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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第19話 悪役令嬢、近衛騎士団を天に召す

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、キューブバリアに閉じ込めた近衛騎士団を天に召します(?)

 国王陛下とアワレ公爵への説明を終えた後、わたしはキューブバリアを解除するための準備を始めることにした。

 うーん、正直なところ、いきなりこれをデリートしても大丈夫なものなのか、よく分からないのよね。

 内部は光量ゼロの真っ暗闇になっているのだと思うのだけれど、いきなり真昼間の光量のある世界に戻しちゃって大丈夫なのかしらん?


 ほら、鉱山や洞窟で遭難して助け出された人は、外の光量に晒されないように、アイマスクとかしていたと思うし。

 まあ、今回は短時間だからそこまでの心配は要らないと思うものの、瞳孔開きっぱなしの状態でこの外の光量に晒されるのはさすがにまずいと思う訳。


 もしかすると、システム的に失明するようなダメージ食らわせることになってもおかしくないし、二十分くらいかけて内部を明るくしていけばいいか。


「ふぅ」


 問題はキューブバリアの内側は、ポリゴンの裏面になっているということ。

 リファレンスを読んだ限り、(このVRゲームの処理エンジンだと)ポリゴンの裏面はシェーディング処理(ライト・光が当たったときに陰影を付ける処理)されない仕様なので、光を全く反射しない暗黒物質を塗りたくられた壁面みたいになっている訳よ。

 現実世界で言うなら、くしゃくしゃになったアルミ箔ですら平らに見えてしまうほどの真っ黒な塗料、ベンタブラックだったかしらん、あれで塗られた壁みたいになっている訳だから、ライトを配置してもキューブバリア内面は真っ黒なままになってしまうのよ。


 あー、面倒臭。


 これ内側にポリゴンの表面裏面を反転させたキューブ配置しなきゃダメよね?

 プリミティブのキューブをそのまま使えないのが痛い。

 いや、まあ反転するくらいはできるんだけれど、あー、ここまでやるんだったら、とことんやってやるわよ。

 表面裏面反転キューブ作成ついでに、テクスチャアニメーションも付けちゃいましょ!

 いざやるとなったら、とことん凝ったことをやるってのが、わたしのモットーだもの!


 見ていなさい、ミラータワーをご覧になられなかった内側の皆様にもあっと言わせてみせますことよ!






 さて、二十分ほどで色々準備いたしましたわよ。

 まずは、引数で光量調整可なライトを掌の上に配置できる音声コマンド。

 外部で作ったファイルを読み込む音声コマンド。

 表面裏面反転キューブの“3ds”ファイル(高さは五十メートルほどにした)。

 テクスチャアニメーションのためのバッチスクリプト。

 テクスチャ用に用意した、夜の富士山が雲海に浮かぶ三百六十度VR画像、富士山レーダー付き。


 最後のは、拾いものなのだけれど、これ、CGよね?

 富士山レーダーって移設されているはずだし、移設直前の時代にこんな高解像度VR画像なんて撮れないはずだし。

 満点の星空といい、すっごくリアル!

 こんなよきものをフリー公開されている作者様には後でお礼のコメントでもしておくか。


 さーて、キューブバリア内部の皆様に『驚き』の御裾分けですわよー。


「そ、それでは、メリユ嬢、その結界を解除していただけるということでよろしいか?」


「はい、宰相様。

 ただ、バリアの内側にいらっしゃる近衛騎士第一中隊の皆様は、今真の暗闇に囚われていらっしゃいます。

 そのまま解除いたしますと、外の世界の明るさに目が耐え切れず、深刻な影響が出かねませんので、わたしが皆様をお迎えに行ってまいります」


「そんな……メリユ様が直接お迎えに向かわれるということでしょうか?」


 頬を赤く染めたメグウィン殿下が上目遣いに尋ねてこられる。

 というか、マジくっそかわいいんですが、メグウィン殿下、どうされちゃったの?


