第106話 王女殿下(悪役令嬢)、王女殿下・ハラウェイン伯爵令嬢・専属侍女の間で取り合いになる(!?)
(王女殿下(悪役令嬢)・プレイヤー視点)
第一王女に変身した悪役令嬢は、ハラウェイン伯爵令嬢のベッドで目覚めるも、第一王女・ハラウェイン伯爵令嬢・専属侍女の間で取り合いになってしまいます(!?)
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おトイ……お花を摘みに行って戻ってきてから、HМDを被り直して、そこに表示されている“Pose error”に、わたしは思わず『ひゅっ』って息を漏らしてしまった。
あまりにもにょ……お花を詰みに行きた過ぎて、時間を止めたかどうかの記憶が飛んじゃっていたんだけれど……もしかしてやっちゃった!?
HМDを少しずらして、画面を落ちてしまっているノートパソコンの画面をタッチして、コンソールを見てみると……ちょっ、エンターキーを押し忘れてた!?
ヤベッ、“Pose error”ってことは、またメリユ、ぶっ倒れた状態になってんのか!
せっかく時間を止められるようになったっていうのに、これじゃ意味ないじゃないのよ!
また、みんなに心配かけちゃったかなあ? 多分、またベッドに寝かされているんだろうなあとか思いながら、わたしはベッドに向かったのだった。
「……心配かけちゃった、か」
普通の乙女ゲーだった『エターナルカーム』では、シナリオ分岐自体は、自分の選択次第で生じていた訳だけれど、選択候補にない行動、言動を起こすことはできなかった。
そう、用意されていないシナリオ分岐に進むことなんてできなかった訳よね。
でも、このVR版『エターナルカーム』ではAIのおかげで、わたしの勝手なやらかしに応じて、シナリオ分岐……いえ、シナリオがシナリオライターさんの想定していない方向にすら進行していくということがあり得る訳よね。
どんなにベースシナリオがあるのだとしても、今みたいに、わたしが途中でゲームを投げ出しちゃってAIの行動補完が働かない場合、メリユはぶっ倒れちゃって周りに心配をかけるということが簡単に起きちゃうんだ。
いや、心配かけちゃうって思っちゃってること自体、わたしがどれだけVR版『エターナルカーム』に没入しちゃってるかを示してるってことなのかしらん?
テスターとして、仕事としてやっているという意識もあるから、わたしは大丈夫だと思うけれど、それでもやっぱりゲームのNPCを感情を持っている相手として見始めているというか、そういう錯覚に囚われかけているような気がする。
「はあ……」
……それにしても、わたしのハンネをシナリオに組み込んでくるとか、何の嫌がらせなのよ?
銀髪聖女サラマちゃんも、カーレ殿下も、わたしが『ファウレーナ』という天使みたいに思い込んでるみたいだし。
いやー、限界近くて気が散っていたから、カーレ殿下に『ファウレーナ嬢』とか呼ばれたのに反応しちゃうし、マジやらかした気がする。
これって、多嶋さん、シナリオライターさんからしたら、減点ポイントなんじゃ?
色々試されているような気しかしないしなー、これ、(就活的にはまだ先のはずだけれど)入社試験兼ねてるとかないよねー?
ベースシナリオ消化度で、バイト代が上がるとかだったら大歓迎だけれど、これだけやらかしてるとバイト代下がるとかありそうでイヤだ。
とにかく、早くゲームに戻ってメリユを起こしてやらないとね。
わたしはベッドに入って、横たわって“Pose error”が消えるのを確認して、ゲーム世界に戻ったのだった。
“Pose error”が消えると、HМDの有機ELパネルに目を開いていくエフェクトがかかって……わたしはハードリーちゃんのお部屋の、天蓋付きベッドで目を覚ましていた。
うん、すごく目覚えあるんだけれど、またハードリーちゃんのベッドで寝かされていたんだ。
……いいのか、それ?
いや、それはともかく、誰がわたしを運んだんだろう?
カーレ殿下に『お姫様抱っこ』で運ばれたとか?
キャーッ、何その神展開!?
本編じゃ、悪役令嬢メリユに絶対起こり得ない展開よねー?
って、既にベッドに寝てる時点でイベ終了してんじゃんっ!?
かぁーっ、神展開見逃したかもしれん?
こんなことなら、ペットボトルでも用意しておくべきだったか!?
