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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第138話 王女殿下、聖国ガラフィ枢機卿邸にて神の怒りを体験する

(第一王女視点)

第一王女は、聖国ガラフィ枢機卿邸において、悪役令嬢の代行による神の怒りの明示を体験することになります。


[ご評価、『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に心より感謝申し上げます]

 『時』の止まったままの世界で、わたしたちは夢のような一夜を過ごした。

 アディグラト枢機卿様のお屋敷の客室で休ませていただいたはずなのに、ベッドから見上げる天蓋には星空が広がっていて、現実の夜空よりもたくさんの星々が煌びやかに輝いていたのだから。

 本当にメリユ様と過ごすようになってから、一日一日が驚きに満ちていて、今までとは全く異なる人生を歩んでいるように思える。

 昨夜の体験も、わたしはきっと生涯忘れることができないだろう。


 初めてのセラム聖国で、メリユ様、ハードリー様とベッドを共にし(マルカ様はお隣のベッドだったけれど)、とても心が安らぐのを感じながら眠りに付いた思い出。

 わたしは、眠りに付くまで語り合った一語一句だって、忘れない自信がある。


 そして、わたしは翌朝(外は昨夜のままだけれど)軽く朝食を取った後、不正・腐敗に関する書類の捜索をサラマ聖女様、ルーファ様、マルカ様たちと再開し、教皇派で関与していると思われる聖職貴族の方々を調べ上げることができた。

 そう、調べれば調べるほど、事態は深刻で、このお役目がどれほど重要なものであったかを思い知らされたのだ。


 今までお兄様の補佐を少しでもできればと思っていたわたしだけれど、これほどのお役目を仰せつかる日が来るだなんて、今でも少し信じられない気持ちなの。


「これで一通り調べは付きましたでしょうか?」


「はい、あとはガラフィ枢機卿猊下に聖騎士団を動かしていただき、不正・腐敗を一掃していただければと」


 ガラフィ枢機卿猊下様、もちろん一度もお会いしたことはないのだけれど、サラマ聖女様がそうおっしゃられるのであれば、信用の置けるお方なのだろうと思う。

 今はガラフィ枢機卿猊下様にお任せして、わたしたちは王国に一刻も早く戻らなければならないだろう。

 メリユ様がおっしゃっておられた通り、本来の世界では一刻、『時』が進まない内に、ゴーテ辺貴陽泊領に戻り、何食わぬ顔で晩餐会に出席しなければならないのだから。





 体感時間で次の日の午後に入った頃、また軽く昼食を取った後、わたしたちは徒歩でガラフィ枢機卿猊下のお屋敷へと向かった。

 多くの貴族、聖職貴族の方々のお屋敷には、多くの灯りが点り、未だに世界は晩餐の頃合いのまま『時』を止めているのだということを今更ながらに突き付けられる。


 本当に丸一日近く、お日様を見ていないというのは、とても不思議な気持ち。


 日食がもし一日中続いたなら、このような感じなのだろうかと思う。

 もちろん、現実にそんなことがおきれば、世界中が大混乱に陥ることだろう。

 神の怒りか、悪魔の襲来か。

 ただならぬ事態に、人々は怖れ逃げ惑うことになるかもしれない。


 けれど、実際、メリユ様は日食すら引き起こされる程度のお力はお持ちでいらっしゃるのだろうと思う。

 もし……もし、神がお命じになられれば、きっとメリユ様は神命の代行者として、世界を闇に落とすことすら可能なのに違いない。


「メグウィン様、どうかされましたでしょうか?」


「いえ、何でもございません」


 メリユ様は、昨夜のメリユ姉様からは戻られてしまっているのだけれど、未だお姿はミューラ様のお姿のままで、服装のみルーファ様のドレスをお借りして、ガラフィ枢機卿様との会見に備えられていらっしゃる。


 ご変身にも聖なるお力を要してしまうのと、メリユ様のお姿をむやみに晒すべきではないということを考えれば、致し方のないことと思いはするのだけれど、大丈夫なのだろうかという気持ちもある。

 少なくとも、サラマ聖女様がいらっしゃる限り、先触れのない突然の訪問であっても、ガラフィ枢機卿猊下様は受けてくださるだろうとは思うのだけれど、心配なものは心配だった。


