第167話 悪役令嬢、救出したマクエニ家息女(?)と向き合い、彼女の異常性に気付く
(悪役令嬢視点)
悪役令嬢は、自身が直接救出したマクエニ家息女(?)と向き合って、彼女の異常性に気付いてしまいます。
は!? え、何起きてんの!?
わたしは突然暗がりから現れたメルーたんに、大混乱に陥っていた。
いやさ、瞬間移動後の自由落下で怪しげな大男を足蹴にしてしまってマジ焦って、とりま(行き止まりの路地の奥に)メリユくらいの女の子がいるっぽいから『悪いヤツ』だと瞬時判断して、取り合えず手足錠(?)をかけといたんだけどさ……有機ELパネルじゃ、暗くて(最初)同い年くらいの女の子ってくらいにしか見えていなかったその子がよりにもよって、メルーたんだったもの!
しかもよ、“Transparency”(透明度)0に設定しているはずなのに、メルーたん、まっすぐにわたしを見詰めてきて、声かけてきてんのよ、混乱するなって言う方が無理よ!
「あの、わ、あたし、見えてる?」
「うん、見えてる……触れてる、温かい……」
取り合えず、メルーたんに合わせて口調を変えてみたんだけれど、メルーたん、なんかすごく感激してるみたいで、だ、抱き付かれちゃってるの!?
あかん、限界化するぅ!
オタ人格、もうちょっと抑えてぇ!
「ね、あなた、あたしと血の繋がりあるんでしょ?
もしかして、お爺様からあたしが来るのを聞いてて、あたしに付いてくれてたの!?」
「え……」
「隠さなくて良いよ?
だって、お母様とか、あたしと同じような匂いするし。
もしかして、従姉妹さんだったりする? お姉ちゃんだったら嬉しいなあ」
いや、もしこっちの世界で肉体再構成がちゃんとされているなら、今や遺伝子レベルで同一人物ですわ……。
実質、一卵性双生児、双子も同然だしね。
「双子!? 今、双子って言ったよね?
もしかして、生き別れのお姉ちゃん!?」
え……今、声に出てた!?
いやいやいや、メルーたんに姉妹なんていないんだからね!
ヤバッ、またストーリー改変しかけてる!?
「あたし、知ってるんだ。
『出生の秘密』って言うの、あるんでしょ?
あなたは、あたしのこと、知ってるんでしょ?」
「うん……」
「やっぱり、それで、あたしがお姉ちゃんのことを見えているの、血が繋がってるからなんだよね!」
は、はい!?
ちょい待ちぃな!?
それはない……いや、あり得るのか?
メグウィン殿下のとき、試してないから、分かんないけど、どうなんだろ?
……あ!
まさか、メルーたん、(いないって言われてた)管理者権限所持アクターだったりしない?
メグウィン殿下の“Transparency”(透明度)0時も、あまりに見えないから管理者視界だけ、ワイヤーフレーム表示に切り替えたことあったけれど、多分、それと同じようなことになっている可能性はあるかも。
「お姉ちゃん、すごい人なんでしょ?
あの悪い人たちをあっという間にやっつけちゃって、びっくりしちゃった!
ねぇ、もしかして、あたし、さっきの人たちが言ってた『王家の影』とかいうものの血筋だったから、『出生の秘密』っていうのになっていたりするの!?」
ああああ、十一歳バージョンメルーたん、かわゆすかわゆす!
そんなに引っ付かれてると、お姉さん、限界化しちゃうのぉ!
思考力も低下するぅ!
「う……そういうことは、今は言えないかな」
「でも、あたしを守りに来てくれたんでしょ、お姉ちゃん?」
「そ、そうね」
少しだけ上半身を引いて、向かい合うわたしたち。
メルーたんになっているせいで、今は目線も完全に同じ高さで、しかも、メルーたんの瞳にメルーたんになっている自分自身が映っているとか、頭おかしくなりそうよ!
「それにしても、お姉ちゃん、あたしと同じ格好過ぎてびっくり!
何かあったときに、あたしの身代わりになってくれようとしたの?」
「うん……」
まあ、メルーたんに何かあったら、そりゃ、助けにはせ参じるに決まってるのよさ!
そのつもりで、メルーたんのVRMx、このメリユアバターに適用したんだしね。
って、え、何、急にそんなうるっと目をさせちゃって!?
「ほんっとにありがとう、お姉ちゃん!
あたし、悪い妹でごめんね、心配かけてごめんね。
影からこっそりあたしのこと、見守ってくれてたんだ!
お姉ちゃんが格好良過ぎて、あたし、どうにかなっちゃいそうだよ」
えええ、メルーたん、どうして泣いちゃってるのよ!
わたしはたまたま瞬間移動に失敗して、たまたま落ちてきて、たまたまメルーたんを助けられただけに……過ぎないんだから……?
いや、いやいやいや、そんなことってあり得る?
なんで、こんなタイミングで、また……メルーたんを助けられたんだろ?
