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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第124話 王女殿下、悪役令嬢にプロポーズしかける(!?)

(第一王女視点)

第一王女は、聖国に赴くことを伝えに来た悪役令嬢にプロポーズしかけてしまいます(!?)


[『いいね』いただきました皆様方に心よりお礼申し上げます]

「本当に晩餐会に出席することにして良かったのかしら?」


 ハードリー様、マルカ様とわたしが貴賓室を離れ、メリユ様をお一人に……いえ、ミューラ様にお任せするということに不安がなかった訳ではない。

 何せメリユ様がご神託を賜られて、ご聖務に向かわれることは、わたしたちが離れているときに起こっていたから。

 もしかすると、神は、わたしたちがいないときを見計って、ご神託をくだされているのではないだろうか?

 あの『神の目』を知ってしまって、神が地上にいる一人一人の位置まで把握されることが可能なのだということを分かってしまったから、今このときにご神託をくだされていてもおかしくないように思えてしまうのだ。


 とはいえ、『虫の知らせ』のようなものがあったという訳ではない。


 わたしには、神託を賜れるような素養はないし、人を見る鍛錬をしている程度で、遠くで起きていることを察知するような能力や勘なんてものがある訳でもない。

 それでも、メリユ様が気になって仕方がないのだ。


「メグウィン様?

 どうかされましたでしょうか?」


「いえ、お部屋でお休みになられているメリユ様が気になってしまいまして」


「ああ、そうで、ございますよね。

 でも……いえ、ですが、あれだけしっかりお約束してくださったのですもの、きっと大丈夫に違いないですわ」


「ええ、わたしもそうは思うのですけれど……」


 それでも、マルカ様のご救出のときのような緊急性の高いご神託を賜ったとき、メリユ様はどう動かれるだろうかと思うと不安で仕方がない。

 ご自身でしか解決できないと分かっておられるご神託に、じっとしていられるメリユ様ではないのだ。

 わたしたちとのお約束があっても、神からのご神託、ご聖務を優先されるのではないのだろうかと思ってしまう。


「大丈夫ですよ、姫様。

 ミューラ様もいらっしゃるのですし」


 すぐ傍で警護してくれているアリッサがわたしを安心させようとするかのように笑って言ってくれる。


「そうね、大丈夫よね」


 そう……わたしも半分自分に言い聞かせるようにそう応えた次の瞬間のことだった。


 ゴーテ辺境伯領城の廊下から音が消え、同じ歩幅で歩いていたアリッサたちが急に立ち止まったように感じたのだ。


「え?」


 驚くわたしの顔を風が撫で、視界を遮るように人影が現れ、わたしを受け止める。

 顔を上げるわたしの視界には、赤い綺麗な髪が揺れるのが見え、ふわりと強い花の香りがわたしの鼻腔を擽るのだ。


 この香り、感触は……。


「わっ」


 メリユ様!?


「「キャッ」」


 すぐ傍でも、ハードリー様、マルカ様のお声も聞こえる。

 一体、何が起きたというの!?


 わたしは、メリユ様に抱き留められるのを素直に受け入れながら、メリユ様の肩越しに周囲の景色を確かめる。

 歩きかけというのか、中途半端な姿勢で立ち止まっている近傍警護の皆。

 視界に入るアリッサも、セメラも、ハナンも、まるで突然氷像にされてしまったかのように凍り付いてしまっていたのだ。


「大丈夫でしょうか、メグウィン様?」


 お優しいメリユ様のお声が右耳に響いてくる。


「メ、メリユ様、どうしてこちらに?

 また瞬間移動で来られたのでしょうか?」


 聖なるお力をご行使されたときに感じる、花の香りを嗅ぎながら、わたしはメリユ様に尋ねる。


「いいえ、時間を停止させました」


 ………。


 時間を停止?

 それは一体!?


「メリユ様、どういうことでしょうか?」


 わたしは混乱に陥りながらも、ハナンたちが全く動かないことに、そのご説明が本当に正しいことを知ってしまってしまうのだ。


 ご神託があったのね?


