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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第136話 王女殿下、聖国アディグラト家令嬢の保護を裁断し、アディグラト枢機卿邸でお泊りする

(第一王女視点)

第一王女は、聖国アディグラト家令嬢の保護を決定し、悪役令嬢たちとアディグラト枢機卿邸でお泊りすることにします。


[『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に心より深く感謝申し上げます]

 テラスでの一時の後、わたしは、サラマ聖女様、ルーファ様、マルカ様とご一緒にアディグラト枢機卿様の執務室で、不正・腐敗に関わる書類の捜索を行うこととなった。

 ルーファ様が一度見付けていらっしゃったから、それに関係する書類も次々と芋づる式に見つかり、わたしは聖国の闇の深さを改めて見せ付けられたように思ったのだ。


 神が、メリユ様を遣わされて、ご介入されるという事態。


 その重さを今一度突き付けられたように思う。

 聖国の清浄化・正常化が『王国のためになる』というだけの話ではないのだ。

 神と『人』の間を取り持つ役目を負っていたはずの聖教会がこれほどまでの不正・腐敗に蝕まれているという現実に、神が『座視してはいられない』とご判断されたことが、この世界のこの時代がどれほど異常な状態に陥っているかを示しているのだと思う。


 聖教会の中でも一番清廉潔白であると思われていた教皇派聖職貴族上層部ですら、帝国に唆されて、王国の王族を害しようとしていたという現実にしても、きっと、それすら、世界の歯車が狂い始める序章にしか過ぎないのだろうと思う。


 もしこうしてメリユ様がご介入されていなければ、帝国の引き起こす歪みは、世界全体に広がり、やがて世界はバラバラになって崩壊してしまうことになるだろう。

 わたしの大好きなメリユ姉様は、その崩れ始めようとしている世界を必死に支える重責を担われていらっしゃるのだ!


「はあ」


 『時』が止められ、聖都の大時計すら『時』を刻むのを止めた世界で、体感時間で深夜に差し掛かろうとしていたとき、アファベト様からのご提案で捜索の続きは、明日の朝……とはいえ、お日様が昇ることはないのだけれど……から再開することとなり、メリユ様が短い打ち合わせのために呼ばれることとなった。


 そして、サラマ聖女様、ルーファ様、アファベト様からご要望として、『書類捜索が一段落したところで、怪我から回復した修道騎士たちの保護、帝国の工作兵たちの正式な捕縛と尋問のため、ガラフィ枢機卿猊下に聖騎士団の派遣を直接要請したい』という話になった。

 今のところ、ガラフィ枢機卿猊下が不正・腐敗に関わっている書類は見つかっておらず、サラマ聖女様も『信用できる』とおっしゃっていることから、聖都の清浄化については、猊下に一旦お任せすることになるのだろう。

 加えて、ルーファ様を帝国の暗殺からお守りするため、可能であれば、(わたしたちの)ゴーテ辺境伯領への帰還の際にご同道をお許しいただきたいという話になった。


「猊下、殿下、正式な書簡を通して要請している訳でもねぇですのに、無茶を申しているのは重々承知しておりやす。

 ですが、お嬢の身を、何とか保護してもらねぇですかね?」


「アファベト」


 伏してメリユ様とわたしに懇願されるアファベト様。

 アファベト様自身、修道騎士としてはそれなりにお高いご身分でいらっしゃるだろうに……ハラウェイン伯爵領城でお会いした修道騎士の皆様よりずっと好感の持てるお姿のように思えた。


 それでも、


「お気持ちは分かりますが、ゴーテ辺境伯領は、今後数日で戦場になるということはご理解いただけていらっしゃるのでしょうか?

 暗殺の危険度は一時的に下がるかもしれませんが、戦乱に巻き込まれてお命を落とされる可能性は相当に高くなるかと存じますが」


 わたしは敢えて釘を刺しておく。


「もちろん、承知しておりやす!