 そして、わたしたちは、無断でガラフィ枢機卿猊下様のお屋敷に入り、(まだ晩餐のために広間へと向かわれる前で)執務室にいらっしゃったガラフィ枢機卿猊下様を捕まえることができたのだった。






 結局のところ、わたしの懸念は現実のものとなった。


 メリユ様が『時』を元に戻され、突然現れたわたしたちに驚愕されるガラフィ枢機卿猊下様に対して、サラマ聖女様からご紹介いただき、わたしたちもご挨拶を済ませたのだけれど……ガラフィ枢機卿猊下は、かなりご立腹でいらっしゃるようだったのだ。

 それも、サラマ聖女様が、メリユ様の聖女認定に関する教皇猊下からの書簡をお渡しされたにも関わらずだ。


「はあ、聖女猊下、この非常識なご訪問については目を瞑ることにいたしましょう。

 しかし、王国にいるはずの貴女様がなぜここにおられるのでしょうか?

 そして、王国の貴族令嬢がなぜ聖女認定されて、ここにおられるのでしょうか?」


「それについては、これより詳しくご説明申し上げ……」


「黙りなさい!

 はあ、以前から教皇猊下が貴女に甘いことは存じ上げていましたが、まさかここまでのことを許されるとは。

 聖教会の経典でも、同時に二人の聖女が誕生したことは一度もないはずなのですよ!

 そちらのメリユ・マルグラフォ・ビアド辺境伯令嬢でしたか?

 貴女と彼女がどのような関係にあるかと存じ上げませんが、貴女の甘言で、教皇猊下が惑わされ、他国の貴族令嬢ごときが聖女認定されるとは……普通では、あり得ないことだと思わないのですかっ!」


 アディグラト枢機卿様よりも十以上はお年を召されていて、白髪に長い髭も蓄えられた、丸眼鏡の厳しそうなお方。


 ガラフィ枢機卿猊下様は、サラマ聖女様のお言葉を遮り、叱責されている。

 どうやらガラフィ枢機卿猊下様は、サラマ聖女様のことをあまり良く思われていなかったらしい。

 書類の捜索でも、オドウェイン帝国に唆されたようなご形跡は全くなく、ご性格的にも清廉潔白ではいらっしゃるのだろうけれど、あまりにもサラマ聖女様に対して当たりが強過ぎると思ってしまう。


 やはり、見た目幼く見えてしまわれるサラマ聖女様のご容姿もあって、ガラフィ枢機卿猊下様は、サラマ聖女様を軽んじられていらっしゃるのかもしれない。


「はあ、そもそもわたしは、貴女の聖女認定すら反対だったのです。

 一度神託らしきものを受けたという程度で、聖女認定などと!

 それでも、貴女の真面目さに、今まで口出ししてきませんでしたが、まさか、聖教会の歴史に泥を塗るような行為をするとは!」


「猊下、それはちょっと言い過ぎやしませんか?

 ちっとは聖女猊下の言葉を聞いてやってください」


 身を身を縮こませられるサラマ聖女様に、ルーファ様の修道騎士であられるアファベト様が介入される。


「誰だね、君は?

 一介の修道騎士風情がわたしの言葉を遮るとは、何て無礼な!」


 アファベト様に対しては言葉遣いをあからさまに変えられたところを見るに、これでも、ガラフィ枢機卿猊下様は、サラマ聖女様に対してそれなりの敬意を払われているということなのだろうか?


「失礼いたしやした。

 あっしは、こちらルーファ・スピリアージ・アディグラト様の護衛を担当しておりやす、アファベト・モナフォカヴリロ・ゴディチと申しやす」


「ふん、アディグラト枢機卿のところの孫娘の護衛が一体なんでこんなところにいる?

 君もそこの偽聖女猊下に誑かされたとでも言うのかね?」


 いえ、待って……今の『そこの偽聖女猊下』というのは、メリユ様のこと?

 な、何て、不敬な!

 神より直接聖女と認められた、世界で唯一『管理者権限』というものをお持ちのメリユ様に対して、とんでもない暴言だわ。


「お待ちください、猊下!

 今のお言葉は、さすがに神罰が下りかねない暴言かと存じます。

 どうか、わたくしの言葉に……」


「いい加減になさいっ!

 神罰が下るなどと戯言を!