「ええ、内側の皆様に少しずつ明るさに慣れていっていただくためには、わたしがバリア内部に入る必要がございますので。

 “SwitchOn light 1 with intensity 0.01”」


 音声コマンドを実行すると、開いたわたしの右掌に小さな光球が現れる。

 すると、メグウィン殿下を驚きに目を見開かれた後、また両手で口元を押さえていらっしゃる。


「メ、メリユ様は光もそのように、容易に操られることが可能なのでございますね」


「ええ、“Change intensity of light 1 to 0.1”」


 試しに明るさを“0.1”に変えてみると、うお、自分でも眩し!

 まあ、“1”あれば、それなりの広域を明るくできるはずだから、“0.1”でも百ワット電球ほどの明るさがあるってことなのかなー。


「ま、眩しいですわ……ですが、これが聖なる光」


 ……んん? 何ですと?

 今『聖なる』とかおっしゃいませんでした?


「闇を駆逐する光というのは、このようなものなのでございますね」


「……ええ」


 まあ、バリア内部は真っ暗闇と伝えてあるのだから、まあ正しいのかな?

 何か勘違いされているような気がするのは……うん、気のせいか。


「メリユ嬢」


 うお、びっくりした!

 カーレ殿下、視界外から急に近付いてこないで欲しい、心臓に悪いよ!


「結界、いや、バリア内部では、近衛騎士団が破城槌でバリアを破壊しようとしているはずだ。

 バリア内部に入られる際は、お怪我のないようにしてもらいたい」」


「お気遣い賜りまして深く感謝申し上げます。

 ですが、身を守る術はございますので、大丈夫でございますわ」


「そうか、そうであったな」


 あれ? 何だろう?

 カーレ殿下のわたしを見る目が少しばかり柔らかくなったような気がするんだが。

 これも気のせい?


「その、メリユ嬢、先ほどまでは、す、すまなかった。

 わたしは、すっかり、以前の君の、貴女の演技に騙されてしまって、正しく貴女の姿を見抜くことが叶わなかった」


「(クスッ)」


 いけない、ゲーム本編と比べるとまだ幼いカーレ殿下の照れ姿が尊過ぎて、どうにかなりそう。


「メリユ嬢?」


「いえ、何でもございません。

 以前のことは、私の非によるものでございますから、殿下がお気になさる必要はございません」


「そ、そうか」


 まずい、カーレ殿下を直視できないわ、これ!

 視線を落としてカーテシーで誤魔化すか。


「カーレ第一王子殿下、必ずや近衛騎士団第一中隊の皆様を無事帰還させますので、大船に乗ったお気持ちでお待ちいただけますと幸いでございます」


「わ、分かった。

 よろしく頼む」


「メリユ様、どうぞよろしくお願いいたします」


「はい、承知いたしました」


 ふう、何とかなったか。

 乙女ゲーのVR化って、ゲーム内キャラとの視線を合わせるのも難しいのね。

 普通のノベルゲームみたいに『尊い、尊い』言いながら凝視していたら、相手からは絶対気持ち悪がられる訳でしょう?

 これは、なかなか神経使いますわ!


 うん、この辺も、多嶋さんにフィードバックかけておこう。






 さて、わたし、メリユの管理者権限アバターの環境パラメータを弄って、キューブバリアとのコリジョンディテクション(衝突判定)をオフにしてから、ミラータワーに臨む訳だが……


「“Change intensity of light 1 to 0.01”」


 危ね、本気でライトの光量上げていたの忘れていたよ。

 こちら側でもメグウィン殿下が眩しがっていたんだから、ミラータワー・キューブバリア内部の人たちには相当な眩しさになっていただろう。


 えっと、ではまず先に(横方向を)一ミリずつほどキューブバリアより小さくした表面裏面反転キューブを読み込んで配置しておきましょうか?