 とはいえ、猊下のいらっしゃるお傍が世界で一番安全ではないかと、あっしは思うんでさあ」


 必死なアファベト様のお言葉に、わたしは思わずメリユ様の方を見てしまう。

 すると、そのメリユ様が『その通りですよ』と言われんばかりの微笑みで頷かれ、


「わたしはお連れすることにつきましては問題ございません。

 メグウィン様、ご判断お任せしてもよろしいでしょうか?」


 わたしに委ねられるのだ。


 ことは外交には関わること。

 けれど、メリユ様に関わる政務、国務を裁断する権限がわたしに与えられているのも事実。


 まさか、こういう形で、わたしにも活躍の場を与えていただけるとは!


「もう、メリユ姉様ったら……はあ、アファベト様、承りました。

 わたし、ミスラク王国第一王女の権限でお二人を保護させていただきます」


「おおっ、感謝いたしやす!!」


「猊下、殿下、誠にありがたいご配慮に深謝申し上げますっ!

 タダ、もし可能でございましたら、もう一人ご同道のご許可をいただけませんでしょうか?」


 最敬礼で謝意を示されるルーファ様が、思わぬことをおっしゃられる。


「もうお一人とは?」


 そう、おそらくダロック様ではないのだろうが、はたしてどなたなのだろう?

 ここにいらっしゃらない誰かなのだろうか?


「郊外の別邸におります、わたしの弟ディキルになります。

 サラマ聖女猊下と先ほどお話させていただいた限り、ディキルはおそらく人質扱いにはなっていなかったようではあるとは存じますが、念のため、ご同道をお許しいただけませんでしょうか?」


 ルーファ様の弟君、ディキル様ね。

 その別邸まではメリユ様のお力で飛ぶことになるだろうし、『時』を止めたり、動かしたりする回数も増えてしまう以上、状況的に好ましいこととは言えない。

 どうしたものだろうかと、ついわたしはメリユ様の方を窺ってしまう。


「メグウィン様、その程度誤差の範囲内ですわ」


「ですがっ、お力のご行使があまりに多くなり過ぎでは?」


 ガラフィ枢機卿猊下へのご要請ですら、ミスラク王国だけのことを考えれば、拒否したい気持ちがあるくらい。

 タダ、神、メリユ様のご意思を思えばこそ、譲歩していたに過ぎないというのに。


「大丈夫ですわ、日々の鍛錬の一つと思えば、大したことではございませんもの」


 ああ、メリユ様のお手が!

 こんな風に手をギュッとされて、わたしが拒否なんてできないと分かってされているのだろうか?


「もう、メリユ姉様……。

 分かりました、ディキル様も王国側で保護いたします」


「猊下、殿下、ご配慮いただき、改めまして深謝いたします!

 あぁ、本当に、どれほどの感謝をしても、し尽くせないほどでございます」


 ルーファ様にとって、弟君のディキル様はそれほどまでに大切だったのだろう。

 涙を流されるそのお姿に、わたしは、お兄様がハラウェイン伯爵領城で、メリユ様が成り代わられていたわたしに、どれほどご心配されていたのだろうかと改めて思ってしまったのだった。






 『時』の止まった世界で、わたしたちはアディグラト枢機卿のお屋敷でお泊りすることになった。

 力仕事できるお方がアファベト様だけということもあり、来客用の寝室にベッドを追加することができず(もちろん、絶対に無理という訳ではないようなのだけれど)、同室となると三つベッドのある寝室を使わせていただくこととなった。

 一応、二部屋分ご用意いただけるとはおっしゃっていただけたのだけれど、王国側のわたしたち、四人であれば、問題ないということでお断りをしたの。


 それで、今わたしたちは(侍女たちが『時』を止められているため)自分たちだけで寝具の準備をしているという訳。


 小国の王城の貴賓室とそう大して変わらないのではないかと思えるほど、豪奢な調度品類に聖国の聖職貴族の派手さを実感しながらも、まるで自分たち四人だけで聖国に旅行しているかのような気分にまたなってしまって、少し気分が高揚してしまっていた。

