第186話 ハラウェイン伯爵令嬢、目覚めた悪役令嬢こそが世界の希望であるのを確かめる
(ハラウェイン伯爵令嬢視点)
ハラウェイン伯爵令嬢は、目覚めた悪役令嬢こそが世界の希望であるのを確かめます。
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メグウィン様のキスでお目覚めになられたメリユ様。
髪の色も、ご尊顔も、ご体型ですら、メルー様になられていらっしゃいますのに、メリユ様がゆっくりとお目を開かれた途端、お部屋の空気が少し変わり、カーテンの隙間から雲間から漏れ出た日差しがすぅっと差し込んでくるのが分かります。
まるで、何かの奇跡でも見ているかのように気分になって、わたしは思わず息を呑んでしまいました。
……いえ、奇跡などではないのでしょう。
メリユ様こそ、本当に神に祝福されし聖女猊下なのですから。
タダお目覚めになられただけでも、世界にこれほどの影響を齎されるお方。
もしそんなメリユ様に何かあれば、世界が『無』に戻るというのも頷けるように思います。
メリユ様こそがこの世界の希望であり、光そのものと言って良いと思うのです。
「……メグウィン様」
微笑まられ、頬を染められるメリユ様から(ご変身のときのような)光の粒が一瞬舞ったように見えました。
何て可愛らしい。
ええ、メルー様になられてから、メリユ様は年相応の少女らしさが戻ったように思えます。
もちろん、何かが違うとは思うのですけれど、これはこれで……と思ってしまいそうになってしまいます。
「おはようございます、メリユ様」
「おはようございます、メグウィン様、ハードリー様」
そっとメグウィン様にキスされた右頬を押さえられるメリユ様。
……おそらく、キスをされたご自覚はあるのでしょう。
何かこう……ずるいと思ってしまいます。
どうせならわたしだって、したかったですのに!
「あの、ハードリー様もなさいます?」
ドキッとしました!
…………わたし、そんなにキスしたいみたいな顔になっていたのでしょうか?
うぅぅ、何てはしたない。
ですが、この気持ちを抑えることはできそうにありません。
「……いえ、冗談です」
はにかまれるメリユ様。
いくらなんでも可愛過ぎでしょう!
これで『冗談』だなんて言われても、引っ込みが付きません!
「今更冗談だなんておっしゃられても困りますっ!
メリユ様、左頬にさせてくださいまし!」
「ハードリー様?」
心の臓が高鳴るのを感じながら、わたしは、メグウィン様がキスなさったのとは反対側の左頬にチュッてしてしまったんです。
いつものお花の香りはしませんが……はい、(昨日の汗臭さとは違って)良い香りがしました。
メリユ様の柔らかい頬の感触が唇に残って……ああ、わたしはこのお方のことが大好きなんだなあって思ってしまいます。
「………」
顔を離して、目を開いて……メリユ様が更に真っ赤になっているのを目にして、胸が苦しくなってしまいました。
あの凛々しさはどこに行ってしまったのかと思ってしまうくらい、初々しいです!
いえ、ですが、よく考えてみてください?
これまでずっと親しいご令嬢の友人を作られることもなく、辺境伯領でご聖務に励まれていらっしゃったメリユ様にとって、同世代の、これほど近しい間柄になったお相手は、きっとわたしたちが初めてのことでしょう。
そう、親愛キスであろうと、それ以上であろうと、孤独にご活躍されてこられたメリユ様にとっては特別なものであるに違いないのです!
「ハードリー様、相変わらず大胆ですわね……」
「はい!?」
先にされたはずのメグウィン様に生暖かいで見詰められて、わたしは動揺してしまいます。
そ、そんなにもわたし、大胆なことをしているように見えたのでしょうか?
確かに……城下に下りて、商家の女の子とお話していたときに、婚約者の男の子にぐいぐいこられて困るというお話を聞いたように思いますが……もしかすると、わたしもそんな風になっていたりしたのでしょうか?
