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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第192話 聖国アディグラト家令息、神の目による監視の任に就き、悪役令嬢の優しさを知る

(聖国アディグラト家令息視点)

聖国アディグラト家令息は、軍議後、神の目による監視の任に就き、悪役令嬢の優しさを知ることになります。


[『いいね』、ブックマークいただきました皆様に心からの感謝を申し上げます]

「それでは、これより『神の目』による監視、状況分析の任に就かせていただきます」


「わたしも聖騎士団の聖騎士団先遣一個中隊のオブザーヴァントとして、先触れ等動きの監視の任に就かせていただきます」


 軍議が終わり、僕は『神の目』によるオドウェイン帝国先遣軍の監視に、姉上は聖国側の動きの監視に当たることになった。


 身の引き締まる思いとは、まさにこのことだろう。


 使徒様、いや、聖女猊下のご聖務にこのように携われるだなんて、自分は今、神話の登場人物の一人になっているも同然なのだから。


「お二人とも、何卒よろしくお願い申し上げます」


「「はっ」」


 隣をちらりと見れば、姉上がいつも以上に凛々しいお姿で、聖女猊下を前にカーテシーをされていらっしゃる。

 まさか、姉弟二人でこうして活躍の場を与えていただけることになるなんて、数日前の僕はきっと信じられなかったことだろう。


 本来ならば(ご神意に背いた)アディグラト家の一員として罰せられるべきだったというのもあるし。

 毛嫌いしていた頭でっかちな姉と並び立つなんて絶対にあり得ないと思っていたし。

 何より、(今は)自分より幼く見えるご令嬢(=中身は元使徒ファウレーナ様)のお言葉に従うというのも考えられなかったことに違いない。


「「それでは、失礼いたします」」


 姉と共にゴーテ卿の執務室を出て、警護のアファベトと合流する。

 歯を見せ付けるようにニヤニヤと笑いかけてくるアファベト。

 もしかして、今の僕たちの言葉が聞こえていたのだろうか?


「くくっ、なかなか良いお顔をされてらっしゃいやすぜ、坊ちゃん」


「嫌味かよ?」


「いやいや、ちっと前の坊ちゃんなら、お嬢だけでなく、同年代の嬢ちゃんたちなんて平気で見下されやしたでしょう?」


 おい!?

 何てことを言い出すんだ、アファベトは!

 同世代のお嬢様方というのは、聖女猊下はもちろん、ウヌ・クン・エンジェロのお二方も含んでいるだろうに、あまりにも不敬過ぎる!!


「そうそ、その顔ができりゃあ、いっちょまえの男でさあ」


「アファベト、お前、誰に聞かれているかも分からないのに、言葉を慎んでくれ。

 そりゃあ、お前の言うことも分かるが、今の僕は、『人』を見た目で判断したりしないんだ」


 聖女猊下に至っては、幼い頃より夢にまで見た使徒様の生まれ変わりで、そのような特別なお方と僕は言葉を交わしているんだぞ!

 せっかく夢が叶ったっていうのに、今更女だ男だと騒ぎ立てる訳がないだろう!


「いやー、あっしも肝に銘じて、見た目じゃ判断しねーって心に決めやしたぜ。

 今や使徒様も、神兵様もどんなお姿でご降臨されるか分からねぇ時代になっていやすからね」


「はあ、聖女猊下の専属侍女殿を、聖女猊下ご本人と勘違いしたお前にだけは言われたくないぞ」


「ははは、こりゃ失敬」


 いや、本当に笑いごとじゃないんだが。

 戦闘となれば頼もしいはずのアファベトだが、意外と見た目に囚われているところを感じてしまうしな。

 ウン・クン・エンジェロのお二方は、聖女猊下がどんなお姿を取られていても、何の迷いもなく見つけ出されているというのに!


「しっかし、お嬢、聖騎士団先遣一個中隊は間に合いやすかねぇ?」


「そうね、オドウェイン帝国の動きがこれ以上早まるなら、間に合わなくなる可能性はあるわね」


 はあ、軽口を叩いたかと思えば、真面目な話に急に切り替えやがって。

 まあ、こういうヤツだから、ある意味、信じられるというところもあるんだが。


 しかし、アファベトの言う通り、聖騎士団先遣一個中隊ははたして間に合うのだろうか?


 瞬間移動という特別なお力でミスラク王国のゴーテ辺境伯領にまで一瞬で飛んで来られた自分たちと違い、聖騎士団は兵站等の荷物も抱えて街道を移動してきているんだ。

 姉上の言う通り、間に合わない可能性については十分に考慮しておくべきなのかもしれない。


「まっ、聖騎士団の連中が間に合わねぇとしやしても、聖女猊下のお力がありゃ、何とかなるんでしょうがねぇ」


 お?

 珍しく、アファベトが低い声で真面目なことを言っている。

 それだけアファベトも聖女猊下のお力の凄まじさについては認めているということなのだろうか?


