第166話 マクエニ家息女(?)、もう一人の自分に救われる(!?)
(マクエニ家息女(?)視点)
マクエニ家息女(?)は、他人の空似と言うにはあまりに自身に似過ぎている誰かに救われてしまいます。
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お爺様に無理を言って同行を許してもらった、ゴーテ辺境伯領への旅。
もちろん、我が家にとっては、ゴーテ辺境伯領都の領都イバンツにある懇意の商会で、セラム聖国のとある商家との大事な商談をさせてもらうのが目的だったのだけれど、あたしにとっては我が家の商隊に同行する初めての体験だった。
セラム聖国への巡礼者も多く、他街道比べても、治安の良いとされるキャンベーク街道の旅だったから許されたのだと思う。
だけど、安心安全なはずの旅は、波乱続きだった。
まず、ハラウェイン伯爵領内でキャンベーク川の渓谷で大きな土砂崩れが起きて、領都ハスカルで足止め。
そして、キャンベーク街道の封鎖が解かれて、通ってみれば、山の斜面がえぐれていて、祈りを捧げている巡礼者の人たちがたくさんいたの。
あたしもお祈りは捧げておいたけれど、何でも『神の奇跡』が起きたらしい。
まさか、初めての旅でこんな体験ができるなんてって、そのときは素直に喜んだのだけれど……ゴーテ辺境伯領の領都イバンツに予定日ぎりぎりで到着してみれば、セラム聖国からの商隊が例の封鎖とは関係なしに、ぷっつりと途絶えてしまっていて、どうもきな臭い噂が商人の間で流れているらしいって話だったの。
「はあ、はあ、はあ」
お爺様は、商談相手が予定通り現れなくて不機嫌だし、うちの人たちも皆イライラしているみたいで雰囲気悪いの。
まあね、『時』は金なりって言うし、商家にとっては特にそう。
滞在させていただいている商会にも迷惑をかけちゃうし、うちだってそりゃ気を遣うわよね。
でも、あたしは、同じミスラク王国のはずなのに、異国=セラム聖国の空気を感じさせてくれるイバンツを気に入って、こっそり抜け出しては探検をしていたんだけど……まさか、こんなことになっちゃうなんて!
大通りから(異国=聖国の様式も取り入れた)建物の間の狭い路地に入り込み、更に大人も入り込まないような隙間を探検していたら、とんでもない話を聞いちゃったんだ。
「はあ、はあっ、やだよ、死にたくないよ、あたしっ!」
イバンツに送り込んだ聖女見習いとその護衛との連絡が途絶えたとか。
聖国の大商会が戦の兆候を察知したような動きを、予定より早く見せているとか。
予定より大幅に早く聖女様が帰還されることになって、イバンツの領城に滞在中で、王族も同行しているせいか、情報提供者と連絡が取れなくなったとか。
聖女様が聖国内に戻ったところで、戦を始められるようにするとか。
どうしてあたし、あんな話に聞き入っちゃったんだろう!?
あれって、他国の悪い人たちだよね?
しかも、戦って何!?
商談相手の聖国の商家が現れないのは、その戦のせいなの!?
ああ、あのとき、溝に置いていた枯れ枝さえ踏んでいなければ、逃げられたかもしれないのに!
あの人たち、あたしを絶対殺すつもりだよね?
顔を見られちゃったんだもん、お爺様たちのいる商家に戻ったりしたら、皆まで巻き込んじゃう!
でも、あたしだって死にたくない、死にたくないよ!!
こんな、知らない街で逃げ惑うことになっちゃうなんて。
誰に助けを求めたら良いの!?
うん、普通に考えたら、領城にいる、領主の辺境伯様にお伝えしなきゃいけないんだろうと思う!
でも、あたしはタダの商家の娘でしかないし、うちには辺境伯家との伝手なんてない!
絶対門前払いになっちゃうよね!?
ううん、でも、衛兵の人に言ったら、助けてくれるのかな!?
「あの、小娘、どこに行きやがった!?」
「絶対に殺せ!
