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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第13話 悪役令嬢、練兵場で準備をする

(悪役令嬢視点)

女騎士に護衛されつつ、第一王女の案内で練兵場に着いた悪役令嬢は、近衛騎士団を閉じ込める結界の準備をします。


[いいね、ご評価、ブックマーク登録いただきました皆様方、厚く御礼申し上げます]

[これからも何卒よろしくお願い申し上げます]

 アリッサさんとセメラさんに護衛されながら、メグウィン殿下の案内で近衛騎士団の練兵場へと向かう。

 メグウィン殿下は当然先ほどと変わらないドレス姿なのだけれど、日の光の下だと淡いスカイブルーのドレスと輝くような殿下の金髪色白肌が相まってものすごく映える!

 そして、何がすごいかって、自分の目の前で王女らしく粛々と歩を進められるメグウィン殿下の3Dな一挙手一投足がものすごくリアルなのよ!

 こればかりはノベルゲームじゃ分からないものね。


 ああ、スクショしたい(涙)


「メリユ様、こちらが西の内壁門でございます。

 これをくぐりますと近衛騎士団の練兵場ですわ」


「はい」


 王城を取り囲む、内城壁だったっけ?

 それを貫く西側の内壁門がこれか。

 石積みの内城壁は、見上げた感じ、日本の一般的なビルの三・四階くらいの高さはあるみたい。

 日本のお城の石垣と違って、かなりサイズの揃った石が綺麗に積み上げられているけれど、表面を見た感じそれなりの凹凸はあるみたいだ。

 これは……さすがにテクスチャだよね? よく分からないけれど。

 アーチ型の内壁門のすぐ上には、五角形の掘り込みがあって、女神様のような女性の彫像がせり出している。

 中性ヨーロッパ風異世界のエターナルカームのVR空間のはずだけれど、ヨーロッパ旅行をしているような錯覚に陥りそうだ。


「内壁門、開門!」


 先頭を行くアリッサさんが門番に声をかけると、門番の兵士が慌てて扉を開けていく。

 観光用のヨーロッパのお城は多分扉を開けっ放しにしてあるんだろうけれど、こちらはリアルのお城ってことで必要なとき以外は扉を開けていないみたい。


 わお、近付いてきているのが、メグウィン殿下であるというのは当然認識しているんだろうけれど、ピシッと門番の兵を姿勢を整える様がすごい。


 アーチをくぐると、今度は石畳の通路の両側に少し剥げたところも見受けられる芝生の広場が広がっている。

 まあ、広場というか、外城壁と内城壁の間のスペースみたいものなのだろうけれど、間隔としては百五十メートルほどはあるだろうか。


 ここが近衛騎士団の練兵場。


「メリユ様」


 そして、メグウィン殿下の指し示す左手には、フルアーマー姿の近衛騎士たちが何十人も集まって、何かを準備しているのが見えた。

 いや、百人近くはいるのかな?

 十一歳のメリユ視点だと、やはり大人の男性の大きさ、屈強さを感じさせられてしまう。


 その内の少し偉そうな感じの近衛騎士がメグウィン殿下の方をちらりと見て、慌てて駆け寄ってこられる。


「メグウィン第一王女殿下!」


 右足を後ろに引き、右手を盾ごと身体に添えて、左手は左斜め前方に伸ばしてお辞儀をする。

 昨日から何度か見てきたボウ・アンド・スクレープ(?)だけれど、この人のはかなり綺麗だ。


「ようこそ、いらっしゃいました」


「ご準備の途中、お邪魔してしまいましたわね。

 メリユ様、こちらが近衛騎士団第一中隊最上級騎士、カブダル・ノクト・カーディア様ですわ」


 おおう、近衛騎士団長より遥かに好感度高そうなオジサマが現れたぞ!

 シルバーグレイの髪と口髭がよく似合う、こちらこそ本家ダンディーオジサマって感じかな。


「ご紹介賜りまして恐縮でございます。

 近衛騎士団第一中隊を預からせていただいております、カブダル・ノクト・カーディアでございます」


 最上級騎士ということは、実質第一中隊隊長って感じなのかな?

