第145話 ハラウェイン伯爵令嬢、悪役令嬢の真相にまた一つ迫り、偉くなってしまう(!?)
(ハラウェイン伯爵令嬢視点)
ハラウェイン伯爵令嬢は、悪役令嬢の真相にまた一つ迫り、思いがけず偉くなってしまいます(!?)
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アディグラト枢機卿様のお屋敷で滞在させていただいておりました際に、もしや猊下=メリユ様は『時』をお止めになられた世界で歳を重ねていらっしゃるのではないかと気付いてしまったわたし。
殿下=メグウィン様に対してお姉様として振る舞われているところを傍で拝見させていただいていましても、やはりメリユ様は『年上でいらっしゃるのではないか』と思ってしまったのですけれど、
『わたしにもどうかそのお姉様口調でお話いただきたく思いますっ』
実際わたしに対してもお姉様らしくご対応いただいて、わたしは、年上らしく振る舞われるメリユ様の方がとても自然であるように感じられたのです。
いえ、むしろ、わたしたちと同じ十一歳の令嬢として振る舞われていたときの方が、その、少し無理なさっていたようにすら感じてしまって……わたしの中の仮説は、確信へと変わってしまったのです。
ああ、何ということなのでしょう!
わたしの大好きなメリユ様は、幾度となく『時』をお止めになられ、その『時』の止まった世界でも、たったお一人、お時間を重ねていっていらっしゃったのです。
そう、だからこそ、神はメリユ様のご容姿が不自然に変わられないよう、十一歳のお姿のまま、お止めになられておられたのでしょう。
それは、他の『人』より長い時間を生きてこられたメリユ様には、どんな苦痛だったことでしょうか?
ご自身は、同じ年に生まれた他の貴族令嬢、令息よりも数年も歳を重ねられ、御心もそれに見合うものとなっておられたのに、十一歳のご令嬢として幼くご自身をお見せになられるしかなかったメリユ様。
ようやく表舞台に立たれたことで、神は(取り上げられていた)本来あるべき年上のお姿を下賜……いえ、お戻しになられたのではないでしょうか?
メリユ様は、年上のお姿の方が仮初のものであるかのようにおっしゃっておられましたけれど、それも十一歳のメリユ様として不自然にならないようにするため、本当はあちらのデビュタント前後の年頃のご令嬢としてのお姿が真のものであったに違いありません。
そう……そう確信してしまったからこそ、わたしは、
『やはり、メリユ様は、わたしたちよりも年上でいらっしゃいますよね?』
とお尋ねしてしまったのです。
あのときの驚きのあまり、言葉を詰まらされたメリユ様のご表情は、忘れられそうにありません。
『…………ええ、そうね。
わたしの普段の見た目は、メグウィンやハードリーと同い年のようであるかもしれないけれど、本当の年は、そうではないわ』
『ふふ、そんなに気にしないで頂戴。
二人には気が付かれてしまったけれど、普通は、まず誰も気が付かないことだもの。
わたし一人秘密を抱えていれば、それで済むことなのだから』
きっと、今まで誰一人、お気付きになられなかったのでしょう。
……いえ、メグウィン様は、無意識にメリユ様の御心がわたしたちのものよりもずっと大人びていらっしゃるのに気付き、お姉様としての振る舞いをお願いされていらっしゃったのかもしれません。
いずれにしましても、メグウィン様やわたし以外、メリユ様の御心が先にご成長されてしまわれているのを感付かれなかったということになるのです。
神に認められし聖女様、ご神命の代行者として、そのご聖務をご執行されるためだけに、本当のご年齢を誰にも明かせないまま、少しずつ周囲よりも先に、年上になられていっていたメリユ様のお気持ちを考えると、泣きそうになってしまいます。
『メリユ姉様、ご負担になられないのでしたら、これからは『時』をお止めになられるときは、必ずわたしも、いえ、ハードリー様とわたしもご一緒させてくださいませ!』
『はい、わたしも絶対にご一緒させていただきたいです』
先にメグウィン様におっしゃられてしまいましたけれど……もしこの先も、メリユ様が『時』の止まった世界で、時間を進めていかれるならば、そのときはわたしもお傍でメリユ様と共にありたいと思うのです。
本当であれば、世界中の人々から神に最も近しい聖女様として、敬われ、感謝されて当然のことをされてきたメリユ様ですのに……誰にも気付かれないまま、タダ粛々とご聖務をこなされてこられたなんて、いくらなんでもあんまりです!
このセラム聖国でも、メリユ様は本当のお姿をお見せになられることはなく(ミューラ様のお姿のまま)名乗られても、ご自身のお立場やなさったことを誇るようなこともなく、むしろ、ガラフィ枢機卿猊下様方に平伏されて『人』とは思われていないような態度を取られたことに寂しそうになさっていたメリユ様。
メリユ様は、表舞台に立たされたことで、余計に、普通のご令嬢、いえ『人』からかけ離れた立場に追いやられていっているのではないでしょうか?