「うぅ、メグウィン様、先になさっておいてそれはないです」
「ごめんなさい」
苦笑いされるメグウィン様。
でも……メグウィン様は、ごく自然にキスされていて羨ましいです。
メリユ様があんなに真っ赤になって俯かれるのですから、きっとわたしはぐいぐい迫っていってしまうタイプなのかもしれません。
メリユ様に、引かれてしまったらどうしましょう!?
「お姉ちゃん……ずるーい、メルーもぉ」
「ひゃっ!?」
突如(いつの間にかお目覚めになられていた)メルー様の視線に気付き、飛び退いてしまうわたし。
「おはよう、メルー。
メルーもキスして欲しいの?」
「んー」
メリユ様があのお姉様らしい口調に戻されて、寝ぼけていらっしゃるご様子のメルー様の頭を撫でていらっしゃいます。
どう見ても仲の良過ぎる姉妹のようで悔しいです!
どうせなら、メリユ様にも一度で良いので、わたしにもなっていただきたいです!
「「って、ああ!!」」
油断していたところに、メリユ様がごく自然な感じでメルー様の頬にキスされ、メグウィン様とわたしは思わず悲鳴を上げてしまったのでした。
メルー様のおかけで聖なるお力をご回復されたメリユ様はすっかりお元気になられたようで、ミューラ様とわたしでお着替えをされて大広間で朝食を取られました。
そんなメリユ様の御髪は、わたしが三つ編みにして差し上げまして、他の方にもよく分かるよう、メルー様とは逆サイドだけにしたんです。
右側頭部を三つ編みにされているのがメリユ様。
左側頭部を三つ編みにされているのがメルー様。
これで誰でも見分けが付くでしょう。
とても良い仕事をしたと思います!
朝食は、サラマ様、ルーファ様、ディキル様もご一緒されたのですが、護衛で付き添われていたアファベト様がまたミューラ様をメリユ様と勘違いして慌てて跪かれ、ミューラ様も大混乱に陥られて笑ってしまいました。
「はあ」
まあ、アファベト様のことは良いのですが。
ディキル様の、メリユ様をご覧になられる視線が気になります。
あれだけ不敬なことをされておいて、今更なんなのでしょうか?
胸の中がむかむかしてくるのを感じます。
いえ、『人』のことは言えませんね。
わたしも……メリユ様にあんな酷いことをしてしまったのですもの。
ハラウェイン伯爵領のために駆け付けてくださったメリユ様を誤解して、頬を打ってしまうとか、本当に最低だと思います。
………もしかすると、ディキル様に対するこの気持ちは、同族嫌悪的なものなのかもしれませんね。
そして、朝食を終えられ、少し休憩されたメリユ様は、以前ゴーテ辺境伯様に『神の目』をご披露されたあのお部屋に皆を連れられ、ディキル様にその『神の目』を託されたんです。
「こ、これは………」
「これが神の目でございますわ」
ディキル様のあの驚かれよう。
どうでしょう、凄いでしょう?
難なく、神より託された特別なお力をお使いになられるメリユ様。
最初はわたしも驚きのあまりどうにかなりそうでしたけれど、今では、自分のことのように誇らしく思ってしまいます。
メリユ様の前では、どれほど高貴なご身分の、歳を召されたお方であっても、その神々しさと圧倒的なまでのお力に跪きたくなってしまうのですから!
そう、身分も、年齢も、性別すらも関係なく、誰であれ、メリユ様というご存在には、敬意を払わずにはおられないのです!
もちろん、メリユ様を間近に拝する機会を得られなければ、お分かりになられないでしょうけれど。
「帝国の方々も、メリユ様が聖なるお力を振るわれるところをご覧になられれば……きっと」
そう、メグウィン様がおっしゃられた通り、この戦を止めるためには、オドウェイン帝国の皇帝陛下をどうにかしなければならないのでしょう。
その皇帝陛下に、このメリユ様のご存在を知らしめることさえできれば、その神々しさに戦を取り止めてくださるに違いありません!
ええ、今なら言えますとも!
わたしは、メリユ様に付いて、オドウェイン帝国に行くことだって怖くありません!
世界の暗雲すら吹き飛ばされるに違いないメリユ様。
わたしはそんなメリユ様にずっと付いていくと決めたのですから!
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