第165話 悪役令嬢、己のアバターデータを書き換え、行動を開始する
(悪役令嬢視点)
悪役令嬢は、自身のアバターデータを別人のものに書き換え、行動を起こしてしまいます
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ワールドタイムインスタンス=時間を停止させた世界で、わたしは姿見に映る十一歳のヒロインちゃん=メルー・ヴァイクグラフォ・ダーナン子爵令嬢の姿に釘付けになってしまっていた。
「(ゴクリ)」
まだ貴族令嬢にはなっていない、町娘バージョン(?)のメルー。
商家の娘ってことで、服装はね、うん、くすんだピーグリーンのチュニックにマントもしていて、いかにも商隊に同行させてもらってるって感じの女の子なのよね。
うん、服装は、目立たない感じ。
でも、ブロンドというよりは赤みも混じったマリーゴールドの綺麗な髪を左側の一部だけ三つ編みに編み込んで、碧眼というよりかはやや緑がかった瞳孔に目がぱっちりしていて、3D化成功し過ぎくらいな鼻やプリッとした唇も相まって、とにかくかわいいの!
はわわあ、マジかわゆすかわゆす!
「いかん、理性飛びそうだ、わ……」
ウッソ……。
メグウィン殿下やミューラに変身していたときと同じく、ボイスチェンジャー、マジで効いていて、ちゃんとメルーの声になっちゃってる。
いや、ヒロインちゃんだけあって、パないわ!
うん、こりゃ、尊死してしまいますわ……。
いや、でもね、メルーになったら、やりたいことあったのよ。
せっかくね、うん、メルーたんになったんだから、やることやってから尊死しなきゃ、○にきれないってものなのよ!
「うん、あたしっ、どんな逆境にだって負けないんだからっ!」
言ってやったわ、決め台詞。
被って聞こえる、ボイスチェンジャーかかった、幼めなメルーたんの声に、耳がどうにかなりそうなのよ!
くぅ~、よきよきのよき!!
メルーたんの姿と声、尊過ぎるのだわ!
ボースも完璧で、わたし、メルーたんになるために、このゲームをやってきたじゃないかって……………あー、そこまで言うと、メリユとしてのわたしが反発しそうね、うん。
どうにも、メリユにも感情移入しちゃって、メリユももう切り捨てたりできんみたいだわ、わたし。
でも、メルーたんのVRMx、アップしてくれた多嶋さんに感謝しかない。
この姿で何かやれって言うのなら、何だってやったるわ!!
あっはっはっ、げほっげほっげほっ!
「はあ、はあ……ダメね、オタ人格を制御し切れないかもしれない」
さすがにメルーたんのイメージを損なうようなことはファンとしてすべきでないという自覚はある。
しっかしさあ、このタイミングで、メルーたんを絡めてくるとか、予想できる訳ないじゃん!
むしろ、オドウェイン帝国とのあれこれが全て終わってから、エンディング辺りで、この時間のメルーたんと会えたら最高ーっくらいに思っていたのに。
うん、マジでこのタイミングかよって感じよね?
「メルーたん、今助けに行ってあげるからね」
うん……メルーたんの姿で何言っとるんだ、わたしは。
今のは、ちょっとない、ないな。
ごめんよ、ファンの皆、メルーたんのイメージを損なうような言動は今後は厳に慎むんで、よろしゅうに!
という訳で、時間の停止を解除して、行動を起こそうとして……多嶋さんからのLinesやメールもチェックしたところで、何のお告げも来ていないことに気付いてしまうわたし。
うん……早まったか?
あれー、いつもなら、『あの件、どうなった?』とか『あれしてね』みたいなご神託が届いているはずなんじゃ……って、マジで来てないっすな。
えー、いや、でもな、メルーたんのVRMxファイルをアップされたこと自体に意味はあるはずで……何かしなきゃいけないのよね、多分?
けど、行先分からん。
ええい、こういうときは直感だ、直感に従え!
まず、わたしは何しようとしてた?
ゴーテ辺境伯領の領都イバンツを散歩しようとしていたんじゃないんかーい?
