表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
117/322

第116話 王子殿下、ゴーテ辺境伯令息、令嬢と話をする

(第一王子視点)

第一王子は、ゴーテ辺境伯令息、ゴーテ辺境伯令嬢と悪役令嬢について話をします。


[『いいね』いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]

 緊急会議後、ソルタとマルカ嬢を呼び止めたわたしは、アメラに控室の方の人払いを頼み、三人で少しばかり話をすることにした。

 オドウェイン帝国が侵攻の準備を整えているところを視認したというソルタは、ほぼ間違いなくメリユ嬢が使徒の姿を取っていたところを目撃していたはずで、その辺りのことを確認しておきたかったのだ。


「ソルタ、色々やってもらわなければならないことが多い中、呼び止めたりしてすまないな」


「いえ、殿下。

 辺境伯家の第一子としては、当然のことでございますから、お気になさらずに。

 それより何かご用でしょうか?」


 薄暗くなり始めた室内に、アメラたちが追加の蜜蝋の燭台を並べていくのを眺めながら、わたしは軽く溜息を吐き、


「堅苦しいのはよせ。

 学院にいるときと同じように頼む」


 と、この場は私的なものであると告げる。


「承知しました、カーレ様。

 それで、何用でしょうか?」


「ソルタは、その、以前メリユ嬢と会ったことがあったのだろう?」


「ええ、父上と共にビアド辺境伯領に訪問させていただいた際、領城で紹介されまして……当時は、本当に人を見る目がなく……彼女には良い印象を抱いておりませんでした」


 まあ、その辺りは、わたしと同じだな。

 妹のメグウィンの方が、先にメリユ嬢の本質に気付いていたようであったし、マルカ嬢に出し抜かれた点でも、同じと言えよう。


「まあな、自分より同等、もしくはそれ以上の地位にあると言える、自分好みの男にしか興味がないような……聡明さ、貞淑さとは無縁の女性だと、わたしも思っていたさ。

 国境防備を任されている辺境伯家の令嬢として相応しくないと、毛嫌いしていたほどだ」


「カーレ様、そこまで……いえ、何でもありません」


「はあ」


 マルカ嬢が小さく溜息を吐くのが聞こえて、わたしは正直に言い過ぎたかと少しばかり後悔した。

 そもそも、ここで二人と話しておきたいことはそういうことではないのだから。


「まあ、以前は、ソルタもわたしも、メリユ嬢の正体にまるで気付けなかった訳なのだが、さて、二人は今どこまでメリユ嬢の正体に迫れているのか教えて欲しい」


「僕は……その」


 ソルタは、妹のマルカ嬢の顔色を窺うようにしてから、二人で頷きあって、


「彼女……聖女猊下が、転移の術をお使いになられる直前、一度使徒様のお姿に戻られたところを一瞬、目撃してしまいました。

 また、バーレ連峰の麓まで移動した後は、オドウェイン帝国の整地作業を進める現場まで、そのお翼でお連れいただいたのです」


 と告白したのだった。


 やはり、そうだったか。

 わたしもメリユ嬢とメグウィンがキャンベーク川の土砂崩れの現場から戻ったところを見ているから、状況はよく分かる。

 今回は……連れにソルタを選んだだけで、これまでと同じようにメリユ嬢は動かれていたということになるのだろう。


「驚かれないのですね。

 やはり、カーレ様は、猊下が使徒様でいらっしゃるのをご存知だったのでしょうか?」


「それについては、全てを聞いてからだ」


 わたしは話の続きを促し、ソルタとマルカ嬢を見詰める。


「分かりました。

 マルカと僕は、猊下は、サラマ聖女猊下のご出身地である聖国セレンジェイ伯爵領の伝承にございます、使徒様であると推測しております。

 ですので、伝承のように、猊下の正体を問うようなことは決してならないと、マルカと確認し合っていたところです」


 なるほど、そこまで迫っていたか。

 さすがは、セラム聖国に接するゴーテ辺境伯家の令息、令嬢だけはあると言えるだろう。


