第175話 王女殿下、緊急会議に出席して、事の顛末を説明する
(第一王女視点)
第一王女は、緊急会議に出席して、事の顛末を説明します。
[『いいね』、誤字脱字のご指摘いただきました皆様に深く感謝申し上げます]
メリユ様とメルー様のお食事のあと、メリユ様抜きの緊急会議が開かれることになった。
メリユ様が倒されたオドウェイン帝国の手の者たちが捕縛されたという報せに加え、メリユ様とメルー様についての情報共有も必要なのだから当然のことだろうと思う。
メリユ様に同道し、セラム聖国へ赴いたわたしたち以外は、メリユ様が『時』を止められた世界でどれだけのことをされたか、詳しく知らされていないこともあって、ゴーテ辺境伯様やお兄様たちにも今度こそ説明が必要だろう。
そう、ゴーテ辺境伯様やお兄様、ソルタ様たちにとっては、まだメリユ様がご到着されて一日も経っていないのだ。
にも関わらず、これほどの事態が続けざまに発生し、さぞかし混乱されていることだろう。
体感時間では、ゴーテ辺境伯領到着から数日が経っているわたしたちですら濃密に感じられた事象の数々。
その中で一番動かれていたはずのメリユ様は、よく心労で倒れられないものだと思ってしまう。
「……そうですか。
メリユ様は、メルー様と聖なるお力をご共有されることが可能と」
「ええ、それも、メリユ様がメルー様にご変身されていることがご前提のようで……どうやら、神はそのためにメリユ様にメルー様のお姿を下賜されたようなのでございます」
緊急会議が予定されている応接室で、わたしはサラマ様やルーファ様に(先に)情報共有をしておく。
神がどういうおつもりでスペアをご用意されたのか、最初は神への警戒心が勝って、憤りを抱いてしまったのだけれど、神もメリユ様の状態には相当にご配慮されているよう。
まさか、メルー様に与えられたお力をメリユ様に譲渡されることが可能とは、今でも驚きを隠せない。
「では、メリユ様のご変身は?」
「ええ、今現在、それについてのご神託はなく、万が一にでもご変身を解かれることで、譲渡された聖なるお力が失われてはいけないということで、当面メリユ様はメルー様のお姿を取られることに」
「なるほど、せっかく完全にご回復されたのですから、今のこの状況で聖なるお力を失う訳にはまいりませんものね」
ルーファ様もわたしたちが話し合って決めた決断に同意してくださる。
本当にそう。
既にオドウェイン帝国の手の者がイバンツで動き出している以上、いつメリユ様が動かれなければならなくなるか分からない。
最悪の場合、『時』を止めて休んでいただくという手もあるけれど、あまりに頻繁に『時』を止めるのもいかがなものかと思えるし、ここは神から下賜されたご支援をありがたく頂戴するのが良いのだろう。
「しかし、メリユ様と同格の聖女猊下がもうお一人、神より認められるとは。
聖史にも残る一大事でございますね」
「ええ、わたくしは所詮、セラム聖国中央教会が認定した、つまりは『人』が勝手に認定した聖女に過ぎませんが、神が直接ご認定された聖女猊下がお二人も現れるとは、驚きを禁じ得ません」
サラマ様はご自身のことを卑下され過ぎではないだろうか?
此度の一連の事情の予兆、前兆というべきものは、サラマ様がご神託を賜ったことから連なるもの。
神も決してサラマ様のことを軽んじられている訳ではないと思う。
それでも、メルー様がコンソールをご使用になられたことは、わたしも驚愕せずにはいられなかった。
やはり、聖なるお力の譲渡可能な聖女様をスペアとして用意するというだけでなく、万が一の場合、メリユ様と同等の権限を持たせた聖女に代理をさせるという面があるのも確かだろう。
「はあ」
神がメリユ様が最重要視されているとはいっても、メリユ様はあくまで『人』であられるの。
やはり、メリユ様がお命を落とされるような事態が絶対にないとは言い切れないということで、神も備えられていると考えるのが良いのかもしれない。
「それで、ハードリー様は?」
「今もメリユ様のお傍に。
『時』が止められている世界ですら、こっそり動かれてしまわれるお方ですもの。
加えて、此度のメルー様のこともあって、絶対に少なくとも一人はお傍にいるようにしようと決めたのですわ」
「『時』を止められている世界で?
