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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第125話 王女殿下、聖国聖女猊下・ゴーテ辺境伯令嬢・ハラウェイン伯爵令嬢と同士になる

(第一王女視点)

第一王女は、『時』の止まった世界で、王女殿下、聖国聖女猊下・ゴーテ辺境伯令嬢・ハラウェイン伯爵令嬢と同士になります。


[『いいね』いただきました皆様方に心より深く感謝申し上げます]

「メグウィン様、ハードリー様、マルカ様、何卒よろしくお願い申し上げます」


 メリユ様は、ハードリー様、マルカ様、そして、わたしの言葉を少し涙ぐまれた笑みで受け入れてくださった。

 危険な場に(たまたま)わたしたちが居合わせた場合を除き、そのようなご聖務にわたしたちをお連れくださらなかったメリユ様が、聖国へ同行することを認められたということは、それだけメリユ様とわたしたちの距離が近付いた証と言って良いのだろうと思う。


 メリユ様に何かあれば、その時点でミスラク王国自体が滅亡するのが確定しており、既にメリユ様なしには、ここに生きて立ってはいなかったわたしにとって、メリユ様のご聖務にご一緒できることは本望と言って良い。


 小国ゆえ、王国に何かあれば、王族として国と運命を共にする覚悟こそできていたものの、こうして世界を悪しきものから救うためにメリユ様と運命に立ち向かえるなんて、きっとわたしの生涯の誇りとなるだろう。

 たとえ、その最中で何かあったとしても、わたしが悔いを残すことはないと思うのだ。


「神よ、どうか最期まで、メリユ様と一緒にいさせてくださいませ」


 わたしはそれだけを祈り、自身の思いのままにメリユ様に抱き付いたのだった。


 聖国のことなんて、本来辺境伯令嬢であられるメリユ様には関係のないことのはず。


 わたしと変わらないお年で、わたしとそう変わらない体格で聖女となられ、これまでもご神命を受けて、闘ってこられたメリユ様の孤独を思うと、今までのわたしの第一王女としての苦労なんて些細なものに思えてきてしまう。

 だからこそ、これからは、わたしも少しはその半肩を担がせていただきたいと心の底から思うのだ。


「メリユ様」


「お姉様」


 わたしに続いて、ハードリー様、マルカ様もメリユ様に抱き付かれる。

 何もなければ、ごく普通の貴族令嬢として学院入学に向けてのご準備を進められているはずだったお二人。

 タダ第一王女として漫然と王城で教育を受けていたわたしも含め、こうして世界の行く末を左右するご聖務に携わることになるなんて、不思議なものだ。


「お父様もお母様も、わたしがこんなことに関わるだなんて思ってもみなかったことでしょう」


 わたしはあまりに高ぶる気持ちに、涙がまた込み上げてくるのを感じながら、全身でメリユ様のご存在を感じていた。






「それにしましても、世界の『時』を止められるだなんて……神と神のご眷属の方々を除き、まず体験することのできないものなのでございましょうね」


 世界の『時』と同じく、止まっているハナン、アリッサ、セメラたちを眺めながら、『決しては触れてはならない』というご注意を胸に刻みながら、わたしたちは『時』の止まった世界を改めて実感していた。

 今、世界の『時』を動かすのも止めるのも、その権限はメリユ様に委譲されているのだという。

 ものを消去するお力も凄まじいものであったけれど、これほどのお力をお持ちなりながら、本当に世界が必要するときにだけそのお力を適切に振るわれるメリユ様のお心の強さには、尊敬の念に堪えない。


