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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
207/322

第206話 王女殿下、悪役令嬢やゴーテ辺境伯令嬢らと共に、砦の司令官を味方につける

(第一王女視点)

第一王女は、悪役令嬢やゴーテ辺境伯令嬢らと共に、砦の司令官を味方につけます。


[『いいね』いただきました皆様方に、心より感謝いたします]

 予定通りに、夜を迎えるまでに無事バリアの起点に供物を捧げる作業を終了し、わたしたちは砦へと戻ったの。

 きっと、ここからが最後の関門になるのだろうと思う。


 砦の司令官のタウラー様。


 マルカ様のお話からしても、疑り深い、良く言えば、慎重なお方なのだろうと思う。

 ドニ様からの書簡、指示が届いていても、すぐには動かれなかった。

 また、マルカ様のご到着にもお出迎えすらなさらなかった。

 状況が状況だけに、マルカ様以外の貴賓は記載していなかったとはいえ、領主の娘であるマルカ様に対してそのような態度を取るのはいかがなものかと思うわ。


「マルカ様、タウラー様も一筋縄ではいかなさそうでしょうか?」


「そうですわね。

 以前お会いしましたときも、お兄様はともかく、わたしとは目も合わそうとなさいませんでしたし。

 どこかに嫁ぐであろうわたしなんて、相手する価値なしと見ていらっしゃるのかもしれませんの」


 それは……本当に酷いお話。

 ミスラク王国では、家を重要視していて、令息、令嬢であろうとも、その家の者として、敬意が払われるべきなのに。

 確かに、領主になる令嬢=女性は稀であり、令息であるソルタ様がいらっしゃるゴーテ辺境伯家では、ソルタ様がいずれ領主を継ぐのが目に見えているとはいえ、マルカ様を軽視して良い訳ではないわ。


 それに、マルカ様が有力貴族のもとに嫁ぐことになれば、タウラー様にとっても、マルカ様に嫌われることは不利になるだろうに、どうしてそんな態度を取れるのかしら?


「本当に不快な限りね。

 アリッサ、セメラ、ルジアたちも剣の鞘にしている偽装用のカバーを外しておいて。

 あなたたちの身の証にもなるしね」


「「「はっ」」」


 王室の近傍警護の女騎士たちには、近衛騎士団と同じ意匠の剣と鞘が支給されている。

 その鞘の意匠を見れば、王国の武官であれば、すぐに気付くはず。


 そして、わたしもお父様=国王陛下からいただいた、メリユ様の補佐兼聖女護衛隊指揮のための任命状を持参している。

 それを見せ付ければ、タウラー様もうんともすんとも言えなくなるだろう。


「メリユ様にも、ルーファ様にも、我が領の者がご不快にさせるような言動をするかもしれませんの。

 先にお詫び申しておきますの」


「いいえ、前兆もなく、あまりに突然のことですから、そのタウラー様も真偽を測りかねていらっしゃるのでしょう」


 ………メリユ姉様が、あまりにも聖女様過ぎる!

 分かっていたこととはいえ、タウラー様に対してすぐ腹を立ててしまっていた自分が恥ずかしくなってくるわね。

 もちろん、メリユ様がわたしたちよりも長く生きていらっしゃるのは存じ上げているけれど、大人だってそんな態度を取れるとは限らないもの。


 本当に、そういうお方だからこそ、神が神命の代行者として認められているのだろうと改めて思ってしまう。


「さすがはメリユ様、高位貴族の男の方でも、そのような態度を取れる方はそういらっしゃないでしょう!」


「ふふ、ハードリー様ったら」


 ハードリー様のお言葉に、皆の雰囲気が変わるのが分かる。

 ここには『大人』もたくさんいるけれど、メリユ様ほど場の空気を変えてしまわれるようなお方はそういるものではないもの。

 メリユ様とお話しているだけで、心が浄化されるように感じるのは、決して気のせいなんかではないと思うわ。


 そして、通路の進む先に、他のお部屋とは違って、立派な扉が付いた司令官のお部屋が見えてくる。


 扉の前には衛士の方がお二人。

 マルカ様をご覧になってギョッとされるも、その後ろに続くわたしたちには不審者を見るような目を向けてこられる。


「マ、マルカ様。

 突然、来られても困ります」


「先に書簡が届いているはずですの。

 すぐにタウラーに会わなくてはなりません。

 そこを開けていただけますか?」


「か、確認いたします」


「その必要はありませんの!