ああ、ディキルにこっそりお会いされたときのことでしょうか?」
「ええ、ご自身で何かできることを見付けられるとすぐに動かれてしまうのですもの。
その上、今や心配かけないように『身代わり』までご用意される有様ですから、それでしたら、メリユ様が把握された事態を共有できるよう、そして、メリユ様のご意思を確かめられるよう、誰か一人常に付いているのがよろしいでしょう?」
「なるほど」
「そうでございますね」
「それに、ハードリー様もその方が本望だと思いますから」
絶対にメリユ様のお傍から離れないと宣言されたハードリー様。
お食事をお済みになったメリユ様の腕をギュッとされていたときのご表情が今も忘れられない。
メリユ様の補佐役として、会議に出席しなければならない立場になければ、わたしがメリユ様のお傍にずっといたいところではあったけれど、今の立場を考えれば、仕方のないことなのだろう。
「カーレ第一王子殿下、ゴーテ辺境伯閣下、ご入来」
扉の方に移動していたハナンがそう告げ、応接室の扉を開ける。
そして、疲れたご様子のお兄様に続いて、ゴーテ辺境伯様がご入室される。
ソルタ様は……おそらく、晩餐会で皆の動揺を抑えるために残られているのだろう。
「すまない、捕縛された帝国の工作兵たちの詳報を受け取っていて遅くなった。
「殿下、猊下、皆様、お待たせいたしました」
お兄様とゴーテ辺境伯様がお席に着かれると、すぐに情報に触れることのできる限られた侍女たちがお茶を入れていく。
「どうやら、領都にいる工作兵たちは全員、あの白い手枷、足枷で捉えられたようだ。
偽聖女見習いたちが科せられたのと同じ、破壊不能な、聖なる枷というべきものだな」
「ええ、メリユ様がなされたことでございますね」
「はあ、オドウェイン帝国の侵攻をお知らせいただいたのに続き、領都での動乱まで事前に防いでいただくとは。
聖女猊下には頭が上がりませんな」
ソルタ様からのご報告に加え、『神の目』で事態を詳しく知ることになったゴーテ辺境伯様も、此度の事態で、帝国の侵攻が身近に迫りつつあるのを実感されたのだろう。
お顔が少し青褪められているのが分かる。
「それで、ゴーテ辺境伯様、お兄様にご報告しなければならないことがたくさんございます。
メリユ様には事前にご了承いただいている内容ではございますが、かなり秘匿度の高い内容となりますので、ご注意いただければと存じます」
「承知いたしました。
こちら側の侍女たちは、下がらせることにいたしましょう。
シーナ、全員すぐに下がらせなさい」
「はい、領主様、ただちに!」
メリユ様のご正体を明かされているゴーテ辺境伯領城の侍女の方々が退室されていく。
さすがに、メリユ様とメルー様に関する内容は、ハナン、アメラたちくらいにしか聞かせられないだろう。
「メグウィン、それほどの内容なのか?」
「ええ、お兄様。
聖都ケレンでの事象に加え、此度メリユ様が保護されましたお方につきましては、神がどれほど本気で望まれているか分かるほどのことでございますので」
「神が?
