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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第140話 悪役令嬢、ガラフィ枢機卿邸客室にて己のやらかしを自覚する

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、運ばれたガラフィ枢機卿邸客室にて自分がやらかしてしまったことを自覚します。


[『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に深く感謝申し上げます]

 うぅぅ、どうしよ……わたし、またやらかしちゃった気がする……。

 いや、『やらかしちゃった』って次元すら超えちゃってるかも?


 だってさ、エターナルカームって言えば、魔法や魔術の類なんてなくて、エルフやドアーフ、獣人とかそういう存在も出てこない『硬派系乙女ゲー』なのに、夜を昼に変えるような天変地異を起こしちゃったんだもの。


 まあね、管理者権限で好き勝手しまくってるお前が『今更何言っとんだ?』って言われるかもしれない。

 それでも、夜が昼になるのは……多分、聖都どころか、国中、ううん、ミスラク王国含む近隣国家まで騒ぎになりそうな事態よね?


「あああ、どうしてこうなったし!?」


 最初はね、その、ガラフィ枢機卿の態度にちょっとイラッとしてしまって、ちょっとばかし『驚かしてやれ』って、パラメータを大き目にしてしまっただけなのよ。

 それがまさかこんなことになってしまうだなんて。


 ……いや、これもそれも、こんなことができてしまう管理者権限が悪い。


 なんて言うつもりはないんだけれど、思っていた以上に大事になってしまった感が凄い。

 ファンタジー系魔法実装は全くないクセして、ライトインスタントの“intensity”パラメータをちょーっとでかくした程度で、天変地異レベルになるとか、マジヤバ過ぎんか?


「なんか、わたしの知ってるエターナルカームからかけ離れていってる気がするんだが……さすがにこれはかなり減点されちゃうかしらねー」


 でも……何に驚かされたかって、聖都のNPCたちがちゃんと天変地異に大騒ぎし始めたってことよね?

 これ、もし隣国まで光の照射範囲に入っちゃっていたら、無関係の国とか、無関係の人々まで動揺させちゃってるような気がするし、酷いことになっちゃってる気がする。

 いや……これが、タダのVRゲームなら(たとえマップ上は存在していても)無関係の国とか、無関係な人々の心情なんて、処理されることは……ないか?


 いや、だけど、何だろう、この不安感は?


 わたし、本気でこのゲーム世界に存在しているNPC=人々には、全て独立した人格が宿っているように思っているの?

 それとも、これはゲームのように見えて、ゲームではない別世界のように思ってる?


「メリユ様、メリユ様っ」


 わたしは、HMDの視界が揺れているのに気付いて、現実世界(?)に引き戻される。

 おっと、いけない……やらかしは、もう一個あったのだったわ!


 今わたしが休ませていただいているのは、ガラフィ枢機卿猊下のお屋敷の客室。


 さっき、よりにもよって、このタイミングで、タッチコントローラのバッテリーが切れちゃって、腕が上がんなくなっちゃっていたのよね。

 そうしたら、姿勢維持もできなくなっちゃって、メグウィン殿下、ハードリーちゃん、マルカちゃん、ルーファちゃん、サラマ聖女様にまでお手数をおかけてしまって、このベッドまで運んでいただいたという訳。


 いやー、初期モデルは、今ではあまり使われない単三乾電池だったのに、内臓充電式バッテリーなんかにするから、すぐ電池取り替えで復帰とかできなくなっちゃってるし、どうしたもんだか(現在絶賛充電中)。


 まあね、またワールドタイムインスタンスを止めて充電すりゃ良いっていうのは、分かっちゃいるんだけれど……なぜか、取り乱されてしまっているメグウィン殿下たちを放置できない気がして、こんなことになっちゃって、うぅ、どうすれば良いのかしらん?


「メグウィン様」


 わたしは、すぐ傍でわたしの上がらない腕を必死に擦っているメグウィン様の方を見詰める。


 わたしと一緒になってから、何かにつけて(分かりやすい)喜怒哀楽をお見せくださるようになったメグウィン殿下。


 今は、不安と悲しみでいっぱいになったようなご表情で、まだ本格的に泣かれてはいないけれど、長い金色の睫毛には、小さな涙の雫が付いてしまわれている。

 こんな良い子に、こんなご表情をさせてしまうだなんて、多嶋さんでなくとも、超絶減点ものだろうと思う。


「メリユ様、どうかしっかりしてくださいませっ。

 わたしの言っていることはお分かりになりますか?」


 わたしが軽く頷いてみせると、メグウィン殿下の唇が小さくプルプルと震えるのが見える。

 今にも泣き出されそう。

 こんなもの、今の高性能なAIでだって、作り出せはしないわよ。

 余所行きな言葉遣いではなく、二人きりでいるときのような言葉遣いで、わたしだけを見てくれているメグウィン殿下。


「良かった……それで、腕の感覚はどうでしょう?

