第204話 ダーナン子爵令嬢、ゴーテ辺境伯令嬢や悪役令嬢らと共に砦に到着する
(ダーナン子爵令嬢視点)
ダーナン子爵令嬢は、ゴーテ辺境伯令嬢や悪役令嬢たちと共に砦に到着し、彼女らの活躍ぶりを目の当たりにすることになります。
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お貴族様の血を引いていて、しかも魔法使いで聖女様なお姉ちゃん。
今まで商会とお取引のあったお貴族様と言えば、いつも偉そうに身分をひけらかすような方々ばっかりだったのに、お姉ちゃんは違ったの。
遠縁の親戚の子って言っても、お母さんは商家の娘で、(お姉ちゃんのおかげで明らかになった)お父さ……お父様がいくらダーナン子爵様だって言っても、『庶子』っていう蔑まれてもおかしくない立場なんだよね、あたし?
それなのに、お姉ちゃんは、会ったばかりのあたしに対して、本当のお姉ちゃんのように接してくれた。
それどころか、あたしの立場が悪くならないように、特別な立場まで授けてくださったみたい。
神があたしをお選びになられたって言ってくれていたけれど、あたしは神託なんて受けたこともないし、お姉ちゃんと同じ血をほんのちょっと引き継いでるくらいの、だけのはずなのに、こんなに良くしてくれるなんて、信じられないよ。
「あたしに、そんな価値なんて、あるのかな?」
お姉ちゃんの凄さは本当によく分かるんだ。
お空を飛べるし、姿を隠せるし、瞬間移動って言うのもできるし、『神の目』っていう天から地上を見下ろすようなことをお部屋にいてもできたりするんだ。
王女様やご令嬢様方からも慕われて、尊敬されるのも当然だと思う。
お姉ちゃんはそれだけの特別なお『人』なんだから!
だから、あたしは、マルカ様(ってお呼びして良いのかな?)に、あたしもお姉ちゃんに付いていくって伝えたの。
そして、今あたしはお姉ちゃんたちと一緒にバーレ連峰の麓にある、砦にまでやってきたんだ。
「止まれ」
「お前たち、どこの商会だ?」
「ルジア様、わたしが出ますの!」
先頭を進まれていたルジアさんが馬を下りられると、砦の兵士の方々が訝しげにあたしたちをご覧になってこられたんだけど、すぐにマルカ様が前の方へと出られて……その途端、兵士様の方々の顔色がすぐに変わったんだよ!
「マ、マルカ様っ!?」
「どうしてこちらに!?」
「どうもお疲れ様。
先ほどの領城のドニから早馬から書簡が届いているはずなの。
こちらはご賓客の御一行様なの。
すぐに砦内にご案内を」
「そ、それは、失礼いたしました!!」
「直ちに準備をいたしますっ」
ああ、マルカ様、本当に辺境伯家のご令嬢様なんだって思った。
お姉ちゃんだけでなく、そんなマルカ様まであたしに良くしてくださっていたなんて、今でも信じられないくらいだよ。
「それと、書簡に指示があったはずなのだけれど、測量技官は待機しているのかしら?
閉門後、すぐに測量綱を使えるようにしておいて欲しいの」
「畏まりました!」
お姉ちゃんはもちろんだけれど、お姉ちゃんのお傍にいらっしゃる王族、貴族のご令嬢様は、本当に凄い!
お貴族様のご令嬢様って、『蝶よ花よ』って感じで、宝飾とか、化粧とか、お茶会のお菓子とか、恋愛とか、そういうお話ばっかりしているイメージだったけれど……今のマルカ様のお話されている内容を聞いた?
あたしは全然何言っているのか分からないのに、兵士の方々はその指示がすぐ分かってみたいで、慌てて動き出しているんだよ。
同じ十一歳のはずなのに、なんて格好良い!
「貴方、閉門までは後どれくらい?」
「ぁ、後二刻でございます」
「ありがとう、閉門後、砦からセラム聖国との国境線までに残っている者がいないか、通常より兵士を多く出して確認して欲しいの」
「はっ、その、残っている者がいる場合」
「事情聴取のため、連行して。
この時間で、すぐセラム聖国側の宿場街まで向かわず、残っている者はおかしいでしょう?」
「承知いたしました」
「はあ」
兵士の方々に指示を出し終えて、マルカ様はホッとされたように吐息を漏らされる。
お貴族様のご令嬢様って、こんなに頭が良いのが普通、なのかな?
