第187話 ダーナン子爵令嬢、悪役令嬢と幸せな朝を迎える
(ダーナン子爵令嬢視点)
ダーナン子爵令嬢は、悪役令嬢と共に朝を迎えて、幸せな気持ちに浸りつつ、悪役令嬢を自身と血の繋がった姉としてその人柄を見詰め直します。
[『いいね』、誤字脱字のご指摘、ブックマークいただきました皆様、厚くお礼申し上げます]
とても幸せな夢を見たの。
あたしにあたしそっくりなお姉ちゃんがいて、とっても凛々しくて、格好良くて、強くて、頼もしくて……とにかく、見た目はこんなに似ているのに、中身は本当にお姉ちゃんで、ずっと甘えていたの。
もちろん、お母さんがいてくれるだけでも幸せなことだと思っていたけれど、年近いお姉ちゃんがいるのってこんなにも嬉しいことなんだって思ったの。
「お姉ちゃん……」
あたしは、お姉ちゃんの腕にしがみ付いて、その体温を感じて、安心するの。
ああ、こんな時間がずっと続いてくれたら良いのに。
そんな風に思ったの。
「……おはようございます、メグウィン様、ハードリー様」
でも、それまでずっとあたしがしがみ付いているのを受け入れてくれていたお姉ちゃんに動きがあって、あたしは夢の世界から現実へと戻ってきたんだ。
あたしの声のようで、少し音程が違っているような……お姉ちゃんの声。
今あたし、夢から目覚めちゃったんだって気付いて、少しゾッとしちゃった。
もしお姉ちゃんの存在自体が夢幻だったら、どうしようって思っちゃって……けど、お姉ちゃんの腕はちゃんとあたしの絡めた腕の中にあって、夢と同じように安心する香りがしていたんだ。
良かった。
お姉ちゃんはちゃんといてくれた。
ぼんやりする意識の中、あたしは誰かと話しているお姉ちゃんを見詰める。
これは……ハラウェイン伯爵令嬢様=ハードリー様だったかしら?
「今更冗談だなんておっしゃられても困りますっ!
メリユ様、左頬にさせてくださいまし!」
なぜだか少し必死な雰囲気のあるハードリー様のお声に、あたしはハードリー様と向き合われているお姉ちゃんが珍しく恥ずかしがっているのに気付いちゃったんだ。
一体、『左頬にさせて欲しい』ってどういうことなんだろう?
そんな風に思っていると、ハードリー様がベッドに手を突かれて、ベッドを軋ませながら、ご自身の上半身をお姉ちゃんに近付けていって……キスをしていたんだ。
お母さんにしてもらったことはあったけど、お貴族様の、親しい女の子同士でもこんな風にキスするものなんだ。
あたしはそんな風に思いつつ、自分も……されたいと思っちゃったの。
だって(特別なお友達なのは分かっていたけれど)ハードリー様とお姉ちゃんがキスしているのに、血の繋がったお姉ちゃんとあたしがしていないなんて、不公平だもんね?
「お姉ちゃん……ずるーい、メルーもぉ」
寝ぼけた頭であたしは思わずそうお姉ちゃんに甘えてしてしまっていた。
そう、きっと、あたしは夢が続いているような気分になっていたのだと思う。
こんなにべったりくっ付いていても、許してくれる甘々なお姉ちゃん。
そのお姉ちゃんにキスをせがめば、ハードリー様と同じように、お姉ちゃんもあたしにキスしてくれるんだと自然に思っちゃっていたんだ。
「おはよう、メルー。
メルーもキスして欲しいの?」
「んー」
優しくあたしの頭を撫でてくれるお姉ちゃんは、あたしそっくりなお顔で優しく微笑んで、そう言ってくれたんだ。
もちろん、あたしは……ねだるように、お姉ちゃんの腕を更に力強く抱き締めてしまっていた。
「ふふ」
チュッ
そして、お姉ちゃんはあたしに顔を近付けて、キスをしてくれたんだ。
そう、右頬にお姉ちゃんの唇が触れる感覚があって、あたしは、お母さん以外の人から……ううん、もう一人の家族からキスしてもらえたんだって、とっても幸せな気持ちになって、目を覚ましちゃった。
あたし、今、お姉ちゃんからお目覚めのキスしてもらっちゃった!!
