられないよ。
だとしたら、実行前に誰かに書き換えられた?
スクリプトファイルのタイムスタンプと実行ログを確認すれば、何か分かるかもだよね?
実行ログはミリ秒刻みで記録されているはず、だし。
“manual_intervention_execution.log”
から、バッチ処理実行時間を検索して……っと。
「何よ、これ……」
………。
わたしがバッチ実行した、コンマ五秒後に、介入実行までの待機時間を使ってスクリプトファイルを上書きしてある!?
いや、待機時間って三秒よ?
その間に書き換えるだけでも人間業じゃないし!
コンマ五秒で書き換えって、AIが瞬時に書き換えコードを生成でもしない限り無理よね?
多嶋さん、やりやがったな!?
頭に血が昇ってくるのが分かる。
もしかして、わたしが準備したバッチスクリプトの実行にあわせて、そのスクリプトを書き換えるようにAIに指示を出して待機させていた?
それとも、何かのチート業でも使ってんの!?
「……メリユ様」
「やられました……わ」
まあね、ちょっと流れ星でもお見せしようかと、下降用のは、リミッター値を弄っちゃってはいたのよ?
流星って、せいぜい数センチ程度でも十分らしいし、あまり大きいと地上に到達しちゃいそうだし、色々怖いからってあの石を使ったんだけど……いや、それ以前に減速フェーズも付けてあったのに、何地表に激突させてんのよ!?
う……あれ、うっかり一トンくらいの大岩打ち上げていたら、この周辺、大惨事になっちゃっていたんじゃ……。
多嶋さん、マジ何やらかしてくれてんのよ!!
「ぇ……“Tranlate”コマンド実行も……介入されてる!?」
ログをじっくり睨み付けていると、念のため、わたしが位置ずらしをしたコンマ五秒後にやけに細かい位置調整がx、y軸方向にされてる?
何を狙っていたのよ?
わたしの試し打ちに便乗して、よくもやってくれたわね!
「やはり、神がご介入されたということ、でしょうか?」
え?
わたしがコンソール上に起動させていたエディタと睨めっこしていたところに、(いつの間にか近寄ってこられていた)メグウィン殿下が覗き込んでこられていた!?
「ぇ、ええ……わたしの命令実行の直後に、書き換えられてしまっていたようですわ」
「なるほど、神はそれほど本気になられていらっしゃると」
メグウィン殿下の方を見ると、顔を青褪めさせながら、唇に拳にされた右手を押し当てられながら、考え込まれているよう。
「つ、つまり……神は、メリユ様がご警告を緩められることすら、許容されなかったということなのでしょうか!?」
ハードリーちゃんも真っ青な顔で、迫ってくる!?
……いやいやいや、落ち着いて。
多嶋さんが何か企んで、何かやらかしたのは確かだけれど、まだそこまで惨事には……なっていないはずよね?
「本当であれば、地表には到達しないはず……だったのですが」
「そう、だったのですね」
あれ、空気が変、だよね?
メグウィン殿下とハードリーちゃんはともかく、なんか、皆さんの反応が微妙なような。
「メリユ様……星落としすら、可能だったのですね」
「流れ星は、ご神意が反映されたものであり、災厄の先触れであるという記述が経典にございましたが……本当に神よりのご警告であったのでございますね」
あれ、ハ、ハナンさんまで顔真っ青になっているような……。
うん、災厄の先触れ?
あ、もしかして、こっちの文化的に、流れ星ってダメなヤツだったの!?
いや、確かに、地球でも……神秘的なものというのと、不吉なものというので、時代とか地域で受け取り方違っていたっけ!
「ちょ、ちょっと、ハナン……ああ、もう、メリユ様、わたしはこれきしのこと大丈夫でございますから」
え、メグウィン殿下がわたしの手を握ってこられる!
「メリユ様、わたしは、メリユ様がその身と引き換えに何をなさることが可能なのかも存じておりますので、今のだって、少し驚いてしまった程度なのですわ」
「そうです!
キャンベーク川の奇跡に比べたら、何ってことありませんもん!」
ハードリーちゃんも空いていた右手の方を握ってこられる!?
いや、何これ、相変わらず、モテモテだなあ、わたし=メリユは、ははは。
「殿下、メリユ様っ、ご無事ですか?」
「で、殿下ぁっ、メリユ様ぁっ、今のは一体何事でございますかぁ」
両手に花状態になったところで、塔の階段を必死に駆け上がってきたらしい、ルジアさんたちとタウラーさんの声が聞こえる。
ああ、そうなるよね?
