第174話 悪役令嬢、驚愕の事実を知る
(悪役令嬢視点)
悪役令嬢は、驚愕の事実を知ってしまいます。
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『まあ、そうだね……表向きはそうしておかないと説明が付かないだろう?
その辺りの考察はファウレーナさんに任せるよ』
退社前の多嶋さんから引き出したあの言葉。
何て言えば良いのか、あのときの多嶋さんの口調には『なんかもういいや』って感じの、投げやり感、的なものを覚えてはいたのだけれど……まさか、多嶋さん、イベントスキップを完全に止めちゃうとか、どういうつもりよ!?
本当にね、ヒロインちゃん=メルーたん、いえ、メルーちゃんとして、湯浴みイベントがそのまま進行してしまったから、あまりの衝撃にオタ人格もぶっ飛んじゃったわよ!
そりゃ、わたしも女だから問題はなかったけれど、HMD越しとはいえ、見えちゃいけないものが見えちゃっていたし、メグウィン殿下もハードリーちゃんもわたし=メルーの湯浴みを手伝うってベッタリだし、ああ、もうどうにかなりそうだったわよ!
わたしが一人の女子、女性として、彼女たちと一緒に過ごしたって意味では問題ないのかもしれないけれど、正直、一般公開不可なイベントが有機ELパネルに表示されちゃうとか、本当に多嶋さん、わたしに対して異世界で進行しつつあるイベント、包み隠さず、全部見せるつもりで……これまであった制限を全部取っ払っちゃったとでも言うの?
「メリユ様、御髪の湿り気があらかた取れましたら、お食事にされますか?」
今もわたしにぴったりと寄り添ってタオルで、メルーちゃんと同じマリーゴールドな長髪の湿り気を丁寧に拭き取ってくれているハードリーちゃん。
そして、メルーちゃん本人と、わたしの間に挟まるように、いえ、割り込むように座られているメグウィン殿下。
うん……わたしの待遇、完全にヒロインのそれだわ。
二人ともメルーちゃん本人に対しては、まだ心を許していないって感じよね?
まあ、わたしがメルーちゃんのせいで緊急出動したみたいに勘違いされているみたいだから、(被害者とはいえ)メルーちゃんと仲良くしたいとは思えないのかもしれない?
「メリユ様?」
「あ、ごめんなさい、それでは、お願いできるかしら、ハードリー様」
「はい」
「ハナン、ミューラ様たちにメリユ様とメルー様用のお食事の準備をお願いして頂戴」
「はっ」
てきぱきと、メグウィン殿下がハナンさんたちに指示を出して、ハナンさんが部屋の外へと出ていく。
うん、セラム聖国じゃ夕飯を取っていなかった訳だから、メリユが食事を抜くという訳にもいかないわよね?
ま、連続した時空的には、晩餐会前にわたしが部屋食を先に取ったことになっているから、領城の人たちには変に思われるかもしれないのだけれどねー。
何にせよ、メルーちゃんの食事は必要な訳で、今のわたしの見た目もメルーちゃんなのだから、何とでも誤魔化しようはあるだろうさね。
「すぅ、はあ……それで、メリユ様、今のお力の残量をお教えいただけますか?」
わたしが考え事をしていると、何か、こう思い詰めた様子のハードリーちゃんがわたしの目を覗き込むようにして、そんなことを尋ねてこられる。
ああ、そうね。
HP(“Holy Power Point”)が今どうなっているのか、ハードリーちゃんが気にするのも当然よね?
「ええ、少々お待ちくださいませ」
えっと、前はMPのつもりでコマンド設定していたはずだけれど、結局『聖力』残量ってことでHPに切り替えしたんだっけ?
聖力、聖力ねぇ。
「“Show console”
“Show HP status”」
ヒットポイントではないのであしからず。
はい、一、二、三。
シュンとわたしの手元に青いガラス板のようなコンソールが現れ、
“HP: 100 % (Fully charged)”
という表示が……は、はあっ!?
「ちょっ!?」
「「メリユ様!?」」
あまりにも信じられない数値に、動揺を抑えきれなかったわよ!
何が“100% (Fully charged)”よ!?
そんな訳ないでしょ!?
「メリユ様、どうなさったんですか!?
お力の残量が、そ、そんなに深刻なご状態だったと!?」
どうどう、ハードリーちゃん、落ち着いて!
いや、わたしが一番落ち着けてないかもしれんけど!
バグ……じゃないわよね?
ちゃんとミューラのVRMxをメリユアバターに適用していたときも問題はなかったはずだし……メルーちゃんだから、何かあるってことは……!?
