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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第126話 王女殿下、悪役令嬢・聖国聖女猊下・ゴーテ辺境伯令嬢・ハラウェイン伯爵令嬢と共にセラム聖国聖都ケレンへ赴く

(第一王女視点)

第一王女は、『時』の止まった世界で、悪役令嬢、聖国聖女猊下・ゴーテ辺境伯令嬢・ハラウェイン伯爵令嬢と共にセラム聖国の聖都ケレンに瞬間移動します。

 『時』の止まった世界において、わたしたちだけの時間は流れていき、セラム聖国の聖都ケレンに向かう準備は整っていた。

 使徒様のお姿になられたメリユ様の左手をわたしが握り、わたしの左手にはサラマ様が。

 そしてメリユ様の右手をハードリー様が握られ、その右手をマルカ様が握られていた。


 見た目で言うならば、使徒様の両側に、正装=晩餐会用のドレスを身に纏った聖女、王女、貴族令嬢が並び、これから世界を救うために旅立とうとしている絵姿なんて、これまで読んだどんなお伽話にもなかった。


 一体どれだけのお伽話や伝承を混ぜ合わせれば、このような展開になると言うのだろう?

 しかも、これからメリユ様が瞬間移動のご命令を発動されれば、わたしたちは一瞬で聖都ケレンの上空に到着しているというのだ。

 王都からキャンベーク川の上空に飛んだことのあるわたしでさえ、隣国の聖都まで一瞬で移動するということに緊張感を覚えてしまう。

 これが初めてであられるサラマ様やハードリー様は、なおのこと、緊張なさるのも無理ないことだろう。


「メリユ様は、これほどのお力のご行使を怖ろしく感じられたりされませんのでしょうか?」


「そうでございますね。

 管理者権限というものは使うべき……そう然るべきときに使わねば、タダの宝の持ち腐れとなりますでしょう?

 今この力を使わなければ、誰かが傷付くのだと、そう意識して行使すれば、怖ろしさを覚えることもございません」


 サラマ様のご質問にハッキリとお答えされるメリユ様は、お兄様と同い年のサラマ様以上に年上でいらっしゃるように感じられる。

 けれど、きっと最初は『人』には過ぎたお力に、恐怖を覚えられていたに違いない。

 一国の王ですら、その行為を躊躇してしまいそうなお力を操られるメリユ様は、それだけお心も早くご成長されたのだろう。


「然るべきときに使わなければ、宝の持ち腐れ。

 確かに、そうでございますね。

 わたくしの聖国聖女としての立場も、今傷付こうとしている誰かのために最大限活用しなければならないのでございましょう。

 貴重なお話、感謝申し上げます」


「いいえ、とんでもないことですわ」


 背丈はわたしとそう変わらない小柄なサラマ様が、感激したように頷かれる。

 本当に(今オドウェイン帝国の魔の手が忍び寄っているとはいえ)大国であるセラム聖国の聖女猊下が、小国の辺境伯令嬢であり、年下のメリユ様のお話にこうして敬意を払われてお聞きになられているということに、改めてメリユ様の凄さを実感してしまうのだ。


「それでは、これよりセラム聖国聖都ケレンへ赴きたく存じます。

 危険は何もございませんので、どうぞお互いのお手を離さないようしっかりと握り合ってくださいませ」


「「「「はい」」」」


「“Activate flying mode of Meliyu”

 “VerticalMove 1.0”」


 これは、飛翔のご命令?


 前回は、身体をご透明にされていらっしゃったけれど、今回は使徒様のお姿のまま。

 光の粒を周囲に散らす、神々しいお翼がバサリと羽ばたかれる準備に入るご様子が視界に映り、わたしは感動のあまり、言葉を失ってしまっていた。

 (ゴクリ)


「「「三、二、一」」」


 メリユ様、ハードリー様とご一緒にご命令の発動までの時間を測る。

 決して、メリユ様のお手に引き上げられるのではなく、わたしたちの身体もまたメリユ様のお翼と合わせるように浮き上がり、とても不思議な浮遊感を味わうのだ。


 ああ、わたしは、この人生でこれから何度この感覚を味わえるのだろう?


 一度浮き上がってしまうと、先ほどまでの緊張感は霧散し、何とも言い難い高揚感だけがわたしの胸を満たしていく。


「皆様、お目を閉じてくださいませ。

 “Translate 16800.0 32200.0 -100.0”

 はい」


「「「三、二、一」」」


 移動のご命令!

 正式なご訪問となれば、聖国との調整や道中の護衛をする近衛騎士団の準備などで相当な日数を要することになるだろうが、メリユ様にかかれば、一瞬で着いてしまう。

 あまりにもあり得ない移動に、わたしは自分の顔が緩んでいくのを感じながら、吹き荒れる風に備えるのだった。






「皆様、到着いたしました。

 セラム聖国聖都ケレンの上空でございます」


 結果から言うと、聖都ケレンへの瞬間移動では、あのシュバッと来るはずのアレはなかった。

 風の乱れも極端な気温の変化も、それどころか、周囲の音の変化もほぼ何も生じなかった。

 互いの息遣いだけが聞こえる、極端すぎるほどの静穏さ。


 わたしは驚きのあまり、瞼を上げてしまい、眼下に広がる聖都の夜景に驚きを隠せなかった。


「こ、これが聖都ケレン……」


 『時』が止められている世界で瞬間移動をするというのは、これほどまでに感覚が異なるものなのだろうか?

 わたしは、爪先をパタパタと動かしながら、自分の足裏を支えるべき地面がないのを味わいながら、本当に宙を飛んでいる自分自身を確かめる。


 こんな形で聖都ケレンを訪れる日が来るだなんて。


 まだ大規模な異常は起きていないように見える、聖都ケレンの夜景は宝石を地面に散りばめてあるかのようで、うっとりとなってしまうほどのものだった。

 そう、『時』が止められているから、今このときだけは、素直に『美しい』と思える。

 けれど、現実には、不幸が撒き散らされようとしているのを一時的に(メリユ様が)止められているだけで、わたしたちの働き如何で未来はどう転ぶか分からないのだ。


 そして、ふとわたしは、わたしの左手を握るサラマ様のお手がじわりと汗ばんきているのを手袋越しに感じるのだ。


「サラマ様?」


「!」


 ピクリと震えられるサラマ様は、目を精一杯閉じられていて、まだ瞬間移動に怯えていらっしゃるご様子だった。


「どうぞご安心くださいませ。

 無事に聖都ケレンに到着しておりますわ」


「ほ、本当に、目を開いてもよろしゅうございましょうか?」


「もちろんでございます」


「ふぅ、はあ、ふぅ、はあぁっ」


 吐息まで震えているのが分かる。

 けれど、思い切り吐息を吐かれたのち、覚悟をお決めになられたのだろう。

 わたしの手をぎゅっと握りしめながら、サラマ様がゆっくりと瞼を上げていかれる。


「っ!?」


「聖都ケルン、本当に大きく美しい街でございますね。

 今度はぜひ昼間にこの高さからの景色を拝見いたしたく存じます」


「ああ、わたくし、本当にケレンの上を飛んでいるのですね……」


 サラマ様は、ご自身の愛される母国の聖都の(まだ平和な)光景に涙される。

 そんな光景をわたしは黙って見守ることにしたのだった。

いつもご投票で応援いただいている皆様方、誠にありがとうございます。

GWということで一気に書き進めてまいりたく存じますので、何卒よろしくお願いいたしますね。

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