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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第147話 王子殿下、王女殿下や悪役令嬢らの失踪に対応する

(第一王子視点)

第一王子は、ゴーテ辺境伯領城において突然失踪した王女殿下、悪役令嬢らの件に対応することになります。


[『いいね』いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]

「メグウィンに、マルカ嬢、ハードリー嬢が消えただと!?」


 息を切らして駆け込んできたハナンの報告に、わたしは思わず声を荒らげてしまっていた。

 隣にいるソルタも、目を見開いて驚いている。


「はい、状況から推察するに、メリユ様の瞬間移動かと。

 アリッサ、セメラも近傍警護している中、忽然とお姿がお消えになられましたので」


「……な、なるほど、そういうことか。

 だとすると、緊急性の高い神託、神命がくだり、補佐役としてメグウィンたちも呼ばれたということになるのだろうな」


 『消えた』というから、何事かと思ったが、瞬間移動ということであれば、メリユ嬢の力によるもので間違いないだろう。

 ハラウェイン伯爵領城での襲撃があったせいで、悪い方向に考えるクセが付いてしまっていたようだ。

 もう少し冷静にならないとな。


「しかし、緊急性の高いご聖務とは、領内で何か起きたのでしょうか?」


「そうだな。

 何せ、神の目で見せてもらっただけでも、状況はかなり緊迫している。

 もしかすると、聖国側から工作兵が少数侵入しているとかもあり得るかもしれない」


 しかし……それだと、メグウィン、マルカ嬢、ハードリー嬢を連れて行ったという点で腑に落ちないな。

 本当に何が起きている?


 わたしがソルタと顔を見合わせていると、ハナンたちが入ってきた扉が再び開き、カロンゴ殿、エリヤス殿が入ってこられる。

 その蒼白な表情。

 もしや……サラマ聖女も同行しているのか!?


「し、失礼いたしますっ!

 はぁ、はぁ、カーレ第一王子殿下、至急の報告を、はぁ、よろしいでしょうか?」


「ああ、構わない。

 その報告とやらよろしく頼む」


「はっ。

 晩餐のご準備をされていた聖女様のお部屋のご様子がおかしいことが、侍女と共に入ったところ、書置きがあり、メリユ聖女猊下と聖国に向かわれるとのこと。

 メグウィン第一王女殿下、ゴーテ辺境伯令嬢、ハラウェイン伯爵令嬢もご同道されるとのことでございます」


 息を整え、早口で一気に報告されるカロンゴ殿。

 その驚くべき内容に、


「「聖国だと!?」」


 わたしとソルタは思わず声に出してしまっていた。


 よりにもよって聖国とは。

 聖国で……いや、まさか、アディグラト枢機卿との約束通り、枢機卿の孫娘を助けに行ったのか?

 しかし、これほど唐突に動かれるとは、どういう状況なのだ?


「はぁ、はぁ、なお、一刻ほどで戻られるご予定とのこと。

 晩餐会について少し遅らせて欲しいとのことでございます」


「「ぃ、一刻だと!?」」


 ここゴーテ辺境伯領から聖国の聖都ケレンまで、馬車だと片道で丸一日かかるというのに、一刻で行って一仕事して戻ってくるとか、本当に『人』にできることではないぞ。

 もちろん、メリユ嬢が瞬間移動する力を有しているのは分かっているが……本当に、神がどれほど大きい力をメリユ嬢に託しているのかがはっきり分かるというものだ。


「はあ……まあ、確かに、アディグラト枢機卿の孫娘を助けるだけなら、一刻で済むのやもしれないな。

 取り合えず、密偵の類に怪しまれないよう、晩餐会の準備はそのまま進めてくれ」


「承知いたしました、カーレ様」


「……しかし、あまりにも急だったのが、どうにも気にかかる。

 メグウィンから聞いた話ではあるが、マルカ嬢の救出の際も、急な事態の発生に療養中のベッドから抜け出したそうだ」


 そう、同室にいたハナンにすら気付かれないよう抜け出し、マルカ嬢の暗殺寸前のところで助けに入ったということだったから、今回もそういう可能性はあるのではないか?


「では、まさか……」


「ああ、アディグラト枢機卿の孫娘も暗殺されそうになっている可能性が高いだろうな。

 いや、タダ、それだと、サラマ聖女殿にメグウィンたちまで同行する理由がいまいち分からないな……。

 カロンゴ殿、エリヤス殿、何か思い当たることはあるだろうか?」


「あ、あくまでわたしの憶測でございますが、聖女様は、メリユ聖女猊下より聖国中央教会の清浄化のご指示を受けていらっしゃいました。

 おそらく、何かしらの不正に関して、聖国聖女であられる聖女様に介入していただく必要があったのではないかと」


 なるほど、アディグラト枢機卿の孫娘を助けるということになったのも、そもそもが枢機卿が不正を働き、オドウェイン帝国と通じていたことによるものだ。


 その不正を正すには、顔が知られているサラマ聖女が必要だろう。


 何せ、聖都ケレンには、メリユ嬢が聖女になったという報告がまだ届いていない可能性が高いし、メリユ嬢の顔を知っている者もいないのだからな。

 それなら、サラマ聖女が同行する理由も分かる。

 しかし、メグウィンたちは……どうなのだ?


