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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第131話 悪役令嬢、聖国アディグラト邸内に救済を齎しながら、疑念を深める

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、聖国アディグラト邸内で傷付いた修道騎士たちに救済を齎しながら、ある疑念を深めていってしまいます。


[『いいね』いただきました皆様方に深く感謝いたします]

 いやー、ルーファちゃんの救出も冷や汗ものだったわー。

 まさか、わたしがたまたまワールドタイムインスタンスを停止したタイミングで、アディグラト枢機卿の孫娘ちゃんが襲撃受けてて、もう少しで命落とす寸前だったとか、マジあり得んでしょ?


 絶対、わたしの操作ログ見ながら、多嶋さんたちがイベント起こしたか、もしくは最初からわたしがワールドタイムインスタンス弄った瞬間にイベント起きるようにスクリプト組んでたかのどっちかでしょ?


 わたしをどこまでお試しするつもりか知れないけど、さすがにそろそろ心臓に悪いし、終わらせて欲しいと思う。

 でも、ヒロイン陣との関係性はさ、どんどん深まっていってて、抜けられなくなってるのも事実なのよね。

 メグウィン殿下はわたしのこと、姉のように慕ってくれちゃってるし、ハードリーちゃんはわたしのお世話ばっかりしたがってずっとくっ付いてるし、マルカちゃんも恩返ししたいみたいなこと言って張り付いてるしなー。


「はあ、でも……疑惑の方も深まるばかりだわー」


 ホントにね。

 わたしの気まぐれな発言にもちゃんと付いてきてくれる、みんな。

 後ろでこれ、対話型AIが反応生成してるとか『マジかよ?』って思う。

 さっきのルーファちゃんに神罰が~のくだりのときも、それっぽい反応をしてくれていたし、まるでシナリオライターさんが張り付いてるんじゃないかって思っちゃったくらい。


 ま、わたしごときにそこまでしてくれてるとまでは思わないんだけどさ。


 タダ、AIベースノベルゲーでここまで自然な反応を長時間し続けられるのは見たことないのよね。

 他社製品も含めて。

 多嶋さんの会社だと、これが初めて……のはずなんだけれど、いきなりここまで高水準なものができるものなの?


「対話型AI、だけじゃないか……」


 異常なのはワールドマップもそう。

 ワールド座標系で位置情報取得できるんだけれど、これ本気でどこまで作り込んでのって感じ。

 ゴーテ辺境伯領で空の散歩したときもそうだったけれど……セラム聖国の聖都ケレンに飛んで、その異常性にゾクッとしたわよ。

 本編じゃ、セラム聖国の存在にこそ触れられていたけれど、ヒロインちゃんらがセラム聖国に行くイベントはない。

 なのによ、タダのVRテスト版メリユスピンオフ程度でここまでのもの構築するか?


 たとえ、生成系AIでそれっぽいワールドマップ作っているんだとしても、ケレンの街並みとか、アディグラト枢機卿の屋敷とか、もうあり得ないくらいの完成度なのよね。


「いやー、マジで変なところに繋がっていたりしないよね?」


 このワールドマップデータをゲームサーバー上に置いているとして、もうこの広さあると、普通のテストサーバーじゃ保存することすら無理でしょ?

 借り物にしたって、サーバーの維持費がバカにならないと思うし、さすがにVRテスト版のため、そこまでのことをするとは思えない。


 いやー、マジで怪しいよなあ、これ。


 まあ、それは置いておいても、AIに食わしているベースシナリオのクオリティー、ヤバ過ぎんか?

 いくら生成系AIでプレイヤーとの会話を補間しつつ、ベースシナリオに沿った進行を生み出しているのだとしても、ここまで長時間のテストプレイに耐えられるものとか見たことないよ。


 一体わたしは何のテストプレイをさせられてるのかとか思っちゃう。


「しかも、超シリアス系だしなー、これ」


 本編との違いはね、そりゃあもう楽しんでるよ?

 何たってあの悪役令嬢メリユが、ここまで周囲に勘違いを重ねられて、神に最も近い聖女みたいな扱い、いや、使徒様そのものみたいな扱いまで受けているんだから、笑っちゃう。

 まあ、中世ヨーロッパ風乙女ゲーの類は、テスター含めやり捲ってるんだから、そりゃあわたしがそう振る舞っているおかげかもしれんけど……うん、多分、その辺も考慮に入れてのわたし用テストベースシナリオを用意してくれているっぽいのよね?


 それでも、何だろう……たまたま偶然AIがベースシナリオから逸脱するような展開にもうまく対応できてて、多嶋さんたちでも想定していなかった、とんでも展開が起きているとか言わないよね?