 アリッサさんとセメラさんには不要と言われたけれど、これはさすがにカーテシー必須でしょう!


 わたしはコントローラーを使ってカーテシーの姿勢を軽く取ると、AIが自動補正でメリユを動かしてくれる。


「お初に御目もじいたします

 北の辺境伯家が第一子、メリユ・マルグラフォ・ビアドでございます」


 うーん、初対面の挨拶頻度、さっきから高いなあ。

 この辺、もう少しスキップできないものだろうか?

 いや、まあカブダル隊長相手ならまあいいけれどね。


「おお、では……あのビアド辺境伯家の……これほど可憐なご令嬢だったとは」


 ちゃんと言葉を選んでくれている辺り、ポイント高い!

 まあ、内心では、演習相手がこんな小娘で驚いてはいるんだろうねー。


「近衛騎士団長からは簡単に伺っておりますが……本当に、こちらのビアド辺境伯令嬢と、我々は演習を行うということでよろしいのですか?」


「カーディア様、魔法師を相手にそのお姿や年齢でお力を測ろうとなさるのは悪手でございますわ」


「ま、魔法師……殿下から伺いますれば、虚心に準備を進めるべきと思えますな」


「ええ、カーディア様、メリユ様はお一人でも帝国兵に立ち向かわれようとなさるお方です。

 そのおつもりでご準備なさるのがよろしいかと存じますわ」


「ははっ、承知いたしました」


 メグウィン殿下、さすがにそれは持ち上げ過ぎでは?

 何だか、身体がむず痒くなってきてしまうよ。


「それと、カーディア様、これからメリユ様も魔法のご準備をなさいますので、近衛騎士の方々に邪魔などされませんよう注意しておいていただけますか?」


「それはもちろんでございます。

 そちらのお二人は、女護衛小隊の方とお見受けしますが、こちらからも一人出させましょう。

 おい、アダッド、殿下とビアド辺境伯令嬢の護衛と案内を頼む!」


 うん、さすがはメグウィン殿下、抜かりない。

 アリッサさん、セメラさんの護衛が付いているとはいえ、女性だけの集団であの男だらけ(まあ数人は女性の騎士もいるみたい)に入っていけば、何かしら邪魔されそうな気もするものね。


 で、カーディア隊長が呼んでくれたその人はっと……。

 結構な筋肉ダル……おっと、いかつい感じの方が来てしまいましたわー。


「ははっ、アダッド・メイゾ・ボウンです!

 よろしくお願いします!」


 まあ適度に礼儀正しいから、よしとしよう。






 数分差でアメラさん、ハナンさんがワインの注がれた銀製ワイングラスを例のお盆にのせて持ってこられた。

 ああ、ワイン要らないのに、もったいない!

 まあ、ただのデータだし、データでなくても、まだ数か月残して未成年なので飲めないけれどね!


「では、メリユ様、ご指示をいただきたく存じます」


 ええっと、メグウィン殿下も付いてこられるの……?

 普通に王女殿下は休んでいらしてもいいと思うのだよー。

 というか、微妙に人数増えてきて、気が散るよね。


 メグウィン殿下、わたし、アリッサさん、セメラさん、ボウンさん、アメラさん、ハナンさん。


 いつの間にか七人の集団になっているのか。

 で、メイドさんまで付いているうちの女性率高い小集団が、近衛騎士団の男所帯的集団に近付いていくとさ、とにかく浮きそうなんだよなー。


 まあ、メグウィン殿下がものすごくワクワクされているようなので、いたし方あるまい……。


「そうでございますね、まずは第一中隊の方々のいる場所の中心に一つ目を置きたく存じます」


「承知いたしました。

 アリッサ、セメラ、ボウン、ご案内を」


「「「ははっ」」」


 なるほど、いかついボウンさんが先頭になると、近衛騎士団の集まりの中でも道が開けていく訳か。

 カーディア隊長、さすがのご慧眼ですわ!