「メリユ様、一体何がっ?
ご数値はどうなっているのでしょうか?」
あー、メグウィン殿下もちょっと待って欲しい。
これが、うん、もしバグでないとしたら………もしかして、メルーちゃんのVRMxのメリユアバターへの適用によって生じたもの?
あ……メルーちゃんって、バグで管理者権限使えるアクターになっているのよね?
ということは、メルーちゃんもHP管理の対象になってる!?
「メルー、こちらに来てもらえるかしら?」
「お姉ちゃん?」
ミューラの下についているメイドちゃんに髪を拭いてもらっていたメルーちゃんがメグウィン殿下越しに顔を覗かせる。
当然のわたしの言葉に、メグウィン殿下も驚かれて、メルーちゃんとわたしを交互に見ているよう。
「え……お姉ちゃん、その浮いているガラス板って?」
「ええ、これはコンソール。
神からのご神託を受けたり、色々な命令の執行の許可を取ったりできるの」
「それって、魔法の板ってこと!?」
目を輝かせるメルーちゃんに、
「「魔法じゃありません!!」」
メグウィン殿下とハードリーちゃんが即座に否定する。
「すみま、も、申し訳ありませんっ!
えっと、魔法じゃないって、どういうこと、なのでしょう?」
「メリユ様がお使いになられているのは、神より与えられし聖なるお力。
お伽話に出てくる魔法とは別ものなのですわ!」
「神より与えられし聖なるお力……すごい!」
いや、まあ、それは置いておいて!
「メルー、あなたもおそらく、その力を使えるはずなの」
「ほ、本当に!?
お姉ちゃん、冗談を言っているんじゃないよね?」
「もちろん、本気よ」
まだ絶対とまでは言い切れないんだけれどね。
「メルー、耳を貸して。
わたしの言った言葉をそのまま呟いて」
「うん」
そして、わたしは耳を近付けてくるメルーちゃんに“Show console”って囁く。
「ショウ コンソール?」
やはり、英語コマンドは聞き慣れない発音なのか、疑問形で呟くメルーちゃん。
本当にこれで実行されるのかしらん?
でも、わたしの想像通りなら、メルーちゃんもわたしと同じ管理者権限で音声コマンドを実行できるはず。
一、二、三。
シュン!
「キャッ!??」
「「「っ!?」」」
メルーちゃんの手元に合わせて出現するコンソール。
わたしが使っているものと同じコンソールが彼女の方にも出現していた。
本当ならば、こっちの世界のアクターが使用できるはずもない管理者がスクリプト実行・表示するのに使うコンソール。
やっぱり、メルーちゃんの聖女疑惑って、管理者権限持ちだったからなのね。
本編じゃ、ほぼ機能していなかった管理者権限だけれど、こっちのスピンオフでは重要な権限、力だわ。
「ぉ、ぉ、お姉ちゃん、これって」
「メ、メリユ様、こ、これが、メルー様の」
「ええ、コンソールを使えることこそ、神に認められし聖女の証と言えるものでしょう」
「せ、聖女って!?
お姉ちゃん、本当に、あ、あたしが、聖女だって言うのっ!?」
「そうよ、わたしと同じ聖女の証。
これで神とのやり取りや聖なる力、命令の執行が可能になるの」
「(ゴクリ)」
メルーちゃんが真面目な顔になって唾を飲み込む音が聞こえる。
そりゃ、そうよね。
突然そんなこと言われても実感も湧かないだろうし、困惑して当然よね?
「それって、つまり、あたしがお姉ちゃんと同じ血を引いている証ってことだよね?」
「ええ、そういうことになるわね」
えっ!
わたしがそう返答している途中に、涙ぐんだメルーちゃんがわたしに抱き付いてくる。
「良かった、遠縁の親戚って聞いても、あたし、不安だったの。
もしお姉ちゃんとの繋がりを否定されちゃったらどうしようって!
でも、お姉ちゃんと同じ特別な力を使えているんだったら、グスッ、あたし、お姉ちゃんとちゃんと血縁があるってことで、良いんだよね?」
嗚咽して揺れるマリーゴールドの髪。
ハードリーちゃんが引いてくれて、わたしの頭から垂れる同じマリーゴールドの髪が彼女の髪と重なり合うのが見えて、何だか不思議な気持ちになる。
「ええ、そうよ。
最初からそう言っていたじゃない?」
「ね、ねぇ、お姉ちゃん。
あたし、お姉ちゃんのお役に立てるのかな?」
え……メルーちゃん、何を言って!?