「はあ、本編と違い過ぎだし……」


 そうそ、それにさあ、多分ここまで来ちゃったら、本編の悪役令嬢メリユは時系列的にも登場させられないよねー。

 主要ヒロインたちはもちろん、カーレ殿下にソルタ様までメリユに好意持ってるっぽいし。

 何より、ヒロインちゃんのポジション、奪い捲ってる感、あるしなー。


「で、今わたしは何やってんだろねー……」


 わたしは、アディグラト枢機卿の屋敷内に横たわる味方の修道騎士さんたちと敵の偽修道騎士さんたちを某聖水によって回復させ、敵さん型には某手錠データで手足を拘束して回りながら、乙女ゲーイベントとは思えないようなことを(ミューラの姿で)やっている自分に苦笑いを浮かべるのだった。






 で、屋敷内及び周辺の敵兵の拘束が完了してから、ルーファちゃんの部屋に戻ってきてみれば、ルーファちゃんも警護のアファベトさんもかなりの緊張状態で最敬礼してきたのよ。


 特にルーファちゃんのカーテシーは……上半身を曲げて、頭を下げて深くお辞儀する教皇猊下とかに対する最敬礼スタイル。


 さっきのでも、サラマちゃんたちが特に指摘しなかったのだから、儀礼上特に問題なかったんだろうけれど、今度はまた『どうした』って感じよね。


「メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下、此度は、屋敷内の修道騎士ご救済の奇跡を賜りましたこと、心より感謝を申し上げます」


「猊下、先ほどは大変失礼な軽口を叩いてしまいましたこと、誠に申し訳ございやせんっ。

 ダロックも含め皆の傷を癒してくだせぇましたこと、感謝申し上げやす」


 えっと、ルーファちゃん、どうした?

 アファベトさんなんて、カチカチじゃん?


 んー、わたし、別に大したことしていないんだが?


「メリユ様、メリユ様のなされたことは、本当に大したことでございますわ。

 たったお一人で、敵味方関係なくご救済をなされ、その上で、敵兵の捕縛までなされるなんて、わたしも自分の目を疑いそうになりましたもの」


 メグウィン殿下……?


「本当に……わたしも自分がいかに視野狭窄していたのかを思い知らされましたわ」


 ええっと、一体どういうこと?


「最初は、メリユ様がアディグラト枢機卿様とのお約束に従って、それも不用意な行動を引き起こされたルーファ様をお救いに向かわれたことすら『余計なこと』だなんて思ってしまっていたのですもの」


「メグウィン様」


「ですが、そうではないのですね?

 もしここで聖都で暗躍する敵、オドウェイン帝国の工作兵たちを見逃してしまえば、聖国の聖職貴族、その腐敗した上層部の者たちは、帝国の言いなりになり、王国は……周囲を囲む大国の中で唯一中立的で、友好的だった聖国との繋がりを失ってしまうことになってしまうと」


「……」


 あー、そういうことね。


「メリユ様にとっては、聖国の無辜の聖職貴族の方々をお救いするというのも、ルーファ様ご救出のご聖務の一環であられるのかもしれません。

 とはいえ、それが王国のためになっているということに、わたしはなかなか考えが及ばず……こうして、メリユ様のご救済を拝見させていただいた中でようやく気が付くことができたのですわ」


 うん、メグウィン殿下のおっしゃっていることは、確かに……そう捉えることもできるかもしれないなあと思う。

 いや……けれど、わたしの『気まぐれ』をそう好意的に解釈されるとむず痒いし、そもそもわたしはそこまで深いことは考えちゃいないんだ。


 なのに、そこまで深読みできちゃう、メグウィン殿下の反応を生成してるAIって何?


 そういう小説、ゲームシナリオを学習したから、深読みできるようになったって言うの?

 わたしはそうは思えない。

 HMDの有機ELパネル越しに見えるメグウィン殿下には、こう確固とした人格があるように感じてしまう。


 これは、本当にシナリオライターさんがわたしの反応を元に、メグウィン殿下の反応を書き起こしているとでもいうの?


「メリユお姉様、わたしは心からお姉様をご尊敬申し上げます。

 サラマ聖女様やルーファ様と協力いたしまして、必要な書類を早急に揃えるようにいたしますので、どうか今後もわたしをお傍に置いてくださいますようお願い申し上げます」


 う……何なのよ、これ?

 いや、やっぱ、狙ってる感あるよね?

 シナリオライターさん、わたしのツボを知った上で、メグウィン殿下にこんな反応をさせているってことなの?


 ダメ、ここで屈してはいけないわ!


「メグウィン、わたしが貴女を離すはずがないでしょう?

 お願いしたいのは、わたしの方こそなのだわ」


 そう来るのなら、わざとお姉様ぶって、揺さぶってみましょうじゃないのよ!


「メリユお姉様!」


 メグウィン殿下の目がどんどん潤んでいってしまう。

 ああ、この眼差しは反則よ!

 一体どうすれば、こんなリアルタイムで反応を生成できるのか?


 AIでないとすれば、モーションキャプチャとAIベースボイスチェンジャーでリアルタイムで演じているとか?


 でも、あまりにもリアルなメグウィン殿下のご反応に、わたしはとうとう陥落してしまいそうになってしまうのだった。

いつも『いいね』、ご投票で応援いただいている皆様方、厚くお礼申し上げます!

お待たせしてしまい申し訳ございません!


どのタイミングで後書きに書こうか迷っていたのですが、このお話を掻き出し始めた当時は、ここまでAIの進化が進むとは思ってもみませんでした。

このお話用に情報収集はしているつもりなのでございますが、架空のお話のつもりで書いていたことがどんどん現実になっていくなあと、鳥肌ものであったりするのでございます。


このお話が終わる頃には、どこまで世界は変わっているのでございましょう?

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