 わたしの手が触れている感覚はございますでしょうか?」


 ここは……どう答えるのが正解なんだろう?

 バッテリーの充電終わるまで、否定しておいた方が良いんだろうか?

 わたしは、そんなことを考えながら、うっかり首を左右に振ってしまったのだけれど、メグウィン殿下は、途端目を細められ、涙を溢れ出されてしまう。


「そんな……メリユ様、二度と腕を動かせないなんてことはございませんよね!?」


「大丈夫ですわ。

 充電が終われば、すぐに……」


 う、ミスった!?

 メグウィン殿下に泣かれてしまって、動揺のあまり、『充電』って言っちゃったけれど、この世界で『充電』はないわ。

 ああ、減点があ……ってそれどころじゃないわね。


「すぐに、ご回復されると……?

 いえ、『積み込み』……とは、どういうことでしょう?

 聖なるお力をご回復されれば、ということでしょうか?」


 ご自身で涙を拭われるメグウィン殿下をハラハラしながら見詰めていると、殿下が

妙なことをおっしゃる。


 『積み込み』


 うん?

 もしかして、わたしの『充電』という言葉が、『積み込み』と解釈されたと言うこと?

 いや、もちろん、この世界的に『充電』なんて用語が存在していないだろうことは分かるけれど、どうして『積み込み』なんて言葉に?

 まるで、変な翻訳システムを介してお話しているような気分だわ。


「はい、そのご理解で構いません」


「ŝarĝi(積み込み)、ŝarĝiじゅうでん、そうなのですね……」


 ……今、メグウィン殿下のお声が二重になって聞こえたような。

 いや、今何ておっしゃったの、メグウィン殿下!?

 英語とも……何か違うのは間違いないんだけれど、何語!?

 ああ、そう言えば、SNSでエターナルカームの名詞について、考察してるヤツいたなあ。

 独特の爵位、独特な名前、ではあるけれど、それぞれ造語ではなく、実在の名詞だとかいう考察を読んだことがあるのは確か。


 ああ、詳細を思い出せん。


 あの垢、なぜかいつの間にか消えていたんだよなあ。


「つまり、メリユ様のお力は日々、神、もしくは天界より『じゅうでん』されていらっしゃるということなのですね?

 そして、それを使い果たされそうになると、お力のご行使ができなくなるどころか、ご体調まで崩されると……」


 おい、翻訳システム!

 どこぞの対話型AIみたく、微妙な、付け焼刃な修正をすんなって言いたくなる。

 いや、ホントにメグウィン殿下の使われている言語をリアルタイム翻訳しているんじゃないよね?


 このVRゲーム、色々疑惑が深まるばかりなんだが、多嶋さーん!


「その……もしかして、メリユ様は……聖なるお力を『充電』されないと生きていかれないお身体になられてしまわれているのでは!?」


 言い方!

 訳し方!

 わたしはロボットかい!

 まあ、タッチコントローラも、HMDも、充電しないと機能しないんだけれどさ。


「……メグウィン様」


 ふと、メグウィン殿下の少し覗いている上腕に鳥肌が立っているのを見てしまって、わたしは、思わずメグウィン殿下の目を見てしまう。


 え、何、その『貴女、もしかして、もう人間じゃないの?』ってな眼差しは!?


 いや、充電できる人間なんて、そりゃあもう人間じゃないだろうけどさ……って、馬鹿なことを考えてる場合じゃないわ!


「大丈夫ですわ、メグウィン様。

 ご心配には及びません」


「現に腕を動かせなくなられているメリユ様がそうおっしゃられても、大丈夫なんて思える訳がありませんわ」


 メグウィン殿下は、止められていたお手を再び動かされて、わたしの動かない腕をマッサージされていく。

 泣きながらに怒っていらっしゃるメグウィン殿下に、悪役令嬢メリユとメグウィン殿下は、ゲーム本編とはまるで異なる関係になっているんだっていうのを実感する。


 そして、扉を開けて入ってこられるハードリー様とマルカ様。


「メリユ様、お湯をお持ちしました!」


「こちらはタオルですの」


 うぅぅ……また、介護してもらうような状態になっている悪役令嬢ってどうなのよって思ってしまう。

 それにしても、どうしてAIのフォロー入らなかったのかなって思わなくもないけれど……ああ、でも、前にHMDの電源落としたら、気絶していたしなあ……充電切れも結構クリティカル?