「ふむ、その清浄化にサラマ聖女殿が必要であるのは納得できる。

 だが、メグウィンたちが同行する必要はあるのだろうか?」


「そ、それについては……わたしも何とも。

 タダ、メグウィン第一王女殿下とハラウェイン伯爵令嬢は……ウヌ・クン・エンジェロでいらっしゃいますので」


「……今何と?」


 声が小さくて聞き取れなかったが、聞き逃せないようなことをカロンゴ殿が言ったように思えた。


「いえ、何でもございません。

 聖女様からも口止めされていることでございましたので、ご容赦を」


 聖国中央教会の機密に触れるような内容だと言うのか?

 それに、妹のメグウィンが絡んでいると………はあ、まあ良い。

 そもそもメリユ嬢は、ミスラク王国側の聖女であり、わたしの婚約者なのだ。

 最悪、メリユ嬢に直接問えば良いだろう。


「まあ、仕方あるまい。

 さて、我々は晩餐の用意をして待つしかないだろう。

 ソルタ、念のため、メリユ嬢たちが瞬間移動して戻ってくるのに適した部屋を用意しておいてもらえないか?

 この状況では、テラスに降り立つようなことも不可能だろうし、神の目も使えるメリユ嬢なら、察知してその部屋に戻ってくるかもしれない」


「はっ、晩餐会の準備は既に整っておりますが、何かしら理由を付けて、開始を遅らせるようにいたします。

 また、メリユ聖女猊下のお力をご承知の護衛の方を、その部屋の警護にお借りできますでしょうか?」


「もちろんだ。

 ハナン、アリッサたちをその部屋周辺に配置してくれ」


「承知いたしました」


「カロンゴ殿たちは、サラマ聖女殿のお部屋の方で待機を。

 もしかすると、そちらに戻ってこられるかもしれないのでな」


「ははっ」


 わたしは、少々嫌な予感を覚えながら、ソルタ、ハナンやカロンゴ殿たちに指示出して、晩餐会へ向かう時間を遅らせることにしたのだった。






「アメラ、まだメリユ嬢たちは戻ってきていないのか?」


「はい、既にニ刻は過ぎておりますが、そのご様子はないようでございます」


 影からの情報を受け取っているアメラも、異様な緊張感を覚えているようで、珍しく額の汗を拭っている。


 一刻ほどで戻る、か。


 何か良くないことが聖国で起きて、すぐに戻ることが叶わなくなった可能性もあるか?

 晩餐会を遅らせるにしても、さすがに四刻以上も遅れると明らかにおかしいだろう。

 毒味の時間を含めても、出来上がっている料理が全て冷めてしまうだろうしな。


 どうか、それまでには無事戻って欲しい。


「殿下」


 わたしが窓の方に向かうと、アメラが声をかけてくる。

 分かっているさ、王城ではないのだから、あまり窓際に立つなと言いたいのだろう。

 夜、灯りの点いた部屋の窓際に立つなんて、暗殺してくれと言っているようなものだしな。


 特に、オドウェイン帝国が確実に密偵を領都に放っているに違いないこの状況ではな。


「良い月夜だ。

 オドウェイン帝国の侵攻の件がなければ、久々のゴーテ辺境伯領で息抜きできただろうにな」


 レースのカーテン越しでも、月明かりに照らされるバーレ連峰が青白く聳えているのが見える。

 北側の窓なので、月自体は見えないが(満月は過ぎたとはいえ)星空に大きな月が煌々と輝いていることだろう。


 そんなことを考え、窓から離れようとした瞬間のことだった。


「っ!?」


 突然、星空だった(北側の)空に白い閃光が走り、わたしは思わず自分の腕で自分の目を庇ってしまった。


「殿下っ!?」


 アメラは何かしらの襲撃かと思ったのだろう。

 悲鳴に近い声が聞こえる。


 肌に感じる熱さ。


 ここにいてはいけないと思うが、あまりにも異様な事態に身体が動かない。


「う………」


 そして、何かしらの衝撃が、痛みが襲い来るかと思ったのだが、何も感じられず、わたしは恐る恐る自分の腕を退けて、外を見るのだ。


 ………。


 星空が昼の青空、いや、それより眩しいくらいの白みを帯びた青空になっていた。


 それだけではない、本来であれば日の現れるはずのない北の空に日が昇っていたのだ!