もし、あたしも……お父さ、お父様=ダーナン子爵様が、『庶子』ってちゃんと認めてくださったら……お姉ちゃんたちみたいに振る舞えるように、いっぱい勉強して、あんな風にならないといけないのかな?
「マルカ様、本当にありがとう存じます」
「ご対応感謝いたしますわ」
「ぃ、いえ、メリユ様、メグウィン様、我が領のことですから、当然のことですの」
「さすがはマルカ様です」
王女様=メグウィン様、ハラウェイン伯爵令嬢様=ハードリー様たちも、軍議でも堂々とされていて、凄かったよね。
本当に皆様、尊敬しちゃう。
あたしも、皆様みたいなご令嬢になれるのかな?
「ほぼ予定通りの進行ではございましたけれど、閉門後、すぐ作業始められそうで良かったですの」
「ぁ、あの、暗くなってきていますのに、これから作業を始められるんですか?」
当然のようにおっしゃられるマルカ様に、あたしは質問してみる。
だって、どう考えても、明日の朝した方が良いように思ったから。
「ええ、開門中は、キャンベーク街道を往く多くの方々が砦を抜けられますでしょう?
砦前の広場で作業していれば、その方々の目に留まることになりますし、その中に密偵がいる可能性も高いでしょうから、閉門で人がいなくなるこの時間帯が一番良いのですわ」
「閉門後は、基本的にこの周囲は砦の兵士たち以外、無人になりますから、残っている方がおかしいですからね」
マルカ様とハードリー様が分かりやすく教えてくださる。
そうか、そういうこと、なんだ。
あたしだって、今回商隊に付いてきて、色々分かったような気になっていたけれど、そんな簡単ことすら気付けないなんて情けない。
「メルー、こういうことは、ゆっくり学んでいけば良いわ。
焦ることなんてないの。
ここにいる皆は、必要があったから学んできただけ。
その分、メルーより先に進んでいるのは当然のこと」
「ぅ、うん、お姉ちゃん」
「けれど、メルーはメルーで、マクエニ商会で学んできたこともあるのでしょう?
それは、わたしたちの知らない知識で、あなたはその分、皆より進んでいる、そんなものもたくさんあるのよ。
だから、自分を卑下することはないの。
そして、何よりあなたはこれから聖女にもなるのだから」
聖女……聖女様に、あたしが?
何度聞かされても、実感のない言葉なんだけれど、本当にあたしもお姉ちゃんみたいな聖女様になれるのかな?
お姉ちゃんが使われる『聖なるご命令』をマルカ様がまとめてくださって、教えてくださるとは聞いているんだけれど、本当にあたしもお姉ちゃんみたいにそんなご命令を使えるようになるのかな?
「ねぇ、お姉ちゃん、あたしも、お姉ちゃんたちみたいな格好良いご令嬢になれるのかな?」
「ええ、もちろんよ。
学院に入る頃には、あなたも立派な、聖女の肩書きを持つ貴族令嬢になっていることでしょう。
きっと、皆に慕われて、尊敬されるそんな女性になっているはずよ」
お姉ちゃん……どうして、そんなに確信があるみたいに、あたしの未来のことを言い切れるんだろう。
お姉ちゃんを見ていると、頬が熱くなってきて、ドキドキしてきてしまう。
絶対、お姉ちゃんの方が、あたしよりも強くて、優しくて、大人びていて、とにかく凄い聖女様なのに。
「お姉ちゃん、絶対、それ言い過ぎだから」
「そんなことないわよ」
あたしは恥ずかしくなってきてそう否定しようとしたのに、お姉ちゃんはあたしの頭を撫でてきて、予言でも受けたかのように、ご自身の言葉に自信を持っているようだったの。
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はい、今回のお話では、マルカちゃんの活躍ぶりが見て取れますね!
書簡の内容を把握していたからこそとはいえ、大人相手に頑張っているマルカちゃん、何とも尊いです!