町娘だろうと、今のこの段階で話が漏れるのはまずい」
あたしは乱れた吐息の音が聞こえないように必死に両手で自分の口を覆いながら、近付いてくる大男たちの気配に怯えるしかない。
今いるところは、横に入った、行き止まりの袋小路。
あっちが通りかかって、こっちを振り向けば、もう間違いなく見付かっちゃう!
ああ、ごめんなさい、お爺様、お母様!
絶対に迷惑をかけないって約束で付いて来させてもらっていたのに、こんなことになっちゃってごめんなさい!
もう、あたし、ダメかもしれない!
あたしは口を必死に塞ぎながら、震えていることしかできなかった。
「はあ、はあ、はあ」
足音が、すごく近い。
あの大男、もう気配を隠すつもりもないみたいよね。
そりゃ、人通りもなくて、こんな薄暗いところなら、何しても分かんないか。
やだ、やだよ、あたし、こんなところで死んじゃうの!?
「おっ、へへっ、見付けたぜ、お嬢ちゃん。
隠れんぼはこれでおしまいかあ?」
「ひっ」
み、見付かっちゃった!
あっ、ああ、どうしようっ!?
怖い、怖いよっ!
あたし、あの大男が持っている短剣で、殺されちゃうのかな!?
「コイツ、本当に王家の影では……ないのですよね?」
「まさか、影ならもっとうまく逃げ隠れするさ。
タダの町娘で間違いないだろう」
「っ」
逃げられない!
もう、あたし、絶体絶命なんだ!
さっき、空が明るくなって、大通りの方はちょっとした騒ぎになっちゃっているし、こんな袋小路で、あたしがこの悪い人たちに殺されても、きっと気付いてもらえないよ!
うん、悪い人だって、そう分かっているから、こんなに堂々とあたしを殺そうとしているんだ。
「ご、ごめんなさい、お母様、メルーがこんな悪い子でごめんなさい」
「へっへっへ、そんな悪い子にはおしおきしなきゃいけねぇなあ」
どう見ても、王国の人間には見えない……聖国の人っぽい服装だけど、さっきの話からすると、絶対聖国以外の悪い国の悪い大男が近付いてくる。
短剣の刃が(この薄暗い小路でも)キラリと一瞬光って、あたしは恐怖に慄く。
もう多分、あたしが生きていられるのは、数を数えられるほどの間しか残されていないんだと思う。
本当にあたしは馬鹿よ!
昨日だってあんなに叱られたのに、お爺様の言い付けをまた破って、こんな悪い子だから、悪い人に捕まって殺されちゃうんだわ!
お父様がいなくても、あんなに優しいお母様がいて、こんなあたしたちを家族として大事にしてくれるお爺様もいる。
こんな幸せをもらっただけでも、神に感謝しなくちゃいけないのに、こんな好き勝手をして、こんなことになっちゃうなんて!
「ぁ、ぁ、ぁ、ぃゃ」
「今更泣き喚いたって無駄だぜぇ。
大通りの方はあの通り、空が明るくなったくれぇで、馬鹿騒ぎの大盛り上がりだ。
お嬢ちゃんの悲鳴一つくらい、掻き消されちまうだろうさ。
さっ、自分の不幸を嘆きながら、さっさと逝っちまいな」
「ひっ」
あたしが迫り来る刃に、何も考えられなくって、小さく悲鳴を漏らしたそのときだった。
真上から聞き覚えのある悲鳴のような大声が聞こえてきたの!
「……ぁぁぁぁぁあああああ」
「あん?」
目の前の大男が思わず空を仰ぎ見たそのときだった、空からあたしと同じくらいの女の子が降ってきて、なんと、その大男の顔面に着地……いえ、蹴り飛ばしの!!
「ぐへぇっ!?」
蛙を踏み潰したような声を上げて、引っくり返る大男。
その大男を倒しちゃった女の子は、華麗にもすっと小路の路面に降り立って、大男の傍にいる三人いる悪い小男たちを見回す。
あれ……あの子、まるであたし、そっくりなような?
暗くて分かりづらいけれど、それこそあたしに姉妹がいれば、こんなかなって感じがするの。
ううん、他人の空似だと思うけれど、あたしは、思わずその女の子に見入っちゃったんだ。
って、いけない!
あの子を逃がしてあげなくちゃ!
