第171話 ダーナン子爵令嬢、悪役令嬢との関係を結び直す
(ダーナン子爵令嬢視点)
ダーナン子爵令嬢は、これまでのことをもう一度振り返り、悪役令嬢との関係を結び直します。
[『いいね』いただきました皆様、厚くお礼申し上げます]
出生の秘密。
ダーナン子爵領では、最大手と言って良いマクエニ商会の会頭のお爺様とその娘であるお母さ、お母様のもとで育てられたあたしにはお父様がいなかった。
お母様に訊いても、お爺様に尋ねてもはぐらかされるばかり。
でも、あたしだって(お母様に似ているところはあるとはいえ)マクエニ家の家系にあるお爺様や叔父様とはあまり似ていないことには気付いていた。
何より、お母様が何度か、あたしを見て、お父様の面影があるようなことをおっしゃったことがあって、あたしにもお父様の家系の血が流れているんだとは思っていた。
そして……きっと、あたしにもお父様方の従兄弟従姉妹や、もしかすると、半分血の繋がった兄弟姉妹がいるかもしれないって思ってきたんだ。
「お姉ちゃん」
そう、それでもね、できれば、お姉ちゃんがいてくれたら良いなってずっと思ってきたの。
マクエニ家の方じゃ、叔父様がまだご結婚されていなくて、従兄弟・従姉妹がいないのだもの。
マクエニ家の家系で子供と言えるのはあたしだけ。
だから、あたしはずっと孤独だった。
「はあ」
もちろん、近所の幼馴染や友達はいたよ。
その幼馴染や友達には、兄弟姉妹が多くて、家に帰る度に寂しい思いをしてきたの。
お父様が謎に満ちた存在であっても、どうせなら、お姉ちゃん、ううん、贅沢は言わないから、弟妹でも良いから、兄弟姉妹が欲しかった。
そんなあたしがお爺様に無理を言って連れてきてもらったイバンツで、悪い男の人たちに殺されそうになって、あたしはお父様のことも、お父様方の従兄弟従姉妹、兄弟姉妹のことも分からないまま、ここで死んじゃうんだって思ったとき、なんて寂しい人生なんだろうって思ったのよ。
でも、あたしは死ななかった。
そこでお伽話の勇者様のように格好良く現れたのが、あたしのお姉ちゃん!
あたしにそっくりなのに、滅茶苦茶強くて、あの大男を一蹴りでやっつけちゃって、残りの悪い人たちも魔法で身動きを取れなくしちゃったの!!
「ああ、もう、願い事が一度に全部叶っちゃったよ、お母さん」
まさかイバンツでお姉ちゃんがあたしを心配して、見守ってくれていたなんて。
だって、お姉ちゃんはあたしの出生の秘密を全部知った上で、姿を隠して、少し離れたところから見張ってくれていたのよね?
「あたしがダーナン子爵様の庶子で、お姉ちゃんが親戚のお姉ちゃんだなんて」
同じお父様のもと生まれた姉妹ではなくても、遠縁(辺境伯令嬢様?)だけれど、ちゃんと血の繋がりのあるお姉ちゃんだって聞いて、ものすごく嬉しかった!
しかも、しかもね、お姉ちゃんはすごい『人』なの。
お姫様とか隣国の聖女様とも仲が良くて、王家の影とか言う、強くてすごいお役目を担われていて、しかも王国の聖女様なんだって!
色々すご過ぎて、訳が分からないくらいなの!
「多分……うん、そうだよね」
多分だけれど、お姉ちゃんはあたしの前に姿を見せるつもりはなかったみたい。
姿を消す魔法を使って、様子を窺がってくれていたみたいなんだけれど、あたしが大変なことになっちゃったから、助けに動いてくれて……お姉ちゃんと同じ血を引いている(そういうことだよね?)あたしが(見えないはずの)お姉ちゃんを見てしまったから、あたしをここまで連れてきてくれたみたいなんだ。
カンリシャケンゲンとか、聖女様がどうのって話は分からないけれど、あたしもお姉ちゃんと同じ魔法使える一族ってことなのかな?
あたしがお貴族様の血を引いていて、しかも魔法使いで聖女様とか!
それで、こんなすごいお姉ちゃんがいるとか、あまりにもびっくりなことだらけで小躍りしちゃいそうなくらいだよ!
「メルー、一度湯浴みして、汚れを落として着替えましょうか?」
あたしがじっとお姉ちゃんを見ていると、隣国の聖女様とかお話されていたお姉ちゃんがあたしをあたしと同じ顔で微笑んでこられて、またびっくりしちゃうようなことを言ってくる。
「ゅ、湯浴みに、着替えって!?
お姉ちゃん、あたし、着替えなんて持ってきてないよ?」
湯浴みなんて、商隊で移動中だと数日に一度できるかどうかなんだよ?