 この状況で、何も察せないわたしではない。

 あれだけお約束をお守りくださるようお願いしたからこそ、こうしてメリユ様は、わたしたちに事前にお知らせにお越しくださったのだろう。


「やはり、ご神託でございますか?」


「はい」


 メリユ様からそっと身体を離して、周囲を見ると、サラマ聖女様もいらっしゃって、ハードリー様とマルカ様を受け止められていた。


「あの、お姉様、本当に時間をお止めになられたのですの!?」


「どうして、サラマ聖女猊下がこちらに!?」


 この時間が停止しているはずの世界で動けているのは、メリユ様、サラマ聖女様、ハードリー様、マルカ様とわたしの五人。


 そして、メリユ様がサラマ聖女様を伴われていることから、聖国関連の緊急事態であることを察するのだ。


「メリユ様、聖国へサラマ聖女様と赴かれるおつもりでございますね?」


「はい」


 手袋の中で掌がじわりと汗ばんでくるのを感じてしまう。

 メリユ様の中で、ご神託を受けてのご聖務を執行されることは決まってしまっているのだ。

 そして、わたしが何を言おうとそれは覆せないものであるのだろう。

 あくまで、あのお約束があったから、事前にお伝えにきてくださったに過ぎないのだ。


「っ」


 言葉にならない言葉が喉に詰まって、わたしは口をパクパクさせて、激しい焦りを覚えてしまう。


 きっとわたしの言いたいことは、『わたしを置いて行かないで』ということなのだと思う。

 いくらサラマ聖女様がご同行されるのだとしても、実際にご聖務を執り行われるのは、メリユ様お一人だけ。

 せめて、メリユ様のことをもっと理解しているわたしやハードリー様を伴っていて欲しい……そういうことなのだ。


「すぅ、はあ、メリユ様、それほどまでに緊急性の高いことなのでございますよね?」


「はい」


「メグウィン第一王女殿下、聖国のことにメリユ様を巻き込んでしまい、本当に申し訳なく存じております」


 サラマ聖女様のお言葉に、わたしは思わずサラマ聖女様を睨み付けてしまっていた。

 『メリユ様』

 きっと、時間を停止されたこの世界で、事前にメリユ様とサラマ聖女様は、協議を重ねられ、その中でお名前で呼ばれることをお許しになられたのだろう。

 それは仕方のないことだと思う。

 実際、聖国の聖女猊下であられるサラマ聖女様とメリユ様が仲良くなられることは外交的にも悪いことではないだろう。


 それでも、何か不快なものを覚えてしまっていたのは確かなのだ。


「メリユ様、サラマ聖女様を伴われるのでしたら、当然補佐役のわたしたちをお連れくださいますでしょう?」


 わたしはほとんど衝動的にそう言ってしまってから、何て我儘なことを言っているのだろうと我に返るのだ。


 同行する人数が増えれば増えるほど、瞬間移動させていただくことにも、現地でお守りいただくにも、メリユ様のご負担が大きくなるのは間違いない。


 それでなくとも、メリユ様はしっかりとご休養いただかなければならないような状態であるというのに、更にメリユ様がご消耗されるような状況に追い込んで、何が補佐役だというのか?


「メグウィン様」


「わ、わたしは……」


 わたしが再び焦りを覚える中、


「ありがとう存じます、メグウィン様。

 ですが、現地において絶対の安全は保障できません」


 メリユ様は困ったように微笑まれる。

 本当に……一体聖国で何が起きているというのだろうと思ってしまう。

 けれど、メリユ様のお言葉に拒絶の意がないことを察して、わたしは必死に言い募ってしまうのだ。


「メリユ様にお救いいただいたこの命ですもの、いついかなるときでもわたしはメリユ様と共にあるつもりですわ。

 どんな危険が待ち受けようとも、どんな災厄が起ころうとも、ご一緒に立ち向かう覚悟はできております!

 どうか、どうかわたしをお傍に置いてくださいませっ!!」


「「っ」」


 ハードリー様、マルカ様からなぜか熱い視線を浴びてしまい、わたしは自分が言い放ってしまった言葉が、まるでプロポーズのようであったかのように思えてきて、自分の頬が熱く火照ってくるのを感じてしまう。


「そ、そうですっ!

 わたしもどうぞ猊下、いえ、メリユ様とご一緒させてくださいまし!

 たとえ世界のどこへ向かわれるのだとしましても、わたしはメリユ様のお隣でお世話させていただきたく存じますっ!」


「わたしもですの!

 聖国のことでしたら、きっとわたしもお役に立ってみせますのっ!

 どうぞわたしもお連れくださいませ!」


 お二人とも……。

 本当に、ハードリー様も、マルカ様も、メリユ様と共にありたいと思われているのだわ。

 メリユ様に救われて大きな恩があるというのも、メリユ様を敬愛しているのも、メリユ様をお支えしたいというのも、きっと同じ同士なのに違いないのよね。


 そして、メリユ様を独占したいという気持ちも、同じようにあるに違いない。


 けれど、今は……わたしたちは運命共同体として、メリユ様と世界を変えていかなくはならないのだと思いながら、わたしは心滾るものを感じてしまうのだった。

いつも『いいね』、ご投票で応援いただいている皆様方、深謝申し上げます!

ついに、ヒロイン勢が揃い、世界の不穏な動きに立ち向かうことになったようでございますね!

そして、実質プロポーズの言葉を告げてしまったメグウィン殿下……メインヒロインは、やはりメグウィン殿下以外にはいらっしゃいませんよね!

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