「アファベト?」


「はあ、あっしは心底怖ろしいと思っていやすぜ。

 いや、もちろん、最大限の敬意を払ったの上のことではありやすがね、ありゃ、本当にこの世で一番神のお力に近ぇもんですって!

 加減を間違えりゃ、聖都ケレンだけじゃねぇ、領、いや、国一つが丸ごと吹き飛んでもおかしくねぇって思っていやす」


 (ゴクリ)

 アファベトが本気でそれを言っているのを感じ取って、僕は思わず(口の中に溜まっていた)唾を音を立てて飲み込んでしまっていた。


 いや、アファベトの言っていることも(何となくだが)分かるんだ。


 もし聖女猊下が何かの事情で御心を乱され、お力の加減を間違われるようなことがあったとき、どれほどのことが起こるのか?


 『時』の止められた世界で、僕は、聖女猊下が聖都ケレンで発現された、神よりのご警告すらどれほどのものであったのかを正しく理解できたつもりだった。

 別邸で体験したことはもちろん、姉上からも詳しくお話を聞き、『人』の身では到底なせないような奇跡だったのだと、単純に分かったつもりになっていた。


「アファベト、それほど、なのか?」


 しかし、あのアファベトはここまで深刻に捉えているということは、聖女猊下のお力は使い方を誤れば、僕が思っていた以上に大変なものになるということなのだろう。


「正直、今のあっしじゃ、聖女猊下ご本人の前じゃ、前のように軽口は叩けねぇんです。

 いや、もう、タダ平伏しちまうって言いやすか、震えが止まらねぇんでさあ」


 ……なるほど、専属侍女殿に相対して思わず平伏してしまったのも、聖女猊下にそれだけの畏敬の念を抱いてしまったからということか。

 最大限の敬意は払っていても、そのあまりにも強大過ぎるお力を前に畏怖すらも覚えてしまうということなのだろうな。


「坊ちゃんもお聞きになりやしたでしょう?

 川を堰き止めていたって言う、この領城より大きな土砂の塊を一瞬で消滅させ、地上に雲が現れ、暴風は吹き荒れ、大木が全て薙ぎ倒されたって言うんですぜ?

 神のお力ってのは、きっと『人』が考えているよりもずっと凄ぇものなんでさあ」


 確かに……その話は詳しく聞いた。

 ハラウェイン伯爵領にとっては、領を危機に陥れた元凶が消えるという奇跡……しかし、見方を変えれば、特定の対象を消滅させることのできる、神罰にもなり得るとんでもないお力だ。


「せ、聖女猊下が、そのようなお力を『人』に直接向けられるとは思わないが」


「ええ、そりゃああっしも同意しやすぜ。

 タダ、その聖女猊下には、神がご神意として、指示を出されてるんでしょう?

 経典にあったように、過去にゃ『神隠し』なんてこともあったって言う以上、神がそこまで甘いご存在とは思えねぇんでさあ」


 そう、言われればそうかもしれない。

 ご神命として、オドウェイン帝国を消し去れということになったとき、どれほど慈悲深い使徒様=ファウレーナ様であられても、それには抗えないことだろう。


 ぃ、いや、待て!

 よく考えてみろ!


 そもそも聖都ケレンのことだって、神ははたしてあの程度のご警告で済まされるおつもりだったのだろうか?

 聖教会の御膝元、神への信仰を集めるセラム聖国中央教会で、聖職貴族があのようなことを仕出かして、神隠しの一つも起きていないなんてこと、あり得るのだろうか?

 ご警告にしたって、夜が昼になり、数刻暑くなった程度で済まされて良いものだったのだろうか?


 あれだけの不祥事、経典での神罰の例を考えれば、あまりにも甘過ぎるのではないだろうか?


「やはり……聖女猊下が介入されていらっしゃったのか?」


「坊ちゃん?」


「ディキル?」


「姉上、アファベト、僕らは神が使徒ファウレーナ様の生まれ変わりであられる聖女猊下を通して、直接介入を決められたと、タダそう理解していたけれど、はたしてそんな単純なことなのだろうか?」


 聖女猊下は、神の地上への介入そのものに、ご介入され、たったの『人』一人すら神のもとに召されるようなことになるのを避けられ続けているのではないだろうか?


「はあ」


 何てことだ。

 過去にも『人』を愛された使徒ファウレーナ様らしいと言えばそう……なのだろうが、いくらなんでもあまりにお優し過ぎる!

 いくら元『人』ではなかったのだとされても、そのご負担はいかほどのものなのか、そんな心配をしながら、僕は姉上とアファベトに僕の考えを伝えたのだった。

『いいね』、ブックマーク、ご投票でいつも応援いただいている皆様に心からの感謝を申し上げます!

仕事納めまで多忙でしたもので、更新をお待たせしてしまい申し訳ございません!!

年末年始の用事も多うございますが、何とか更新を再開してまいりたく存じますので、何卒よろしくお願い申し上げます!!

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