「なるほど、あれだけの情報量でそこまで推測できるとは上出来だと思う。

 しかし、メリユ嬢は、サラマ聖女の王城訪問の際、最初から使徒の姿を見せ、自分の立場を明かしたのだ」


「そ、そんな……」


「な、何で……」


 二人は天界に呼び戻された使徒ファウレーナの伝承を知っているだけに、驚きを隠せなかったようだ。


「サラマ聖女と幾度か話をしたのだが、伝承のようなことが前回あって、神も使徒ファウレーナを不憫に思い、規定を変更したのではないかという結論になった。

 要は、使徒であることがバレるどころか、その正体を自ら明かしてしまっても不問にするという方針に変えられたのではないかということだ」


「「な、なるほど」」


 二人して真剣な表情で頷いている様は、本当に兄妹なのだなと思ってしまう。


「はあ、ここまで話せば、二人は彼女の正体は、使徒ファウレーナであり、今はビアド辺境伯令嬢に受肉することで彼女に擬態しているだけと思うかもしれない」


「「違うのですか!?」」


「ああ……わたしは、どうしても気になってしまって、メリユ嬢に鎌をかけてしまったのだ。

 何せ、彼女はわたしの婚約者であるのだから」


 メリユ嬢の警護上の問題で、これ以上彼女が狙われる理由が増えぬよう、今回のゴーテ辺境伯領滞在時は隠すこととしていたのだが、つい二人には話してしまう。


「はっ!? カーレ様、今何と!?」


「そんなお話、伺っておりませんのっ!」


 はあ、やはりそんな反応になるか……。


「気持ちは分かるが、それは後にしてくれ。

 とにかく、彼女が使徒ファウレーナなのかどうか確かめたいという思いが勝ってしまい、鎌をかけてしまったのだが、彼女は……ファウレーナと呼ばれたことに反応してしまっていた」


「では、やはり、そうなのでは?」


 ……ソルタは、やけに食いついてくるな。


「まあ待て。

 それで、わたしは使徒ファウレーナがメリユ嬢に受肉して今のメリユ嬢があるのではとそう思い、尋ねたのだ。

 そうしたら……彼女は、悲しげに自分は使徒ではないと断言したのだ」


「それは……」


「どういうことなのでしょう?」


 これを伝えるのは辛いが、二人には言っておかねばなるまい。


「どうやら、メリユ嬢は、人に寄り添おうとして寄り添えなかった使徒ファウレーナへの救済として、神が人の子として生まれ変わらせた存在であるようなのだ」


「「っ!!?」」


 二人が息を呑むが分かる。


「つまり、彼女は生まれたとき人であり、彼女の自我は半分使徒、半分人間のような状態になっているのだと思う。

 はあ、わたしも問うてしまってから、本当に後悔した。

 彼女が、今も神に、その、気に掛けられる存在であるのは確かだが、彼女はきっと今生こそ人として生きたいと願っていたはずだ」


 本当に愚かなことをしてしまったと今でも思っている。

 だからこそ、二人には知っておいて欲しかった。


「つまり、聖女猊下は、聖女猊下として敬われることまでは許容できても、使徒ファウレーナとして祭り上げられることは望んでいないということで、よろしいのでしょうか?」


 ……マルカ嬢には、本当に驚かされる。

 ソルタは、今までマルカ嬢をあまり認めていない感じがあったが、一瞬にしてメリユ嬢の内心を推測してみせた彼女にソルタも驚きを隠せないようだ。


「ああ、マルカ嬢、まさしくその通りだと思う」


「では、カーレ様は、僕たちにそれをお伝えされようと……」


 ソルタはソルタで思うところがあったのか、言葉を詰まらせながらにそう言う。


「ああ、メリユ嬢の秘密を知る人間は少なければ少ない方が良いが、知っている人間は正しく知っておかねばならないと思い、この場を設けさせてもらったという訳だ」


「なるほど」


「承知いたしました、殿下。

 殿下がお話くださったおかげで、全てが腑に落ちた思いでございますの」


「マルカ嬢?」


 うん、腑に落ちた思いというのは、どういうことか?


