第177話 王女殿下、自分の本当の気持ちに気付いてしまう
(第一王女視点)
緊急会議を終えた第一王女は、悪役令嬢のもとにむかいながら、自分の本当の気持ちに気付いてしまいます。
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ゴーテ辺境伯様やお兄様との緊急会議を終え、わたしは、メリユ様たちが休まれていらっしゃる貴賓室へと向かっていた。
今夜は、メリユ様、ハードリー様、メルー様、わたしで同室になる。
セラム聖国の聖都ケレンで過ごした時間がそれなりに長かったこともあって、(新参の)メルー様とご一緒になるのに少しばかり抵抗を感じているみたい。
その上、メルー様ご救出のせいで、メリユ様がまたご変身なさってしまったのに、少しばかりがっかりしてしまっているわたしがいる。
そう、だって今夜こそは、いつものメリユ様に寄り添ってご一緒に寝ることができると思っていたのだもの。
「メリユ様のことになると、心が狭くなってしまうみたいね」
「殿下?」
「ううん、何でもないわ」
いけない。
ご聖務のときは、メリユ様のご負担にならないように、お邪魔にならないようにと思えるのに……ご聖務からご解放されたメリユ様を独占したいという願望を抑えきれなくなってきているような気がするの。
メルー様がメリユ様を『お姉ちゃん』を呼ばれたとき、わたしは間違いなく嫉妬してしまっていた。
ご救出のためにメリユ様のお姿まで変えさせ、その上、メリユ様に(実の姉のように)甘えるメルー様を見て、わたしは焦りを覚えてしまっていた。
ええ、メリユ様とお兄様がご結婚されることで、メリユ様が義理とはいえ自分の姉になられるのに期待してしまっていたわたしがいたのも事実で……メリユ様がわたしのお姿になられたことで、本物の姉妹の間柄になれるのではないかと期待してしまっていたわたしがいたのも事実。
「メルー様が、急に出てこられたりするから……」
遠縁とはいえ、イスクダー様の血を引き、同じように神より聖女と認められたメルー様。
その上、メリユ様がメルー様のお姿になられることで、聖なるお力を共有されることすらも可能だなんて、わたしじゃとても太刀打ちできない。
もちろん、メルー様とわたしでは、できることに違いがある。
わたしだからこそできることだってあるのは分かっている。
それでも、ぽっと出のメルー様に、メリユ様とわたしの心の絆すら横取りされるような、嫌な感覚を覚えてしまうの。
「わたしは……メリユ様とどうなりたいのかしら?」
メリユお姉様、メリユ姉様、年上のメリユ様、同い年のメリユ様。
そのときどきで、表面上の関係性すら変えられるメリユ様に甘えてしまっていたのは事実。
そう、わたしはメリユ様に、これまでずっと抱いてきた願望をぶつけてしまっていたのかもしれない。
お姿を変えられようとも、見た目のお年が変わられようとも、メリユ様とわたしの絆は不変だと思い込んでしまっていたから、今まで我慢していたものをメリユ様にぶつけてしまっていたのかもしれない。
そして……そうすることで、メリユ様を『人』の身に、御心に、留まらせることができるなら、良いことなんだって信じ込んできたのだわ。
「でも……」
それでも、メルー様のおかげで、目を覚ますことができたのかもしれない。
わたしは……多分、別にメルー様のように、血の繋がりのある姉が欲しい訳ではないのよ。
……ううん、少しはあるのかもしれないけれど、本質はそうじゃない。
王城で潜っていたときに、メリユ様が聖なるお力をご行使されるのを見てしまったあの瞬間から、わたしは運命を感じていたの。
メリユ様が魔法使いかもしれないと思ったときから、わたしは自分の世界が大きく変わっていくのを感じていたの。
メリユ様のなされてきたこと、一つ一つに、わたしはどれほど大きく心を揺すぶられてきたことか。
何より、メリユ様がわたしの身代わりになられたと知ったときに、わたしは自分の全てをメリユ様に捧げなければならないんだって思ったのよ!
「メリユ様の妹でも、親友以上の存在でも、何でも良かった……はずなのに」
立場は何だって良いはずだった。
ええ、もちろん、補佐役としてお役に立てることだって、この上なくうれしいことなのだけれど、今はそうじゃない。
大・大・大好きって。
ハードリー様も好きだけれど、メリユ様への思いなら、そのハードリー様にだって絶対負けないくらいにわたしの方が大好きなんだって言いたいくらいなの。
「わたし……」
そうね。
わたし、わたしは、多分メリユ様のいない世界じゃ生きていけないくらいになっていると思う。
もし、もしメリユ様に万が一のことがあったなら、わたしは絶対に後を追ってしまうと思うの。
メルー様のお力の譲渡だけじゃ足りなくて、メリユ様のご自身のお身体を代償にお力のご行使をなさって、メリユ様のご存在がこの地上から消え去られたとき、世界は全ての色を失って、わたしは絶望するに違いないと思うの。
ハラハラすることばかりだけれど、常に光り輝くものを纏われ、世界を彩られるメリユ様のお傍にいられるから、わたしはこんなに元気でいられるのだもの。
「たとえ、オドウェイン帝国を跳ね除けて、平和な世界になっても、メリユ様のお傍にいたい。
そうよね……きっと、『添い遂げたい』っていうのは、こういうことを言うのだわ」
………。
添い遂げる?
わ、わたしは一体、何を考えているのかしら?
あまりにも大きな困難を前にしているのは分かっているし、それを乗り越えて、メリユ様との絆を深めたいとは思ってはいるけれど……添い遂げるって………ええ、そういう意味なのよね?
わたし、わたしの、自分を全て捧げたいという思いは、そういうものだったのかしら?
恥ずかしい!
頬がとても火照ってくるのを感じてしまう。
今は、とてもメリユ様を直視できそうにないわね。
どうしよう、まさか、こんな気持ちに気付いてしまうことになるなんて。
それでなくとも、ゴーテ辺境伯領に、王国に危機が迫りつつあるというのに、わたしはちゃんと補佐役が務まるのかしら?
わたしは熱い思いと、少しの不安を抱えながら、貴賓室へと戻ったのだった。
「……ハードリー様?」
貴賓室に戻ったわたしを待ち受けたのは、メリユ様に(先ほど以上に)べったりとなられているハードリー様だった。
ご救出直後は、それなりにべったりだったメルー様以上のべったりさに、メルー様すら苦笑いされながら、寄り添われているくらい。
……一体、何があったのかしら?
「メグウィン様、お疲れ様でございます」
「メグウィン様、お帰りなさいまし!」
メリユ様にご不快そうなご様子はないけれど、むしろ、わたしの頬が少し引き攣ってしまうのを感じてしまう。
「ハードリー様、何か、あったのでしょうか?」
「いえ、わたしの好きが何なのかに気付いてしまいまして」
ど、どういう意味なのかしら?
ハードリー様、そのご表情では、恋する乙女そのものでは?
わたしは、ハードリー様のお気持ちを察しながら、一歩出遅れたような気分になってしまうのだった。
※休日ストック分の平日更新です。
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添い遂げたい……とは、そういうことなのでございましょうね?
ヒロインちゃん=メルーちゃんの登場により、メグウィン殿下も悪役令嬢メリユとの関係を見直すことができたようでございますね!