「メリユ様、意識ははっきりされているようですか?」


「ええ、体温も少しお戻りになられた感じで」


「外よりお部屋の温度が低いようですし、窓を開けた方がよろしいかもしれませんの。

 外は夏の夜のようになっていますし」


 三人がそれぞれわたしのために動いてくれているのを見て、ベースシナリオには絶対にないであろう『わたしのやらかし』に、ちゃんと付いてきてくれていることに感動してしまう。

 マジ尊い! てぇてぇだよ!


 でも、ホント、ダメなテスターでごめんなさいね、みんな。


「メリユ様、後でどれほどお力を使われたか、お聞かせくださいまし。

 いくらなんでも無茶なさり過ぎです!」


 ハードリーちゃん、メグウィン殿下よりも少し怒り成分大目みたいだけれど、(心配成分含む)ぷんすかハードリーちゃんも可愛いなと思う。


「ですが、『時』はどのようにされますのでしょう?

 既に一刻は過ぎてしまっているようなのですけれど……」


 う……マルカちゃんの指摘、鋭いな。

 まだ、(わたしを運び込んだ後、執務室に戻った)ルーファちゃんがガラフィ枢機卿と会談されているみたいで、ワールドタイムインスタンスは動かしっぱなしだし、正直、これかなりまずいよね。


「まあ、月夜が真昼になったのですから、ゴーテ辺境伯でも、相当な騒ぎになっていて、晩餐会どころではないのでは?」


 うっ……メグウィン殿下もグリグリ痛いところを突いてこられる。


「本当に、種撒きの月とは思えないような暑さですし、季節が進んでしまったかのようですの」


 ……いや、待て。


 わたし、さっきも『暑さがどうの』って話、気になっていたのよね。

 ライトインスタンスの“intensity”パラメータを上げたからと言って、気温が上がる?

 明るさが変わるのは分かるけれど、暑くなるとか意味不明よ!

 ホントに『はっ?』って感じ!


 リファレンスにはそんなの書いてなかったし、気温パラメータなんてもの、ライトインスタンスの“intensity”パラメータで影響与えられんの!?

 もしかして、ライトの仕様がバージョンアップしたとか……ないよなあ?


「『時』を止めるのは、ルーファ様が戻られてからにいたしましょう。

 それよりも……」


「『それよりも』ではありませんわ!

 メリユ様、一体お力の残量はどれほどになっているのでしょう?

 また倒れられるおつもりですか!?」


 おおう、メグウィン殿下の怒り成分がハードリーちゃんを上回ってきたぞな。

 で、MP残量ゲージなんだけれど、どうだっけ?

 一応軽くそれっぽいのはコーディングしておいたんだが。


「ぇ……十六パーセント?」


 いや、待って?


 ライトの消費量計算のコードって、そんな凝ったものを作った記憶ないんだけれど?

 どうして、こんなに減ってるし!?

 まさか、あの“intensity”パラメータのせい?

 でも、“intensity”パラメータを大きくしたら、(仮初)MP消費量増えるようなコードは書いていないはずよ?


 もしかして多嶋さんが弄った?

 …………。

 うん、考えられるのは、それくらい……かしらね?


「残り一割六分……ですか!?

 無茶にも限度というものがあるのではないでしょうか、メリユ様!

 『時』をお止めになられるにも三分もお使いになられるのでしょう?」


 ハードリーちゃんの言葉が、耳に痛い。

 ホントにMP管理が実装されているなら、これ、メリユのLP連動してるっぽいから、ぶっ倒れる寸前って感じなのかしらね。

 まあ、手が動かないのは、あくまでバッテリー切れなんだけれど……。


 でも、メリユの体温が下がるだの、肌が青白くなるだの、一体どういう仕様になっているんだか、管理者権限をもってしても、メリユアバターよく分からないわ!


「ですが、ハードリー様。

 メリユ様にお力をご回復いただくには、一度『時』をお止めいただき、その中でご療養を取っていただくしかないのではないでしょうか?」


「それは、そうだとは思いますけれど……」


 実装しておいたわたしが言うのも何だけれど、謎MP自然回復を待つなら、そうするしかないのかな?

 もちろん、ガラフィ枢機卿のお屋敷の客室で、もう数日お泊りできるなら、それはそれで構いやしないというか、むしろ大歓迎なくらいだし。


「まあ、今はルーファ様がお戻りになられるのを待ちましょう。

 もちろん、メリユ姉様には、しっかり横になってお休みいただかなくてなりませんし」


 お怒り妹モードのメグウィン殿下もよき!

 ……なんて考えていたのがバレたのか、メグウィン殿下は(涙をまた拭われながらも)怒っているようにしか見えない笑みで、わたしに微笑まれたのだった。

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