 心が子供のままで、我儘な十一歳の貴族令嬢にこんな力を持たせたりすれば、どんな悪戯に使うか分かったものではないだろう。

 それこそ、意中の貴族令息を振り向かせるために悪用するような令嬢が出てきたとしても不思議ではない。


 あまりに大き過ぎるお力を正しく振るわれるメリユ様は、本当に世界でタダお一人、神に認められるほどの聖女のお心をお持ちなのだ。


「げ、メリユ様は、ご自身のご意思で、この時間を動かし始めることが可能なので、ございますよね?」


「はい」


 ハードリー様は、驚きを隠せないご様子で尋ねられ、メリユ様は何でもないようなご様子で頷かれる。

 本当にご自身の凄さをまるでご理解されていないご様子。

 サラマ聖女様が(思わず)両手を重ねられるご様子からも、それがどれほど稀有なことであるのか、はっきりと分かるのだ。


「で、メグウィン様……このお力のご行使は、危険な匂いがしませんか?」


 こっそりと話しかけられ、わたしはそれに静かに頷く。

 このお力のご行使を『何でもないこと』と思われるメリユ様の心の在り方は、(聖なるお力の消耗もあるのだが)やはり不安になってしまう。

 『人』が本来行使できるはずもない、凄まじいお力を神の眷属として振るわれる行為は、メリユ様を『人』から遠ざけるものとなるのは間違いないと思う。


「そうですわね。

 時を止められている間にも、『人』としてのメリユ様に悪影響がございますでしょうし、わたしたちがいかに早くご聖務を終えられるよう協力できるかにかかっていると言えるのでございましょう」


「はい」


 ハラウェイン伯爵領城で、『人』の手では触れられない使徒様のお姿になられていたときのメリユ様のことを思い出してしまう。

 万が一にでも、メリユ様が使徒様同然のご存在になられ、天に召し上げられるようなことになられて、あの平和になったハラウェイン伯爵領での夢が掻き消されてしまったらと思うと怖い。


「メグウィン様も、サラマ様も、ハードリー様、マルカ様も晩餐会をご欠席される訳にはいきませんでしょう?

 聖国では、多少『時』を動かす必要に迫られるかと存じますが、一刻以内に全てを終わらせる必要があるかと存じます」


 それはそう。

 サラマ様はお部屋に書置きをされて、一刻以内に戻られる旨を修道士や(貴賓室に戻れる途中だった)侍女に伝わるよう手配されたとのことだけれど、わたしもハナンたちにそれが伝わるようにしなければならないだろう。


「それにしましても、一刻以内とは」


 聖国では、状況に応じて、メリユ様のご判断で『時』を再度動かしたり、止めたりされるということ。

 ここから聖国の聖都に向かうだけでも、普通であれば明日の夕刻になるだろうに、この世界の時間で一刻以内に全てを終わらせられるだなんて、そんなもの、神の御業、いえ、神のご眷属の御業でしかないだろう。


「あの、ところで、メリユ様、服装はいかがいたしましょう?

 でん……メグウィン様やサラマ聖女猊下のお着替えが必要なようでしたら、わたしが対応いたしますが」


「いえ、そのままで構いません。

 荒事が必要な場合は、全てわたしが対応いたしますので」


 晩餐会用のドレスのままで良いとは、驚きを隠せない。

 せめて、乗馬服などに着替えた方が良いかと思っていたというのに。


 しかも、荒事を全てメリユ様がお一人でなさるだなんて、いくら聖騎士団を制圧され、ソルタ様を軽く去なされたメリユ様とはいえ、心配だ。


「本当に大丈夫なのでございましょうか?