「殿下やお兄様の前で、貴族令嬢、いえ、辺境伯令嬢として相応しくないほど、言い寄られたりなさったということでございましたが、全てはいざというときに、王国になくてはならないお二人を守れるその立ち位置を得るためと言うことでございましょう。

 ですが、もう一つ、元々使徒でいらっしゃったファウレーナ様には、演技とはいえ、そういう形で人に寄り添うことを面白がっていらっしゃった側面もあったのではないかと存じますの」


「「ああー」」


 ソルタとわたしは思わず、声を合わせて納得してしまう。

 いや、マルカ嬢にそう言われてみると、異様なほど説得力を感じてしまうのだ。


「確かに、使徒ファウレーナ様のご記憶も残っていらっしゃるならば、相手に嫌がられるような人への寄り添い方というのも、新鮮に感じられたのかもしれません」


 うむ、わたしもソルタと同じことを考えてしまっていた。


「ええ、たとえ嫌がられたとしても、最終的に相手を守り切れる距離を保てるところまで近付けるようになるのなら……とお考えになられたのかもしれませんの」


 確かに、な。

 今まで使徒として敬われ、祭り上げられるだけの存在だったのだ。

 それが逆に近付くだけで快く思われないというのも、演技としてだけなら、彼女にとって許容できるものだったかもしれないな。


「それも、王国の滅亡を防ぐために、人の世の調和を崩させないためになら……ということだな」


 今思えば、神は使徒ファウレーナの救済と引き換えに、それを使命として課していたのに違いないのだ。


 全く、ほんの半月ほど前までは、ビアド辺境伯領でこっそりとオドウェイン帝国のちょっかいから王国を守るだけで済んでいたというのに、急に表舞台に引っ張り上げられるような事態になったことは、メリユ嬢にとってかなり不本意なことであったに違いない。


 下手をすれば、また使徒として祭り上げられる事態になりかねないのだから、人でいたいと望んだ彼女にとっては、かなり辛いものだったのではないだろうか?


「しかし、猊下が半分使徒様で、残り半分が人としてのお心をお持ちなのだとしましても、あれほどまでにご聡明で、滅私奉公のご気概までお持ちでいらっしゃるとは!

 バーレ街道の話をさせていただいたときも、僕よりも道の整備にお詳しくいらっしゃるのではないかと思えるほどで……このようなご令嬢がいらっしゃるとは、本当に思いもよらないことでございました!」


「ソルタ、お前……」


 ソルタが今まで貴族令嬢のことをここまで饒舌に語ったことがあっただろうか?

 いや、小国であるミスラク王国内で、王国内貴族令嬢との婚姻を考えれば、候補がかなり限定されるソルタは、下位の貴族令嬢から言い寄られるのに学院でもうんざりしていた様子だったのだ。