 貴女こそ、査問会にかけられたいのですか?」


「わたっ」


 怒りのあまり、サラマ聖女様に加勢しようとしたわたしの前に、メリユ様が腕を出されて、静止される。

 驚いて、メリユ様を見上げると、メリユ様は(いつの間にか出されていた)コンソールを片手で操られ、何かをされているよう。


 ……まさか、またご神託が?


 わたしを安心させるように微笑んでいらっしゃっても、いつになく硬いご表情に、わたしはとても嫌な予感がしてしまった。

 そして、メリユ様は先ほどご挨拶されたとき以来、初めてガラフィ枢機卿猊下様に話しかけられるのだ。


「ガラフィ枢機卿猊下、それほどまでに神のお怒りをお知りになられたいということでございましょうか?」


「ふん、できるものであれば、ぜひこの目、この耳で、拝見、拝聴してみたいものですよ。

 世界で最も敬虔な信徒たちが集う、この聖都ケレンにそんなこと、起こりようがありませんがね?」


 ガラフィ枢機卿猊下様の酷いお言葉に、メリユ様の静かな怒りが伝わってくる。


「ガラフィ枢機卿猊下は、聖都ケレンで何が起きているのか、まるでご存じでいらっしゃらないご様子。

 一度神の御懸念をその身をもって味わっていただくのがよろしいでしょうか?」


「はあ、貴女は奇術師か何かの技をお持ちなのでしょうか?

 サラマ聖女猊下を騙すことはできても、このわたしを騙せると思わないことですね」


 ガラフィ枢機卿猊下様は、丸眼鏡をくいっと持ち上げられて、メリユ様を睨み付けられる。

 あまりにも酷い!

 神罰についてはメリユ様がお止めになられるだろうけれど、不敬罪については、枢機卿猊下様であろうと適用すべきと思ってしまいそうだった。


「それでは。

“Play warning-sound-2 with volume 100.0 at picked position-15”

 “SwitchOn light 1 with intensity 0.1”

 “Traslate light-1 0 0 10,000.0 step 1.0”

 “Change intensity of light 1 to 100,000.0”」


「「メリユ様!?」」


 メリユ様が発せられる、そのご命令の長さに、ハードリー様とわたしは驚きを隠せず、顔を見合わせる。

 何より聞き覚えのあるご命令は、キャンベーク川で聞いたものと似通ったものであるようで、とても嫌な予感が走るのだ。


「「一、二……」」


 ウーーーー…………!!


「「「「キャアッ!?」」」」


 キャンベーク川で拝聴した神よりご警告よりもずっとけたたましい音が聖都に鳴り響くのが聞こえ、執務室の窓ガラスがビリビリと震えると、次の瞬間には、その何枚かが割れ砕ける。


 これが、神のお怒り?


 全身、身体の中の内臓まで震えてしまうような音が、ガラスの割れた窓から入ってきて、思わず両手で耳を塞いでしまう。

 まるで世界の悲鳴のような凄まじい音。

 この音を聞いて、『ただならぬことが世界に起きている』と実感できない者など聖都に一人たりともいないだろう。


「な、何事だ!?」


 ガラフィ枢機卿猊下様が、椅子から立ち上がられて、窓の外を窺がわれる。

 そして、そうされている間にも、メリユ様のお手には、あの光の球が現れるのだ。


「ああ!?」


 ガラフィ枢機卿猊下様も、この現象を引き起こされているのが、メリユ様だとご理解されたのだろう。

 真っ青なお顔で、メリユ様が手にされている光の球をご覧になられ、それがいつもよりも早い速度で天井へと浮かび上がり、それを貫いていくのを茫然とご覧になられるのだ。


 いえ、ダメ、傍観していて良い状況ではないのだわ。


 メリユ様は、一体どれだけのお力のご行使を……?

 そう思った瞬間だった。

 窓の外に閃光が走り、部屋の中まで真っ白になり、両手を耳に宛がってしまっていたわたしは必死に目を閉じることしかできなかった。


 そして、外で悲鳴や混乱の声が多数上がるのが聞こえる。


 ああ、何てことなの!?


