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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第117話 ハラウェイン伯爵令嬢、ゴーテ辺境伯令息の言葉に本来の悪役令嬢を想起させられる(!?)

(ハラウェイン伯爵令嬢視点)

ハラウェイン伯爵令嬢は、ゴーテ辺境伯令息の言葉によって本来の悪役令嬢を想起させられますが、改めて悪役令嬢への思いを強くします。


[『いいね』いただきました皆様方に深く感謝申し上げます]

 ミューラ様とわたしは、一緒に猊下がお休みされていらっしゃる貴賓室に入ります。

 ハラウェイン伯爵領城と比べると、やはりセラム聖国と隣接しているゴーテ辺境伯領城の貴賓室はかなり立派なように思います。

 ハラウェイン伯爵領城にご滞在中も、何一つご不満を漏らされることなく、いつも微笑んでいらっしゃった猊下ですけれど、今更ながら不十分な点があったのではないかと不安になってしまいそうです。


「お嬢様、お食事を持ってまいりました」


「た、ただいま戻りました、メリユ様」


 ベッド上で上半身を起こされていらっしゃる猊下が柔らかく微笑まれ、わたしは自分の心臓が胸から飛び出しそうになるのを感じてしまいました。

 猊下のお傍にいらっしゃる殿下は、あれほど自然に寄り添われていらっしゃるのに……わたしは、もうまっすぐに猊下を見ていられません!


 殿下も、猊下をお慕いされていらっしゃるはずですのに、どうしてこうもわたしと違うのでしょうか?


「おかえりなさいませ、ハードリー様。

 ミューラもどうもありがとう」


 ああ、猊下のお声がとても耳にこそばゆいです。

 本当にどうしてソルタ兄様は、これほどまでにお優しく穏やかなお方を傲慢な貴族令嬢だと思い込んだのでしょう?


 もし、もしもの話ですが、猊下がソルタ兄様から聞かされたようなお方だったら、どうでしょう?

 ハラウェイン伯爵領とわたしの家族をお救いくださったとして、猊下はどのように振舞われるでしょう?



『よろしいかしら、ハードリー?

 わたしが貴女の家族を救って差し上げたのよ? お分かり?

 なら、貴女はわたしに尽くす義務があるわよね?』



 なぜでしょうか?

 ソルタ兄様からのお話から(自然と)想像された猊下は、それはもう尊大でいらっしゃって、すごく嫌な感じがするのですけれど、今の猊下を知ってしまった後ですと……むしろ、そうおっしゃられても、『尽くさなければ』と思ってしまいそうなのです……。


 うう、わたしはもしかして、そのように扱われたい願望があったりするのでしょうか?


 殿下は、猊下に妹として扱っていただきたいという願望がお持ちだったようで、先日も猊下はそのお願い(?)に応じられて、姉らしく振舞われたことがありましたけれど……わたしにそんな願望があったのだとしたら、少し怖く思えてしまいます。


「……ですが」


 ええ、殿下の姉のように振舞われた猊下も、ものすごく自然でいらっしゃって、まるで本当に殿下よりずっと年上の姉であられるかのようだったのです。

 それでいて、殿下への親愛の情のようなものも感じられて、お傍で拝見させていただいていて、くすぐったい思いにかられたものです。


 はあ、猊下が……もしあの想像のようにご尊大に振舞われることもあっても、きっとお優しさがあちらこちらに滲み出てしまって、わたしはそれにときめいてしまうのかもしれません……。


 って、わたしは何を考えているのでしょうか!?

 いけませんっ!!

 このままではおかしくなってしまいそうです。


 ああ、もう、これもそれも全てはソルタ兄様のせいなのです。

 ソルタ兄さまさえ、今の猊下のご正体を最初から見抜かれてさえいらっしゃれば、こんなおかしなことを考えずに済みましたのに!


「ハードリー様?」


「ひゃい!?」


「?」


 ああああ、恥ずかしいですぅ!

 わたしは自分の頬が一気に火照っていくのを感じてしまうのでした。






 大分ご体調がご回復された猊下は、少量ですが、パンとお肉もお召し上がりになられ、デザートとして林檎の蜂蜜漬けを今味わっていらっしゃるところです。

 猊下のお食事のお世話はいつもよりも緊張してしまって、自分がどう動いていたかも記憶が定かではありません……。


 タダ、手が震えてしまって、猊下にご心配いただいたのだけは、今も脳裏に焼き付いてしまっています。


 ああ、ですが、猊下の仕草って、とても大人びていらっしゃって、それだけを見ていると……もしカーレ第一王子殿下と同い年と言われても、普通に『そうなんだ』と思ってしまいそうなほどなのですよね。

 もう、ずっとお傍で見ていたいほどなのです!