 まさか、そのソルタがメリユ嬢を気に入ってしまうとは……。


「何より、あのお強さ。

 あの細指で僕の短剣を受け止め、僕の首を押さえ付けたときの彼女は、女性の神兵がご降臨されたならこのような感じかと思ったものです」


「はあ、少なくとも、メリユ嬢の前で神兵の話はしないように頼む」


 聖騎士団のときは、メグウィンの姿を取っていたとはいえ、メリユ嬢としても『神兵』呼ばわりされたのは望ましいものではなかったことだろう。


「もちろんです。

 それにしましても、猊下は、あのお強さをお示しになられても、決してそれを鼻にかけられるようなこともなく、とても控えめでいらっしゃって……」


「お兄様、その話はその辺で切り上げてくださいませ」


 ソルタの言いたいことは自分のことのように分かるのだが、人から聞かされると、どうにもわたしも居たたまれなくなってくるものだな。

 マルカ嬢が遮ってくれてホッとしてしまう。


「それで、殿下、聖女猊下とご婚約とは、どういうことなのでしょうか?」


「まあ、元々ビアド卿と国王陛下は、学院時代からの友人関係にあるというのは知っての通りだと思う。

 そのこともあり、メリユ嬢を王太子妃候補に……というのは、陛下も以前からお考えだったようだ。

 それが、メリユ嬢が建国時に多大な貢献をされたイスクダー様の血筋であり、此度は王国防衛のために立ち上がり、自らこうして動かれたこともあって……それに報いなければという思いも働いたようだ」


「使徒ファウレーナ様のお心を半分お持ちの上に、あの魔法使いとも呼ばれたイスクダー様の血筋であられるとは驚きですの!

 いえ、イスクダー様の血筋だから、神にファウレーナ様の転生先となったのかもしれませんの」


「ちなみに、王家と聖国の密約で公にはなっていないが、イスクダー様は聖人認定を受けられていた。

 そういう意味でも、ビアド辺境伯家の娘として生まれ変わるというのは、使徒ファウレーナにとっても好都合だったのかもしれないな」


「イスクダー様が聖人であられたと!?

 そうなのですの……聖女猊下は、この時代この場所に、まさに生まれるべくして、生まれられたということになりますの!」


「ああ、そうだな」


 おや、ソルタの様子が……?


「カーレ様、つまりご婚約は、イスクダー様や此度の猊下の働きに対する褒美、褒賞としての側面もあるということでよろしいでしょうか?」


「そういう側面があるのは否定しない。

 そもそもイスクダー様に、王家が十分に報いていなかったのではという考えもあり、イスクダー様の子孫であるメリユ嬢を王家に迎え入れるというのは、少しでも報いになればという思いが陛下にあるのは確かだろう」


「ですが、それが報いになるかどうか、メリユ嬢に確かめられてはおられないと?」


「う……それはそうだが」


 痛いところを突いてくる。

 それでなくとも、先日からメリユ嬢とはぎくしゃくしているのだ。


 わたしは、わたしの方は……あの暗殺未遂から救われたこともあり、もはやメリユ嬢に惚れ込んでしまっているというのに!


「はあ、お兄様、今更嫉妬じみたこと、見苦しいですの!

 聖女猊下に対して侮辱、傷害未遂までされておいて、猊下に好いていただけるなんて思っている訳ではないのでございましょう?」


「そ、それは、うう……」


 マルカ嬢がここまで言うということは、やはり、ソルタもメリユ嬢に惹かれてしまっていたか。

 しかし……マルカ嬢にかかれば、ソルタも形無しだな。


「はあ、殿下も、猊下と何かございましたのでしょう?

 猊下を王太子妃、未来の国母とされるおつもりなのでしたら、しっかり猊下と向き合い、謝るべきは謝るべきと存じますの」


「う……マルカ嬢、全くその通りだな。

 助言感謝する」


 まさか、マルカ嬢にまで諌められてしまうとは。

 メリユ嬢やメグウィンもそうだが、齢十一の貴族令嬢というのは、皆、こうもしっかりしているものなのだろうか?


 いや、感心している場合ではないな。

 今後数日メリユ嬢にかかる負荷は極めて大きい。

 わたしとのことで、彼女に精神的負担をかけるようなこと、決してあってはならないだろう。


 わたしは……そう、彼女に対して真摯な心で向き合わなくては思うのだった。

いつも『いいね』、ご投票で応援いただいている皆様方、誠にありがとうございます!


週末に仕事が食い込んでしまったため、更新が遅くなり申し訳ございません、、、

相変わらず、勘違いレベルが上昇中の悪役令嬢メリユ、どうなっていくのでございましょう?


新年度も少々バタバタしそうでございますが、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