第115話 ハラウェイン伯爵令嬢、悪役令嬢への思いを見詰め直す
(ハラウェイン伯爵令嬢視点)
ハラウェイン伯爵令嬢は、悪役令嬢への思いを見詰め直します。
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わたしは……猊下のことが大好き。
殿下にお言葉でお示しいただいて、わたしはようやく自分の中の気持ちに気付くことができたのです。
「はあ」
キャンベーク川での奇跡の際、お力を使い果たされた猊下が本来のお姿に戻られたところを見てしまったときの衝撃。
猊下がご自身のことなど二の次で、ハラウェイン伯爵領の民を救うために全力を尽くされ、今にもお命を落とされかねない状態になられているのを肌身で感じて、わたしは自分の仕出かしてしまったを激しく後悔し、猊下のご回復のためなら自分の命を差し出しても良いとまで思ったのです。
そして、殿下と交代で寝不足になりながらも、付きっ切りで猊下の看病していたときのことは一生忘れられないでしょう。
今でも猊下がお目覚めになられたときのあの喜びは、わたしの胸の中にしっかりと刻み込まれているのです。
「猊下……」
神より与えられし聖なるお力を消耗され、ご体力もかなり低下されている中、新たなご神託を受ける度に、泣き言一つ漏らされることなく、お母様やマルカ様たちをお救いになられた猊下に、わたしの心はどれほど大きく揺さ振られたことでしょう。
誰に褒められるからという訳でもなく、誰に認められるからという訳でもなく……タダ理不尽に不幸の縁へ追いやられかけた人々をお救いになられて、ホッとされたような微笑みを零される猊下の横顔に、ああ、このお方だけはわたしがわたしの全霊をかけてお守りしなければならないと思ったのです。
わたしにとっても大恩ある大事なお方。
たとえ猊下のお救いになられた人々が猊下のご存在に気付かれなくとも、わたしだけは猊下の理解者でありたいと、猊下に感謝の気持ちを捧げ、猊下を支えられる存在になりたいとそう思っていたのです。
「それなのに」
いつの間に、これほど猊下への思いが大きくなっていたのでしょうか?
殿下のおかげで猊下との距離も近付き、猊下のお世話するだけでなく、猊下と同じ寝台でお休みするような関係までになったのです。
今では、猊下がお傍にいらっしゃらないと、すぐに猊下の居場所を探してしまうまでになってしまいました。
猊下が優しく微笑まられているときのご表情が好き。
猊下の凛としたお声が好き。
優雅で大人のように振舞われているときの猊下の仕草が好き。
使徒様のように慈愛の気持ちを溢れさせ、纏われていらっしゃる猊下が好き。
サラマ聖女様と会話をさせていただく機会も増えましたけれど、やはり猊下は唯一無二なご存在で、この世に猊下の代わりになられるようなお方はいないのだと、はっきりそう思うのです。
絶対に失われてはならない猊下。
絶対に失いたくはない猊下。
その猊下がオドウェイン帝国の戦禍が近いことを(ソルタ兄様の目を通して)お告げになられ、自ら最前線を立たれようとされている現実に、わたしは明らかに怖れを抱いているのでしょう。
「ああ、どうか猊下が怪我などされませんように」
あれほどまで頻繁にご神託を下賜される神も、さぞ猊下のことを気にかけてくださってはいるのでしょう。
ですが、この世で、実際猊下に何かあったとき、手を差し伸べることができるのは傍にいるわたしたちだけなのです!
猊下が最前線に赴かれるとき、わたしもその一番お近くで猊下をお支えし続けたいと思うのです!
「一番お近くで……?」
畏れ多くも、猊下と手を繋いだり、猊下に抱き付いたりしてしまったわたしですけれど……この『大好き』という感情に気付いてしまった今、一番お近くにい続けるということに何とも言い難い恥ずかしさを覚えてしまっているのはなぜなのでしょうか?
いえ、どうしましょう……何だか、今の気持ちのままでは、猊下の目を見ることも難しく思えてきてしまいます!?
それどころか、猊下からお優しいお言葉をかけられただけで、どうにかなってしまいそうなわたしがいるのです!
「大好き」
わたしのこの『大好き』という気持ちは、そういう気持ち、なのでしょうか?
「ハードリー様?」
「ミュ、ミューラ様!?」
聖女様専属の侍女頭にご着任されたミューラ様に声をかけられ、わたしは飛び上がってしまいそうになってしまいました。
見ると、ミューラ様はワゴンで猊下のお食事を運ばれて来られたところのようです。
「こちらはマルカ様にご助力いただきまして、今のお嬢様のご体調に合うお料理をご準備いただきました」
「そ、そうですか、ありがとう存じます。
それで、マルカ様は?」
「の、後ほど、お食事が済んだ頃合いにご来室されると伺っております」
わたしよりは年上とはいえ、学院に通われていらっしゃるご令嬢方とそう年の変わらないように見えるミューラ様ですのに、侍女頭とは。
年相応と申しましょうか、ミューラ様が少し無理をして喋られていらっしゃるように感じて、いかに猊下が特別なご存在なのかということを実感してしまいます。
何せ、猊下はわたしと同い年なのです。
それでいて、ミューラ様より年上であるかのような雰囲気を纏われていらっしゃるのですから、殿下やマルカ様が『お姉様』と呼ばれるのも分かるというものでしょう。
「ハードリー様、お嬢様のお食事、お手伝いいただいてもよろしいでしょうか?」
「よ、よろしいのでしょうか?」
先ほどはミューラ様と猊下のお世話権を取り合うような形になってしまったのですけれど……どうやら、ミューラ様にお気遣いいただいてしまったようです。
「もちろんです。
ハードリー様、わたしが不在の間、お嬢様のご看病をしていただいていたと伺いました。
お嬢様の専属侍女として、深謝申し上げます」
「いえ、わたしは当然のことをしたまでで、ございます」
猊下、殿下とご一緒に過ごさせていただくようになって、わたしは(以前よりも)言葉遣いを気にするようになったのだと思います。
猊下、殿下とご一緒でいておかしくない存在になれるよう、自分を磨かなければと思ったからなのですが……今は、大好きな人のお傍にいたいからなんだって、そんな自分の気持ちが分かってしまうんです。
「猊下」
これからわたしはまた猊下のお食事のお手伝いをするのですよね?
また、猊下のお口にまでシチューを掬ったスプーンをお運びして、『あーん』と……は、恥ずかし過ぎです!
ダメです、本当に恥ずかしくてどうにかなってしまいそうです。
つい先日までは、普通にできていましたのに!
うう、どうして殿下は、ご自身のお気持ちに、あんなに素直でいらっしゃることができるのでしょう?
わたしは……いえ、わたしも、殿下のように『好き』という気持ちを表に出すことができるのでしょうか?
わたしは、自分の心が跳ね踊るのを感じながら、ミューラ様たちと猊下のお休みになられているお部屋に向かったのでした。
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ハードリーちゃん、自分の気持ちに気付いてしまって、なかなか大変なことになっているようでございますね、、、
ちゃんと悪役令嬢メリユと向き合えますでしょうか?
また、ハードリーちゃんは、言葉遣いを気にしているようでございますね。
メリユ=ファウレーナも言っていました通り、『ですわ』娘の一角だったハードリーちゃんはこの頃からメグウィン殿下と仲良くなったことで、言葉遣いを直していっていたようでございます!
メリユもそろそろそのことに気付くでしょうか?