 わたしでしたら、多少影同様の鍛錬を受けておりますので、少しはお手伝いできるかと」


「ありがとうございます、メグウィン様。

 ですが、荒事につきましてもご心配には及びませんので」


 凛々しく微笑まれるメリユ様。

 何てずるい。

 こんなにも頼もしいお方がわたしのお義姉様になられるだなんて、いえ、お姉様になられていただなんて、わたしの心はどうにかなってしまいそうだ。


「あの、メグウィン第一王女殿下、マルカ辺境伯令嬢様、ハードリー伯爵令嬢様には、わたくしの仕事をお手伝いいただいてもよろしいでしょうか?」


 そこにサラマ聖女様が言葉を挟まれる。

 事前にメリユ様とは打ち合わせ済でいらっしゃるらしく、迷いなく、わたしたちの目を見詰められ、そうおっしゃるのだ。


「「「もちろんですわ」(でございます)」」


「あと、わたしのことはタダ、サラマとのみお呼びいただけますと幸いでございます」


「こちらこそ、タダ、メグウィンと」


「ハードリーと」


「マルカとのみお呼びいただければと存じますの!」


 声が重なり、運命共同体となったわたしたちは笑い合う。


「では、サラマ様」


「はい、メグウィン様、マルカ様、ハードリー様」


 まるで、本当に同士になったよう。

 いえ、メリユ様を挟んで、わたしたちは既に同士となったと言えるのだろう。

 わたしは、微笑みながらサラマ様に頷いて、お話の続きを促す。


「では、メグウィン様、マルカ様、ハードリー様、わたくしたちはまず聖都のアディグラト枢機卿邸に向かう予定でございます。

 そこで、第一にルーファ・スピリタージ・アディグラト様のご救出を行い、第二にオドウェイン帝国により引き起こされた不正、腐敗の証拠書類を入手する予定でございます」


 ルーファ・スピリタージ・アディグラト様のご救出……。


 なるほど、緊急性の高いご聖務となったのは、きっとこれに起因しているのだろう。

 マルカ様のときでさえ、かなり際どかったというお話。

 『時』を止められたのは、このままではルーファ・スピリタージ・アディグラト様のお命に危険が及ぶと神がご判断されたからに違いない。


 スピリタージということは、聖職貴族の一員、アディグラト枢機卿の孫娘にあたるお方で間違いないわ。


「状況から推測させていただきますに、既にオドウェイン帝国の魔の手が迫っているということでよろしいでしょうか?」


「はい。

 先ほど、メリユ様に神の目で確認させていただきました。

 聖国の修道騎士に偽装とした者たちが、既にアディグラト枢機卿邸に襲撃をかけている状況でございます」


「「まあ」」


 マルカ様とハードリー様が思わず口を手で押さえられる。


「まさか、オドウェイン帝国は、敢えて二正面作戦に臨むということなのでしょうか?」


 わたしは冷や汗が伝うのを感じながら、サラマ様に質問する。


「そうでございますね。

 既に聖都の聖職貴族の半数は、おそらく、オドウェイン帝国によって腐敗し、弱みを握られている状況にあるかと存じます。

 教皇猊下は、ミスラク王国王都にご滞在中で、数日中にゴーテ辺境伯領への侵攻が始まれば、聖都の中央教会との連絡手段も完全に絶たれ、このままですと王国と運命を共にすることとなりますでしょう。

 もはや、聖国上層部は瓦解寸前なのでございます」


 まさか、聖国がそんな状況になっていたなんて!

 サラマ様を味方に付けた、聖騎士団を味方に付けたと喜んでいたけれど、実際には聖国にも魔の手が伸びていたということ。

 メリユ様は、きっとご神託によって、このような状況になるであろうことは事前に把握されていたのだろう。


 制約によって実質神により口止めされていて、黙っているしかなかったメリユ様。


 よくそんな板挟みな状況で、お心を保っておられたと思ってしまう。

 わたしであれば、心痛のあまり、精神を病んでしまっていてもおかしくないと思う。


「メリユ様……」


「大丈夫ですわ、メグウィン様。

 この状況に抗うための力と権限は、全て与えられておりますので」


「ですが、メリユ様はまだ万全のご状態では!」


「ご安心を。

 聖都にいる工作兵の人数はさほど多くはございません。

 本日中にこれをどうにかできれば、ゴーテ辺境伯領への侵攻前に回復する時間は確保できるかと」


 もう……何というご無理を。

 わたしは、涙ぐんでしまうのを抑え切れず、大事なお姉様に抱き付き直してしまうのだった。

いつも『いいね』、ご投票で応援いただいている皆様方、厚くお礼申し上げます!


はい、王国と同時に聖国へも魔の手を伸ばしていることが分かり、先に聖国を何とかしなければならなくなりました。

ゴーテ辺境伯領への侵攻までには少しの猶予はございますが、メグウィン殿下が心配になられているのも分かりますね。

ワールドタイムでは、一刻以内に聖国の状況を解決するつもりでいるらしいメリユ=ファウレーナでございますが、はたして時間内に何とかできますでしょうか?

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