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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第161話 王子殿下、ゴーテ辺境伯と共にゴーテ辺境伯令息の報告を聞き、驚愕する

(第一王子視点)

第一王子は、ゴーテ辺境伯と一緒にゴーテ辺境伯令息の報告を聞き、驚愕してしまいます。


[ご評価、『いいね』、ブックマークいただきました皆様に心からの感謝を申し上げます]

「で、では、殿下……本当にあのご奇跡は、聖女猊下が引き起こされたものであると。

 そして、マルカも、聖女猊下にご同道させていただいていると、そういう理解でよろしいのでしょうか?」


「ああ、その理解で構わない。

 どうも、聖都ケレンで良からぬことが起きているようでな、メリユ嬢は、聖女としての対応を迫られることになったようだ」


 月夜を真昼に変えたあの奇跡のあと、ゴーテ卿自ら、乗り込んで来られ、わたしは現況を卿に説明することになった。

 神の目、そして、結界=バリアを目の当たりにして、メリユ嬢に対して敬意を払うようになったゴーテ卿だが、さすがに規模の違う奇跡には度胆を抜かれたようで、額から伝う汗を何度も拭っているようだ。


 まあ、わたし自身にとっても、想定を遥かに超える力の行使ではあったのだが……。


「はあ……殿下、その、聖女猊下は一体……?」


「卿の言わんとしていることは分かる。

 神の眷属ならともかく、タダの『人間』の聖女程度に、あそこまでのことができるのかということだろう?」


「殿下!」


 聖国と接するゴーテ辺境伯領の領主であり、信心深い卿には、いささかきつい表現であったか。

 少々非難の意の籠った視線を向けられ、わたしは、思わず苦笑いしながら、声を落とす。


「卿、これは我が王国、そして、聖国にとっても最高機密であるのだが、メリユ嬢、彼女は、使徒ファウレーナが『人の子』として生まれ変わった存在であられるのだ」


「し、使徒ファウレーナ様!?」


 カーレ、そして、マルカ嬢以上に驚き、目を見開かれるゴーテ卿。


「卿、声が大きいぞ」


「こ、これは、大変失礼いたしました、殿下。

 ……し、しかし、それなら、納得もできるというものでございますな」


 当然のことながら、卿は使徒ファウレーナの伝承をよく知っているのだろう。

 その伝承上の存在が、あのような令嬢の姿で、領城に滞在することになっているなんて、青天の霹靂と言っても良いことであるに違いない。


「ああ……とはいえ、正直なところ、わたしもメリユ嬢があそこまでの力の行使を神より許されているとは思っていなかったのだが」


「つまり、殿下にとられましても、聖女猊下はお考えになられていたよりも、神に近しいご存在であられたということでございますかな?」


 悔しいことに全くもってその通りだ。

 『人の子』として生まれ変わってなお、あれほどの力。

 メリユ嬢が『人の子』としての扱いを望んでいるにしても、神の眷属と同等の力を有していることが明白になって、わたしとしてもどう彼女と向き合って良いのか……頭が痛い限りだ。


 こんなことになるのなら、もっと早くに謝罪しておくのだった。


「……それで、殿下、近傍警護の近衛騎士、影の方々が普段より多くいらっしゃっていることにもようやく理解が及んだところなのでございますが、聖女猊下に対するもてなしは……」


「はあ、メリユ嬢は『人の子』として遇されることを望んでいる。

 サラマ聖女殿と同じように遇するのが良いだろう」


「ははっ。

 とは申しましても、聖女猊下のご正体を伺ってしまった今、神の不興を買わないか、気が気でありませんがな」


 わたしが悩んでいるのを知ってか、卿も少し余裕を取り戻したようで、軽口を叩いてくるが、状況が状況だけにすぐに真剣な表情に戻すのだ。


「それで、使徒ファウレーナ様、いえ、聖女猊下のお戻りが遅れているということは、聖都で予想外の事態が生じている可能性があるということでございましょうか?」


「ああ、アディグラト枢機卿の話からすると、聖都にも帝国の魔の手は既に及んでいるようであるからな。

 メリユ嬢が聖女として、己の力を示さなければならないような状況に陥っていると考えるのが自然だろう」


 そうなのだ。

 予定の帰還時間がどんどんずれていっていることで、どうにも嫌な予感がしてならない。

 むろん、メリユ嬢のバリアがあれば、サラマ聖女やメグウィン、マルカ嬢にハードリー嬢たちの安全は確保されるだろうが、一番の問題はメリユ嬢が自身の安全よりも他の者の安全を優先するように思えることだ。


 先ほどソルタとも話し合ったように、アディグラト枢機卿の孫娘一人を暗殺の危機から救うために、帰還予定時間を大幅に過ぎるような事態になっているのだとすれば、メリユ嬢に危険が及ばないとも限らない。


 ああ、もし彼女に何かあったなら、わたしは……。


「殿下っ!」


 そんなときだった。

 もはや、関係者がノックすらしなくなった応接室に、血相を変えたソルタが飛び込んできたのだ。


「どうした、ソルタ!?」


「ソルタ、メリユ嬢たちが帰還したのか?」


 卿とわたしは思わずその報告に身構えてしまう。


「は、はい、ぃ、父上!?