「そ、そこの……」
あたしがその女の子に声をかけようとしたとき、あたしはおかしなことに気付いちゃったんだ。
だって、あの悪い男の人たち、誰もあの子を見てないだもん!
目の前にあの大男が倒されちゃったのに、それを倒したあの女の子が目に入らないなんてことある?
「どうなってる!?」
「投石か? 一体何が飛んできた!?」
「ぃ、石なんて落ちてないぞ。
いや、そもそも、何に狙われているんだ?!」
すぐ傍に女の子が一人立っているっていうのに、まるで目に入っていないような悪い男の人たち。
一体何がどうなっちゃってるの!?
それに、あの子、全然怖がっていないし、あの悪い男の人たちに気付かれていないのを当然のように思ってる!?
あたしが混乱に陥る中、あの子はすごく落ち着いた様子で、あたしをちらりと見て、意味ありげに……ううん、安心させようとしてだと思うけれど、笑ってくれて、
「“Pick actor id to actors-list-3”
“Pick actor id to actors-list-3”
“Pick actor id to actors-list-3”
“Get shackles on actors-list-3”」
あ、あたしみたいな声で何かの呪文を唱えたんだ。
え!? 今の呪文、何!?
あたしが茫然とあの子を見るけれど、あの子はじっと騒いでいる悪い男の人たちを眺めてい……いっ!?
ガチャリ!
そんな音と共に、悪い男の人たちの手と足に枷が嵌められる!?
暗くても、白くて木でも金属でもないような手枷、足枷が突然現れて、悪い男の人たちの自由を奪ったのは、はっきりと分かったの!
「うわああああ、何だ、これはっ!?」
「はああ、なんで、枷が、は、外れ、ないっ!?
ど、どこから、なんで!?」
「やっぱり、影だ!
王家の影が動いていたんだ! ひぃぃ!」
悪い男の人たちは、それはもう大混乱で、あの子の方を一度も見ずに、何度もこけながら這いずるようにして逃げようとしている。
そっか、あの子……あの悪い男の人たちからは見えていないんだ!
あたしはようやく分かった。
あたし、そっくりなあの子、あたしを助けるために来てくれたんだ!
でも、どうして悪い男の人たちには見えていなくて、あたしには見えているんだろう?
ううん、今はそんなこと関係ない、あたしはあの子に助けてもらったんだもん。
お礼言わなきゃ、ちゃんとお礼しなきゃ!
あたしは涙を拭うと、しっかりと立って、あの子へと近付いていく。
「あの……」
「………はい? えっ?」
「え?」
あたしがその子に声をかけると、なぜかその子がびっくりしたような声を上げる。
え? なんで?
………ウソ、この子、あたしに、そ、そ、そっくりだ!
この距離だと、向こうの通りからの微妙な灯りでも、はっきりと分かる。
顔だけじゃない、髪型も、服装も、何もかもが一緒だ!
「ぁ、あなた、誰なの?」
「メルーたん、わ、あたし、見えてる?」
この子、あたしの名前を知ってる!?
あたしにそっくりで、あたしの名前を知ってて、あたしと同じ格好をしてて……まさか、この子ってあたしと血が繋がってるの!?
あたしに出生の秘密があるのは分かってる。
お母様も、お爺様もお話してくれないほどの秘密。
お父様は誰なのか、どういう方なのかもさっぱり分からない。
でも、何時かは会えるかもって、思ってきたけれど……もしかしたら、この子、あたしの義姉妹、従姉妹だったりしないのかな!?
「まずっ、撤退!」
「待って、ダメ、逃げないで!」
あたしは、あたしと絶対に繋がりがあって、あたしの命の恩人であるこの子を絶対に逃がしたくはないって、全力で抱き留めに行ったんだ!
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土曜日は活動できませんでしたが、本日はお休みにできましたので、普通に更新いたします。
はい、ヒロインちゃんですが、現時点では、子爵令嬢(庶子)として認められておりませんので、このような表記になっております。
さて、相変わらず(意図せずして)勘違いを振り撒く、ファウレーナさん、どうするのでございましょうね?
ちなみに、ヒロインちゃんは妹枠(『ウヌ・クン・エンジェロ』の二人は妹枠ではございません)なので、ご安心を(?)