いや、それは……さすがにちょっと……ああ、でも何が起きていたのがすごく気になる。
なんて思っていると、
「「メリユ様!?」」
メグウィン殿下とハードリーちゃんのお声がハモるのが聞こえる。
少し枕から頭を浮かせて見ると、左手をメグウィン殿下が、右手をハードリーちゃんが握っているのが分かる。
二人とも目が真っ赤で、少し潤んでいるみたいで、やっぱり心配かけちゃったみたいね。
「メリユ様、お目覚めになられて良かったです!
お加減いかがでしょうか? 具合のお悪いところなどございませんか?」
んん、ハードリーちゃん、なんでそんなに感情高ぶってそうなの?
「先ほど、アメラ様からお話伺いました。
ハラウェイン伯爵家の名誉が傷付けられないよう、ご交渉いただいたとか。
我が家のために、気を失われるまで……ぐすっ、動かれていただなんて、ぐすっ、もう、涙が止まりませんっ、うぇぇん」
えーっ、また泣いちゃうの!?
最後の方なんて、濁点付いてそうな声だし……って、ハードリーちゃんが抱き付いてくんの!?
「あり、ぐすっ、ありがとう、ぐすっ、存じますっ、猊下」
こういうのは、メグウィン殿下の方が先のような気がしていたんだけれど……ああ、さっきのことがあったから、ハードリーちゃんに譲ったってことなのかな?
わたしは、覆い被さるように抱き付いてきたハードリーちゃんの腕越しに、メグウィン殿下の方を見る。
ああ、一目見ただけでムズムズしているっぽいのが分かる。
メグウィン殿下、抱き付きたい衝動を必死に我慢しているんだろうな。
「お二人とも、ご心配をおかけしました。
わたしは……大したことございませんので、ご安心くださいませ」
「な、何をおっしゃるのです!?
先ほどはあれほどぐったりと、意識を失われていらっしゃったというのに」
メグウィン殿下も泣きそう……?
「わたしはもうメリユ姉様のいらっしゃらない世界なんて考えられませんのにっ」
……はい?
ぃ、今すごい台詞を聞いてしまったような気が。
本編の最重要イベで聞ける台詞?
え、マジ、このタイミングで聞けんの!?
アレでしょ? ヒロインちゃんとカーレ殿下との仲が進展して、メグウィン殿下ともすごく仲良くなったときに聞けるあの台詞じゃんね?
わたしはタダ目を白黒させながら、啖呵を切るように神台詞をおっしゃったメグウィン殿下を見詰めてしまう。
「メグウィン様………いえ、メグウィン。
心配をかけましたね、ごめんなさい」
メグウィン殿下が『メリユ姉様』と呼んでくださったのだもの、ここはお姉様演技が適切か思い、わたしはそっちに切り替える。
本編のヒロインちゃんは、姉展開にはならないんだけれど、これはこれで『よき』よねー!
「わたしもメグウィンのいない世界なんて考えられないわ。
だから、あなたもこちらに来て頂戴」
おふぅ、我ながらノリノリだわ。
なんて思っていたら、涙を零しながら、目を見開かれるメグウィン殿下。
両腕をバッと開くと……おおう、これは抱き付くというより、あの飛び付き体勢か!?
わたしは『受け入れる』つもりで頷きつつも、少し身構えてしまう。
もちろん、現実世界でわたしがその衝撃を受けることは絶対にあり得ないのだけれどね。
「メリユ姉様っ!」
きちゃーっ!
ホントにメグウィン殿下の(こういうときの)抱き付きって、ダイブって感じあるよね?
右側からハードリーちゃんが抱き付き済というのに、ダイブしてくるメグウィン殿下に目を思わず瞑っちゃう。
視界は一端失われてしまったけれど、ベッドの軋む音に、メグウィン殿下の息遣い、髪の毛の流れる音なんかすぐ傍から聞こえてくるの。
「メグウィン」
「メリユ姉様っ」
わたしの方もメグウィン殿下と同じ声(少し遅れて聞こえるけれど)になってるから、メグウィン殿下双子展開みたいな感じで新鮮ねー。
にしても、『メリユ姉様』か。
年上バージョンメリユのときは『お姉様』で、メグウィン殿下アバターバージョンメリユは『メリユ姉様』って感じなのかな?
まあ、今の状態じゃ、双子でメリユが先に生まれた姉様ってみたいなものなのかしらん?
んー、公式設定でも、メリユの誕生日の方がメグウィン殿下より早いのは事実なんだけれど、『メリユ姉様』呼ばわりされるようになるなんて、こればかりはシナリオライターさんも想定外でしょ?
AIも、一体何の訓練データからこんな展開生み出したのやら?
何にせよ、神展開だから『よき』って感じではあるけれどね!