 ええ、もちろん、王国に危機が迫っている今、第一王女として、旅行気分に浸っている場合ではないというのは分かっているのだけれど、大事なご聖務を成し遂げるためにも、気持ちを休めるべきときはちゃんと休めるべきと気持ちを切り替えている訳なのよ。


「その、メリユ姉様、もしよろしければ、今夜もご一緒に寝させていただいても?」


 三つしかベッドで、四人が寝るとなれば、当然二人で一つのベッドで寝る必要も出てくる訳で、もちろん、わたしはメリユ様と同き……いえ、ご一緒させていただくのを狙っていたの。


「ぇ……」


 何やらマルカ様が反応されていらっしゃるようだけれど、わたしは必死に上目遣いにおねだりしてみる。

 ミューラ様のお顔ながら、『今夜もそうしたいのね?』というお姉様的な余裕のある微笑みにわたしはドキリとしてしまう。


 ああ、もう……いずれ、本当のお姉様になっていただくのは間違ないのだけれど、どうしてこんなにも甘えがいのあるお姉様らしさに満ち溢れていらっしゃるのかしら?


 神よりデビュタント後のお姿を下賜されているのは、当然と言うのか、むしろ、そちらの方が本来のお姿なのではないかと思える余裕っぷりに、わたしは頬が火照ってくるのを感じてしまう。


「ぁ、あのっ、わたしもメリユ様とご一緒がいいです!

 メリユ様のお隣でないと、何かあったときにお世話できませんし、その……すぐお傍にいらっしゃらないと不安で」


「ぇぇ……」


 やはり、と言うべきか、わたしに負けじと、すぐにハードリー様も参戦される。

 そして、なぜかマルカ様は、わたしのときよりも更に衝撃を受けられたご様子で、ハードリー様をご覧になられているよう。


「そう、わたしは構わないけれど、メグウィンも、ハードリーも、二人ともなると、狭くなってしまうわよ?」


「「構いませんっ!」」


 あら?


「「むしろ、それが良いですっ……?」」


 二言続けてハードリー様と被ってしまって、二人で顔を見合わせて笑ってしまう。

 そんなわたしたちに、マルカ様がたまらなくなられたようで、


「ぁ、あの、殿下とハードリー様は、ハラウェイン伯爵領城では、お姉様と三人ご一緒にお休みされていらっしゃったのでしょうか?」


 お尋ねになられるのだ。


「「もちろんですわっ」」


 そして、わたしたちは、当然とばかりに答える。

 もちろん、メリユ様が本来のお姿でも、わたしのお姿でもないのは残念で仕方ないけれど、メリユ様がお傍にいらっしゃるというのが何より大事なのだから。


「ぇぇぇ……」


「マルカ様もご一緒にお休みになられます?」


「うぅ、お姉様とご一緒できるのでしたら、そうさせていただきたいのですけれど……今夜は諦めますの……」


 まあ、両側はハードリー様とわたしと占有するのが決まってしまったから、今更加わっても(下手をすると)ベッドサイドから落とされかねないものね。

 さて、明日の夜は……ハードリー様、マルカ様との争奪戦になってしまうのかしら?

 もしかすると、サラマ聖女様やルーファ様もこれに加わられるのかもしれないと考えて、笑ってしまいそうになりながら、わたしは、少しばかり世界の闇のことを忘れることにして、平和なベッドの上の『小世界』で幸せな時間を過ごせるということへの期待に胸を膨らせるのだった。

いつも『いいね』、ご投票で応援いただいている皆様方、深く感謝申し上げます!

また新規でブックマークいただきました皆様にも大変感謝いたします!


すっかりユリユリ(?)……な一晩になりそうでございますね。

メグウィン殿下たちが幸せそうで何よりでございます!

ちなみに『同衾』とは、性別に関係なく友愛に熱い者同士であっても使えるようで……うん?

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