 そう、バーレ連峰の上に、日が燦々と輝き、月夜は真昼へと変わっていたのだ。


「夢か、幻か……?」


 メリユ嬢の奇跡を知ってしまった以上、奇術ではない本物の奇跡が起こり得ることも理解できるようになったわたしだが、さすがにこれは自分の見ているものを疑わずにはおられなかった。


 しかし、(俄かに)ゴーテ辺境伯領城内の衛兵たちの騒ぎ声が聞こえ出し、犬が鳴き、鳥が混乱したように飛び立つのを見て、これが現実だと理解するのだ。


「殿下、お怪我は!?」


 駆け付けたアメラの方に両手を上げたまま振り返ると、アメラも窓の外の景色に気が付いたのか、口をぽかんと開けて、言葉を失っている。


「アメラ、外に何が見える」


「青空が……えぇっ!? バーレ連峰の上にお日様が見えます!?」


 そう、アメラの瞳にも映り込む青空と日。

 間違いなく、これは現実なのだ。


「で、殿下、これは一体何が起きているのでございましょう!?」


「………ほぼ間違いなく、メリユ嬢だろうな。

 方角から行って、日が昇っているのは、聖都ケレンの上空だ。

 どうやら、聖都で何かあったらしい」


「メリユ様が……この、ご奇跡を」


 アメラが思わず両掌を重ねて祈り出す。

 それくらい、これはとんでもない奇跡だった。

 もし……アメラが傍にいなければ、わたし自身、冷静さを失い、神に祈りを捧げていたかもしれない。


 しかし、ミスラク王国第一王子として、これは看過できない事態だ。


 そう、これはタダの神の奇跡ではない。

 メリユ嬢が人為的に引き起こした奇跡に違いないのだ。

 療養し、力を回復させなければならないはずのメリユ嬢がここまでの力の行使を行うとは。


 一体、聖都ケレンで何が起きているというのだ?


「カーレ様っ!」


「ソルタか。

 お前も、あれが見えるのだな」


「は、はい、夜が昼に、星空が青空にっ、はぁ、はぁ、これは一体何が!」


 駆け込んできたソルタは、息も絶え絶えに、混乱した様子でそう話しかけてくる。


「どうやら、聖都でメリユ嬢が力を行使したらしい」


「聖女猊下が!?

 では、はぁ、聖都ケレンで、はぁ、何か予期せぬことがっ、起きたということでしょうかっ!?


「ああ、メリユ嬢が聖女であるのを示すために力を使った可能性もあるが……あまりにも規模の大きい奇跡だ。

 もしかすると、オドウェイン帝国の襲撃が聖国でも行われているかもしれない」


 ……しかも、何だ、この日差しの強さは。

 まるで、『緑盛る月』の日のような熱さを感じる。


「はぁ、はぁ……しかし、ま、まさか、ここまでの奇跡を起こされるお力を、はぁ、お持ちでいらっしゃったとは」


 ……そういえば、王都で鏡の御柱が立ったとき、結界、いや、バリア内部で、近衛騎士団第一中隊が天に召された際、メリユ嬢が天界の夜を明けさせたという報告があったな。

 そのときは、それがどれほど凄いことなのか、理解できていなかったが……本当に、メリユ嬢は、光と水を司る使徒ファウレーナの生まれ変わりなのだな。


 光を司るとは、日そのものを生み出すほどの力を持つのか。


 『人』の心をも持ち合わせながら、以前の使徒ファウレーナの力を受け継いでいるとは。

 力の制限がなければ、ほぼ神に匹敵しているのではないか?


「さすがは、はぁ、使徒ファウレーナ様の、生まれ変わりと言ったところでしょうか?」


「ああ……」


 わたしは、あの失言で、少し寂しそうな表情を浮かべさせてしまったときのメリユ嬢の様子を思い出し、ズキリと心が痛むのを感じてしまった。

 早く謝らなければと思ってはいたのだが……その前に、このような奇跡を起こすような事態になってしまうとは。


 『人』であろうとしていた彼女が、使徒としての力の行使を強いられるような事態。


 最悪、メリユ嬢が使徒に、神の眷属に戻される事態すらあり得そうに思えて、わたしは焦りを覚える。


「……」


 わたしは、あのとき、メリユ嬢を突き離してしまったに等しいことを仕出かしてしまったのだ。

 『人』であろうとしていたメリユ嬢に、お前は『人』ではないのだなと突き付け、自ら心の距離を取ってしまった。


 あれは、絶対にすべきことではなかった。


 もしそのせいで、メリユ嬢が力の制限を開放してしまうようなことになっていたなら、悔やんでも悔やみきれない。

 どうか、メリユ嬢には、無事に戻ってきて欲しい。

 メグウィンたちと笑いながらに戻ってきてもらいたい……と、わたしは必死に心の中で願ったのだった。

いつも『いいね』、ご投票で応援いただいている皆様方、誠にありがとうございます!

今回は、ゴーテ辺境伯領城にいるカーレ殿下視点でございます。

どうやら、悪役令嬢メリユが引き起こした奇跡は、ゴーテ辺境伯領でも騒ぎを招いたご様子。

戻る時間を過ぎてしまっているようでございますが、大丈夫でしょうか?

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