「そんなの、そんなの悲し過ぎです……」
わたしはまた目の中に涙が溜まってくるのを感じながら、メリユ様の腕を擦るのです。
年上のミューラ様のお姿で、年上らしく振舞われていると、やはり、そちらの方がずっと自然なように感じられて……全てが終わったなら、メリユ様にはあの(本来あるべき)年上のお姿に戻っていただきたいなと思うのです。
ええ、ミューラ様のお姿でいらっしゃるのが嫌という訳ではないですけれど、やはり違和感はありますし。
何より、メリユ様の花のようなお香りを嗅いでいると本当に心が落ち着くのですもの。
「はあ」
「ハードリー、貴女が気に病むようなことはないのよ」
傷付かれていらっしゃるのはメリユ様の方なのに、わたしが優しくされてどうするのでしょうか?
何だか、自己嫌悪に陥りそうです。
「メリユ様ぁ、ご一緒にいさせていただく以外に、わたしに、ひくっ、できることは、何か、ないでしょうか?」
わたしたちがお傍にいることで、少しでもメリユ様の御心が安らぐのでしたら、それはそれでうれしいのですけれど、こうしてお世話すること以外に、何かできることはないのでしょうか?
「ハードリー様、既にハードリー様には、メリユ様の聖なるお力の残量管理をお願いしていますでしょう?」
反対側からメリユ様の腕を擦られているメグウィン様がこちらをご覧になられて、そうおっしゃってくださいます。
ですが……それは、伯爵令嬢として少しばかり計算ができるからと申し出ただけで、大変したことをしている訳ではないのです。
わたしでなくても、メグウィン様でも、マルカ様でもお出来になることでしょう。
「いいえ、メリユ様がご聖務をどのようにこなされていかれるか、流れを把握され、先を見据えて、どれほどのお力を振る舞われるか、きちんと予測されたハードリー様に、わたしは感心してしまいましたもの。
そのご使命一つ取っても、ハードリー様は、わたしたちには欠かすことのできないお方なのだとはっきり分かりましたわ」
そんな、大袈裟過ぎです。
わたしは、そんな特別なことができる人間ではないのです。
「いいえ、ハードリーは、特別よ。
そんな風に自分を卑下してはダメ」
メリユ様!
メグウィン様に続いて、メリユ様ご本人にまで、お認めいただけて、何だか、また泣けてきてしまいます。
本当に、わたしはそんな大役が務まるような人間なのでしょうか?
「ねぇ、メグウィン。
メグウィンは、ハードリーに相応しい役職を任じることができると思うのだけれど、どうかしら?」
「あ!
ええ、メリユ姉様、それは名案ですわ! どうして今まで気付かなかったのでございましょう!」
役職……役職って何なんでしょう!?
わたしは、タダ、メリユ様がご聖務を終わらせられるまで、ずっとお世話をしたいと思って始めただけですし、そんな役職だなんて必要ありませんのに!
「ディレクトロ デ サンクタ アドミニストラード……と言うのはいかがでしょうか? 立場的には補佐役であるわたしと並び立つ立ち位置にできるかと!」
メリユ様も少し驚いたご様子でその役職名を呟かれ、納得されたようにメグウィン様に頷かれます。
ディレクトロ デ サンクタ アドミニストラード。
明らかに聖教会のお偉いお方から苦情が来そうなお役職名なのですが……大丈夫なのでしょうか?
「ハードリー様、ご聖務が終わりましたら、ちゃんと褒賞等も出せるかと思いますので、ご期待くださいませ!」
いえいえ、そんなの恐れ多くて受け取れないです!
そんなものを望んでここにいる訳ではありませんし、既にそれ以上のものをメリユ様からいただいてしまっていますのに、これ以上もらってしまっては罰当たりと言いましょうか、とにかく、受け取れる気がしません!
「ふふ、これでハードリー様も聖女猊下と並び立つに相応しいお役職に就かれて、もう誰に文句を言われることなく、わたしたちは一緒にいることができますわね!」
えええ、本当にそんなお役職、大丈夫なのでしょうか?
メリユ様がなされてこられた奇跡だけでも、いっぱいいっぱいですのに、まさか、わたし自身がそんなお偉い立場に立ってしまうだなんて!
わたしはベッドに腰掛けながらも、少し頭がくらくらしてくるのを感じてしまうのでした。
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なんと(ルーファちゃんよりは少し遅れてしまいましたが)無事ハードリーちゃんもお偉い立場を得たようでございますね!