「“Load temporary object 1 file-named revcube.3ds with texture-animation enabled” 」


 よし、コンソールに“Done.”って出たから、バグで止まることなくゲームエンジンの方で処理されたみたいね。

 クラウドに上げた外部ファイルをVRゲーム空間内に読み込むのは初めてだったから、少し緊張したわ。


「では、まいります」


 わたしは右手を前に突き出し、キューブバリア表面の鏡面に掌を合わせ、いよいよキューブバリア内部に身体の一部を進入させていく。

 わお、HMDで見ていると、自分がファンタジー映画の主人公になったみたいでかっこいいわ。

 現実世界だと、水面以外でこういう体験できないものね。

 鏡の中に入っていくとか、超すごい!


 でも、顔をこの鏡みたいなキューブ表面にめり込ませるのは少しばかり勇気が要るわ。

 鏡に映っている、近付いてくる顔が悪役令嬢メリユのものっていうのがまた違和感が強いし、これじゃメリユと自分がキスするように見えてしまうのよね。


 HMDのディスプレイ部に表示されている映像だと分かっていても、わたしは思わず目を瞑ってしまう。

 そして、何かの効果音的なものが聞こえた後、わたしが瞼を上げると、右手の指の隙間から漏れる光のみの真っ暗闇に自分がいるのに気付いた。


 このHMDは、当然HDRハイダイナミックレンジ対応の有機EL搭載機種ではあるけれど、すごく暗く感じるのだわ。


「な、何者だっ!!?」


 おお、この声の遠さ加減も素晴らしい。

 この声は、近衛騎士団長か?

 珍しくも動揺した騎士団長様のお声を聞くことができましたぞ、ぬふふ。


 わたしは笑いを必死に堪えながら、光球を浮かべる右手を胸前までもってきて、上に向ける。

 これで相手にもわたしの顔が分かるだろう。


 まあ、悪役令嬢メリユのものだけれどね!


「メリユ・マルグラフォ・ビアド、皆様をお迎えにただいま参上いたしました」


 ここからは、空気を読んでAIがメリユを近衛騎士団長の方へと歩かせていく。

 まあ、わたしが動くと部屋の壁にぶち当たるから仕方ないのだけれど、やっぱり勝手に歩き出すのは違和感が強いわ。


「本当にビアド辺境伯令嬢、なのか……?」


「ええ、もちろんでございます」


 近衛騎士団長は、わたしの手に持つ光が眩しいのか、目を細めながらも細かく瞬きされている。

 近付いていくと、額に浮かぶ汗がとてもリアルだ。


 そして、意外なことに、近衛騎士団長の傍には、女性の騎士の方々がいらっしゃった。


 わたしを小娘呼ばわりしていた近衛騎士団長が女性騎士の皆様を呼び集めているとはどういうことだろう?

 まさか、この暗がりをいいことにセクハラとかしていたんじゃないよね?


 まあ、それは後で聞くとして、取り合えずテクスチャアニメーションを付けちゃおうか。


「“Execute batch for texture-animation with fujisan-radar-image”」


 これ、思ったよりスクリプトが長くなったんで、バグあるかもだけれど、ぶっつけ本番で実行開始。

 一、二、三…………うおおおおおお、大成功ですわ!!


 周囲を取り囲む表面裏面反転キューブの内面五面(地面は映らない、あと天井はキューブバリアと違って五十メートルに抑えてある)に、『夜の富士山が雲海に浮かぶ画像』が映し出され、美しい星々が真っ暗闇だった内部空間に淡い光をもたらすのよ、おーほっほっほ!


「ひぃっ!?」


「………こ、これは…………」


「な、何が、起きた………」


 聞いた? 聞いた?

 あの近衛騎士団長が『ひぃっ!?』だって。

 あのビクつき加減、洋画に出てくるようなビビる悪役ダンディーオジサマみたいでウケる!


 いやー、ちゃんとやり返して差し上げましたわよー、おーほっほっほ!


 ああ、もう超気持ちいい!

 悪役令嬢って、こうも気持ちいいものなのね!


「なっ、なっ、なっ、なっ……」


 近衛騎士団長、『なっ』多過ぎ、というか、『なっ』言う度に顎がカクンってなるのがヤバい。

 今わたし、本気で噴き出しそうですわー。


 ああ、マイクオフ、マイクオフ。


 ふぅ、危ない今回は間に合った。


「こ、こ、ここっ、は………ま、まさか」


「「団長っ」」


 おおう、近衛騎士団の殿方の皆様方も動揺がすごい!

