第111話 悪役令嬢、ゴーテ辺境伯令息と話をして領城に連れ帰る
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
ゴーテ辺境伯令息をバーレ連峰まで連れ出した悪役令嬢は、事情を説明して、領城まで連れ帰ります。
[『いいね』いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]
大学の情報系学科への進学を目指していた、高校三年生だった頃のわたしは、受験勉強のため、高校と予備校、そして家での缶詰め生活を送っていた。
もちろん、息抜きは大切で、時間を決めて、SNSやツベを見たりしていた。
そんなときにツベのお薦めに現れたのが、廃道・未成道探索系の動画だった。
それは、わたしの(外に遊びに行きたい)そんな欲求不満な気持ちを解消してくれたのだ。
何だろう、例えて言うなら、乙女ゲーのシナリオ分岐を全て回収するときのような、不思議な冒険心を駆り立てるそれにハマってしまったのだ。
何、女子オタがハマるようなものじゃない?
ジェンダーフリーなこの時代に何て失敬な!
まあ、面白いと思う割合に性別差がないとはまで言わんが、面白いものを面白いと思って何が悪い?
という感じで、イケメンツバーのチャンネルよりも廃道・未成道探索系チャンネルを登録しまくっていたわたしは、受験生活の息抜きに日本各地の廃道・未成道の魅力に取り付かれたのだった。
いやー、アレよね、ロマンがあるよね。
石積み、煉瓦積みの擁壁とか、マジ最高だと思うの。
廃トンネル系だってね、見ていて『おおお』と思ってしまう。
だってさ、多分昔の女子学生(わたしだってまだ女子大生ですが、何か?)だって毎日の通学でそこを通っていたりした訳じゃん?
今のコンクリート打ちっぱなしの味気ない道とかトンネルとかでない、そういう道をさ、袴姿だったり、昔のセーラー服だったりの女子学生も歩いていたのかと思うと、色々感情移入しちゃうのよね。
まあ、当時の女子学生からすれば、安全度が今より低くて、しかも技術水準も低いから、遠回りしていたり、山の上の方で峠越えしたりしていたりで、超不便だったのに『ロマン』とか言うなって感じだろうけれどねー。
『……マジか、多嶋さんの会社、同担おったか』
いや、エターナルカームの各キャラとか、アイドルとかの同担って訳ではないんだが……まあ廃道・未成道オタがいるのは間違いないだろう。
わたしは同担拒否勢ではない、むしろ、積極的に絡みたいので、これは朗報だ!
多嶋さんの会社に就職できた暁には、飲み会で大いに盛り上がれそうな気がする。
さて、それはさておき、バーレ街道ね。
わたしが一人勝手に盛り上がって、ソルタ様を未成道探索に巻き込んだっていうのに、まさか、オドウェイン帝国の侵攻準備現場に辿り着いてしまうとは。
いやー、全くもって想定外だわ!
そりゃね、ソルタ様にメリユの能力を認めさせるつもりで、お空のお散歩に誘ったのは事実なんだけれど、こんなことになっちゃうとはねー。
「ビアド辺境伯令嬢、貴女様は、これをご存じの上で、殿下たちをゴーテ辺境伯領までお連れくださったということでよろしいでしょうか?」
うおっと、ソルタ様にめちゃ感激されているっぽいんだが、どうしよう?
うん、『そういうことよー』ってことにしておくしかないかしらん?
「はい」
「では、殿下たちも、数日中に起こり得るオドウェイン帝国の侵攻に対抗するために、ご訪問くださったと……王都騎士団に、他の辺境伯領軍の支援も受けられると思ってよろしいのでしょうか?」
あー、それは、王都騎士団はともかく、他の辺境伯両軍については厳しいかなー。
「ソルタ様、オドウェイン帝国の先遣は五万でございます。
バーレ街道の未成道部分の開通と同時にオドウェイン帝国は一気に王国側に攻め上がることでございましょう。
他の辺境伯両軍の支援につきましては、現時点では、間に合わないとお考えくださいませ」
わたしの言葉を静かに聞いていたソルタ様の手が震え始めるのが分かる。
クソ、自分で透明度ゼロにしていてアレだけれど、ソルタ様のお顔が見えないんだが……。
「先遣で五万!? それで、支援も間に合わないと!?