 ええ、その、聖女猊下、そして皆様ご無事でご帰還されております!」


 そう……か。

 ああ、良かった!

 無事だったか!


 ……いや、無事なのは良かったが、ソルタは一体何でそんな慌てていたというのだ?


「ソルタ、それで、何があったのだ?

 アディグラト枢機卿の孫娘は無事救出されたのか?」


「そ、そうなのです!

 ルーファ・スピリタージ・アディグラト様と、ディキル・スピリタージ・アディグラト様、アファベト・モナフォカヴリロ・ゴディチ様もご同道されていらっしゃいまして、そ、その」


 そのルーファ嬢というのが、アディグラト枢機卿の孫娘であるのは間違いない。

 しかし、更に二人も多く連れ戻っただと!?


 それで、その、何だ?


「ルーファ・スピリタージ・アディグラト様は、ゴーテ辺境伯領に派遣されることになった聖騎士団先遣一個中隊のオブザーヴァントでいらっしゃるとおっしゃられ、アファベト・モナフォカヴリロ・ゴディチ様はそのオブザーヴァント・ペルソナ・ガーディストでいらっしゃると」


「「はっ!?」」


 あまりに理解の追い付かないソルタの言葉に、ゴーテ卿と一緒にわたしも訊き返してしまう。


 待て待て、救出対象だったはずのルーファ嬢が、聖騎士団先遣一個中隊のオブザーヴァント?

 あの悪事を働いたアディグラト枢機卿の孫娘だぞ?

 一体何がどうしてそうなっているんだ?


「どうして、その聖騎士団先遣一個中隊のオブザーヴァントがメリユ嬢たちに同道しているんだ!?」


「どうやら、ルーファ・スピリタージ・アディグラト様がアディグラト家や他の聖職貴族の悪事を暴いたということで、ガラフィ枢機卿猊下に認められ、そのオブザーヴァントに任じられ、先に我が領に派遣されることになったようで、はあ、はあ、こちらがそのガラフィ枢機卿猊下からの書簡です!

 こ、これを、その、殿下と父上にお渡しするよう言付かっておりまして」


 いや……まさか、そんなことが!?

 わたしは少し混乱に陥りそうになりながらも、書簡を受け取り、その封蝋印がガラフィ枢機卿猊下のものであるのを確認する。


 うむ、此度の教皇とサラマ聖女の訪問でも、ガラフィ枢機卿とのやり取りはあったから間違いない。


「はあ……メリユ嬢の帰りが遅くなったのは、まさか、このためか」


「おそらく」


 何ということだ。

 一刻でルーファ嬢を救出して、加えて、三刻ほどでガラフィ枢機卿と交渉でもしたというのか!?


 いや……月夜を真昼に変えたあの奇跡!


 まさか、力を示して、ガラフィ枢機卿に認めさせたというのか!?


「殿下!?」


「分かっている、あの奇跡こそがガラフィ枢機卿に己が神に認められし聖女である証として、メリユ嬢が引き起こしたものだったのだろう」


 嫌な汗が噴き出てくる。


 一体、メリユ嬢はどこまで分かっていて、あれだけの力の行使をしてきたのだ?


 ハラウェイン伯爵領城での襲撃を鎮圧し、更にアディグラト枢機卿の孫娘を助け出す約束を引き受けた時点で、こうなる未来が見えていたとでも!?

 いくらなんでも、とんでもなさ過ぎる!

 まさか、神からの神託、いや、聖務として、聖国の聖騎士団を動かせという内容まで含まれていて、彼女はそのためにこの短時間でそれだけのことを成し遂げたというのか?


 いくら元使徒ファウレーナだったのだとしても、今は『人の子』

 無理のできない『人』の身体で、何という無茶を!


「ああ、いかん!

 アメラ、メリユ嬢の状態を確認して、療養が必要ならすぐに必要な手配をしてくれ」


「は、はいっ」


 すぐ傍で茶器の片付けを始めていたアメラが慌てて部屋を出ていく。


「ソルタ、すぐに、そのお三方が晩餐会にご参加いただけるよう手配しろ!」


「はい!」


 そして、ゴーテ卿もまたソルタに、セラム聖国から来訪されたその三人が晩餐会に参加できるよう指示を出すのだ。


 いや、しかし……どうにも嫌な予感がしてしまう。


 わたしは手汗で手がベタついてくるのを感じながら、急いで書簡を開封して、確認するのだった。

※休日ストック分の平日更新です。


ご評価、『いいね』、ブックマーク、ご投票いただきました皆様、心からの感謝を申し上げます!

おかげさまで、評価ポイントが100ptを突破いたしました!!

ご評価もそうでございますが、ここ数日普段以上のペースでブックマークも増えており、アンフィトリテは本当に嬉しゅうございます!

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