 今はかなりテクスチャも暗く抑えてあるので、はっきりとは見えないんだけど、ざわめきがすごいのよ!


 むふふ、内部の皆様方にも『驚き』をお届けできたみたいで何よりだわ!


「ビ、ビアド辺境伯令嬢……あ、あ、あっ、貴女様は、もしやっ」


 おおっと、近衛騎士団長の震え具合がまずいですぞ。

 周囲の雲海をガクガクしながらお眺めになって……もしや、バグられている?

 えっと、少しやり過ぎたかしらん?


 はい、マイクオン。


「カブディ近衛騎士団長様?」


「も、申し訳ございまぬっ、貴女様への不敬、心よりお詫び申し上げる!!」


 うお、近衛騎士団長がいきなりわたしに向かって平伏してきたんだけれど……何事よ!?

 確かに真っ暗闇のバリアはやり過ぎたかもしれないけれど、そこまで謝ることでもないでしょうに。


「あ、ああっ、そ、某らは、て、天にめっ、召された、ので、ございましょうか!?」


 えぇぇ、近衛騎士団長、泣いちゃったよ! 男泣き(?)だよ!?

 ちょっとAI、これはないよ。

 どこの訓練データが影響しているのかは知らないけれど、ドン引きですわ。


「どういうことでございましょう?」


 いや、本気で笑う気力もなくなってきたんですけれど。


「ど、どうか、お命を、お取りになられるというなら、どうか、某の命だけで、ご容赦くだされ」


 んんん、どういうこと?


「あ、ああっ、貴女様が、し、使徒様とも知らず、不敬を働いた、その、し、神罰を、お与えになると、おっしゃるなら、どうか、どうか、某のみにお与えくだされぇ」


「使徒様……」


「神罰って……」


「嘘……」


 近衛騎士団長の絶叫に、近衛騎士団のどよめきが酷いことに。

 え、えっと……ちょい待ち、近衛騎士団長、何つったの?


 使徒様、不敬、神罰?


 その前が天に召され……ああ、えっと……もしかして、雲海の上にいるのに気付いて、自分たちが天に召された、命を奪われたと、勘違いしたってこと?


 ええ、ああ、何じゃ、これは!??


 エターナルカームに、使徒様とか出てこないから、ええ、これ本当にシナリオ通りに展開しているの?

 それとも、AIが訓練データをもとに変な暴走してるとか?

 いや、マジで何のファンタジー作品のデータを突っ込んだし!?


「て、天に召されたって、ここは、お、俺は、もう」


「嫌だ、こんな死に方なんて、そんなことって……」


「メルー、あああっ、もう会えないなんて」


「ママァ」


 うわー、近衛騎士団の皆様方の動揺がとんでもないことに。

 まあ、彼らは帝国の動きなんてまだ知らないし、演習で命落とすとか思ってなかっただろうしね……って、命取ったりなんてしてないから!

 何て失礼な!


「ああっ、す、全ては、某の責、なので、ございまする。

 某であれば、いかようにも、なさって構いませぬ!

 どうか、若き騎士団員たちの命だけは、何卒っ、何卒お助けくだされぇ!!」


 あああ、超展開過ぎて混乱するわ!

 これ、もしシナリオライターが書いた展開っていうなら、絶対に文句言うからね。

 十一の貴族令嬢相手に、近衛騎士団長が号泣しながら謝罪とか、一体どんな展開よ!?

 しかも、シナリオ二日目とか、ぶっ飛ばしてんじゃないわよ!!?


 わたしは想定外過ぎるカオスな状況に、必死にこめかみを押さえ続けるのだった。

超展開をシナリオライターもしくはAIのせいにしようとしている悪役令嬢ですが、どう考えても凝った演出をしようとした悪役令嬢のせいなのですよね、、、

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