 こちらの方々がどなたか、お分かりになりませんの?」


 アリッサ、セメラ、そしてルジアたちが無言で剣の鞘を見せ付ける。


「(ゴクリ)そ、それは、こ、近衛の……失礼いたしました!」


「ま、まさか、殿下まで!?」


「ここの警護は、近傍警護の方々にお任せしますの。

 あなた方の任を一時解きますので、ご休憩なさっていてくださいませ」


「「ははっ」」


 仰々して頭を下げて、衛士の方、お二人が走り去っていく。

 まあ、現時点で、立ち聞きされても困るし、ルジアたちに扉を見張っておいてもらうしかないわね。


「では、わたしたちがタウラー殿に確認を」


「その必要はございませんの。

 出迎えすらしなかった無礼者にそこまでの礼は不要でしょう」


 マルカ様は、また少しプリプリされて、前に出たアリッサに告げられる。

 どうやらアリッサ、セメラで扉を開けるよう。


「はぁ、ノックくらいはわたしがいたしますの」


 そして、マルカ様がノックされて、タウラー様のお返事を待たずして、扉は開けられたのだった。






「マ、マルカお嬢様!

 これは一体何の騒ぎで」


「何の騒ぎ、ではないの。

 出迎えも、測量技官の配置もなしに何をしていたのかしら?」


 机に座られたまま、鋭い目付きで睨まれる、キャラメルブロンドに白髪が混じった厳しそうな殿方。

 眉間の皺がその性格を示されているようね。


「はあ、あの書簡ですか?

 ドニまで巻き込んで、何のご冗談でしょう?

 意味不明な測量ごっこなど、ふざけているのかと思いましたぞ」


 ちらっとマルカ様の方をご覧になられるも、座られたまま、書類と向き合われていらっしゃるタウラー様。

 仮にも辺境伯令嬢=領主の娘のマルカ様に対して、あまりにも失礼過ぎない?


「はあ、あなたには秘匿情報も伝えられているはずなのだけれど?」


「ああ、オドウェイン帝国がこちらに攻めてくるかもしれないとかいう荒唐無稽なお話ですかな?

 どうせ、砦の者の緊張感が足りないからと、演習のつもりでお書きになられたのでしょう?

 はあ、演習にしても、もう少し現実味のある話にしていただきたいですな」


 ……なるほど、タウラー様にとってはあり得るはずもないオドウェイン帝国の侵攻可能性を知らせる書簡に、演習のための書簡であると、そう受け取られたのね。


「現実が見えていないのは、あなたなの!

 はあ……仕方ないですの。

 猊下、殿下、そして聖騎士団のオブザーヴァントの方を紹介させていただきますわ」


 マルカ様がこちらをご覧になられ、メリユ様とわたしは頷く。

 こうなってしまえば、わたしたちが名乗り出る他にないだろう。


「はっ!?

 猊下に、殿下とは!?

 聖国の聖女猊下のお通りはまだ先では?」


「タウラー、立ちなさい」


「は?」


「このままだと不敬罪が適用されますのよ?」


「は……」


 表情を引き攣らせたタウラー様が困惑されながら、席から立ち上がられる。


 本当に、酷い有様ね。


 まあ、事態の進行が急過ぎるというのもあって、各所が追い付いていないのが現状なのだろうけれど。


「皆様、砦の司令官の、タウラー・メイゾ・グマールですの。

 我が領の者の非礼、領主に成り代わり、お詫び申し上げますの」


「マルカお嬢様っ!

 こちらの見知らぬ者たちは一体?」


「黙りなさい」


「……」


 不満そうな表情で押し黙られるタウラー様。


「タウラー、こちらは、ゴーテ辺境伯領防衛のため、ご尽力くださる、メリユ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下でいらっしゃいますの。

 ご挨拶なさって」


「はあ?

 また演習ごっこなのですかな?

 新しい聖女猊下の誕生など、聖国からもそんな情報、届いておりませんぞ?」


 どうやら演習ごっこの一貫として、メリユ様が聖女様役をされていると思われているようね。

 あまりの酷さに呆れていると、ルーファ様がこちらをご覧に頷かれ、前に出られる。


 まさか……。


「サラマ・サンクタ・プレフェレ・セレンジェイ聖女猊下から拝借させていただきました、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下の任命状でございます。

 王都にご滞在中の教皇猊下、そして、ゴーテ辺境伯領都にお越しの聖女猊下のご署名もございます」


 ルーファ様がタウラー様の机の上にご提示されたのは、メリユ様のご任命状!?


「きょ、教皇猊下に、聖女猊下のご署名。

 ぃ、ぃ、いや、た、確かに、これは……砦ご通過時に拝見したものと、ぉ、同じ」


「お初にお目にかかります、王国の聖女としてご任命賜りました、ビアド辺境伯家が第一子、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアドでございます」


「お、王国初の聖女、げ、猊下でいらっしゃいますか!? しかも、ビアド辺境伯家のご令嬢!?