デジャブどころじゃないよ!
直近でもさ、マルカちゃんのときも、ルーファちゃんのときも、そうだったんじゃん!
偶然で片付けられるようなこととは思えない。
実は、多嶋さんの設定した強制イベントで、ちょっとくらい指定時間や場所がずれていようと、ぴったりにわたしが飛び込めるように設定しているとか、ないよね?
「メルー……」
「ふふ、本当にお姉ちゃんなんだ。
嬉しいなあ」
まずっ、これ、そのまま進行させたらあかんヤツだわ。
さすがにお姉ちゃんと信じ込まれるのはまず過ぎるのだわ!
「あのね、メルー……あたしはあなたのお姉ちゃんじゃないんだ」
「でも、血は繋がってるんでしょ?」
「ぃ、今は……うん」
「なら、お姉ちゃんだよ!」
あかんかーっ!
確かに今は血が繋がってると言えるけれども、元のメリユに戻ったら、赤の他人だしなー。
何肯定しとるねん、あたし!
「ねぇ、お姉ちゃんはあたしのお父様、知ってるんだよね?」
「うん」
「もしかして、お姉ちゃんとあたしの家系って魔法使えたりするの!?」
「う……ん?」
ああああ、メルーたんの泣き笑顔が尊過ぎて、簡単に肯定してしまうねん、あかん過ぎる!
いや、でも、待って……魔法って、管理者権限?
そういや、メルーたん、本編で聖女と勘違いされるイベ、あったよね?
もしかして(ゴクリ)メルーたん、マジで(管理者視界で見えているってだけでなくて)本物の管理者権限持ちか?
システム上の何かしらのバグで、アクター側からスクリプト介入実行できるくらいの権限が与えられていたりとか、する?
う、これは本気で考えなきゃいけない案件だわ。
多嶋さん、メルーたんがイレギュラーアクターだと分かってて、接触させた?
しかも、このタイミングで?
うん……そりゃ、万が一に備えて、管理権限持ちが増えてくれたら、ありがたいっちゃありがたいけれど、多嶋さんがマジでどういうつもりなんだか、分かんないよ!
「あはは、困られせちゃってごめん。
言えないよね、秘密のことなんだよね?」
うう、そんな寂しそうに笑わないで。
わたしはメルーたんも仲間外れになんてしないんだから、心配しないで良いよ?
「メルー、今はちゃんと説明できないことが多いけれど、あたしと一緒に領城まで来てもらって良い?」
「りょ、領城!?
領城って、そ、その、辺境伯様とかがいらっしゃるところなんだよね?」
「うん、そう。
今は、聖国の聖女猊下とか、王国の第一王子殿下や第一王女殿下もいらっしゃるの」
「すごいっ!!
お姉ちゃん、もしかして、そんなすごい人たちに会ったことあるのっ!?」
おおう、どした!? 何!?
メルーたん、滅茶苦茶元気になったんだが!?
ほっぺた赤くしたりして、そんなに興奮するような話あったっけ?
「うん。
多分、メルーも会えると思うけど、えっと、大丈夫?」
ありゃ、自分に話が及んだ途端、急に凹んだっぽい?
どしたの、メルーたん!??
「そ、そうなんだ……あはは、ダメだ。
あたし、まだちゃんとお貴族様とお話できるような礼儀作法習ってないんだよ?
あのね、あのね、お姉ちゃんは分かっているかもしれないけど、辺境伯様か、領城のお偉い人にお伝えしなきゃいけないことがあるんだ!
だから、お姉ちゃん、あたしの代わりに伝えてもらって良い?」
あー……、そっか。
メルーたん、まだ今は商家の孫娘で、貴族の客対応できるような礼儀作法すらも習ってないのかあ。
そうだよね、子爵令嬢(庶子)だってことが明らかになってから、子爵家に迎え入れられて、貴族令嬢としての礼儀作法を習うようになって……それでも、完璧じゃなかったから、悪役令嬢メリユにあれこれ苛められることになったんだもんね。
……いや、そんなことにはさせへんが!
「ダメよ、メルー。
あなたはまた狙われるかもしれないんだから、あたしと一緒に領城に来てもらうわ。
だから、暫くはあたしと一緒」
「一緒!」
また、花が咲いたようにうれしそうに笑うメルーたんに、わたしはどうにかなりそうになってしまうのだった。
いつもご投票等で応援いただいている皆様方、大変感謝いたします!
悪役令嬢メリユ=ファウレーナさんは、プレイヤーキャラ=ヒロインである現マクエニ商会会頭の孫娘=未来のメルー・ヴァイクグラフォ・ダーナン子爵令嬢に盛り上がっているようでございますが、あくまでプレイヤーキャラとしての思い入れによる一時的な盛り上がりでございまして、(今後に渡って)浮気をする訳ではございませんのでご安心ください。
何にしましても(これで伏線回収しつつ)ヒロインちゃん=メルーちゃんも味方に取り込むことに成功したかと存じます!