そ、そんな……では、我が領は砦を急ぎ封鎖して、耐える程度のことしかできないではないですかっ」
「いえ、そのためにわたしが同伴しているのでございます。
わたしの力をもって、五万の兵を完全に足止めする予定でございます」
ソルタ様の手がビクリと震える。
「ま、まさか、そんなことができると?」
「ソルタ様は、キャンベーク街道のことはお聞きになっておられるのでしょう?」
先日の時点でマルカちゃんは知っていたから、当然ソルタ様も知っておられることだろう。
「あのキャンベーク街道の奇跡……あ、あれは、貴女様がなさったことだと!?」
おおう、ソルタ様の手、ブルッブルッてしているんだが。
「はい、わたしにはそれだけの力が与えられております。
バリア……つまりは結界のようなもので五万の兵を完全に閉じ込めることすらも可能でございます」
ソルタ様がゴクリと唾を飲み込むのが分かる。
「結界に閉じ込める……いや、キャンベーク川の両岸の岩場すらくり抜くお力をもってすれば、容易なこと、なのでしょうか?」
「はい」
「そ、それは、もしかして、今回王国側の先遣の主戦力は……実質、貴女様お一人、ということになるのでしょうかっ!?」
AI、マジすご、音声だけでもソルタ様の感情が伝わってくるようなんだが!
ヤバい、ちょっと集中力が途切れそう!
うーん、何とかここを乗り切るまで集中力もって!
「そうでございますね。
皆様にもバリア、結界を張る準備をお手伝いいただくことになるかとは存じますが、最終的にわたし一人で五万の兵に対処することになりますでしょうか」
息を呑むようなソルタ様の気配が伝わってくる。
いや、まあ、普通は信じられないような話よね?
「そんな……僕は、救国のし、いえ、我が国、我が領をお救いくださろうとされている貴女様に対して、僕自身の勝手な思い込みで、害しようとしてしまったということに………か、重ね重ね申し訳ございません!
僕の処分については、貴女様のご意思に全て従いますので、うぅ、どうか我が領を何卒よろしくお願い申し上げます!」
救国のし? 何だろう?
んー、まあでも、信じてくれるって言うのなら、いいかな?
「ソルタ様、先ほども申しました通り、謝罪は一切不要でございます。
全て無事に終わったときに、皆様の笑顔を拝見することできましたなら、それだけで十分でございます」
「ビアド辺境伯令嬢」
う、ソルタ様の涙声とは、マジ貴重なんだが!
透明度ゼロのお顔を拝見できないのが痛い、痛過ぎる。
今更ここで透明度変更するっていうのも不自然だし、ええい、もう領城に戻っちゃうか!
「では、ソルタ様、領城に戻ることにいたしましょう?
きっと皆様、ご心配なさっていらっしゃることでしょう」
わたしはバーレ街道を最後にもう一度見下ろしながら、ゴーテ辺境伯領城にセットしておいたポイントへの“Translate”コマンドと透明度変更コマンド、変身コマンドを発動したのだった。
「ここは……戻ってきたのか」
ソルタ様とわたしは、一瞬にしてゴーテ辺境伯領のテラスに戻っていた。
戻ってきてから、そのテラスに通じる扉にメグウィン殿下たちが張り付いているのを見付けて、わたしは『やっちまったぞな』と思った。
だって、メグウィン殿下もハードリーちゃんも涙目だったんだもの。
テラスの床への接地感(直接は分かんないんだけど、アバター視点の安定さで)を確かめてから、わたしはソルタ様と繋いでいた手を離す。
すると、メグウィン殿下が扉のところから飛び出してきて、わたしに抱き付かれるのだ。
「メリユ様、ご無事で何よりでございましたっ!」
「ご心配をおかけてしまい申し訳ございません、メグウィン第一王女殿下」
「本当にもう、メリユ様の馬鹿っ!
また、お約束をお破りになられましたでしょう?