今はまだ種蒔きの月だと、汗もそう掻かないから……まあ、今日は逃げ惑うのに汗掻いちゃったけど……湯浴みなんて、贅沢だと思うんだけれどな。
それに、着替えも、本当に持ってきていないし、どうすれば良いんだろ?
「大丈夫、マルカ様にお借りするから心配しなくて良いわ」
……え?
「マ、マルカ様って……ゴーテ辺境伯様のご令嬢様だよね!?」
「ええ、マルカ様に頼めば、何だって用意してくださるわよ?」
お姉ちゃんはずっとお貴族様として生きてきたから、あまり気にならないのかもしれないけど、あたしなんかがご令嬢様の服を借りるとか、考えただけで畏れ多いよ!
「メルー、あなたも貴族令嬢なのだから、本当にそんなに気を遣わなくても良いのよ?」
「でも……まだ、そんな実感も湧かないし」
「そうは言っても、今日からあなたにも護衛もつくわよ?」
……ええぇぇぇ!?
あたしなんかのために護衛の人がつくの!?
商隊での移動中、商会会頭の孫娘として守ってもらったことはあるけれど、ちょっと理解できないよ!
それって衛兵様とか、騎士様とかがつくってことなのかな!?
「ねぇ、お姉ちゃんもあたしのこと、守ってくれるの?」
「もちろんよ!
でも、一日中ずっとという訳にもいかないから、わたし以外にも護衛がつくことも分かって欲しいかしらね」
うぅ、どうせならお姉ちゃんの傍にずっとくっ付いていたいよ。
怖そうな衛兵様、騎士様とかに守られるのはちょっと。
「あ、そうだ、お姉ちゃん!
お母さ、お母様とかお爺様に、あたしが無事だって知らせたいんだけれど」
「ええ、分かっているわ。
カラマイル商会にいらっしゃるのでしょう?
ゴーテ辺境伯領軍にこの後すぐ動いていただくことになっているから、すぐに手配するわね」
ええ……辺境伯領軍の人が、カラマイル商会にいるお母様、お爺様のところに知らせに行かれたら、ものすごく大事になりそうな気がするよ。
カラマイル商会の会頭様にもあとで謝りに行かないといけないよね?
「……」
「どうかしたの?」
「ううん、あたしが無事って知らせることができるのも、お姉ちゃんのおかげなんだなって思って」
そう、そうなんだよね。
びっくりすることばかり続き過ぎて、忘れそうになっちゃうけれど、お姉ちゃんがいなければ、あたしの願い事が叶うことだってなかったんだから!
「メルー?」
あたしはあたしそっくりなお姉ちゃんにまた抱き付いちゃう。
髪の色も、瞳の色も、鼻の形も、唇の形も、何もかもがあたしそっくり。
双子のお姉ちゃんがいたら、きっと、こんな感じなんだよね?
「ねぇ、お姉ちゃんは魔法であたしとそっくりの姿になっているんだよね?」
「そうね」
「本当のお姉ちゃんはどんな感じなの?」
そう、それがすごく気になる。
遠縁ってことだから、髪の色や瞳の色はもちろん、顔立ちとかもやっぱり結構違っちゃうのかな?
あれ、そう言えば、神からあたしの姿を与えられたって聞いたと思うけれど、あれって、どういう意味なんだろう?
「うーん、髪は赤毛だし、顔立ちもあまり似てはいないと思うわ。
でも、親戚のお姉ちゃんであることは本当だし、何より神からあなたの姿を与えられたというのはそれだけ、メルー、あなたと姉妹の関係になりなさいということだと思うわ」
「待って、変身って、神から誰かの姿をいただかないと、その『人』になれないの?」
「ええ、わたしも誰にだって変身できる訳ではないの。
今はメルーを含めて、三人だけよ」
それって、お姉ちゃんがあたしの姿になっているのって特別ってこと!?
お姉ちゃんが言うように、神からお姉ちゃんに、あたしのお姉ちゃんになってって、お告げがあったってことなのかな?
「じゃ、じゃあ、お姉ちゃんとあたしが双子姉妹になったのは、神の思し召しってことなのかな?」
「ぇ、ええ、そういうことなのだと思うわ」
嬉しい、こんな嬉しいことないよ!
ふふ、あのときのお姉ちゃんも呟いていたもんね。
双子の姉妹だって!
そうなんだ、寂しがってたあたしに双子のお姉ちゃんをって、神がお姉ちゃんにあたしのお姉ちゃんとしての姿をくださっていたんだ!
「嬉しいっ!」
あたしは思い切りあたしそっくりなお姉ちゃんに抱き付き直したんだ!
※休日ストック分の平日更新です。
『いいね』、ご投票でいつも応援いただいている皆様方、厚くお礼申し上げます!
はい、メルーちゃんの中では、メリユと双子姉妹になったと、神に認められたということで(勘違い)が確定したようでございますね
さすがに悪役令嬢が(他家の)ヒロインと(変身で)双子姉妹になるのは前例がないような気が、、、