そう、それで晩餐会まで時間を潰そうと……そうわたしが考えることにも、うん、もし意味があったとしたら?
いや、あるんかな、ホントに?
まあ、いいや。
ご神託がまだなんだとしても、せっかくメルーたんの町娘、いや、商隊の娘姿(?)。 ぜひとも下々に披露せねばな。
「……だけれど、ちょっち時間遅いんよなあ」
うん、何となく………『子供は早く帰れ』って言われそうな気もしなくもない。
まあ、最悪、“Transparency”(透明度)0にして、透明人間で散歩すりゃ良いかしらん?
全然お披露目にならんけど。
さて……で、どこに飛ぶか?
今回は来たときから馬車で領城に入っちゃってて、その後も天使モードで飛んだり、瞬間移動したりで、街中に下りていないから、ピン投下済というか、登録済の地点がマジ足りんのよ。
適当に“Pick”して、その位置情報に“Translate”コマンドで移動するかあ?
「あの辺を、“Pick”」
窓から見える通りっぽいところにある『何か』を“Pick”して、そのオブジェクトの位置情報をプロパティから取得。
んで、相対位置を計算して、ちょいマニュアルで数値ずらして、オブジェクトに激突しないようにして、移動する訳よね。
ふむふむ、コンソール上で数値によると、相対位置誤差が
x:750.3
y:-476.2
z:-6.2
ってことね。
高さは、わたしが今領城内にいるのと、微妙にイバンツの街に傾斜が付いているからかしらん?
まあ、いいや、高さ方向だけちょい高めにして、軽やかに着地する感じにすれば、めり込まんだろ。
……いや、一般オブジェクトとのコリジョンディテクションは切っておくか。
万が一にでも、メルーたんが建物にめり込んで、即○したらしゃれにならんし。
あと、とりま、最初“Transparency”(透明度)0は必須だな。
メルーたんがもしこの街にいて、出くわしてもいけないし、空中にテレポーテーションしてきて、いきなり降り立ったところを見られてもしゃれにならんよ。
「何せ、こっちの世界じゃ、現実なんだから」
わたしは閉めた窓に反射して映る、少し真面目な顔をしたメルーたんに思わずうっとりしてしまいそうになりながらも、音声コマンドを発動する。
ただし、移動情報は、キーボード入力とする。
間違いがあっちゃいけないからね!
「“Continuous execution mode on!”
“Set transparency of avatar-of-meliyu to 0”
“Set translation parameters with keyboard”」
スクリプトの連続実行にして、先にキーボード入力を行って、エンターを押せば、一挙に実行されるっと。
x:750.3
y:-47
う、なんか鼻がむずむずするぞな。
「へー、へーっ、へーくちんっ!」
くぅ、くしゃみの溜めの部分から、メルーたんかわゆす!
半分自分のくしゃみも聞こえてるけれ……ど?
あへ!?
y:-479
z:
え、カーソル位置がz過ぎてるんだが……。
もしかして、やっちった!??
あ、z、これデフォの0でいっちゃってるわ!
「あっ、あーっ、あかん!
これはあかんやつや!!」
何のためのキーボード入力やねん!
って、似非関西弁で突っ込みたくなるぅ!
またかいな、あんさん!
えっ、これで、飛んじゃうの、わたし!?
すぅと消えるわたし=メルーたん=メリユの身体。
続いて、これで、飛ぶと?
うん、高低差、6.2mはちょっとしゃれにならない。
だって、メルーたんの身長を考えてみてよ、これは、さすがに、ちょっ!?
あー、落ちちゃうぅぅぅ!
「あひゃあ、メルーたん、マジごめんーっ」
わたしは絶叫と共に、瞬間移動させられてしまったのだった。
いつも『いいね』、ご投票いただいております皆様に厚くお礼申し上げます!
はぅわぁ、ファウレーナさん、またもやらかしてくれたようで、ございますね、、、
メルーた……メルーちゃんに姿こそ変わっていますが、存在としては悪役令嬢メリユのままで、怪我のないようにお願いしたいところでございます。