 まあ、それでも、嫌な視線が飛んでくるのだけは仕方ないわね。


 小学五年生の女子小学生がドレスを着て、自衛隊の部隊に入り込めば、現代でも普通に浮くでしょうし、ははは。

 でもねー、現代ならもう少し温かい目で見てもらえると思うのだけれど、やっぱり『何だ、この小娘』感が強い。

 メグウィン殿下がいらっしゃらなければ、確実にからかいの言葉が飛んできたでしょうね。


 ああ、でも、わたしがビアド辺境伯家の一人娘と名乗れば、お父様を怖がって近寄ってこないかも、ははは……。


「メリユ様、この辺りが中心と見てよいかと」


 体格が体格だけに、ボウンさんの野太い声がすごい。

 エターナルカーム本編の学院だと、王子様的キャラしか出てこないから、逆に新鮮だわ。


「ボウンさん、ご助言感謝いたします。

 アメラさん、倒れないように地面に置いていただけますでしょうか?」


「承知いたしました」


 メイドさんが芝生が少し剥げた地面に銀製ワイングラスを置く様は、何とも言い難い。

 やっぱり何かバグったような光景に思えてしまうわよね。


「これでよろしいでしょうか?」


「はい、構いません。

 ありがとう存じます」


「では!」


「ええ」


 メグウィン殿下の期待が重い。

 そもそもこれは魔法じゃないし、スクリプト打つのってどう考えても地味なんだけれどねー。

 こんなの、傍で見て、楽しいのかしらん?


 わたしは少し心配になりながら、坦々と準備を進める。


「“Show console”」


 もはや定番化した音声コマンドを実行して、コンソールを表示する。

 これね、ノートパソコンの画面にも同じコンソール出てるのよね。

 何せ、打ち込むのはノートパソコンのキーボードだし。

 HMD付属の手持ちコントローラで入力とか、できなくはないだろうけれど、ユーザーインターフェースとしてはちょっとどうかと思うし。


「「おお」」


「えっ、嘘、何!?」


「何だ、あれは!?」


 初見の皆様方、ご反応とっても感謝ですわー。

 ただのコンソールですわー。

 ちなみにガラス板ではありませんー。


 そんなことを思いながら、今度は“Pick”に移る。


 顔を右腕に近付けて、指先をワインの入った銀製グラスに向ける。


「“Pick one”」


 今回は複数オブジェクトをピックしなければならないので、引数も与えなければならない。

 コンソールを眺めていると、やはり三秒ほどして


“Done.”


 と表示される。

 引数ありの実行は初めてなので、コンソールでデータが取れているかを確かめる。

 HMDを一度ずらしてノートパソコンのキーボードで作業だ。


“set matrix [${pick{$id}Obj} GetMatrix]

 set pick${id}Orig_X [$matrix GetElement 0 3]

 set pick${id}Orig_Y [$matrix GetElement 1 3]

 set pick${id}Orig_Z [$matrix GetElement 2 3]

 puts "pick${id}Obj: (${pick${id}Orig_X}, ${pick${id}Orig_Y}, ${pick${id}Orig_Z})"


 何てことはない、オブジェクトのワールド座標系での三次元座標を取得してコンソールに表示するだけのスクリプト。

 けれど、HMDを被り直すと、すぐ傍にメグウィン殿下の顔があった!


 うわああ、近っ!!


 思わずのけぞりそうになったけれど、かろうじて耐える。


「……これは、魔法を組まれていらっしゃるところ……なのでしょうか?

 見たこともない文字、もはやまるで模様のようで、わたしには何が書かれているのかさっぱり分かりません」


「……メグウィン第一王女殿下?」


「魔法師になるには、このような魔法の組み方、編み出し方も習わなければならないのですね」


 すぐ傍に見える、メグウィン殿下の横顔の白い頬……それが紅潮している様がよく分かる。


「メリユ様は、わたしと同い年でいらっしゃるのに、これほど高度な魔法を操られているなんて………わたし、第一王女として、恥ずかしいです。

 きっと、この国で一番大変な十一歳の女子供は自分だなんて思っていたわたしがとても恥ずかしいですわ」


 ええっと、何のイベントが発生しているのか分からないんですが……。

 メグウィン殿下、どうしちゃったの!?