言葉遣いこそ、違うけれど、それって……メグウィン殿下に対して、言うべき言葉だったんじゃないの!?
「もちろん、今だってそうよ。
ね、メルー、今から言う言葉を言ってもらって良い?」
「ぅ、うん!」
「“Show HP status”」
多分、これで全てがはっきりするはず。
どうか、お願い、わたしの予想が当たっていますように!
「ショウ エイチピー ステータス」
一、二、三。
メルーちゃんのコンソール上に表示が現れる!
そこに書かれている数値は……?
“HP: 62 %”
100%から減っている!
うん、これは多分、メルーちゃんからわたしにHPが譲渡されているんだ!
わたしがメルーちゃんの姿になることで、メルーちゃんのHPが共有状態になり、不足していたわたしの方に流れ込んでいるということで良いのよね?
「……」
「お姉ちゃん?」
「ありがとう、メルー。
どうやら、あなたから聖なる力の不足分をわたしが受け取っていたようだわ」
「「どういうことですかっ!??」」
メグウィン殿下とハードリーちゃんが我慢できなくなったように、わたしに詰め寄ってこられる。
これは、ちゃんと説明しないと開放してもらえそうにないわよね?
「実は、今のわたしの聖力ですが、完全に回復してしまっていたのです。
どうにもおかしいので、メルーにも確認してもらったのですが、メルーの聖力の残量は六割二分にまで減っておりました。
どうやら、メルーからわたしに聖力の譲渡が行われたようなのです」
「そ、そんなことが!」
「びっくりですっ!」
ハードリーちゃん、言葉遣いが……まあ仕方がないわね。
わたしですら驚きを隠せないもの。
管理者アバター、アクター間で聖力を共有、譲渡ができるだなんて。
つまり、メルーちゃんの聖力を予備バッテリー扱いできるということよね?
それも、多分だけれど、わたしがメルーの姿になっている間だけ、だと思うけれど。
どっちにしても、これはチートだわ。
多嶋さん、最初からそういうつもりで、メルーちゃんのVRMxファイルをアップしていたってことなのかしらん?
「えっと、それって、あたしがお姉ちゃんに足りない聖なる力って言うのをあげたりできるってことだよね?」
「ええ、そうなの。
ありがとう、あなたのおかげで、わたしのぎりぎりだった聖力が一気に回復できたわ」
「良かった、お姉ちゃんのお役に立てて良かったよ!
お姉ちゃんに一方的に助けてもらってばかりで、あたしが何のお役にも立てないなんて嫌だもん」
この頃のメルーちゃんってこんななんだ。
改めてそう思う。
こういうメルーちゃんが子爵令嬢として教育を受けて、学院に入学して、本編が始まって、ああいう感じになる訳ね。
うん、性格的なところは変わっていなくて安心する。
プレイヤーキャラとして、やり込んだメルーだもの。
こうでなくっちゃね。
「まさか、神は、そういうおつもりで、メルー様をメリユ様のもとに遣わされたのでしょうか?」
「そ、そうなのかもしれませんね」
困惑気味に、それでも(なぜか)少し悔しそうに呟かれるメグウィン殿下。
「お姫様、いえ、第一王女殿下、えっと、ハラウェイン伯爵令嬢様、お二人が、お姉ちゃんを今まで支えていてくださったんですよね?
本当にありがとうございますっ!
どうかこれからもお姉ちゃんともどもどうぞよろしくお願いしますっ!」
「ぃ、いえ、そんな……」
「そうです、わたしなんて」
メルーちゃんからの眩いばかりの笑顔攻撃に、メグウィン殿下、ハードリーちゃんがたじたじになっていて、さすがはヒロインちゃんだと思ってしまう。
「お二人がお姉ちゃんのことを好きって思ってくださってる気持ち、すごく、伝わってきました。
あたしはあくまで妹なので、どうかこれからもお姉ちゃんを好きでいてください」
「「なっ!?」」
………メグウィン殿下とハードリーちゃん、顔真っ赤なんだが。
え、何、どういうこと!?
メルーちゃん、何分かったように微笑んでるかな!?
この短時間の内に、メグウィン殿下とハードリーちゃんの警戒心を完全に解き切ったメルーちゃんに『さすがヒロインちゃん、怖ろしい子!』と思ってしまうのだった。
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さて、突然お話に絡んできたヒロインちゃん=メルー、とんでもない役割を担っていたようでございますね、、、
スペアはスペアでも、聖力譲渡ができるとは……これで、悪役令嬢メリユの聖力問題は解決しそうでございます!