「メリユ様、マルカ様がお見えになられていらっしゃいます。

 その、お食事が終えられるまで、お待ちいただいた方がよろしいでしょうか?」


「いえ、もう食べ終えるところですので……ご入室いただいて構いません」


「承知いたしました。

 ミューラ様、お願いいたします。

 ハードリー様はすぐにお片付けをお願いさせていただいてもよろしいですか?」


「は、はいっ」


 ハナン様のお言葉にハッとして、わたしはベッド横に置いていたワゴンに、猊下がお召し上がられたお皿を戻していきます。


 それにしましても……マルカ様、ですか。


 オドウェイン帝国の偽聖女様ご一行に暗殺されかけたところを、猊下に救っていただいたマルカ様。

 セラム聖国のアディグラト枢機卿様たちに暗殺されたかけたのを、猊下に身代わりしていただいて、救っていただいた殿下。

 キャンベーク川の災厄に加えて、オドウェイン帝国の偽聖女様ご一行の魔の手から、猊下に救っていただいたわたし。


 幼馴染とはいえ、まだマルカ様とは猊下についての気持ちを共有できていないのですけれど、わたしたち三人は、本当に猊下なしには、今の自分を語ることもできないのですよね?


「お姉様、失礼いたします!」


 扉の開く音と共にマルカ様のお声が聞こえ、殿下は少しご反応されるのが分かります。

 ……やはり、殿下ご自身以外の方から、猊下が『お姉様』と慕われるのには、思うところがあるのに違いありません。


「マルカ様、大変なところ、お越しいただき恐縮でございます。

 お食事お手配いただきまして心より感謝申し上げますわ。

 料理長や料理人の方々へは、わたしの体調にご配慮いただきながらも美味なお料理をご準備いただいたことに感謝しております。

 どうぞ皆様にもよろしくお伝えくださいませ」


「いいえ、とんでもございませんの。

 お姉様には、わたしの命だけでなく、我が領の危機をお知らせいただき、こうしてその危機に立ち向かっていただけるとのこと、どれほどの感謝を捧げれば良いのか、分からないくらいですの」


 うう、マルカ様のほんのりと上気されていらっしゃるお顔を拝見させていただいていますと、やはり、マルカ様も猊下のことが『好き』でいらっしゃるのだと思ってしまいます。


 ええ、わたしはもう『大好き』なのですけれど!


「こ、これからは、三人で、猊下をお支えするの、ですよね?」


「ハードリー様?」


 殿下に声をかけられ、わたしは先ほどのことをお考えになっていらっしゃるのが分かるご表情の殿下と頷き合います。


「はい、殿下」


「……」


「はぃ、メグウィン様」


 わたしがそう返事し直すと、殿下は『よろしい』とばかりに微笑まれます。


 本当に、危機がこれほどまで近くに迫っていますのに……何と言いましょう、心強いと言いましょうか、安心感があると言いましょうか、心をこうして保っていられるのは、猊下のおかげなのですよね?


 猊下がいらっしゃって、猊下をお支えし切れれば、この国難を乗り切れると分かっているからこそ、わたしたちはこうして微笑んでいられるのです!


 もし猊下がいらっしゃなければ……何度考えましても、絶望に暮れ、恐怖に震え、右往左往するしかない自分しか思い浮かびません。


「猊下」


 今、猊下を『大好き』と思っていられる自分がここにいられるということ、それはとても幸せなことなのだと思うのです。

 猊下とわたしを引き合わせてくださった神に、多大なる感謝を。


 どうか天界からも猊下を見守っていてくださいますよう、わたしはそっと神に祈りを捧げるのでした。

いつも『いいね』、ご投票で応援いただいている皆様方、厚くお礼申し上げます!

年度末で仕事が慌ただしく、ここ暫く更新頻度が下がり申し訳ございません、、、


さて、ファウレーナが、悪役令嬢メリユにならなった時間軸では、メリユはどう振る舞ったのか?

ハラウェイン伯爵令嬢はそのifを想起させられてしまいます、、、

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