第189話 悪役令嬢、決意を新たにする
(悪役令嬢視点)
悪役令嬢は、ダーナン子爵令嬢と別れた後、決意を新たにします。
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本物のヒロインちゃん=メルーちゃんの登場と、悪役令嬢メリユのメルーちゃんへの変身。
ゲームテスターとしては、その意味を考えずにはいられなかった。
今メリユは、メルーちゃんから譲渡されたHP(“Holy Power Point”)を使って、メルーちゃんの姿で奇跡を引き起こそうとしている。
そう、見た目には、本編のメインヒロインであるメルーがこの世界に奇跡を齎すという構図になるのよ。
多分、これがタダの偶然ってことはないわよね?
世界の因果律とか、修正力だとか、そんな何かが、メルー、メルーちゃんが聖女としてこの世界に奇跡を起こしたことにしようと、今のこの現実を捻じ曲げようとしているのではないかしらん?
ついそんな風に考えてしまう。
「まあ、こういう展開になってきたら、よくあるパターンだものねー」
本当にやってくれるわ、多嶋さん(もしくはシナリオライターさん)!
おかげでよく寝られなかったじゃない!
明らかにこの世界の異分子であるメリユの活躍を、メルーちゃんの活躍に書き換えるために、敢えてクラウドにメルーちゃんのアバターデータを置いていたとか?
まあ、わたしが見付けたら、即刻メリユに適用にするのは目に見えていたものね?
やっぱり、多嶋さんはわたしを自分の掌の上で踊らせるつもりだったということになるのかしら?
「唯一の救いは、メグウィン殿下とハードリーちゃんが、わたしを……ううん、メリユをちゃんと見てくれているということか」
…………。
キス、キスか。
まさか、メグウィン殿下、ハードリーちゃんからあんな風にキスされることになるだなんて。
わたし=メリユは、あの二人からそんなに慕われるほどに仲良くなっていたのね?
今までテスターしてきたゲームと違って『選択肢』というものがないエターナルカームの世界。
いえ、(もう一つの)リアルと言って良いわよね。
何せ『選択肢』の候補が画面に表示されることもなく、タダわたしの一語一句、一挙手一投足が『登場人物』たちとの関係を紡いでいっていたのだもの。
アドリブで、わたしの乙女ゲー・ゲーマーとしての経験と勘だけで勢い喋り続けて、見習いスクリプターとしてスクリプトを書き続けて、二人、ううん、周囲の皆の気持ちを動かして、わたしはここまで来たのよね?
「なんか、信じられないな……」
今わたしの左腕は、メグウィン殿下の右腕と腕を組んでいて……。
今わたしの右腕は、ハードリーちゃんの左腕と腕を組んでいて。
本当に片時も離れようとしないほど、わたし=メリユにべったりだ。
すぐ近くにメルーちゃん本人がいても、わたしの目をまっすぐに見詰めてきてくれる。
ここまでされて、何も感じないなんてことある訳ないでしょう?
ゲームだったら好感度マックスまでいっちゃってると思う。
それほどまでに、友情も、信頼も、親愛も、高まっちゃってるってことだよね?
「それだけじゃない」
周囲でわたしたちを護衛してくれている女騎士さんたち。
アリッサさんやセメラさんなんて、メリユが下手にメグウィン殿下たちに近付かないよう(辺境伯令嬢相手に失礼にならない範囲で)あしらおうとしてくるくらいだったのに。
……今は、敬意を払ってくれるだけでなく、命を懸けて守ろうとしてくれるなの。
何より、視線を合わせると、微笑んでくれるどころか、とても大切な相手だと思ってくれているみたい。
ここにいる皆だけじゃないわ。
ここにいない(大事な用で席を外している)マルカちゃん、サラマちゃん、ルーファちゃん、ディキル君たちだって、わたし=メリユと特別な関係を築いていると思う。
本当なら正しく絡むはずのないカーレ殿下やソルタ様とだってそう。
「わたしがメルーの姿のままであっても、皆は、わたしが誰で何をしてきたかを知ってくれているんだ」
うん、そうよね。
世界の修正力が、メルーちゃんの活躍を望んだとしても、わたし=メリユのしてきたことを知っている『人』たちは変わらない。
わたし=麗奈という『人間』が、してきたことは、なかったことには、ならない!
多嶋さんは、わたしを操ろうとしてきたけれど、わたしは、わたし。
わたしのしたことが、決めたことが、エターナルカームの世界を変えてきたんだ。
「わたし、もう少し、自信を持って良いのかな?」
今やっていることは、筋書きを知った上でやるゲームプレイなんかじゃない。
タダ用意された(複数ある)『選択肢』を前に、うんうん唸って、プレイするアルファ版ゲームなんかじゃない。
わたしはやりたいようにやってきた。
世界を変えるために、自分でコーディングして、自分の責任でそのスクリプトを実行してきたのよ。
全ては、わたしの意思と、わたしの力。
確かに、多嶋さんのヒントに従ったこともいくつかあったけれど、元の筋書き=ベースシナリオなんて無視して、突っ走ってここにいるって自信が、今はある!
「だいたいさあ、多嶋さん、わたしがこんなにメグウィン殿下やハードリーちゃんたちと仲良くなれるなんて思ってなかったでしょ?」
それに、多嶋さん、多嶋さんたちは、きっとわたしたち=乙女の気持ちなんて分かっちゃいないんだ。
その乙女パワーがどうこの世界に炸裂するか。
そして、この世界がどんな風に生まれ変わるか。
多分、全然分かってない!
「そうよね、今のわたしが、ここにこうしていられるのも、わたし自身の積み重ねてきたものがあってこそよね」
だいたいさあ、この歳で、テスター兼スクリプター見習い的な感じになれてるって時点で、どれだけの犠牲があったと思ってんのよ?
高校で情報科に行ってたって、『情報Ⅰ』の授業で勉強できることなんて知れてるし!
そもそも、同調圧力強い女子の中で、ばりばりにコーディングやってる女子なんて浮きまくりなのよ?
色々女子高生時代に、JKらしさ捨てて、この業界一直線に頑張ってきたわたしを舐めないことね?
ふふん、わたしに管理者権限とスクリプトを実行し放題なコンソールを渡した時点で、この世界がどうなってしまうか、見ているがいいわよ!
わたしは、HMDを少しずらして、既読の付かない多嶋さんとのトーク画面を眺めながら、ニヤッと笑うのだった。
お待たせしてしまい申し訳ございません、、、
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理系女子ファウレーナさんの決意を新たにするところを見ることができましたね。
情報系学科は、男子女子関係なく人気がございますが、やはり、理系ばりばりの女子って今でも少し肩身が狭いと言いましょうか、まだそれなりの覚悟が必要なように思うのです。