どういうことだ?」
扉がハナンによって閉められ、ハナンが頷くのを確認して、わたしはゴーテ辺境伯様とお兄様に、事の顛末をお話することになったのだった。
「いやはや……何と」
「まさか、経典に記されるような事態が進行していたとは。
神がメリユ嬢を代理にして、聖都ケレンに警告をくだされ、メリユ嬢の代わりの聖女まで認定されるとは……『時』を止められていたとはいえ、我々にとっては、半日も経たない内に信じ難いほどの事象が連続して起きていたのだな」
最後にメルー様のご説明を終えたところで、ゴーテ辺境伯様とお兄様が疲れ果てたように、お席に座り直される。
特に聖都での事象は、数日分の内容も含んでいて、お二人には、情報量が多過ぎたのかもしれない。
「しかも、メルー嬢が、メリユ嬢と同じく聖人イスクダー様の血筋とは。
我が王国がこれほど聖女に恵まれることになるのは、王国始まって以来初のことだろう」
「ええ、メルー聖女猊下につきましては、早急にセラム聖国中央教会として認定を急いでおります。
何せ、神が直接お認めになられている訳でございますから、この時点で既にメルー聖女猊下は教会側の警護対象になっているというご理解でよろしいかと」
「つまりは、メリユ嬢もメルー嬢も、派遣されることになっている聖騎士団先遣一個中隊の警護対象であると?」
「はい、間違いございません。
もしお二人に刃が向けられるようなことがあれば、相手がオドウェイン帝国の者であれ、ミスラク王国の者であれ、容赦はいたしません。
もちろん、自国のミスラク王国側の方から刃が向けられるような事態はないものと信じておりますが」
「それが聞けただけでもありがたい。
少なくとも二人が聖国の庇護下にもあるとなれば、帝国も手出ししづらいことだろう」
そうね。
王国の陣地に、サラマ様に加え、メリユ様とメルー様も聖国中央教会の最高位の警護対象者として『いる』ということになれば、帝国側も攻撃をしづらいことだろう。
攻撃すれば、それはすなわち聖国への宣戦布告であるのも同然なのだから。
「タダ、それを理解せず……いえ、それ以前に神からお二人が聖女認定されていることを認識せずに、暗殺に及ぼうとする者が出ないとも限りません。
領都イバンツに滞在中だった工作兵は捉えられたかもしれませんが、新たに暗殺者を向けられる可能性もございますので、お二人の警護は相当厳重に行う必要がございましょう」
「ええ、特にメリユ様には、砦前のバリア展開用の供物を設置させていただく際、外に出ていただく必要がございます。
その際には不可視のバリアも張り、念には念を入れる必要があるかと存じますわ」
わたしも補佐役として、補足しておく。
バリアなしの状態では、メリユ様も容易に暗殺されかねない。
もちろん、近傍警護の皆は身を挺して守ることだろうけれど、それ以前に万全の態勢を取っておく必要があるだろう。
「そう、だったな。
供物の設置か。
今回の防衛の要になる大事なものだから、急ぎ準備せねばな」
「はい、メリユ様のご回復を待って行う予定でございましたが、メルー様からの聖なるお力の譲渡で、ご回復されていらっしゃいますので、明日にも、設置を開始する予定でございます」
「メグウィン、よろしく頼む」
「承知いたしました、お兄様」
お兄様からここまでまっすぐに信頼の籠った視線をいただくのはいつ以来だろう?
いや、初めてのことかもしれない。
何しても、ゴーテ辺境伯領、そして、ミスラク王国の防衛には欠かすことのできないものなのだから、ここから正念場と言えるだろう。
きっと、わたしの人生においても、一番の大きな仕事になるに違いない。
これもそれもメリユ様のおかげ。
本当ならば、とっくに失われていたわたしの命を、メリユ様に救っていただき……それに加えて、こうして、王国防衛の要のご準備まで手伝わせていただけるなんて、考えただけでも胸が熱くなる。
きっと、わたしの幸運は、全てメリユ様が齎されたに違いないと思ってしまうのだった。
『いいね』、誤字脱字のご指摘、ご投票いただきました皆様に深く感謝申し上げます!
悪役令嬢メリユとハードリーちゃん抜きの緊急会議で、メグウィン殿下、説明のみならず、色々活躍されているようで何よりでございますね