「ごめんなさい、失礼いたしました、少し感情が高ぶってしまって。

 メリユ様は、一体何歳のときからこのような魔術を習われ始めたのでしょう?」


 メグウィン殿下の目元に少し涙すら浮かんでいるように見えて、混乱してしまう。

 あと、まあ、一応、魔術じゃなくてプログラミングなんですがね。


「は、はあ、三歳のとき、からでしょうか?」


「さ、三歳の時点で、その才を見出されていたということでしょうか!?

 そして、十一歳の今ではイスクダー様が操られていた魔法すらお使いになられていると……どれほどのご努力とご苦労があったか、想像するだけで……」


「メグウィン殿下」


 いやー、父親がそういうの好きで、レゴーのロボットを動かすキットで適当に遊んでいただけなんですが。

 マジすみません、深刻な空気にしちゃってごめんなさい。


「ほ、本当に申し訳ございません!

 これでは、メリユ様のお邪魔になってしまいますね。

 ですが、もしお許しいただけるのでしたら、メリユ様のご準備なさるご様子を拝見させていただけないでしょうか?」


 いやいやいや、王女殿下が何をおっしゃいます!?

 管理者権限でゲームを好き勝手してるリケジョ(多分今はこの言い方よくない)オタクに気を遣わんでくださいな!


「とんでもございません。

 メグウィン第一王女殿下の望まれるままにご覧いただければ幸いでございます」


「………」


「……どうかなさいましたか?」


「メリユ様、その微笑み方はずるいです……」


 ええっと、AIの表情生成システムが何をやらかしてくれたかは分からないのだけれど……メグウィン殿下の顔が真っ赤になったのは、なぜだろう?

 取り合えず、わたしは何も考えないことにして、雑念を必死に追い払い、コーディングに勤しむことにした。






 さて、演習で近衛騎士団を閉じ込めるキューブを生成するスクリプトは、原理的には簡単だ。

 まずキューブのインスタンスを作成する。

 次に“SetCenter”でキューブの中心座標を設定する。

 続いて“SetXLength”、“SetYLength”、“SetZLength”で各軸方向の辺の長さを設定する。

 最後に環境設定を変更して、コリジョンディテクション(衝突判定)をNPCとその付属物だけに限定する。

 おまけでキューブ表面にミラーリングエフェクトをかける。


 こんなもの。


 まあ、言葉で説明すると楽そうなのだけれど、ピックした点からX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の辺の長さを決定しなければならないので、少々面倒臭い。

 実際コーディングしていると、意外と長くなってきているのよね。


 なお、四点のピック自体は完了しているから、あと残っているのはこのコーディングだけ。


「アメラ、メリユ様の汗をお拭きして」


 ふと、HMDからメグウィン殿下の声が聞こえて、我に返り、HMDを被ると、ハンカチのようなもので汗を拭われているようだった。

 なるほど、AIがわたしの意識集中状態に合わせて、メリユの反応を自動生成してくれていたらしい。

 表情だけでなく、そんなところまでカバーしてくれているのかと少し驚く。


 というか、わたし、そんなに汗だくで、心配をかけるような状態になっているのかしらん?


「魔法とは、これほどまでに複雑なものなのでございますね」


「そうですわね。

 帝国兵を閉じ込める結界というものは、メリユ様ご自身をただ守る結界とはまた異なるものなのでしょうね。

 大きさもまるで異なる訳だし、メリユ様のご負担も相当なものになるのではないかしら?」


「そうでございますね」


 いやー、またも大袈裟に解釈されているみたいでお恥ずかしい。

 わたしは何も聞かなかったことにして、コーディングを再開するのだった。

誤解を重ねに重ね、第一王女との関係が深まりつつありますね?(汗

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