夢じゃないんだ!
あたしの命の恩人で、家族で、もう絶対に手放したくないお姉ちゃんがこんなに近くにいて、あたしを大切にしてくれてる!
昨日の出来事は本物で、あたしに本物のお姉ちゃんができたんだって、あたしはベッドの上でゴロゴロ転がり出したい気持ちになりながら、キスしてもらった右頬を押さえていたんだ。
うん、夢じゃなかった。
お姉ちゃんの専属侍女(?)の方や、ハードリー様、そして、王家の侍女の方々によって、お姉ちゃんとあたしはそっくりな服装に着替えていた。
これも……畏れ多くもゴーテ辺境伯令嬢様……ううん、マルカ様だっけ、からお借りしたものなんだって。
状況によっては、聖国の正装に着替えることもあるとか何とか……もう信じられない思いだよ。
うん、何が一番信じられなかったかって、ハラウェイン伯爵令嬢様であられるハードリー様に髪を(寝る前に解いていた髪を)三つ編みにしていただいたこと。
そりゃあね、あたしがするよりもずっと丁寧に、綺麗に三つ編みにしてくださったんだけれど、してくださっている間中、あたし緊張しっぱなしだったよ。
傍にお姉ちゃんがいなかったら、途中でバターンって倒れちゃっていたかも。
「………豪勢過ぎる」
そして、朝食もね、銀食器でね、凄く豪華で、一体どこの商会の重鎮様の接待なんだろうってくらいに凄かったんだ。
……で、あたしの食べる食事にも、毒見がちゃんとされていたし、あまりにも仰々しくてびっくりしちゃったよ。
いくら辺境伯令嬢様をされているとは言っても、堂々としているお姉ちゃんはさすがだなあって思っちゃった。
こんなにあたしにそっくりなのに、お姉ちゃんのカトラリーの使い方はとっても上品で、見惚れちゃった。
あたしも……一応は教えられていたけれど、あんな風にはできないかなあ。
何しても、お姉ちゃんが素敵過ぎて、困る!
「どうかしたの?」
なんか……お姉ちゃんの周りに光の粒が舞ったように見えたんだけれど、気のせい、だよね?
あまりにも優しくしてくれるから、お姉ちゃんが使徒様みたいに見えちゃったよ。
本当に、生まれ付きのお貴族様でも、こんな『人』がいるんだなってジーンってきちゃった。
あたしだって、それなりの商会の孫娘だもん。
お貴族様との取引きで、あんなことがあった、こんなことがあったって話はもちろん、嫌な噂話だって色々知っているんだから。
普通だったら、多分、いくら多少血が繋がっているとはいえ、商家出のお母さんから生まれたようなあたしなんて相手にもされないと思う。
お姉ちゃんとあたしくらいに、血の繋がりが薄かったら……命がけで助けようだなんて思うはずないのよね?
それなのに、お姉ちゃんは、あたしを大事にしてくれているのが分かるし、ちゃんとあたしのお姉ちゃんであろうとしてくれているのがはっきりと分かるの。
これってそうそうあり得ることじゃないと思う。
「ううん」
神のお導き、か。
本当にそうなのかもしれない。
これはきっと運命なの。
お姫様……第一王女殿下=メグウィン様、ハードリー様にもあんな好かれるような『人』があたしのお姉ちゃんで、あたしを命の危機から救い出してくれて、そして、またあたしもお姉ちゃんを聖なるお力(?)で手助けできたっていうんだから、お姉ちゃんとあたしは切っても切れない『縁』で結ばれていたってことで良いのよね?
こんなあたしでもお姉ちゃんのお手伝いができるなら、何だってしたいって思う。
既にあたしはこんなにも助けてもらっているんだから、あたしもお姉ちゃんの支えになれるっていうなら、何でもするよ!
だから、お姉ちゃんの妹でも、それこそ、遠い親戚の子ってことでも良いから、これからも傍にいさせてくれたらなって思ったんだ。
『いいね』、誤字脱字のご指摘、新規にブックマーク、ご投票で応援いただいている皆様方に、厚くお礼申し上げます。
さすがは、ヒロインちゃん、悪役令嬢メリユの人柄をしっかり見てくれているようでございますね!




