第137話 悪役令嬢、色々考察してしまう
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢は、あまりにもイレギュラーの多いゲームに色々考察してしまいます。
[『いいね』いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]
セラム聖国で、メグウィン殿下、ハードリーちゃん、マルカちゃんとお泊り会とか、神展開過ぎんかと思いはするのだけれど、今自分がどの程度ベースシナリオに沿った行動を取っているのかが気になって、素直に楽しめていない自分がいる。
今わたしは、ミューラアクター用のVRMxファイルを適用したメリユアバターでいるのだけれど、多嶋さんから渡されたデータの中にメグウィン殿下のアクター用VRMxファイルと一緒にミューラのデータもあったからなのよね。
天使形態メリユにしても、多嶋さんが送り付けたから、わたしはつい適用してしまったのよ。
これはつまり……全ては多嶋さん、もしくはシナリオライターさんの掌で転がされているだけということなのかしらん?
わたし自身はとんでもないことやらかしたつもりでいても、実はベースシナリオをかなり忠実になぞった行動を取ってしまっているのかもしれない。
でも……それって、わたしのお試しとしては、高評価になるのか、それとも低評価になるのか、どっちなんだろう?
「にしても、もらったデータ、メリユ、メグウィン殿下、ミューラって、見事に“m”始まりのキャラばっかりよねー。
何か意味があったりするのかしらん?」
はあ、わたし程度じゃ、そんなことまるで分らないわ!
多嶋さんの話ぶりじゃ、悪役令嬢メリユのバッドエンド回避と、ミスラク王国の滅亡回避をクリアすれば、合格っぽいし、深読みしようとするだけ無駄なのかも。
今はタダ、この神展開を楽しむべき、なのよね?
そう、わたしはヒロインちゃんが、メグウィン殿下、ハードリーちゃんたちと仲良くなっていくのが好きだった。
もちろん、ヒロインちゃんがカーレ殿下やソルタ様たちと恋愛を深めていくのが乙女ゲーとして中心イベントとなっているのだから、最初はそれに熱中にしていたのだけれど……結局のところ、どのルートでも仲良くなるのが必須で、一緒にいる時間では、ヒーロー方よりもずっと長いメグウィン殿下、ハードリーちゃんたちと過ごす時間が(いつの間にか)とても尊いものに思えていたのよ。
それは、悪役令嬢メリユのアバターを操っている今だって同じ。
でも、でも、今のわたし=メリユって、メグウィン殿下、ハードリーちゃんたちと仲良くなり過ぎじゃない?
ヒロインちゃんだって、ここまでメグウィン殿下に抱き着かれてはいなかったし、ソルタ様ルートで出てくるマルカちゃんだってここまで一緒にいることはなかったはず。
何より、『大好き』ってあんなに言われてはしまうなんて。
できることなら、ホントにキャプチャしておきたかったわよね!
「そういえば、結局、このゲームってセーブはできないのよねぇ」
どんなにシステムステータスを取得しても、セーブポイントを保存して、やり直しができるようになっているようではないし……タダ、ワールドタイムインスタンスを停止させるのが精いっぱい。
乙女ゲーのVR版としては、欠陥だと思うのだけれど、中身が神過ぎて、今じゃ文句を言う気もなくなってる。
まるで『一期一会を大切にしろ』と言われているかのような展開の連続で、目を離せないようなことばかりが起こっている。
そう、わたしはメリユで、このメリユスピンオフ・エターナルカームの世界を救うことのできる唯一のヒロインであるような錯覚すら覚えてしまいそうなほどなのよ。
絶対にメグウィン殿下、ハードリーちゃんたちを悲しませたくない。
マルカちゃんも、銀髪聖女サラマちゃんも、ルーファちゃんだって、救ってみせたいと思ってしまうのよ。
「はあ……中毒性、高過ぎよ、多嶋さん」
十一歳のメグウィン殿下、ハードリーちゃん、マルカちゃんたちがシーツを整えているのを眺めながら、彼女たちがわたしのアクションにどれくらい気持ちを動かしてくれるのだろうと思ってしまう。
たとえAIがそれらしい言動を生成し、操っているのだとしても、わたしが突如起こした行動にどれくらい彼女たち反応を見せてくれるのか期待してしまっている自分がいるんだ。
そんなことを考えていると、客室の扉がノックされ、ルーファちゃんが……うん、ネグリジェを手に入ってくるんだ。
「猊下、殿下、マルカ様、寝巻をお持ちいたしました。
猊下には、わたしのネグリジェがちょうどよろしいかと存じますが、いかがでしょう?」
おおう、わたし、今度はルーファちゃんのネグリジェを借りることになるんだ。
前は、ハードリーちゃんの借りていたし、ホントに借りてばっかりだなあ。
クンカクンカしてみたくなる……まあ所詮VRだから、しようとしても自分のパジャマしかないが。
「ありがとう存じます、ルーファ様」
「いえ、ちょうど新しいものがございましたので……着心地が良いとよろしいのですが」
あー、さすがに新しいヤツだったか。
まあ、所詮VRなんだが。
「殿下、マルカ様には、わたしが殿下方と同じぐらいの歳に着ていたものをお持ちいたしました。
こちらは新しいものがなく、申し訳ございません」
何ですと!?
