第184話 ハラウェイン伯爵令嬢、昨夜のことを思い出し、考える
(ハラウェイン伯爵令嬢視点)
ハラウェイン伯爵令嬢は、ゴーテ辺境伯領の貴賓室で目覚め、昨夜のことを思い出して色々考えてしまいます。
[『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]
目を覚まして(見覚えはあるものの)見慣れない天蓋に戸惑い、ここがゴーテ辺境伯領城だと気が付いて、わたしはすぐ猊下=メリユ様を探していました。
わたしの隣で寝ていらっしゃったのは殿下=メグウィン様で、その向こうにメルー様のお姿のメリユ様が寝相良く寝ていらっしゃるのを確認できて、わたしはホッとしたんです。
昨夜のその前の夜はまだ聖都ケレンにいたわたしたち。
寝台が変わっても、隣にメリユ様やメグウィン様がいらっしゃるのに慣れてしまって、お二人がいらっしゃらないと寂しくてどうにかなってしまいそうです。
ディレクトロ デ サンクタ アドミニストラードというお役目を賜り、セラム聖国中央教会からのお墨付きも得ている今、わたしがメリユ様のお傍にい続けることはできると思うのですけれど、何かしらの都合で……お二人と離れ離れになり、一人で寝台で横になったとき、わたしはその寂しさに耐えられるのでしょうか?
本当にいつもすぐ手の届くところにメリユ様がいらっしゃるのが当たり前になってしまって、昨日なんてキスをしたいなんて衝動を……。
「っ!」
そして、ふとわたしは昨夜寝る前にメリユ様のの頬にチュッとキスをしてしまったことを思い出してしまい、思わず自分の唇を押さえてしまったんです。
そうでした。
ついにわたしはやってしまったんです。
いえ、もちろん、先にメグウィン様がキスされたのもあって、もう我慢できなくなって、チュッてやってしまったんですけれど、今になって恥ずかしさが倍増してやってきたかのようです。
「……どうしましょう?」
メリユ様は決して嫌がってはいらっしゃらないご様子でしたし……わたしの気持ちを受け取ってくださったようではありましたけれど。
はい、その先がどうなるのかが……分かりません。
タダ、とにかく恥ずかしく、今日一日メリユ様の御顔を真正面から見れないかもしれませんね。
本当に……ある意味、メリユ様がメルー様にご変身されていて良かったのかもしれません。
もしメリユ様のままのお姿だったなら、もっとドキドキして、大変なことになっていたように思うんですから。
「それにしましても」
メルー様のお姿での寝顔。
可愛らしいとは思うのですけれど、やはり……『これじゃない』、と言いましょうか、どうにもしっくりきません。
中身がメリユ様なのはすぐに分かるのですけれど、別人のお姿になられているのだなあと思ってしまって、早く元に戻っていただきたいなと思ってしまうんです。
いえ、何より、メルー様が同じお姿で本物の姉妹のようにくっ付いていらっしゃるのを見ていますと、どうにももやもやしてきて落ち着かない気持ちになってきてしまうのですよね?
どうにも、メリユ様を取られたと言いましょうか、後から掻っ攫われ…………はあ、何をわたしは考えているのでしょうか?
「聖なるお力のことを考えましたら、今暫くこのお姿でいらっしゃることになってしまうのですよね」
メルー様からの譲渡により、完全にご回復されたメリユ様の聖なるお力。
オドウェイン帝国の魔の手がすぐそこまで迫っている今、その先遣軍を追っ払うまで、メリユ様はメルー様のお姿のままでいることになってしまうのは仕方のないことかと思います。
ですが……メリユ様がメルー様のお姿でご活躍されることで、メルー様のご評価は上がるでしょうが、メリユ様が正当なご評価を得られなくなってしまうのではないでしょうか?
既に我がハラウェイン伯爵領でも、年上のお姿でのメリユ様が救世主様のように皆の目には映ったはずなんです。
今度はゴーテ辺境伯領で、メルー様のお姿でのメリユ様がそのように映り、メリユ様ご本人は(元のお姿に戻られたあと)誰からも感謝されないような状況になるのではないでしょうか?
ええ、分かっています。
メグウィン様やカーレ第一王子殿下、サラマ様、ルーファ様、ディキル様、マルカ様……メリユ様のご正体を知っておられる皆様はちゃんとメリユ様に感謝することでしょう。
「はあ」
ですが、聖女様として振る舞われているメルー様のお姿のメリユ様を見た、情報を制限されている方々はメルー様こそが聖女様だと思うことでしょう。
それこそ、メルー様の像を作ろうなんて声すら上がるかもしれません。
逆に……メリユ様の像を作っても、誰も本当の貢献者であられるメリユ様とは気が付かないのではないでしょうか?
メリユ様は……ご自身の名声なんて、求めていらっしゃらないのでしょうけれど、わたしはそんなの納得できないです。
だって、悔しいではありませんか?
このままでは、メリユ様は救われた多くの方々から正しく感謝の気持ちを向けられることすらないのですよ?
「ハードリー様、もう起きられたのですか?」
「で、メグウィン様!」
突然メグウィン様からお声をかけられ、わたしはびっくりしてしまいます。
思わずまた『殿下』って言いかけてしまいました。
「また、『殿下』と呼ぼうとされましたでしょう?
今度やったら、昨夜みたいにくすぐりの刑に処しますよ?」
「お許し……いえ、ごめんなさい」
「ふふふ」
はあ、メグウィン様、寝起きですのに相変わらず鋭いです。
……それにしましても、メグウィン様ともこんな関係になるとは思いもしませんでした。
もちろん、メグウィン様から妙にご評価いただいて、友人になって欲しいっておっしゃっていただいて、表面上、それなりには仲良くなれたようには思いつつ、それでもやはり畏れ多いという気持ちが強かったのですけれど、メリユ様を……ご一緒に看病していた辺りから本音で言い合える関係になったと思うのですよね。
「……それにしましても、昨夜、わたしたち、メリユ様にキスをしましたでしょう?」
「はい!?」
メグウィン様もそんなことを言い出されるのですか!?
「親愛のキスとは言いましても、考えてみれば、同世代の親しい友人の、ご令嬢とそういうキスを交わすこともございませんでしたのよね」
「あ、は、はい」
そうですね。
家族に兄弟姉妹とかいれば、そういうのもありそうですけれど、確かにわたしも同年代のお友達にキスをしたことはなかったです。
はい、はぃ、メリユ様がいかにわたしにとって特別なのか分かってしまう、です。
「ふふふ、昨日はハードリー様のお気持ちの強さもしっかりと確認させていただきましたわ」
「ぃ、いえ、はぃ!?」
「あれほどはっきりとわたしへの対抗意識を見せられていましたのに、そんなに動揺されるだなんて」
ぃ、いえ、メグウィン様は可笑しそうに笑われますけれど、わたしだって、まだこの気持ちを自分の中でどうまとめれば良いのか分からないんですよ?
メグウィン様はもしかして、わたしより先に、しっかりとご自身の気持ちをまとめ上げられていらっしゃるのでしょうか?
わたしは少し羨ましく思いながら、メグウィン様を見詰めてしまうのでした。
いつも『いいね』、ご投票で応援いただいている皆様方、厚くお礼申し上げます!
また新規でブックマークいただきました皆様、誠にありがとうございました!
ハードリーちゃん視点で続行するため、少し時間が戻っております。
次話で183話以降の時間になります。