今からまたしっかりご静養いただきますから!」
「本当ですっ!
わたしもどれだけ心配しましたことか」
遅れてハードリーちゃんも抱き付いてくる。
「それにしましても、どうしてここに?」
「応接室からもテラスに瞬間移動されたお二人が見えましたもの。
しかも、使徒様のお姿でどこかへ行かれたのでございましょう?」
あー、そっか、応接室の窓からあのテラスって見えていたっけ?
付随エフェクトで音とか光とか色々出ていたから、見られちゃっていたってことね。
「はい、緊急性が高いことでございましたので、その、ソルタ様にだけ先にご覧いただきました」
そのソルタ様は……ちらりと横を見ると、不透明に戻った美少年ソルタ様が頬に涙の筋をいくつも付けられていたのだ!
激ヤバ、ソルタ様ファンにスクショ見せたら大変なことになりそうじゃないのよ!
うぅ、神過ぎる!
「ソルタ様……」
って、メグウィン殿下、すごく低いお声出されるじゃん!?
えっと、めちゃくちゃお怒りになられてる?
「ソルタ様、ご自身が何をなさったかご自覚されていらっしゃいますか?」
……いや、怖過ぎて、メグウィン殿下のお顔、見れない。
抱き付かれているから物理的に見えはしないんだけれど、見たくない感じのお声出されているよね。
「は、はい、僕は……し、いえ、ゴーテ辺境伯領をお救いにお越しくださったビアド辺境伯令嬢に、許されざることをしてしまったと自覚しております」
「そのご様子では、メリユ様に謝罪されて、不要とお返事いただいたのでしょう?
メリユ様がお許しになられても、わたしはあなたを許すことができません。
先ほどマルカ様からも一撃いただいていたかとは思いますが、わたしからもよろしいですか?」
「はい、当然のことと存じます、殿下」
平手打ち一発を一撃て……。
おおう、わたし、メグウィン殿下に抱き付かれながらも震えが止まらないんだが。
って、メグウィン殿下がわたしにお顔を見せないようにされながら、すっと身体を離されると、ソルタ様の方へ向かっていかれる?
「歯を食いしばってくださいませ、ソルタ様」
「はいっ」
パンッ
おーう、すごくいい音がしましたがな。
メグウィン殿下って、それなりに鍛錬されているはずだから、十一歳の女の子にしてはかなり力ある方なんじゃないかなー、だとすると、かなり痛かったはずよね?
「ソルタ兄様、わたしも……人のことをあまりとやかく言えた身ではありませんけれど、短剣を向けられ、本当に猊下がお怪我をされかねないことをなされかけたことを許せそうにありません!
わたしも、よろしいでしょうか?」
ええっと、ハードリーちゃんも激おこなの?
というか、幼馴染としてはソルタ兄様って呼んでいたんだ!?
「あ、ああ」
ハードリーちゃんもそっとわたしから身体を離して、メグウィン殿下と交代でソルタ様に近付いていく。
うーん、まさかのソルタ様受難!
本編じゃ絶対にあり得ない展開ね……。
「ソルタ兄様、いきます!」
パンッ
あー、ハードリーちゃんもいい音させるー。
いや、ソルタ様、わたしのせいで何かごめん。
今このシーン、動画でツベにアップしたら、わたしがソルタ様ファンにボコボコにされそうで怖い。
まあ、絶対しないし、させないけれどね。
でも、何だろう?
本編じゃ、ヒロインちゃんと深い仲になるまで(女子的に)好感度低かったはずのソルタ様、何かこう急に変わっちゃったような気がするのは、わたしの気のせいなのだろうか?
まあ、せっかくプレイ中なのだから、変わってくれているといいなあと思ってしまうのだった。
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週末出勤などで遅くなりまして申し訳ございません!
次の週末も更新は厳しくなりそうで、振替で月曜の更新となりそうでございます。
さて、悪役令嬢メリユ=ファウレーナさん、今回は(同世代では)最速レベルで信者獲得となりましたでしょうか?
今後どこまで信者を増えしていくのでございましょうね、、、?