「いえ、お気遣いいただき感謝申し上げます、ルーファ様」
「感謝いたします、ルーファ様」
「ありがとう存じますの」
メグウィン殿下、ハードリーちゃん、マルカちゃんたちが、自分好みの色で……決めているんだろうか、何とか揉めることなく、ルーファちゃんのお古のネグリジェを受け取っていく。
あー、すごくお嬢様方のお泊り会感があって、尊い!
尊過ぎ!
「それで、蜜蝋のシャンデリアの方はいかがいたましましょう?
シャンデリアは、『時』が止まったままと伺っておりますが、『時』を進めて、アファベトに下させ、消しましょうか?」
うん、シャンデリアのことは完璧に忘れていたわ。
ローカルタイムインスタンスに紐付けしたのは、天井よりちょっと低いところまでで範囲内オブジェクト全選択でやっちったからなあ。
いや、これは、使えるかもしれん?
ふふ、メグウィン殿下、ハードリーちゃん、マルカちゃんたちが、どこまでそれらしい反応できるのか、試してみようじゃないのよ?
むふふふ!
「お気遣いいただきまして誠にありがとう存じます、ルーファ様。
ですが、わたしの方で対処いたしますので、ご安心くださいませ」
「ほ、本当によろしいのでしょうか?
猊下のお力は拝見させていただいておりますし、アファベトですら敵わないほどであると存じ上げてはおりますが……」
心配そうにしなくっても大丈夫よ!
シャンデリアの下に一つ平面(“Plane”)オブジェクトを張るだけで、光を遮ることは可能だしね!
わたしは心配そうにしているルーファ様を軽く説得して、お休みの挨拶をしたのだった。
「それでメリユ姉様、シャンデリアはどうされるのでしょうか?」
ルーファ様がお戻りになられて、またすっかり姉妹モードに入ってしまったメグウィン殿下が甘えてくる。
いやー、お姉さん、鼻血出そうですぜ、マジで。
こちとらJDなんで、精神年齢的に姉役は全然okだし、それどころか、メグウィン殿下の姉役できるとか『何のご褒美!?』って感じなのだけれど、これも多嶋さん、シナリオライターさんの意図通りなのかなあ?
まあ、悪役令嬢メリユがメグウィン殿下の『義理の姉』になるとか、本編を考えると、超展開ではあるんだけれど。
「まあ、見ていてご覧なさい。
メグウィンは、あのティーカップを見せた夜のことを覚えているわよね?」
「忘れる訳がありませんわ。
だって、初めてメリユ姉様と気持ち通わせることのできた大事な夜のことなのですもの」
おおう、ホントにこれがAI生成の言葉なのって思っちゃう。
いや、それだけじゃない、メグウィン殿下の恋する乙女のような反応に、戸惑いを隠せないよ、お姉さん。
「わたしを驚かせないように、ご配慮いただいたメリユ姉様のお気持ち、今ではとても分かるのですもの。
まさか、ここまでメリユ姉様が凄いお方だったなんて、あのときは思いもよりませんでしたけれど」
「メグウィン」
「それで、そのお言葉からすると、また何かお力をお使いになられるおつもりなのでしょう?
ダメですわ、そんなの……明日はまたたくさんお力をご行使されるのですし、これ以上、わたしを心配させないで欲しいですわ」
結構育っているミューラなわたしの胸元に、メグウィン殿下がまた顔を擦りつけてこられる!?