「まっ、まさか、そんな……」


 少し急な明るさの変化に目が馴染んできたところで、ガラフィ枢機卿猊下様を見ると、窓の方へとよろよろと駆け寄られ、外をご覧になって腰を抜かされるのだ。


「メリユ様っ!」


 わたしはメリユ様の御手を掴んで、


「な、何をなさったのですか!?」


 メリユ様に必死に尋ねる。


「……少し窓の外を見てみましょうか?」


 少し悲しげな笑みを浮かべられるメリユ様に連れられて、わたしは、いえ、ご一緒にハードリー様、マルカ様、ルーファ様も窓に近寄り、斜め上に見える(本来なら)夜空がやや白く感じるほどの青空に変わっているのを見てしまったのだ。


 身体が震えるのを止められなかった。


 満月の夜、雲がそれなりに見えることはある。

 けれど、夜空が昼空に、お日様の出ている明るさに突然なるなんてことは絶対にあり得ないことだろう。

 そう……であるはずなのに、今は目を細めて見上げる空は、昼間よりも明るいくらいの明るさで、白い雲すらもはっきりと見えているのだ。


 もちろん、聖都の建物も全て昼間の色を取り戻し、全てが明るく照らし出されていた。


「ひ、ひぇぇぇ!?」


 ガラフィ枢機卿猊下様の悲鳴が聞こえる。


 ええ、わたしだって、(先ほども考えた通り)日食というものは、もちろん知っている。

 お日様が少し欠け、木漏れ日すら半月のようになるのを一度見たことはある。

 それすら人々は怖れ、神に祈りを捧げたというのに……まさか、夜が昼に変わってしまうだなんて。


 メリユ様なら日食ぐらい引き起こせるかもしれないと思ってしまっていたわたしだけれど、その逆、月夜を昼間に変えてしまわれるだなんて、思いもしなかった。

 夕刻のキャンベーク峡谷を昼間に変えてしまった奇跡は体験していたけれど、今はそれとは比較にならないほどの明るさが世界を包んでいて、わたしは『夢に囚われているのではないか』と錯覚しそうになるほどの驚愕ものの光景だった。


 けれど、下を見れば、多数の人々がその場で蹲り、必死に祈りを捧げられているのが見え、『これが現実である』と再認識させられるのだ。


「ガラフィ枢機卿猊下っ」


 (神よりのご警告の音は今も続いていて、よくは聞こえなかったのだけれど)サラマ聖女様のお声にそちらを見ると、涙を流されているサラマ聖女様がガラフィ枢機卿猊下様のもとへ駆け寄られ、何かを必死に囁かれているのが見えた。


 今こそ、ガラフィ枢機卿猊下様に全てを説明すべきときなのだと、ご判断されたのだろう。


 ガラフィ枢機卿猊下様の耳元で何かを大声で話されているサラマ聖女様。


「……ファウレーナ様が……」


「……今も、使徒様のお姿をっ、下賜され……」


「……神が、猊下によりっ、直接介入、されるのを……決定されたと」


 断片的にしかそのお言葉は聞こえなかったけれど……サラマ聖女様の言葉を遮ることなく、それを聞かれていたガラフィ枢機卿猊下様はどんどんお顔を青褪めさせられ、その場に平伏されるのに至ったのだった。


 真実をお知りになられたガラフィ枢機卿猊下様が、平伏されるのは当然のことと思ったけれど、それよりもわたしはメリユ様が心配になり、お傍にあったその腕を抱き寄せる。


「メリユ様、どうして、こんな……」


 神は、そのお怒りを聖都の聖職者、聖職貴族、全ての人々にお示しになられたかったのかもしれない。


 それでも、メリユ様のご負担を考えれば、それは決して適切とは言えないものであったのでは、と思ってしまうのだ。


「メグウィン様」


 少しばかりではあるけれど、体温が下がっていくのが分かるメリユ様の腕に、わたしは頭から血が引いていくのが分かった。


 やはり、お力の使い過ぎ!


 腕に力の入っていないメリユ様に、わたしは慌ててメリユ様を支えようとする。

 もちろん、ハードリー様も反対側からメリユ様に抱き付かれ、わたしの方を見てきて、頷かれるのだ。

 これは、早急にメリユ様にご休養いただかなくてはいけない。


 そう思ったとき、ガラフィ枢機卿猊下様のお部屋に、大慌ての修道騎士の方が走り込んでこられたのだった。

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はい、悪役令嬢メリユ=ファウレーナさん、またもやらかしてくれましたね、、、

内心、ちょっとブチッといってしまっていたのでしょうが、明らかにやり過ぎでしょう、、

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