 こ、これ、これはご無礼を!

 大変失礼いたしましたっ!!」


 前に出られるメリユ様の両脇にアリッサとセメラが付き、タウラー様もその剣の意匠に気付かれたよう。

 近衛の剣を持つ者が両脇を固めているということの意味は分かるだろう。


「いいえ、構いませんわ。

 メルーもこちらに」


「は、はい!?」


 メリユ様がメルー様を呼ばれ、戸惑ったご様子のメルー様とメリユ様が並ばれる。


「ぉ、お二人は双子でいらっしゃいますか?」


「こちらは、わたしの遠縁にあたる、メルー・サンクタ・ヴァイクグラフォ・ダーナン聖女猊下。

 これから任命状を賜るところでございます」


 聖女様、聖女猊下お二人のご紹介が先になるのは当然のことね。

 何より神に認められたお方々なのだから。


「ぉ、王国からお二人も、聖女猊下が誕生すると……」


 あまりの事態に、タウラー様は再び上半身を大きく曲げられて、頭を下げられる。


「そして、先ほどメリユ様の任命状をご提示いただいたのは、セラム聖国のルーファ・スピリタージ・アディグラト様ですわ」


「はい、申し遅れましたが、わたしは、これよりこの国境に緊急派遣されます、セラム聖国聖騎士団先遣一個中隊のオブザーヴァントを務めさせていただきます、ルーファ・スピリタージ・アディグラトでございます」


 メリユ様のご紹介のために前に出られていたルーファ様がにこやかにそう告げられる。


「アディグラト家と言えば……枢機卿猊下の!?

 そっ、それで、せ、聖国の、聖騎士団がこちらに緊急派遣されると!?」


「はい、こちらにガラフィ枢機卿猊下より賜りました、委嘱状がございますので、ご確認くださいませ」


 ルーファ様がメリユ様の任命状に続いて、ご自身の委嘱状をタウラー様の机の上にご提示される。


「こ、これは、確かにガラフィ枢機卿猊下のご署名が……。

 で、では、聖国もここが戦場になること前提で……?」


「はい、聖都ケレンにおいても、オドウェイン帝国の工作活動が行われ、現在聖騎士団はその対処を行っております。

 それが終わり次第、聖国は聖騎士団をミスラク王国との国境まで正式派遣する予定でございます」


「大変失礼いたしましたっ!

 聖騎士団のオブザーヴァントの方とは露とも知らず、申し訳ございません」


 そして、メリユ様、ルーファ様、マルカ様がこちらをご覧になられる。

 はあ、順番的には、次はわたしなのかしらね。 


「そして、メリユ様の補佐、王国側からの聖女護衛隊指揮のため、お越しくださいました、メグウィン・レガー・ミスラク第一王女殿下でいらっしゃいますの」


「だ、第一王女殿下!?」


 はあ、頭を下げられたままでも、タウラー様の顔色が悪くなっていっているのが分かる。


「乗馬服で失礼いたします。

 ミスラク王家が第二子、メグウィン・レガー・ミスラクですわ」


 タウラー様が崩れ落ちるようにして跪かれる。

 いよいよ汗がポタポタと床に落ちていく有様。

 今更そうなるくらいなら、なぜ最初から礼節をわきまえないのかしら?


「国王陛下からの任命状は必要でしょうか?」


「と、とんでもございません!!

 そのようなこと、国王陛下の命を疑うようなことでございます」


「はあ、跪かれるなら、メリユ様のときからそうなさっておいた方がよろしかったのでは?」


 何せ、メリユ様は神に認められし聖女様。

 この中で一番礼を尽くされなければならない相手なのよ。


「そ、そうでございますな。

 ど、どうにも、現実感がなく、皆様方に不敬を働いてしまい、誠に申し訳ございません」


 震えながら、平伏までされるタウラー様。

 まあ、さすがに乗馬服姿のご令嬢たちが、まさか(見た目と異なり)そこまでの重鎮揃いとは思いもしないわよね?


「歓待の準備もせず、此度の不手際に非礼、わたしが砦の司令官を辞することでどうかお許しいただければと存じます。

 な、何卒、砦の衛士たちへの不敬罪適用につきましては、わたしが全て肩代わりするということで、ご容赦いただきたく」


「タウラー・メイゾ・グマール様、そのようなこと、不要でございます。

 どうか、砦の防衛に際し、ご協力いただけますでしょうか?」


「ぉ、おお」


 ああ、メリユ姉様が聖女様過ぎる!

『いいね』、ご投票などで応援いただいております皆様方に、心より感謝いたします!

味方側では最後の厄介ごと、何とかなったようでございますね。

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