うぅ、ホントにメグウィン殿下、お好きよね、こうして甘えるの。
うん……なんだか、このゲームを終えるときが怖くなってくる。
このゲームが終わったとき、わたしの抜けたメリユとメグウィン殿下の関係はどうなっているんだろう?
仲が良いというか、少し『依存』すら感じちゃうメグウィン殿下が、もしメリユを失ったとき……メグウィン殿下はどうなっちゃうんだろう?
ハードリーちゃん、マルカちゃんたちだって、こんなに好意を示してくれているのだし……ちゃんとめでたしめでたしとなってくれるのか、正直心配になってきちゃうわよね。
「大丈夫よ、メグウィン。
これはあのティーカップのときと同じ、一分たりとも力を消費することのない、軽く力を試す程度の行為でしかないのだから」
「メリユ姉様」
うるうる眼でわたしを見てこられるメグウィン殿下と向き合っていると、ハードリーちゃん、マルカちゃんも近寄ってくる。
「うぅ、メリユ様、わたしのことも忘れないでくださいまし。
お二人にしか分からないお話ばかりでずるいです」
「そうですの、ずるいですの!」
「ごめんなさい。
それでは、準備ができましたら、一緒に寝ましょうか?」
わたしが二人に微笑んでみせると、ハードリーちゃんがわたしの腕に自分の腕を絡めてくる。
ホント、随分ハードリーちゃんとも距離が近くなったなあ。
HMDで見てると、ハードリーちゃんの香しい香りが漂ってきそうで、ドキドキしちゃうぞ、お姉さん。
「メリユ様、何をなさるのでしょうか?」
「ふふ、少しお待ちくださいな。
“Pick position of my right hand for plane generation”
“Execute batch for plane generation with texture file named night-sky.png”」
わたしは背伸びをして、少しでも高い位置データを右手の指先から取って、平面生成用バッチを実行する。
テクスチャは夜空の写真画像データだ。
ふふふ、どんな反応を見せてくれるのか、楽しみよね!
「「一、二、三」」
わくわくされているご様子で、声を揃えられるメグウィン殿下とハードリーちゃん。
マルカちゃんはまだこの儀式(?)には加われていないご様子。
そして、シャンデリア下の空間に夜空の画像が貼られた平面が現れ、シャンデリアの灯りが遮られると同時に、眩くばかりの夜空の……星々の柔らかい光に部屋の中が包まれる。
「……綺麗」
「……はわわ」
「…………凄いですの」
三人は三者三葉な反応を見せながらも、まるで天井がなくなってしまったかのような錯覚に陥りそうな夜空平面オブジェクトに目を輝かせて見入ってくれるのだ。
8K解像度の画像を貼り付けただけあって、本当に綺麗。
でも、ここまで……あれ、今星が瞬いたように見えたのは気のせい?
うん? 何か超解像処理とか、テクスチャアニメーション処理か何か加わっているのかしらん?
何か想像していたよりも凄いことになっているような気がするんだが。
「メリユ姉様、本当にこれが、あのティーカップと同じ程度のお力のご行使なのですか!?
こんなの、あまりに綺麗過ぎて、メグウィンは腰が抜けてしまいそうです」
「そうです、こんな奇跡を簡単に起こされるメリユ様が、あまりにも凄過ぎて、わたし、どうにかなってしまいそうです!」
背伸びをしたときに一瞬身体を離されたメグウィン殿下なのだけれど、異常に感激されたご様子で、また真正面から抱き付いてこられる。
って、ええ、ハードリーちゃんまで!?
「わ、わたしは……本当に腰が抜けてしまいましたの……」
メグウィン殿下とハードリーちゃんの対応で手一杯のわたしなのだけれど、幸いというべきか、マルカちゃんはその場で腰が抜けてしまったらしく一人分脱落したよう。
けれど、そんな三人の反応に、わたしの中の疑惑は、確信に変わってしまったのだった。
そう、この三人の反応がAI生成だなんて、信じられない。
今わたしはどこか別の世界にいる彼女たちと繋がってしまっているのではないか、そんな思いに憑りつかれてしまったのだった。
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色々考察してしまっているメリユ=ファウレーナさん、どれが正解なのでしょうか?