それからメグウィン殿下から聖なる力(?)の残り具合やら、体調やら色々事細かに詰問されて、ようやく開放されると、お夕食となった。
晩餐会が中止になったのは当然だろうけれど、ハードリーちゃんのお部屋で三人で食事とは。
アリッサさんたちがテーブルを運び込んだ後、何とミューラちゃんと多分王城で見かけたメイドさんたちが入ってきたんだ!
「メグウィン・レガー・ミスラク第一王女殿下、お嬢様、ハードリー・プレフェレ・ハラウェイン伯爵令嬢様、お待たせいたしました」
ホントにミューラ、久しぶり!
『ようやくお嬢様に会える!』って感じで期待満ちたミューラの顔が、視線を何度か素通りさせた後、『あれ? お嬢様、どこ?』という怪訝な表情になり、最後に『メグウィン殿下がお二人いる!?』という驚愕した表情になる。
あー、マジごめん、この姿じゃ普通分からないよねー。
「ミューラ様、こちらがメリユ姉様、こほん、メリユ様ですわ」
「ははっ………?」
メグウィン殿下のお言葉に、ほぼ条件反射で反応してから、クエスチョンマークを頭の上に浮かべているっぽいミューラ。
「メリユ様が、今わたしのお姿になられていらっしゃいまして」
「はっ!?」
ぽかんとなるミューラの表情がおかしい。
「ミューラ、驚かせてしまってごめんなさい。
王城で色々あったようね、本当にお疲れ様」
「貴女様が、ぉ、ぉ、お嬢様で……ええええええええ」
驚き過ぎでしょ、ミューラ。
まあ、王城で落としたときもそんな感じだったかなー?
「お嬢様がメグウィン第一王女殿下で、メグウィン第一王女殿下がお嬢様で、ええ?」
混乱しちゃってるなー。
入れ替わってはいないからね。
しようと思えばできなくはないけれど。
「ミューラもわたしが変身できるのは知っているでしょう?
一時的にメグウィン第一王女殿下のお姿にならせていただいているだから」
「あ、あー……そういうことですか!
ぉ、お嬢様、お待たせしてしまい申し訳ございません。
ようやくお嬢様のお世話に戻れるかと思うと、ホッとします」
一体王城で何があったのやら?
ああ、そういえば、メイド頭(?)、侍女頭か何かになったとか言っていたっけ?
もしかして、一緒いる目覚えあるメイドさんも、ミューラの部下!?
天使形態になったわたし=メリユを目撃しちゃったあのメイドさんたちが、ミューラの部下にされちゃったのかあ……そりゃ、ミューラも神経を使ったことだろうなあ。
って、ハードリーちゃんがなぜかわたしの腕に自分の腕を絡めてこられるんだが!?
「メリユ様の専属侍女様でいらっしゃいますでしょうか?
メリユ様のお世話でしたら、ご心配には及びません!
このわたしがメリユ様がご回復されるまで、何から何までお世話をする所存ですので!」
……はい?
ハードリーちゃんが何か言い出した!?
え、何、ここでミューラと張り合うの!?
ヒロインちゃん相手ならともかく……え、もしかして、ハードリーちゃんのお世話対象にわたし、ロックオンされちゃってる!?
本編でもお世話好きだったのは分かっていたけれど、ハードリーちゃん、うちのメイドと張り合うとかマジ!?
「ハードリー様?」
いや、何かゴゴゴゴゴゴゴといった感じの、笑顔の裏に隠された謎の圧力というか、オーラを感じるんだが。
「そうです!
今夜はわたしがメリユ姉様にお食事を食べさせて差し上げるつもりでおりますので、ミューラ様は、王都からのご移動のお疲れを癒していただければと存じます!」
えええ、今度はメグウィン殿下が張り合い出されるの!?
本編で、ヒロインちゃんがメグウィン殿下とハードリーちゃんと仲良くなっても、こんな展開はなかったはずだが。
いや、マジで恐るべし、AI!
メリユ=わたしを巡って争いが起こるとは。
もはや、シナリオライターさん以上の神はAI様ではないだろうかとすらわたしは思ってしまいそうだった。
※休日ストック分の平日更新です。
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本編ではあり得ない悪役令嬢メリユの取り合い、なかなかに『よき』ですね!
とはいえ、本来は貴族社会のことをまだよく分かっていないヒロインちゃんのお世話を甲斐甲斐しくするはずのハードリーちゃんが悪役令嬢メリユのお世話にここまで入れ込んでしまうとはびっくりです。




