第198話 王女殿下、ミスラク王国の女性の置かれている立場を改めて突き付けられる
(第一王女視点)
第一王女は、ミスラク王国の女性の置かれている立場を改めて突き付けられることになります。
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額の脂汗を必死にハンカチで拭かれながら、ドニ様がわたしたち……いえ、メリユ様の前に跪かれる。
「いやはや……ぉ、御見逸れいたしました」
はあ……まだ、そんなことをおっしゃられるの?
神に認められていらっしゃるのはもちろん、今や聖女猊下として、セラム聖国にとっても最重要警護対象となっておられるメリユ様に、非礼を重ねられるなんて!
「ドニ様、それも十分に不敬ですわ」
「は、も、申し訳ございませんっ!!
伏してお詫び申し上げますっ!」
ドニ様は、メリユ様のお立場を本当にご理解されていないよう。
もしこれがセラム聖国の教皇猊下であったなら、今のような言動が出ることはなかっただろうと思う。
きっと、より不敬にあたることのように、言葉一つですらもっと慎重に選ばれるはず。
今のメリユ様の見た目だけで、これほどまでに軽んじられるだなんて……今更ながら王国における貴族令嬢の立ち位置を見せられたように思う。
「メグウィン様」
メリユ様は、わたしを止めようとされるけれど、せめてもう一言だけは言っておきたいの。
「ドニ様、メリユ様は王国のビアド辺境伯令嬢としてのお立場に加え、対外的には、セラム聖国中央教会の教皇猊下と並び立たれる地位におわせられます。
そして、神よりご神命を賜れる唯一の聖女猊下であらせられます。
この意味、お分かりになられますでしょうか?
場合によっては、聖国側で罰せられる可能性もございますので、ご注意いただければと存じます」
わたしがドニ様に警告をお伝えした途端、ドニ様の御顔が真っ青になられる。
そもそも、メリユ様は、セラム聖国中央教会の認定すら不要で、この世界=地上で一番敬意を払われなければならない聖女様であらせられると言うのに。
メリユ様は、お立場をもっとご自覚なさった方が良いと思うのだわ。
「ははあ、此度の非礼、深く謝罪申し上げます。
ど、どうか、不敬罪だけは、ご、ご容赦いただきたく」
ついに平伏されるドニ様。
セラム聖国中央教会の教皇猊下への不敬と同じ扱いとお聞きになって、今更ながらご自身のなさったことを把握されたようね。
はあ、こんな光景を見せられるのも幾度目になるのかしら?
「ドニ様、あなたは、わたしたちのような年頃の女性をどのようにお思いでしょう?」
「ぃ、いえ、それは」
「あなた方のような屈強の兵士の方々に護っていただくしかない、か弱い存在だとお思いでしょうか?
花を愛で、恋愛話に花を咲かせるしか能のない女の子供だとお思いでしょうか?」
ドニ様の偏見が全て間違いだとは言わない。
わたしがうんざりしてきた貴族令嬢たちは、本当にそのような感じだったもの。
自分たちが貴族家当主としての重責を担うことはないと安心し切ったかのように、貴族の一員として最低限の責務すら放棄したかのように振る舞う彼女たちを見ていれば、そういう考えに至ることも理解できない訳ではないわ。
けれど、わたしだって、お兄様のご政務をお手伝いできるようにと努力はしてきたし……何より、王国の未来、いえ、世界の未来、安寧のために誰よりもご尽力されてこられたメリユ様を軽視されるだなんて、到底許せることではないと思うのよ。
「いえ、そのようなことは、ございません」
孤立無援な状況に置かれ、不敬罪に問われるかもしれないという状況では、そのようにお答えされるしかないのだろうと思う。
ご自身が助かりたいがために、この場を乗り切りたいがためにつく嘘でしかないだろうと感じる。
「メグウィン様、そのくらいで」
「メリユ様」
はあ、メリユ様ったら、もう……結局は全てをお赦しになられてしまわれるのだから。
「ドニ様も、どうぞお顔をお上げになってくださいませ」
「いっ、いや、しかし……」
周囲にセラム聖国の聖職貴族の方々がいらっしゃるのもあって、ドニ様はお顔を上げようにも上げられない状況になっていらっしゃるよう。
まあ、少しは反省されるのが良いだろうと思うのだけれど。
「ドニ殿、聖女猊下のお言葉は素直に受け取られた方が良いかと思いやすぜ」
「……ゴディチ様」
お優し過ぎるメリユ様を除いて孤立無援の状況になられていたドニ様だったけれど、ここでアファベト様が動かれる。
「ここにゃ、聖女猊下に心酔されてる方々しかおられねぇんでさあ、ドニ殿も、くれぐれも気を付けられた方が良いかと思いやすぜ?」
「いやはや……か、かたじけない。
武人同士の、諫言痛み入る」
アファベト様がドニ様の手を取られ、立ち上がらせられる。
しかし、そのドニ様のお言葉には、アファベト様の表情も少し硬くなったのだ。
「はは、諫言ついでに言わせていただきやすが、そちらの聖女猊下は、オドウェイン帝国の工作兵をお一人で無力化されたお方なんで、武人と言うなら、この場の誰よりも武人と言えるやもしれませんぜ?」
「まさか……!?
で、では……本当にマルカお嬢様をも、ぉ、お救いされたのが、せ、聖女猊下だと!?」
ドニ様……そのお話を聞かれて、信じていらっしゃらなかったのね?
「だから、そうだと言っているの!
どれだけ、不敬を重ねるつもりなのかしら!」
マルカ様がぷりぷりされる中、メリユ様だけが苦笑いをされて、まあまあと宥められている。
「まあ、武人たるもの、見た目で判断しちゃいけねーってことでさあ。
聖女猊下は、どんなお姿でいらっしゃっても、神兵様並みのお強さであらせられるんでねぇ」
「そ、それほどとは……」
「いや、ははは……畏れ多くて、あっしなんて、この通り、手が震えてきちまうほどなんで。
ドニ殿も、いずれ聖女猊下のご活躍を拝見されりゃ、お分かりになりやすって」
アファベト様がご自身の小刻みに震えられている御手をお見せになられる。
「アファベト様っ。
はあ、とにかく、不敬罪に問われることはございませんので、ドニ様、どうぞご協力いただければと存じます」
今はこれほどまでにかわいらしいお姿であっても、アファベト様のおっしゃる通り、メリユ様のお力は変わられていない。
メリユ様の、本当のお力を知っておられるだけで、このようにアファベト様も変わられたのだわ。
「か、重ね重ね失礼いたしました。
寛大なるお心遣い、感謝いたします!
マルカお嬢様のご救出、ゴーテ辺境伯領軍を代表し、心よりお礼申し上げます」
場を収めようとされるメリユ様に、立ったまま深く頭を下げられるドニ様。
メリユ様が、本当にマルカ様をご救出された恩人だとご理解されて、見る目も変わられたようね。
まあ、でも……曇った殿方の目を澄ますのに、これほど時間を取ってしまうとは……今後もメリユ様にご活躍いただくのに何かしら対策が必要になるのかもしれないとわたしは思ったのだった。
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