砦の中にいたって、あの『ドーン』っていう衝撃波みたいのは聞こえただろうし。
普通に地響きもあったし。
「はあ、はあ、皆様、ご無事なようで何よりです。
ハナン様、はぁ、一体何があったのですか?」
「それが、か、神よりのご警告が、くだったようでございます」
う、うん、ハナンさん、うまく誤魔化してくれたね?
わたしが星落としだっけ、そんなのしたよって言ったら、ルジアさんもタウラーさんも大変なことになっちゃいそうだし。
ぃ、今はまあそういうことにしておくのが無難、だよね……?
「か、神のご警告ですと!?
わ、我々の側に、ではないのでございますな?」
「間違いなく、神はオドウェイン帝国の陣地の方へご警告をされたようですわ」
「で、殿下……そうなのでございますか?」
メグウィン殿下、わたしの手を離さないまま、キリッとされて、タウラー様と向き合われる。
「はい、メリユ様がもう少し穏便に済まされようと神へご申請されたようですが、神が直接介入され、星落としがなされたようですわ」
「ほ、星落とし……」
え……タウラーさんでも、絶句しちゃうレベルなのか。
「(ゴクリ)そ、それは、星がこの大地に落とされたのでございますか!?」
「ええ、メリユ様は大地に落ちないよう手配されたようなのですが、神はそれを許されなかったようなのです」
「そ、そのようなことが……」
ハナンさんがぎり変な空気になるのを防いでくれたはずなのに、結局変な空気になっちゃってるじゃん!
あああ、流れ星プロジェクト、アウトだったかあ。
「メリユ様……いえ、聖女猊下。
先ほどは、バリアで敵の閉じ込め、弱体化されるのを『ぬるい』と思ってしまいましたこと、伏してお詫び申し上げます」
おいおい、タウラーさん、どうしたよ?
本当に伏して謝罪すなっ!
空気が、空気が。
「聖女猊下、もしや、猊下ご自身でも、星落としでオドウェイン帝国の兵を全滅させることすらも可能でいらっしゃるのでは?」
ああ、ああ、そうね。
そこにまで思い至っちゃったってことね。
はあ、管理者権限、マジ加減が難しいくらいに強力だからなあ。
全くもってその通り、としか言いようがないわよね。
「はい、まさしく、それを行えるだけの権限も、わたしは有しております」
「や、やはり……」
タウラーさん伏したまま震えてるし、ルジアさんも……引いちゃってない?
「それを行った場合、この周辺のものは全て吹き飛ばされ、領都すらも惨事に見舞われるでしょう。
砦は跡形もなくなり、この辺り一帯には、大きな窪地しか残りません」
まあ、石落とさんでも、“Delete”するだけでも消滅するんだけれどさ。
どっちの手段使っても、大惨事は避けられないのよね。
これは、ゲームじゃない、マジ大事だから。
「そ、それ、ほどまででございますか……」
「だからこそのバリアなのですわ。
メリユ様は、敵兵にまでご慈悲をかけられ、誰一人お命を落とさないよう、その大き過ぎるお力をお加減くださっておられるのですわ」
「メグウィン様」
いや、マジメグウィン殿下、尊ぃ……じゃなくて、こんなにメリユ=わたしの理解者なってくれて、本当にありがたい限りだわ。
正直、管理者権限持ちプレイヤーとか、異端そのものだもんね。
聖女なんて持ち上げられ、王国からも特別待遇されているのが奇跡みたいものだと思うわよ。
まあ、最初の頃、ちょっとノリノリでやらかしちゃったのは自覚しているけれどさ。
「聖女猊下に神より与えられしお力の凄まじさ、深く理解することが叶いました。
我が領にご配慮いただき、バリアでこの戦をお止めいただけるとのこと、改めまして感謝申し上げます」
おいおい……タウラーさん、すっかりあの近衛騎士団長みたいになっちゃってるじゃん。
うん、多嶋さん、この辺も狙っていたりしないよね?
意趣返しってんじゃないけれど、わたしがやらかしまくってるのに思うことあって、流れ星に小細工したとか言わないよね?
「あああ、もうっ、多嶋さーん!」
わたしはマイクをミュートにした上で、思わず絶叫してしまったのだった。
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リアリティー高い……いえ、リアルであるエターナルカームの世界では、隕石一つでも大事になってしまいそうでございますね。
悪役令嬢メリユ=ファウレーナさん自身が考察していますように、一トンクラスの岩を落としてしまっていましたなら、大惨事になってしまっていたことでしょう、、、




